生涯を通じた女性の健康づくりに関する研究

文献情報

文献番号
199701010A
報告書区分
総括
研究課題名
生涯を通じた女性の健康づくりに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
樋口 恵子(東京家政大学)
研究分担者(所属機関)
  • 樋口恵子(東京家政大学)
  • 原ひろ子(お茶の水大学ジェンダー研究センター)
  • 北村邦夫(社団法人日本家族計画協会クリニック)
  • 井口登美子(東京女子医科大学女性生涯研究センター)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1994年、カイロで開催された国際人口開発会議において、リプロダクティブ・ヘルス/ライツの概念が提唱され、さらに1995年、北京における世界女性会議で採択された行動綱領においては12の重大領域の一つが「健康」の項の根本理念に据えられ、国際的に定着してきている。リプロダクティブ・ヘルス/ライツとは、「性と生殖に関する健康と権利」と訳されることが多く、子どもをいつ産むか産まないか、産むとすれば何人産むかを女性が自己決定する権利を中心課題とし、妊娠・出産の限定された時期だけでなく女性の生涯にわたる健康の確立を目指している。1996年(平成8年)わが国政府における「男女共同参画2000年プラン」にも、「リプロダクティブ・ヘルス/ライツ」への取組みとして盛り込まれている。本研究班の研究成果が、1997年度から国が推進している「生涯を通じた女性の健康支援」の推進力になるとともに、広く医療・保健・福祉・女性政策に、またあらゆる関連領域の研究に役立つものと確信している。なお、本研究は3年計画の2年度の事業である。
研究方法
本研究班が厚生省心身障害研究として異色なのは、主任、分担研究者、主たる研究協力者まで、本研究に携わった研究者26人のうち女性研究者が22人(84.6%)を占めること、更にリプロダクティブ・ヘルス/ライツに関する研究課題が単に保健・医療にとどまるものではないことを示唆するように、保健・医療関係者が13人(50%)に過ぎないことであろう。研究班のメンバーは、樋口恵子(東京家政大学)、袖井孝子(お茶の水大学)、富安兆子(北九州大学)、村岡恵子(京都短期大学)、沖藤典子(著述業)、原ひろ子、東優子(お茶の水大学ジェンダー研究センター)、柘植あづみ(北海道医療大学)、阿古安子、宇野澄江(ウイメンズセンター大阪)、加藤治子、佐道正彦(阪南中央病院)、荻野美穂(京都文教大学)、北村邦夫、清水敬子(日本家族計画協会クリニック)、我妻堯(国際厚生事業団)、草野いづみ(グループ・女の人権)、廣井正彦(山形大学医学部)、今関節子(群馬大学医学部)、井口登美子、安達知子(東京女子医大)、村松泰子(東京学芸大学)、竹永和子(マザーリング研究所)、堂園涼子(インターナショナルメディカルクロッシングオフィス)、村崎芙蓉子、堀口雅子(女性成人病クリニック)などの面々から構成されている。樋口、原、北村、井口の4つの分担研究班が、それぞれに定期的な会合を持ち、量的、質的な調査を実施しするための調査票の作成、調査の実施、集計・分析、討議を繰り返した。また、これらの結果を全体班会議に持ち寄り、厳しい議論を経て報告書をまとめた。
結果と考察
樋口班の「更年期における女性の健康支援に関する研究」は前年度に文献調査、試験調査、ケーススタディをすでに実施したものを、本年度は、就業構造別に対象を絞って、(1)更年期意識調査、(2)更年期についての啓発・普及のあり方、の2点について調査した。とくに農業女性の更年期に関する実態調査は他の研究分野を含めて先行的な調査である。回収1,584件(88.0%)。樋口班においては、これを受けて、全国の保健所と女性センターを対象に、更年期に関する市民向け対策の実態調査を行った。 原班では前年度に引き続き、(1)女性の健康に関する効果的ネットワークとはどのよ  うなものか、(2)望まない妊娠の実態およびこれを防止するための具体策はどのようなものかの2点をリサーチクエスチョンとして、女性の生涯のなかでとくに24~45歳の年齢層の女性に焦点をあて、「医療」とそれ以外の「生活空間」における女性の健康に望ましいあり方を考察・検討した。本年度は特に、関係諸機関・団体46カ所への訪問聞き取り調査を行い、一方医療機関における出産・人工妊娠中絶の医療費支払い事例を分析した。また、58項目から成る質問紙を作成、全国の公的女性センターCBO(Community Based Organization)、助産院など25地点を通じて、郵送、有効回答率40%(n=811)の回答を得た結果を分析した。北村班が行った「女性のリプロダクティブ・ヘルスに関する研究」では、世界保健機構(WHO)が定義するリプロダクティブ・ヘルス、すなわち「人間の生殖に係わるシステム、
その機能と進行する過程のすべての側面において、単に疾病や障害がないというばかりでなく、身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態にあることを指す。したがって、リプロダクティブ・ヘルスとは、人々が安全で満ちたりた性生活を営むことができ、子どもを産むか、産まないか、いつ産むか、何人産むかを決める自由を持つことを意味する」との定義を踏まえ、今年度は(1)家族計画と女性の健康に関する研究、(2)メディア情報が若年層のリプロダクティブ・ヘルスに及ぼす影響、の2点について研究を進めた。特に(1)については、低用量ピルをはじめとした近代的避妊法の導入が遅れているわが国に、期待される将来への取組みなどについてまとめた。また(2)については、特に思春期女子に対するメディアの性情報・ダイエット記事を分析し、思春期女子の健康との関係について興味深い研究成果を上げた。「女性の保健医療サービスに関する研究」(分担研究者、井口登美子)は、1997年度から新たに加わった研究班であるが、女性の保健医療サービスにかかわる医療関係者を中心とした井口班の参加によって、全体の研究に厚みが加わり医療体制への接点がより密接となった。今回の井口班の研究は、国・公・私立、個人の医療保健施設に対する調査の実施と結果の分析を進めた。これらの結果を踏まえ、全体班会議を経て今回の報告書をまとめた。
結論
以上4つの分担研究班によって随時研究成果を持ち寄り、関連する分野に、他班からの研究から多くの刺激を受け、さらに各班の研究を深めることができた。前述したように、本研究班は、研究者の領域が自然科学、人文科学、社会科学の多岐にわたっている。各分野の専門家が、女性のリプロダクティブ・ヘルス/ライツという新たな概念を共有し、それを推進するシステム作りを目指すという、創造的な営みに参加する機会を得ることができた。またこの研究結果によって、女性の各ライフ・ステージにおける健康の実態を明らかにするとともに、その時期に応じた健康課題がより明確化することができた。1999年(平成11年)2月には「カイロ会議+5」の国際人口・開発会議が、オランダのハーグで開催され、カイロ行動計画のフォロー・アップが行われることとなっている。国内においては、政府は21世紀の基盤をつくる立法の一つとして「男女共同参画社会基本法(仮称)」を次期国会に提出すべく準備中であり、その中でリプロダクティブ・ヘルス/ライツがどうかかわるか、女性たちの注目を集めている。女性特有の配慮を必要とする医療・保健をめぐる動きは、医療側、利用者側から一層活発になっている。そうした新しい時代にあって、「生涯を通じた女性の健康づくりに関する研究」の成果が、わが国思春期から更年期に至るまで、特に女性の現代的健康課題の解決に大きく貢献するものと確信している。

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)