原因不明消化管出血のリスク要因探索と治療指針作成のための疫学研究

文献情報

文献番号
201128201A
報告書区分
総括
研究課題名
原因不明消化管出血のリスク要因探索と治療指針作成のための疫学研究
課題番号
H23-難治・一般-045
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
坂本 長逸(日本医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 久保田 潔(東京大学大学院 医学系研究科 薬剤疫学講座)
  • 大宮 直木(名古屋大学大学院医学系研究科 消化器内科学)
  • 中島 淳(横浜市立大学附属病院 消化器内科学)
  • 松本 主之(九州大学大学院病態機能内科学 消化器内科学)
  • 藤城 光弘(東京大学医学部 消化器内視鏡学・消化器内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究では 1)原因不明消化管出血(OGIB)の実態を把握するため, 全国の小腸疾患専門家が共同して原因不明消化管出血に関するカプセル内視鏡データベースを作成し、本邦で最初の臨床データ収集を行う。診断された小腸潰瘍、びらん、血管異形成、腫瘍を登録し、症例数の把握と原因疾患の頻度を明らかにする。2)NSAIDを含む全ての服用薬剤の小腸潰瘍/びらん、血管異形成例出血リスクに関するケースクロスオーバー研究を行い、服用薬剤の小腸出血リスクを明らかにする。
研究方法
日本医科大学、東京大学、横浜市立大学、名古屋大学、九州大学の小腸専門家によってカプセル内視鏡による診断名、および年齢・身長・体重、小腸疾患歴を含む既往歴、血液生化学データ、6カ月間の薬剤使用歴をデータベースに入力する。
服薬状況をケースピリオドとコントロールピリオドで比較するケースクロスオーバー研究により服用薬剤の小腸潰瘍/びらん,血管性病変出血リスクを明らかにする。
結果と考察
2010年12月から、2011年11月末までの1年間で合計283症例をカプセル内視鏡データベースに入力した。男性170例(平均年齢72±15歳)、女性113例(平均年齢62±16歳)で、小腸潰瘍、びらん症例が60例、血管性病変が42例、腫瘍性病変が20例、その他の小腸病変が19例、小腸外病変が16例、原因が不明例126例であった。OGIB症例のうち服用薬剤が入力された症例は42例で、6ヶ月間に服用薬剤に変化があったか、もしくは服用量に変化のあった症例15例の解析から、バイアスピリン、NSAID服用は2日間をケース期間とするとOR=2.58(95%信頼区間0.79-8.44)、7日間をケース期間とするとOR=5.44(1.12-26.5)で、小腸潰瘍、びらん、血管性病変からの出血リスクとなることが示された。
結論
カプセル内視鏡検査を行ったOGIB症例を1年間にわたって登録したところ、小腸潰瘍、びらん性病変が最も多く、次いで血管性病変が多かった。小腸潰瘍、びらん性病変では原因不明病変が最も多く、ついでNSAID起因性病変が多かった。服用薬剤の調査から、バイアスピリンを含むNSAIDがOGIB発症リスク要因となる可能性が示された。

公開日・更新日

公開日
2013-03-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128201C

成果

専門的・学術的観点からの成果
原因不明消化管出血(OGIB)の実態を把握するために全国の小腸疾患専門家が共同してカプセル内視鏡データベースを作成し、本邦で最初の臨床データ収集を行なった。OGIBで最も多い病変は小腸潰瘍/びらん、次いで血管性病変であった。服用薬剤の調査から、ケースクロスオーバー研究によって世界で初めてNSAID, バイアスピリン服用者の小腸潰瘍/びらん、血管性病変の出血リスクを明らかにした。
臨床的観点からの成果
5施設でOGIB283症例を登録し、その多くが小腸潰瘍/びらん、次いで血管性病変、腫瘍性病変であった。しかし、小腸外病変が16例、原因不明例が126例存在し、カプセル内視鏡によって診断が明らかになる症例と必ずしも原因が特定できない症例があることが示された。今回の疫学研究によって服用薬剤、とりわけNSAID, バイアスピリンが小腸病変を誘発しOGIBの原因となり得ることが明らかにされた。
ガイドライン等の開発
1年間の症例登録が必ずしも十分ではなく、全国調査を拡大するため他施設に症例登録を呼び掛けたところ、今回の研究班を含めて全37施設の参加同意が得られた。今後全国的なデータベース登録が行われ、症例数が増加すればさらに疾患概要の全容を明らかにできるものと思われる。症例の蓄積を通じてOGIBの診断アルゴリズムの確立と背景因子、リスク因子、治療データの解析から診療指針の確立が可能になると思われる。
その他行政的観点からの成果
全消化管出血の5%を占めるOGIB症例の全国調査とそのデータベースの作成は今後の小腸疾患の診療指針の作成の観点のみならず、保険診療の面でもきわめて重要である。カプセル内視鏡がOGIB症例に対して保険診療で認可されているが、診断された病変に対するバルーン小腸内視鏡による治療は今日一般化しており、診療指針の作成を考慮すると保険診療の認可が望まれる。
その他のインパクト
小腸出血例の全国調査とデータベースの作成は世界でもまだ行われていない。データの蓄積を通じて数千例のデータが登録、解析された場合、その学術的、臨床的意味は大きい。さらに、ケースクロスオーバー研究を通じた小腸出血リスク要因解析に関する研究も世界でまだ報告を見ない。したがって、データベースの蓄積を通じた背景因子、服用薬剤のリスクの解析によって得られる結果はきわめて大きなインパクトを有している。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
36件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
29件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2014-05-21
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201128201Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
6,500,000円
(2)補助金確定額
6,500,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 1,862,921円
人件費・謝金 462,023円
旅費 748,830円
その他 1,926,226円
間接経費 1,500,000円
合計 6,500,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
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