Epstein症候群の全国疫学調査ならびに診断・予防・治療の開発研究

文献情報

文献番号
201128199A
報告書区分
総括
研究課題名
Epstein症候群の全国疫学調査ならびに診断・予防・治療の開発研究
課題番号
H23-難治・一般-043
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
関根 孝司(東邦大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 國島 伸治(国立病院機構名古屋医療センター)
  • 松下 正(名古屋大学 医学部)
  • 川口 裕之(防衛医科大学 医学部)
  • 三浦 健一郎(東京大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
5,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Epstein症候群は、1)先天性巨大血小板性血小板減少症、2)進行性腎機能障害、3)感音性難聴を呈する遺伝性難治性疾患である。2000年に國島らによりEpstein症候群(および類縁疾患であるMay-Hegglin異常症など)がミオシン重鎖IIA遺伝子(以下MYH9)変異により発症することが判明した。Epstein症候群の最大の予後決定因子は「進行性腎障害・難聴」であり思春期前?中年期に末期腎不全に至るものも多い。一方、Epstein症候群は希少疾患であり、医師の疾患認知度が低く、正確に診断を受けていない症例が多数存在すると考えられる。
本研究はEpstein症候群の、1)本邦(および世界)初の大規模疫学調査、2)病態の分子レベルでの解析、の2つを研究目的とした。
研究方法
I. 小児科専門医、腎臓専門医、血液専門医を中心に合計6,928通の1次調査表を送付し、2次調査票からEpstein症例の遺伝学的背景、臨床データなど解析した。
II. 本疾患の病因分子である非筋性ミオシン重鎖IIA(NMMHC-IIA)の腎臓内の局在、病態での変化についても予備的研究をおこなった。
結果と考察
I. 疫学調査
2次調査の解析により合計42症例のEpstein症候群の患者の情報を得る事ができた。Epstein症候群と診断された42症例のうち早期に正しい確定診断できたのは6症例のみで、他の多くの症例はITPなどと診断されていた。遺伝子解析が行われているものでは特定の変異(R702変異、S96変異)で思春期以降に急速な腎機能の悪化をみられた。遺伝子解析がなされていない症例では、腎機能の増悪にから2つのグループに分類されMYH9遺伝子変異の違いを反映しているものと想定された。

II. 分子病態生理の解析
NMMHC-IIAの最適な抗体を同定し、NMMHC-IIAが糸球体上皮細胞の特定の部分に局在することを明らかにした。さらに蛋白尿発症の病態でのNMMHC-IIAの変化についても予備的な結果を得た。これらの結果はEpstein症候群での蛋白尿発症、腎機能悪化でのNMMHC-IIAの役割を明確にする端緒となる。
結論
本邦初の疫学調査によりEpstein症候群症例の遺伝的背景、臨床病態の特徴について解析することができた。今後、遺伝型―腎機能の関連を明確にし分子病態の研究と平行し、最適な治療法について慎重に研究を進める。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128199C

成果

専門的・学術的観点からの成果
1) 本邦初のEpstein症候群の大規模疫学調査を行い42症例の詳しい解析を達成することができた。Epstein症候群については世界的にも症例報告がなされているにすぎず、Epstein症候群の病態の本体を正確に知ることができた意義は大きい。
2) Epstein症候群の責任変異分子NMMHC-IIAについて生理的•病態生理的観点から研究をすすめた成果を得た。これはEpstein症候群の蛋白尿発症機序を解明のみならず、特発性ネフローゼ症候群の病態解明にも基盤となる研究である。
臨床的観点からの成果
Epstein症候群は幼児期~学童初期には進行性腎機能障害•難聴を呈さないMay-Hegglin異常症との鑑別が難しいが、本研究により責任遺伝子であるMYH9の変異型と臨床型(腎機能障害の有無、進行速度)が極めて高い相関にあることが実証された。さらに一部の症例でARBの効果が確認され、今後Epstein症候群に対する早期診断と早期介入(ARB治療)により腎機能障害の改善が期待される。
ガイドライン等の開発
本研究は、Epstein症候群の疫学的として初めて23年度に行われたものであり、今後、本年度の成果をふまえてガイドラインなどを策定する予定である。
その他行政的観点からの成果
Epstein症候群については、一般臨床科の認識も乏しく、正確に診断されていない症例が多く存在する。今回の大規模疫学調査により、本疾患の存在があらためて小児科医、腎臓専門医、血液専門医、透析専門医に情報提供できたことは大きな意義をもつ。希少疾患であるが故に、今後、情報収集と治療の最適化を目標として、ホームページ開設などにより診断と治療についての拠点を構築し(Epstein症候群Consortium)、本邦で統一した診断•治療体制を構築したい。
その他のインパクト
従来Epstein症候群の治療は不可能とされていたが、腎機能障害に対してのARBの効果が確認されつつある。ARBの投与によりEpstein症候群患者の腎予後が改善されれば、その意義は極めて大きい。
また本症候群の責任遺伝子は、「特発性ネフローゼ症候群(特にFSGS)」発症のkey moleculeと考えられ、腎臓病学に与えるインパクトも多大である。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
6件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
9件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hao J, Kunishima S, Guo X et al.
large family with MYH9 disorder caused by E1841K mutation, suffering from serious kidney and hearing impairment and cataracts.
Ann Hematol  (2012)
原著論文2
Uyeda T, Echizenya T, Eto S et al.
A patient with Adams-Oliver Syndrome and familial MYH9 mutation
Pediatr Int  (2012)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201128199Z