小児期からの総合的な健康づくりに関する研究

文献情報

文献番号
199701009A
報告書区分
総括
研究課題名
小児期からの総合的な健康づくりに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
村田 光範(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 福渡靖(順天堂大学医学部)
  • 鏡森定信(富山医科薬科大学)
  • 清野佳紀(岡山大学医学部)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年わが国では西欧型先進国型文化生活が普及し、子どもたちの食事では脂肪の摂りすぎ、運動不足、夜型生活習慣、各家庭の経済的な余裕は高学歴社会を生み、この結果、受験戦争からくるストレスの増加などのために、子どものときから動脈硬化促進危険因子が増加することが憂慮されている。最近の文部省報告では学齢期肥満が10%を超える事態になっているし、幼児期の肥満も3から5%に達している。上に述べた危険因子の中でもっとも対応が難しい幼児期を中心にした運動不足に対する効果的な方策を検討すること、小児期から成人まで同一の対象を追跡して、危険因子が及ぼす健康障害を研究するコホート調査、老齢期になっての骨粗鬆症を見据えて生活環境が子どもの骨発育に与える影響を検討し、小児期からの健康的な生活習慣の確立のための介入、支援方法を明らかにすることを研究の目的としている。
研究方法
?効果的な運動及び体力向上の方策に関する研究に関しては、主に幼児の運動量と運動強度を客観的に評価するために一定時間間隔で対象幼児の運動強度を立ち止まっている、ゆっくり動いている、普通に動いている、少し早く動いている、早く動いているなどいくつかの段階に分けて行う観察法、万歩計や腕時計型電子機器などの器具を用いた方法を比較検討すること、及びアンケート方式による幼児の生活実態調査、幼児が効果的に運動するためのゲームの考案を行った(分担研究者=村田光範)。
?小児期からの成人病予防に関する研究に関しては、肥満と生活習慣の関係を軸にしてコホート調査を行い、1992年当時の年齢を基準にして、東京都立川市、静岡県磐田保健所管内、狛江市各地域の3歳児集団、及び千葉県芝山町、伊豆長岡町、三重県河芸町、大阪市、東大阪市、島根県隠岐郡、出雲市(1993年度より追加)の各地において児童・生徒を対象に血圧、血清脂質、肥満などの危険因子の追跡調査を行った。また同時に肥満、高脂血症、高血圧指導マニュアルの作成とこれら危険因子に対する介入方法の考え方を検討した(分担研究者=福渡 靖)。
?小児期からの健康的なライフスタイルの確立に関する研究は、1992年に行った富山県下における全3歳児のライフスタイル調査の対象児が小学校1年生になった時点での追跡調査を行った。この研究はこの集団を成人になるまで追跡することを目的にしている(分担研究者=鏡森定信)。
?生活環境と子どもの骨発育に関する研究に関しては、小児期から骨を丈夫にするために、前年度食事指導と運動指導による介入を行ったので、今年度はカルシウム摂取量が1420±42mg/日の6~9歳の健常男女(対照群のカルシウム摂取量954±24.1mg/日)の1年後の骨密度を検討した。またほぼ同じ年齢の別の集団において運動介入としてそれまでの1日平均歩数を20%増加させた(分担研究者=清野佳紀)。
結果と考察
?幼児の運動の量と質の評価について現状では万歩計が比較的実用的であることが分かった。観察法は基礎的研究として優れているが、1人の観察者が1人の幼児を追跡するので、実用性に問題がある。腕時計型電子機器は、一定時間ごとに心拍数を累積的に記録してコンピュータ解析できることが大きな利点であった。幼児の生活習慣は家庭や保育所・幼稚園での生活状況に大きく左右されていた。1日の運動量は母親の運動量や、保育所や幼稚園での「お昼寝の時間の長さ」に関係していた。遊びの基本である「鬼ごっこ」を「しっぽ取りゲーム」にする、2チームに分けて競争させるといったことから幼児の運動量が飛躍的に増加することが分かった。近い将来、万歩計に代わって電子機器を用いた運動の量と質の評価の実用性が高まると思われた。幼児の生活習慣をよりよいものにするには、家庭や保育関係者の努力が必要である。幼児期の運動量を増加させるには体を動かす楽しい遊びをさせることである。最近では保育者がこのような「遊ばせ方」を知らないので、「遊び」から「ゲーム」へ、「ゲーム」から「スポーツ」へと発展する基本的な問題を研究する必要がある。
?危険因子のトラッキングについて肥満では幼児期と学童期にトラッキングを認め、高脂血症では小学校低学年よりも高学年(小学4年生→小学6年生)に強くみられ、高血圧では低学年では認められず、高学年になっても明らかなトラッキングは認められなかった。危険因子に関する指導ガイドラインについては肥満に関しては1995年度(小児肥満予防対策に関する研究=分担研究者村田光範)から引き続き検討し、原案が完成している。高脂血症と高血圧に関しては現在作成中である。危険因子のトラッキングに関しては、同一集団を成人になるまで追跡することに意義があり、多くの努力を払っている。たとえば、この研究で集積した資料をどのように保管し、関係づけるかということである。このために共通のフォーマットを作成して資料を保存するコンピュータソフトの作成に力を入れている。マニュアルは指導者と保護者あるいは本人をも対象にしたものを作成予定である。
?今年度は1992年に富山県で生まれた全小児が3歳の時点と小学校1年生になった時点での肥満化と生活習慣の問題を検討した。その結果、体の動かし方(男女)、間食の時刻(男)、就寝時刻(男女)が小学1年生での肥満化に関係していた。また母親が常勤の仕事を持っているものの割合が肥満継続群、あるいは肥満化群に有意に高かった。富山県という地域性から1992年生まれの全小児を今後とも追跡調査することが可能であると考えており、このコホート調査が貴重な結果をもたらすといえる。またこの研究結果は学校での健康教育の在り方にも大きな影響を与えるものと考えている。
?牛乳摂取量とカルシウム摂取量とは明確な関係があり、牛乳摂取の重要性を改めて認識した。カルシウム摂取指導群では1年目、2年目ともに骨密度が対照群に比し増加していた。運動指導群では1年後に比べ2年後にさらに骨密度が増加していたことから、1日200kcal以上の運動が骨密度を増加させることが分かった。また、将来的に骨密度の低下が予想される極小未熟児や長期臥床児に対して介入することが重要であるが、今年度極小未熟児について検討した結果、10歳になっても骨密度は正常まで追いつかないことが分かった。小児期に乳製品の摂取を奨励し、通常の運動量に加えて一日200kcal以上の運動をするよう指導することは小児期の骨密度を高めることに有用であるといえる。極小未熟児や長期臥床児に対して骨密度を増加させるための積極的な介入が必要である。
結論
?幼児期の楽しい運動経験が、生涯にわたる運動習慣を身につける基礎である。このため幼児期の健康を維持増進させるために効果的な運動(遊び)を科学的に研究し、その遊びを介して運動の量的、質的解析を行うことが必要である。
?肥満、高脂血症、高血圧といった危険因子のコホート調査を同一対象について長期に行うと同時に、その資料の保存方法と調査項目の関連づけについて統一したフォーマットを定めることに意義がある。当面の問題として肥満、高脂血症、高血圧に関するマニュアルづくりが必要である。
?富山県で1992年に生まれた全小児を対象に、この小児集団が3歳のときと小学校1年生のときの肥満化について関係していたライフスタイルは運動習慣(男女)、間食の時刻(男)、就寝時刻(男女)、母親の就業などであった。
?運動不足や食事の問題から、将来、特に女子の骨粗鬆症が心配されている。幼児期からのカルシウム摂取(乳製品摂取の奨励)と運動量を増加(200kcal/日以上)させるよう指導することは、小児期の骨密度を増加させるのに有効である。

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