薬事申請を目指した結節性硬化症(TSC)の皮膚病変に対する副作用の少ない外用剤の開発と臨床応用

文献情報

文献番号
201128190A
報告書区分
総括
研究課題名
薬事申請を目指した結節性硬化症(TSC)の皮膚病変に対する副作用の少ない外用剤の開発と臨床応用
課題番号
H23-難治・一般-034
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
金田 眞理(大阪大学大学院 医学系研究科皮膚科学)
研究分担者(所属機関)
  • 名井 陽(大阪大学医学部未来医療センター)
  • 中村 歩(大阪大学医学部附属病院薬剤部)
  • 玉井 克人(大阪大学再生誘導医学)
  • 大塚 藤男(筑波大学皮膚科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
結節性硬化症(TSC)はmTORの活性化の結果、全身の過誤腫、精神発達遅滞、てんかん、自閉症などを呈する疾患で、ラパマイシン等のmTOR阻害剤が有効であるが、全身投与では副作用が憂慮される。そこで本症皮膚病変に対して安全性の高いラパマイシンの外用治療薬を開発し、薬事承認をめざした医師主導治験を行ない、有効な治療薬のないTSCの皮膚病変に対するラパマイシン外用薬の開発と実用化をめざす。
研究方法
1.内服薬より剤形変更のラパマイシン外用薬で、TSC顔面の血管線維種に対して臨床試験を施行し、その有効性と安全性を検討。
2.医師主導治験実施のために、GMPレベルのラパマイシン外用薬を製造し、LC/E SI-MS方にてラパマイシンの濃度を測定し、その安定性を検証。
3.培養モデル人工皮膚LSE-high(TESTSKINTM (TOYOBO)を用いて、ラパマイシン外用薬の経皮吸収量を測定した。
4.BALB/cマウスをに、ラパマイシン外用薬を塗布し、皮膚刺激やLC/ESI-MSシステムでのラパマイシンの血中移行の有無を検討し、ラパマイシン外用薬の毒性の検証を行った。
結果と考察
1.ラパマイシン外用薬の臨床試験の結果16例全例で副作用は認めず、検査施行全例で血中へのラパマイシンの移行も認めなかった。
2.原末GMPよりのGMPレベルのラパマイシン外用薬の安定性の検証の結果、製造1ヶ月目では、ラパマイシンの濃度は実測値/理論値は95%~100%の間であり、外用薬は安定であった。
3.吸収試験では、ラパマイシン原薬を用いた外用薬はラパマイシン試薬を用いた外用薬とほぼ同等の吸収量が推測された。
4.ラパマイシン原薬を用いた外用薬の毒性試験では内服薬からの外用薬とほぼ同等の結果が推測された。
5.GCPレベルの医師主導治験実施計画書として、健常成人30例を対象とし、0?0.8%の5濃度のラパマイシンゲルを用いた第Ⅰ相試験と患者36例を対象とした0?0.4%の4濃度の第Ⅱ相試験を作成した。
6.また、すでにラパマイシン外用薬の治験参加希望患者のリクルートも終わっている。
結論
TSCの顔面AFに対して、ラパマイシン外用薬は有効で安全な治療薬であり、本薬剤の医師主導治験の開始にむけて、GMPレベルの外用薬の製造し、安定性、効果、安全性の検討および医師主導治験実施計画書の作成、患者のリクルートも終え、準備を整えた。 

公開日・更新日

公開日
2013-03-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128190C

成果

専門的・学術的観点からの成果
mTORC1は、セリン・スレオニンキナーゼの一種で、細胞の増殖や代謝、アポトーシスやオートファジー、さらにNotchやB-Rafを介して細胞の分化にも関与し、生体において様々な役割を担っている。結節性硬化症は臨床的には、全身の過誤種、癲癇や、行動異常、白班を、組織的には分化の異常を呈し、このmTORの異常をよく反映した疾患である。mTORの抑制剤であるラパマイシンの投与により、結節性硬化症を治療する事によって、実際の生体に於けるmTORの働きを直接的に知る事ができ、学術的にも重要である。
臨床的観点からの成果
 結節性硬化症の顔面の血管線維腫は、出血や二次細菌感染、痛み、機能障害を引き起こし、整容的にはQOLを低下させ、患者や家族から治療の要望が高い症状であるが、外科的な対症療法のみで、乳幼児の患者や重症患者には有効な治療法が無い。最近ラパマイシンの全身投与の有効性が報告されたが、全身投与では副作用が問題となる。そこで安全性の高い本症皮膚病変に対する治療薬として、ラパマイシンの外用治療薬の開発が不可欠である。本外用薬が実用化できれば治療法の無い患者に治療方法を提供できる事になり臨床的にも重要である。
ガイドライン等の開発
世界的には 1998年に結節性硬化症のConsensus Conferenceで批准された診断基準が最も良く使用されるが、日本には診断基準が無かった。そこで、前述の診断基準をもとにして、日本皮膚科学会より本皮膚科学会ガイドラインを作成した。(日本皮膚科学会雑誌 118 1667-1676 2008)。更に2012年に第2回結節性硬化症のConsensus Conferenceが開催され前述の診断基準が改訂されたので、本邦においても前述の診断基準ガイドラインの改訂中である。
その他行政的観点からの成果
今回の成果に基づいて、2012年より、厚生労働省の難治性疾患等克服研究事業の難病に対する治療薬開発の新規研究事業として、「結節性硬化症の皮膚病変に対する有効で安全性の高い治療薬の開発と実用化」が認められ、治療薬の実用化のための3年計画のプロジェクトがスタートした。現在、ラパマイシンの外用薬を有効な治療法の無い結節性硬化症の治療薬として実用化するために、PMDAとの事前相談も終え医師主導治験を行う準備を進めつつある。同時に今後の治療薬開発についても複数企業と交渉中である。
その他のインパクト
今回の結節性硬化症の外用薬の臨床試験の成果により、2012年6月14,15日にワシントンで開かれるTuberous Sclerosis Complex Consensus Conferencemに参加して、本症の、特に皮膚病変に関して、診断基準や新規治療方法について検討を加えることとなった。さらに、 2012年6月に日本で初めて結節性硬化症の研究会が立ち上がり、来年度には、海外からの研究者を交えたシンポジウムを予定しており、結節性硬化症の新規治療薬に関しても討議を計画している。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
39件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
2件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
皮膚疾患を処置するための外用薬およびその製造方法
詳細情報
分類:
発明者名: 金田 眞理
出願年月日: 20120130
国内外の別: 国内
特許の名称
皮膚疾患を処置するための外用薬およびその製造方法
詳細情報
分類:
発明者名: 金田 眞理
出願年月日: 20120130
国内外の別: 国外

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Wataya-Kaneda M,Kaneda Y, Hino OA,et al.
Cells derived from tuberous sclerosis show aprolonged s phase of the cell cycle and increased apoptosis.
Arch Dermatol Res. , 293 (9) , 460-469  (2001)
原著論文2
Wataya-Kaneda M, Yoshikawa K, Itami S
The role of tuberous sclerosis gene products, tuberin and hamartin, in cell cycle regulation and cell proliferation. Recent Research Developments in Biophysics and Biochemistry.
Research Signpost , 3 , 703-710  (2003)
原著論文3
Murota H, Kitaba S, Tani M,et,al.
Impact of Sedetive and Non-Sedetive Antihistamunes on the Impaired Productivity and Quality of Life in Patients with Pruritic Skin Disease.
Allergy Int. , 59 (4) , 345-350  (2010)
原著論文4
Wataya-Kaneda M, Tanaka M. Nakamura A,et,al.
A topical combination of rapamycin and tacrolimus for the treatment of angiofibroma due to tuberous sclerosis complex: A pilot study of 9 Japaneser TSC patients with different disease severity.
Br J Dermatol , 165 (4) , 912-916  (2011)
原著論文5
Arase N, Wataya-Kaneda M, Oiso N,et,al.
Repigmentation of leukoderma in a piebald patient associated with a novel c-KIT gene mutation, G592E, of the tyrosine kinase domain.
J Dermatol Sci. , 64 (2) , 147-149  (2011)
原著論文6
Wataya-Kaneda M, Tanaka M. Nakamura A,et.al.
A novel application of topical rapamycin formulation, an inhibitor of mTOR, for patients with hypomelanotic macules in tuberous sclerosis complex.
Archives of Dermatology , 148 (1) , 138-139  (2012)
原著論文7
Kotobuki Y, Tanemura A, Yang L,et,al.
Dysregulation of Melanocyte Function by Th17-related Cytokines: Significance of Th17 Cell Infiltration in Autoimmune Vitiligo Vulgaris.
Pigment Cell & Melanoma Research , 25 (2) , 219-230  (2012)
原著論文8


公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201128190Z