ハイリスク児の健全育成のシステム化に関する研究

文献情報

文献番号
199701008A
報告書区分
総括
研究課題名
ハイリスク児の健全育成のシステム化に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
前川 喜平(東京慈恵会医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 前川喜平(東京慈恵会医科大学)
  • 高嶋幸男(国立精神・神経センタ-)
  • 小西行郎(福井医科大学)
  • 二瓶健次(国立小児病院)
  • 竹下研三(鳥取大学医学部)
  • 住吉好雄(横浜市愛児センタ-)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
周産期医療の進歩により、ハイリスク児の広域的ケアシステムが問題となっている。ハイリスク児については保健所、医療機関、市町村、児童相談所など多機関が関与することにより包括的、広域的なケアシステムの構築を図る事が必要である。このため、フォロ-アップや療育相談の在り方について検討する事により、効果的な発達支援システムを構築すると共に、併せて、早期診断とそのケアの方法について研究を行い、システム化の具体的方法を確立することを目的とする。       
研究方法
6っの課題について6名の分担研究者中心に研究が行なわれるよう計画された。即ち?ハイリスク児の発達支援(早期介入)システムに関する研究(分担研究者:前川喜平)?発達障害の早期発見とケアの体系化に関する研究(分担研究者:高嶋幸男)?発達的観点からみた療育指導の在り方に関する研究(分担研究者:小西行郎)?小児の運動性疾患の介護等に関する研究-先天性無痛無汗症、骨形成不全症を中心に(分担研究者:二瓶健次)?学習障害に関する研究(分担研究者:竹下研三)?先天異常のモニタリング等に関する研究(分担研究者:住吉好雄)である。前川班では初年度に検討、再評価したNICU入院中の介入と退院後の連携、乳幼児期の介入方法・システムとハイリスク児の地域ケアの在り方の研究を行い、その成果を基にして「ハイリスク児の発達支援マニュアル」を作成すると共に、ハイリスク児の発達フォロ-の在り方について検討する。高嶋班で低出生体重児の頭部画像診断に続くケア指針の確立と、早期に診断された発達障害児のコミュニケ-ション能力の開発方策について検討を行なう。小西班では養護教諭、開業医を対象とした意識調査、育児支援やサポ-トの在り方、発達訓練の実態調査等をおこなう。二瓶班は小児神経に特有の運動疾患で、介護の指針、療育の手引きが必要なものを洗い出し、これらについて介護などの問題点を抽出する。先天性無痛無汗症、骨不全症の介護の手引き書を作成する。竹下班は学習障害の早期診断の方法、効果的な介入方法、未熟児、新生児などの基底病変についておこなう。住吉班は先天異常のモニタリングの在り方、妊婦に対する葉酸とビタミンA適量摂取の教育方策の確立、患者・家族用先天異常に関するマニュアルの作成をおこなう。
結果と考察
結果:前川班では、NICU入院中の支援と退院後の連携としてカンガル-ケア、母親への心理的アプロ-チ、産褥期の母親への支援、やさしいケア、環境の整備-騒音、光、母親通信、保健婦のNICU訪問、里帰り分娩の主治医紹介などと、乳幼児期の支援システムとして、県レベル、市を中心とした地域レベル、保健所中心レベル、地域における複数医療機関の連携、病院やNICU施設における支援の具体的方法・システムを支援方法のモデルとしてまとめた。これらの成果をもとにして「ハイリスク児の発達支援マニュアル」を作成した。ハイリスク児ではフォロ-は支援を主として行なうべきで、極低出生体重児の発達チェックは生後8ヵ月、18ヵ月、3歳、就学前、3年生で行なえば充分である。  
高嶋班では、発達障害児のコミュニケ-ション能力の開発として、幼少児難聴の早期発見と人工内耳埋め込み術が極めて有効である。ハイリスク児の新生児期頭部MRIは予後を予測するのに有用である。免疫組織化学的検討により胎児・新生児脳は傷害後には再生能が昂進していることが判明した。これは再生を促す治療的アプロ-チが可能なことを示すものである。  
小西班では障害児の早期発見と療育に関して、早期診断に母子相互作用と自発運動の評価が重要な指標となり、この方法は保健所でも行なえる有効な診断法である。また、療育相談の場において、障害児の兄弟への配慮も必要であることも分かった。療育の見直しについて、非麻痺性運動発達遅滞児への運動訓練について検討し、その意義、効果、限界を明らかにした。長期療育システムの必要性を示唆した。親の調査では親は行政と保健所の療育制度などについての情報伝達に不満を持っている事と、保健所が充分に役割を果たしていないことが判明した。養護学校の校医は小児神経医が望ましい、重症障害児の在宅医療の問題点などを明らかにした。
二瓶班では、先天性無痛無汗症のガイドライン、療育手帳、歯科的療育の手引書などを作成した。骨形成不全症の全国アンケ-ト調査をおこない、骨折する機会の多い風呂、トイレなどの日常生活における手引書の原案を作成した。 レット症候群の実態調査とガイドラインを作成した。その他、無痛症の麻酔、特定疾患登録者小児例595名について、在宅生活の現状を分析し、介護や学校生活の問題点を明らかにした。
竹下班は「学習障害の基底病態と症状理解のための学際的アプロ-チ」をテ-マに公開シンポジウムを開催した。学習障害の早期診断には3歳児健診でのスクリ-ニングでは限界があり、就学前の健診が必要である。視覚・聴覚同時刺激法を用いたP300測定は学習障害の認知障害をより適確に反映することが判明した。 新しいタイプの漢字の読み書き障害の例を発見した。
住吉班では、先天異常モニタリングの在り方では、鳥取県、石川県、神奈川県、日母、愛知3県の口唇・口蓋裂のみのモニタリングについて、各プログラムの開始以来今日までの成績まとめ検討した。その結果、この間、異常な変動を示した奇形は見られなっかた。無脳症が有意に減少しているが、出生前診断とそれに続いて行なわれる人工妊娠中絶のためで、頻度は変わっていない。妊婦の「葉酸」「ビタミンA]の適量と効果が示された。産科医、小児科医のための先天異常に関するマニュアルを作成した。
考察:ハイリスク児の支援を主とした、発達フォロ-とシステムの確立と、支援とフォロ-を一緒にしたマニュアルの作成と、支援のための保健婦、医師、心理などの連携と地域の施設との連携システムを作ることが必要である。感覚性のコミュニケ-ション障害では、新しい治療法の開発があり、よりよいケアシステムをさらに検討する必要がある。画像診断等を含めた個人情報を母子手帳のように携帯する、効果的な情報伝達システムの検討が必要である。障害児のライフサイクルに合わせた医療、教育、福祉の連携の在り方や療育マニュアルによる保健婦教育が必要である。また、介護のガイドラインとガイドラインと療育手帳の有効な利用法の手引きや、介護する人を援助するガイドラインなどが要求されている。学習障害の早期診断に適切な年齢とスクリ-ニング法、神経生理学的、生化学的、分子生物学的研究の推進と言語治療を含めた有効性の高い介入方法の開発が必要である。先天異常モニタリングは年度毎の研究ではなく、感染症サ-ベイランスと同様に、全国を網羅した、継続(委託)事業として実施さるべきものである。 過去に蓄積された貴重な資料を生かし、継続されることを強く要望したい。
結論
6っの分担課題に分かれて「ハイリスク児の健全育成システム化に関する研究」を2年間行い、上記のような成果を得た。ハイリスク児は生物学的、家庭的リスクを含めると全出生数の約20%を占め、これらの健全育成は、少子化社会における重大な課題である。本研究班において、支援から療育までが論じられたが充分とは言えない。今後、ハイリスク児全体を統合して医療、保健、福祉、教育が連携して、全体の支援・療育システムを構築していくことが必要と考えられる。

公開日・更新日

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