効果的なマススクリーニングの施策に関する研究

文献情報

文献番号
199701006A
報告書区分
総括
研究課題名
効果的なマススクリーニングの施策に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
青木 継稔(東邦大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 青木継稔(東邦大学医学部)
  • 黒田泰弘(徳島大学医学部)
  • 松浦信夫(北里大学医学部)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国における先天性代謝異常症・内分泌疾患等マススクリーニングは、世界を先導し、その実績は先進諸国からも称賛され極めて高い評価を得ている。現在、新生児期においてはフェニルケトン尿症(PKU)、メープルシロップ尿症(MSUD)、ホモシスチン尿症およびガラクトース血症の先天代謝異常4疾患と、クレチン症、先天性副腎過形成症(CAH)の内分泌2疾患の6疾患が対象である。また、6か月児の尿濾紙を用いた神経芽腫(NB)マススクリーニングも施行されている。
本研究は、上記した現行マススクリーニングが円滑かつ効果・効率よく実施されること、およびさらなる発展を目的としている。そして、1)症例の追跡調査、2)検査の精度管理、3)新しい対象疾患のマススクリーニング導入、4)一次スクリーニングから確定診断・治療開始までのより効率良いシステムの確立、5)遺伝子診断のマススクリーニングへの応用、6)倫理面の検討、などを研究テーマに盛り込み、それぞれの専門家を分担研究者・研究協力者に加え研究を行うものである。
研究方法
分担研究課題は、1)新しい対象疾患に関する研究、2)現行マススクリーニング対象疾患の追跡管理と治療基準に関する研究、3)スクリーニングの継続的精度管理のあり方に関する研究、の3部門である。
結果と考察
1.新しい対象疾患に関する研究
(1)敏速な確定診断法の確立
1)PKU/高フェニルアラニン血症の確定診断法として、フェニルアラニン水酸化酵素の遺伝子変異検索による方法が検討された。また、BH4投与により血中フェニルアラニンの低下する症例の存在が見出された。2)日本人ウイルソン病の遺伝子解析とそのマススクリーニングへの応用として、本邦患者に特徴的な遺伝子変異が同定され、また本法は確定診断に有用であることが示された。3)MSUDの古典型が新生児期に発症するため、早期診断・早期治療のシステムを構築する必要が示された。
(2)ウイルソン病、ムコ多糖症、胆道閉鎖症、有機酸代謝異常症のスクリーニング法
1)ウイルソン病:6か月から6歳児を対象としたスクリーニング検査システムを構築し、パイロット・スタディを施行した。2年間で約50,000名に対して実施され、5例の発症前症例が発見された。また、尿セルロプラスミン値測定による検討を引き続き行った。2)ムコ多糖症:新生児尿によるグリコサミノグリカンとクレアチニン比を測定し、日齢4、5における検査実施が適当と判断した。また、濾紙尿によるコンドロイチンナーゼA/C消化法・DMB呈色反応の有用性を認めた。3)胆道閉鎖症:便色調カラーカード法による1か月健診記入提出法にて、3年間に約51,000名に実施し、8例が発見された。遅発例の存在が認められた。
(3)検査マニュアルの作成
日本マススクリーニング学会と協力し、現行新生児マススクリーニングについての検査マニュアルを作成した。
(4)新しいスクリーニング導入に関する実施条件および倫理的条件
1)現行の新生児マススクリーニング受診児の保護者(母親)に対し、インフォームド・コンセントの内容と方法に関するアンケート調査を実施した。半数以上の母親は、情報提供・同意ともに行われなかったとの認識であり、受診時の説明と同意の必要性が示された。2)新しいスクリーニング導入に当たっての臨床的有効性と経済効率を、ムコ多糖症、ウイルソン病、有機酸代謝異常・高アンモニア血症について検討し、有用性と問題点を明らかにした。3)マススクリーニングを実施する上での生命倫理的問題について、日本マススクリーニング学会員に対して調査を行った。文書による情報提供・同意が必要であり、また検査検体の目的外利用は同意と第三者機関の判断により可能との意見が多かった。
2.現行マススクリーニング対象疾患の追跡調査と治療基準に関する研究
(1)自治体(札幌市)における新生児マススクリーニング追跡調査システムモデルの構築、クレチン症マススクリーニング全国追跡調査票の改訂、および本邦のマススクリーニング成績の英文発表方法の検討を行った。
(2)ガラクトース血症マススクリーニング検査のカットオフ値の再設定、クレチン症マススクリーニング検査陽性児の治療基準の再設定、クレチン症マススクリーニングにおける遊離T4・TSH同時測定の有用性の確認、および先天性副腎過形成症マススクリーニング検査陽性児の確定診断における尿中プレグナントリオロン測定の有用性の確認を行った。
(3)PKU女性の管理法を確立し、マターナルPKUの予防対策を実施した。PKU女性が健常児を出産するためには、食事療法の徹底、自己採血による頻回の血中Phe測定、検査センターとの連携、および妊娠前より血中Phe値を5mg/dl前後に保つことが必要と考えられた。また、一般の啓発のために、種々の試みがなされた。
3.スクリーニングの継続的精度管理に関する研究
(1)先天性副腎過形成症、クレチン症、先天性代謝異常症の外部精度管理
厚生省の委託を受け、東京総合医学研究所にて行ってきた。外部標準検体を3-4か月毎に検査機関に発送し、正確度テスト、見逃し・記入の誤りなどを検討した。
(2)神経芽細胞種の外部精度管理
1997年度より対象疾患に加えられ、再度検討が開始された。公的機関による継続した外部精度管理、スクリーニング法の統一化が望まれるという結果であった。
(3)先天性副腎過形成症、クレチン症、先天性代謝異常症の内部精度管理
1)先天性代謝異常症:ガスリー法と酵素法により行われているが、ガスリー法について、「代謝異常スクリーニングにおける内部精度管理の効果実施のための手引き(案)」が作成された。2)ガラクトース血症:改良ボトイラー法を開発・使用し、その有効性が検討された。3)クレチン症、先天性副腎過形成症:内部精度管理マニュアルが尊守されているかの検証が行われた。また、検査前の精度管理、検体管理について検討された。TSH、F-T4測定時のTBGに影響されないF-T4測定法の検討、精査時の甲状腺超音波検査の有用性が検討された。また、緊急を要する先天性副腎過形成症スクリーニングの再採血・精査システムにおいて、各機関の連携に改善の必要性が認められた。5)内部精度管理標準検体の作成:先天性代謝異常症の内部精度管理検体が作成され、全国44施設に配布された。
(4)マススクリーニング外部精度のためのネットワークの構築
通信ネットワークを用いた外部精度管理を中心とした施設間の情報交換について検討された。情報インフラ整備が飛躍的に進歩し、インターネットを利用した技術情報交換のための施設間ネットワークの構築が進められた。セキュリティを含め可能性が検討された。
結論
本研究は、本邦において実施されている先天代謝異常・内分泌疾患等マススクリーニング事業および神経芽腫スクリーニング事業に欠かせぬ研究であることは論を待たないであろう。円滑なスクリーニングシステムの維持、検査技術の向上、精度管理、追跡調査による問題点の把握と改善、あるいは治療基準の見直し、検査技術者の質のレベルアップ、社会要請に基づく倫理的あるいは実施条件の検討、国民の苦しむ治療可能な疾患の新しいスクリーニング法の検討・開発および導入のための研究など、果たしてきた役割は大きい。今後も引き続き公的マススクリーニング事業が継続する限り、本研究の継続が必要である。

公開日・更新日

公開日
-
更新日
-

研究報告書(紙媒体)