不妊治療の在り方に関する研究

文献情報

文献番号
199701005A
報告書区分
総括
研究課題名
不妊治療の在り方に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
矢内原 巧(昭和大学医学部産婦人科)
研究分担者(所属機関)
  • 矢内原巧(昭和大学医学部産婦人科)
  • 寺尾俊彦(浜松医科大学産婦人科)
  • 池ノ上克(宮崎医科大学産婦人科)
  • 三浦一陽(東邦大学医学部第一泌尿器科)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
生殖補助医療技術の発達に伴い,従来行われていた不妊治療は近年飛躍的に進歩したと言って良い.しかし,これらの医療技術がどのような患者にどの程度応用され,その治療効果がどうであったかについての報告や調査は全国的規模で行われていなかった.生殖補助医療は,挙児を希望する夫婦にとって光明をもたらすと同時に多胎妊娠,卵巣過剰刺激症候群を含む重大な副作用を生み,その結果低出生体重児や妊娠中毒症,早産など周産期医療にも重大な影響がみられるようになった.さらに医療面のみならず患者やその家族にとっても身体的,精神的,経済的負担が多く,その結果多胎妊娠の継続を回避する目的で三胎妊娠以上の多くに対し今だコンセンサスの得られてない,減数手術が施行されていることが前年度までの調査で明らかとなった.そこで,・.『不妊治療の実態及び不妊治療技術の適応に関する研究』では,不妊原因の実態調査を中心に適切な不妊検査,治療が行われているかを検討する.また不妊患者をとりまく種々のケアプランや患者の相談事例を解析し総合的な不妊治療の在り方を検討する.・.『多胎妊娠の予防に関する研究』では,多胎出産動向調査および多胎予防のための最適な排卵誘発法の開発を目的とする.・.『多胎妊娠の管理に関する研究』では,多胎妊娠に妊娠中毒症やHELLP症候群などの血液凝固異常を伴う合併症が多いことから多胎妊婦管理における妊婦血液検査の重要性を示し,さらに多胎妊娠管理と多胎妊娠の安全な分娩様式を検討する.また多胎児におけるNICUベッド運用からみた医療体制システムを検討する.・.『男性不妊の実態および治療に関する研究』では男性不妊の原因を調査するとともに最近10年間の国内外の文献収集とその解析を行う.以上のことから本研究では生殖医療に関する医学的問題,社会的問題を総括し適切な周産期医療の指針を示すことを目的とした.
研究方法
・.『不妊治療の実態及び不妊治療技術の適応に関する研究』1)全国327施設へのアンケート調査により不妊患者数とその原因・検査・治療法に関する実態調査.2)不妊専門相談センターにおける相談内容の検討.3)不妊患者・家族に対するケアプランを医療従事者へのアンケートから作成.・.『多胎妊娠の予防に関する研究』1)多胎の出産動向調査.2)多胎防止に有用な排卵誘発法の検討.・.『多胎妊娠の管理に関する研究』1)多胎妊娠の母体合併から妊婦管理指針の検討.2)多胎妊娠の分娩管理指針.・.『男性不妊の実態および治療に関する研究』男性不妊の実態及び治療に関する文献・実態調査.
結果と考察
・.1)不妊の原因・検査・治療法:166施設(診療所18,病院84,医育機関64)より回答(51.4%)を得た.・不妊患者総数:新患総数31,415人,受診者総数11,7071人で診療所は病院・医育機関に比し3倍から4倍の患者数であった.・不妊の原因として男性因子25.9%,女子因子65.3%,機能性不妊21.5%であった.・検査および治療としてホルモン測定,負荷テストは90~100%行われているが診療所において排卵障害や無月経の診断に必要な検査の施行率は60%であった.卵管因子による治療法として診療所では体外受精・胚移植(IVF-ET)が94.4%であるのに対し,医育機関では卵管形成術など卵管機能の回復を目的とした治療が80~90%の施設で行われている.・IVF-ETは107施設(65.2%)で行われており年間施行件数は17,158件であった.診療所では8,116件で47%を占め施設あたりでは医育機関の5.5倍で,約70%が外来で施行されていた.適応として男性因子33.8%,卵管因子37.3%,卵巣因子10.3%,子宮内膜症15.6%,機能性不妊23.8%(重複有り)であった.・AID:425症例,3,819周期の検討では妊娠率は44.8%(症例別)であった.・卵管鏡下卵管形成(FT)システムによる卵管疎通性回復は88.4%で,治療後2年以上経過した症例ではFT全施行症例の25.0%,卵管通過性を回復し得た例を母集団とすると33.3%の妊娠率を示した.2)不妊相談:「不妊ホットライン」への1年間の相談件数は926件で,相談内容として治療への迷い35.1%,病院情報19.3%,自分自身のこと16.6%,検査について12.0%,病院への不満11.6%であった.3)ケアプラン:看護婦・助産婦等の不妊治療や,それを受ける患者・家族への関わりに関す
る調査では57.2%から回答があり看護の役割に関する項目で因子分析を行ったところ不妊患者の相談,不妊治療及び医師と患者の関係などの不妊患者を世話する因子が抽出された.また看護者の学習,教育,倫理的視点に基ずく患者・家族の理解と対応(教育)の必要性が示された.・.1)多胎の出産動向調査:・双胎出産率は1995年に比し増加したが3胎は減少,4胎以上は激減(27.72から7.22/出産百万).・4胎以上の減数手術施行率は74.1%(20/27例)と前回調査に比べ高いが,その主なものはIVF-ETによる多胎であった.1996年学会会告(胚移植数3個の制限)以降の効果は1997から1998年にみられると予測される.2)最適な排卵誘発法(多嚢胞性卵巣症候群を対象): ・FSH-GnRH律動投与法は,FSH単独療法に比し排卵率を低下することなく多胎妊娠を予防し得た.・低容量hMG漸増投与法は多胎妊娠を予防し得た.・.1)妊娠管理:・多胎妊娠の母体合併症とその対策:多胎妊娠では妊娠中毒症やHELLP症候群の合併頻度が高い.双胎妊娠では血小板やAT・の減少がみられ分娩前(妊娠32週時)よりこれらの血液検査(正常下限:AT・活性≧74%,血小板≧155×109/l )を全双胎妊婦に行うことが推奨される.・超音波検査の有用性:双胎妊娠の膜性診断は早期に行うことが有用であり,さらに妊娠9週までは,胎嚢の数と相互位置関係,胎嚢内の胎芽数と心拍動,卵黄嚢数,胎嚢内の羊膜嚢の観察と数,妊娠9週から13週の期間には隔壁の厚さ,隔壁辺縁部の形状,CRLの計測を行う.・多胎妊娠における胎児評価:・)膜性別胎児発育の評価:%discordancyでみると一絨毛膜二羊膜性(MD)双胎では時期を問わず1週間以内に急にdiscordancyが生じることが少なくないのに対して,二絨毛膜性二羊膜性(DD)双胎では妊娠25週頃からdiscordancyがはっきりしてくるものが多い.・)1児IUFD双胎の検討:MD双胎では25%以上のdiscordancyが23.7%,DD双胎で30.0%であった.MD双胎は臍帯付着異常,臍帯過捻転,臍帯狭窄を伴っていることが多く,現在の検査法では急激なdiscordancyの発生やIUFDの予測は困難である.・早産の防止:DD双胎は早産予防入院を26から30週に進める.2)分娩管理:・分娩方針は,頭位-頭位では経膣分娩.頭位-非頭位であれば34週以降,1500g以上は経膣分娩,それ以外は帝王切開.・多胎児におけるNICUの運用の検討.多胎児のためにNICU1床あたり新生児回復病床4.8床が必要であり産科病床2.2床に対応できると試算した.・.男性不妊に関する文献収集分析結果:国内では泌尿器科男性患者の4.1%が男性不妊患者であり,その原因は特発性が最も多く68.4%,次いで精索静脈瘤22.3%,閉塞性無精子症3.7%であった.その他国内文献3615件を収集し解析を行った.精子数の減少:文献的には平均精子濃度,精液量,精子数は過去50年有意に低下を示す研究報告がみられたが,精子濃度は低下していないという論文もある.本邦の男性不妊の実態調査:国内アンケート調査により男性不妊患者の34.9%が泌尿器科を訪れ,30%が婦人科からの紹介であった.これらの患者の73%は大学病院に紹介されている.
結論
本邦における不妊治療の実態が明らかとなり,施設によって検査・治療法が異なっていることが示された.またコメディカルの役割の重要性と不妊患者の医療に対する要望が大きいことが分かった.生殖医療に関しては診療所レベルでのIVF-ETの数が多く行われており,卵管機能回復手術は大学病院などで試みられ,良好な成績が得られている.多胎出産の年次動向が明らかとなり減少傾向が見られる.多胎妊娠予防に対する有効な排卵誘発法が検討され良好な成績を収めつつある.多胎妊娠とくに双胎妊娠の管理法・安全な分娩方式が示された.男性不妊に関しては今後の具体的な実態調査が期待される.以上のごとく不妊治療の在り方に関する本研究は生殖医療に関する医学的な問題のみならず社会的問題をも包括しており,適切な周産期医療の指針をも示すとともにこれらに対し社会的支援体制と対策の重要性を指摘するものである.

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