文献情報
文献番号
199701004A
報告書区分
総括
研究課題名
これからの妊産褥婦の健康管理システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
中野 仁雄(九州大学医学部婦人科学産科学)
研究分担者(所属機関)
- 中野仁雄(九州大学医学部婦人科学産科学)
- 金澤浩二(琉球大学医学部産科婦人科学)
- 松本八重子(東京都立医療技術短期大学)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究における分担研究課題は、1)妊産褥婦へのエモーショナル・サポートに関する研究、2)母児同室と母性の健全育成に関する研究、3)出産後のフォローアップに関する研究である.このうち、1)は3年間、2)3)は今年度1年間が該当研究期間である.
本研究班は先行研究によって明らかにされた母子精神保健事業の重要性に基づき、それを具体化するためのプログラムを策定することが総合目的である.1)ではその中核部分を担当し、施設型・地域型それぞれのエモーショナル・サポートにおける問題点の抽出、および対応策の提案を行うこととした.また、2)3)ではその周辺領域に取り組んだ.すなわち、出産直後からの母性概念形成過程における母児同室保育の意義を明らかにすること、ならびに地域の、出産後の母子支援として行われている訪問看護の実態を明らかにすることである.
本研究班は先行研究によって明らかにされた母子精神保健事業の重要性に基づき、それを具体化するためのプログラムを策定することが総合目的である.1)ではその中核部分を担当し、施設型・地域型それぞれのエモーショナル・サポートにおける問題点の抽出、および対応策の提案を行うこととした.また、2)3)ではその周辺領域に取り組んだ.すなわち、出産直後からの母性概念形成過程における母児同室保育の意義を明らかにすること、ならびに地域の、出産後の母子支援として行われている訪問看護の実態を明らかにすることである.
研究方法
研究方法は、課題に即して共同研究、個別研究のいずれをも採用した.分担研究班会議と全体研究班会議を開催し、研究の一貫性、方向性を確保するための討論を行った.課題1)では、過年度の成果をふまえて、プログラムの策定、マススクリーニングの方法およびエモーショナル・サポートの具体策を示すために、共同研究により大標本についてテストし、併せてモデル地域(2県)において地域の行政機構の現状を調査した.課題2)についても、母児同室が母性形成に有効か否かを検討するために、母児同室・異室群に分けて母性概念の形成過程を調査した.課題3)では、既存の実施施設を対象に聞き取り調査を行った.
結果と考察
妊産褥婦へのエモーショナル・サポートに関する研究の一環として、地域型母子精神保健プログラムを策定するために、三重県と福岡県をモデル地区として現状を調査した.市町村、県保健所、福祉事務所、児童相談所などの行政機関で活動する母子保健担当者を対象とした調査では、いずれの部署も母子の「こころの相談」の必要を自覚しており、大凡60-70%の機関でこれに対応していた.しかし、問題症例に遭遇しても、後方医療機関との連携がある市町村は20%以下にとどまっているなどサポートの実効をあげるにはほど遠い状況が判明した.
ハイリスク妊産褥婦の抽出法とともに、施設型母子精神保健プログラムを策定するために、多施設共同研究を行った.5地域5大学病院産科を実施場所として、インフォームド・コンセントに基づき症例エントリー(登録)を行い、追跡調査のコホートとした.同一助産婦が同一妊産褥婦に個人面接を行い、産前、産後に精神診断を行うとともに、同時期のアンケート調査を付加して精神疾患の有無と、精神症状の如何を評価した.その結果、調査時点での時点有病数として強迫性障害など7例の精神機能障害例を抽出した.また、抑うつ・不安の精神症状に対して、それぞれに相関する認知症状と感情症状の特徴を抽出した.さらに、妊娠後期の抑うつ症状と不安症状が心理社会的要因で説明できること、及び心理的支援(の欠如)が精神症状の発現に関与していることが示された.
母児同室と母性の健全育成に関しては、同室ケア群では、不安尺度が出産前から出産後へと経時的に低下を示し、出産前後の動揺期をより平易に乗り切ることが分かった.これに対して異室群では不安尺度や、マタニティー・ブルーズ、うつ病尺度のいずれもが高得点を示した.育児不安に対する差異については、異室群では育児動機が弱く、これを回避する願望が現れた.同室群のなかで、胎児超音波画像による視覚認知教育を付加した症例では、育児動機が促進された.
育児不安を低減させる出産後の環境作りについて検討した結果、母子を、五感をとうして接触結合させる環境が最も重要であり、出産後可及的早期の同室ケアは母にとって心身の負担は大きいが、これを支援する医療側の責務として問題解決策を考案することが必要とされた.
ピア・サポートの有効性は、「おしゃべり」を通じて得られる相互の行動標準化にある.初妊婦を対象とした検討では、サポート群で母のエモーショナル・ウェルビーイングが高まり、自尊心が高まり、さらにうつ状態の予防に有効であった.
出産後のフォローアップとして行われる医療機関からの褥婦及び新生児訪問指導の実態を全国140の施設に対して質問票による調査を、また17施設に対しては、聞き取り調査を行った.その結果、施設による訪問指導の開始と継続の要件を抽出した.母子保健法第8条-2として平成6年から運用されている「市町村は、この法律に基づく母子保健に関する事業の一部について病院若しくは診療所または医師、助産婦その他適当と認められる者に対して、その実施を委任することが出きる」とした委任先の医療機関がかかえる問題を解決する道につながる.
妊娠・分娩・産褥、そしてそこから始まる育児行動は女性の生涯において心身の変調を伴うという意味では極めて大きなインパクトを形成する.しかもそれが一過性のものというわけではなく、母子の、夫婦の、家族の人間関係がいかに健全に形成されていくかに重大な関心がある.ここにあって、本研究班が今年度取り組んだ研究課題は、いずれも心理社会的な問題として本邦の現在が内包するものである.
課題のうち、出産後の訪問指導はすでに実施段階にある行政施策であり、法令に基づく事業である.しかし、その黎明期にあって、各事業所は、それまでに積み上げてきたノーハウを頼りに、経済的問題への対処と人的要件とを満たすべく不断の努力を積んでいる実態が示された.すべからく事業の立ち上げと軌道化はこのような所作による他はないのかもしれない.地域住民にとって、それが価値あるものとの評価が得られたとき、さらには成長した展開が待ち受けるのであろう.
これに対して、エモーショナル・サポートも母児同室ケアの問題も、予算事業といえるほどには育っていない.母児同室は、前身を含めて本研究班の継続研究として年余を経た.方式として提唱され始めてからすでに随分と時を経た今日、社会の驚くほどの変貌の前には、同室ケアのみで事足れりとするほどに明確な効果は、たとえば母性概念の形成や育児不安の解消といった目的に対しては示されなかった.一方で、これを否定する根拠は皆無であることも事実である.少なくとも、目的に対して支援の方向での手段としては重要な意味を持つ.それ以前に、同室ケアを可能にする環境整備そのもののなかに今日的に必要とされる種々の要件が含まれている.
産後うつ病を主たるターゲットとした母子精神保健は、地域バージョンと施設バージョンとに分けて、相互の連携を描き出すとの視点から策定するのがよい.施設バージョンの担当者は助産婦・保健婦などコメディカル・スタフに期待がもてる.なにより、プログラムの策定にあわせて、精神保健への一般的、共通的関心を高め、国民全体の常識的行動に醸成していくことが肝要である.産後うつ病の研究は欧米で進んでおり、妊娠出産に先行するライフイベントなどがあげられている.妊娠、出産という家族形成における重要な時期に、母親となる女性の精神的な危機状態を支援することは、母親自身のみならず、良好な夫婦関係や母子相互関係の確立など安定した家族関係の形成に役立つことが報告されている.本邦ではこの領域の調査研究はまだ少なく、少子化、女性の就業率の増加、離婚や未婚による単親家庭の増加など家族のあり方が急激に変化してきている今まさに、この領域の研究をさらに充実させる必要がある.
ハイリスク妊産褥婦の抽出法とともに、施設型母子精神保健プログラムを策定するために、多施設共同研究を行った.5地域5大学病院産科を実施場所として、インフォームド・コンセントに基づき症例エントリー(登録)を行い、追跡調査のコホートとした.同一助産婦が同一妊産褥婦に個人面接を行い、産前、産後に精神診断を行うとともに、同時期のアンケート調査を付加して精神疾患の有無と、精神症状の如何を評価した.その結果、調査時点での時点有病数として強迫性障害など7例の精神機能障害例を抽出した.また、抑うつ・不安の精神症状に対して、それぞれに相関する認知症状と感情症状の特徴を抽出した.さらに、妊娠後期の抑うつ症状と不安症状が心理社会的要因で説明できること、及び心理的支援(の欠如)が精神症状の発現に関与していることが示された.
母児同室と母性の健全育成に関しては、同室ケア群では、不安尺度が出産前から出産後へと経時的に低下を示し、出産前後の動揺期をより平易に乗り切ることが分かった.これに対して異室群では不安尺度や、マタニティー・ブルーズ、うつ病尺度のいずれもが高得点を示した.育児不安に対する差異については、異室群では育児動機が弱く、これを回避する願望が現れた.同室群のなかで、胎児超音波画像による視覚認知教育を付加した症例では、育児動機が促進された.
育児不安を低減させる出産後の環境作りについて検討した結果、母子を、五感をとうして接触結合させる環境が最も重要であり、出産後可及的早期の同室ケアは母にとって心身の負担は大きいが、これを支援する医療側の責務として問題解決策を考案することが必要とされた.
ピア・サポートの有効性は、「おしゃべり」を通じて得られる相互の行動標準化にある.初妊婦を対象とした検討では、サポート群で母のエモーショナル・ウェルビーイングが高まり、自尊心が高まり、さらにうつ状態の予防に有効であった.
出産後のフォローアップとして行われる医療機関からの褥婦及び新生児訪問指導の実態を全国140の施設に対して質問票による調査を、また17施設に対しては、聞き取り調査を行った.その結果、施設による訪問指導の開始と継続の要件を抽出した.母子保健法第8条-2として平成6年から運用されている「市町村は、この法律に基づく母子保健に関する事業の一部について病院若しくは診療所または医師、助産婦その他適当と認められる者に対して、その実施を委任することが出きる」とした委任先の医療機関がかかえる問題を解決する道につながる.
妊娠・分娩・産褥、そしてそこから始まる育児行動は女性の生涯において心身の変調を伴うという意味では極めて大きなインパクトを形成する.しかもそれが一過性のものというわけではなく、母子の、夫婦の、家族の人間関係がいかに健全に形成されていくかに重大な関心がある.ここにあって、本研究班が今年度取り組んだ研究課題は、いずれも心理社会的な問題として本邦の現在が内包するものである.
課題のうち、出産後の訪問指導はすでに実施段階にある行政施策であり、法令に基づく事業である.しかし、その黎明期にあって、各事業所は、それまでに積み上げてきたノーハウを頼りに、経済的問題への対処と人的要件とを満たすべく不断の努力を積んでいる実態が示された.すべからく事業の立ち上げと軌道化はこのような所作による他はないのかもしれない.地域住民にとって、それが価値あるものとの評価が得られたとき、さらには成長した展開が待ち受けるのであろう.
これに対して、エモーショナル・サポートも母児同室ケアの問題も、予算事業といえるほどには育っていない.母児同室は、前身を含めて本研究班の継続研究として年余を経た.方式として提唱され始めてからすでに随分と時を経た今日、社会の驚くほどの変貌の前には、同室ケアのみで事足れりとするほどに明確な効果は、たとえば母性概念の形成や育児不安の解消といった目的に対しては示されなかった.一方で、これを否定する根拠は皆無であることも事実である.少なくとも、目的に対して支援の方向での手段としては重要な意味を持つ.それ以前に、同室ケアを可能にする環境整備そのもののなかに今日的に必要とされる種々の要件が含まれている.
産後うつ病を主たるターゲットとした母子精神保健は、地域バージョンと施設バージョンとに分けて、相互の連携を描き出すとの視点から策定するのがよい.施設バージョンの担当者は助産婦・保健婦などコメディカル・スタフに期待がもてる.なにより、プログラムの策定にあわせて、精神保健への一般的、共通的関心を高め、国民全体の常識的行動に醸成していくことが肝要である.産後うつ病の研究は欧米で進んでおり、妊娠出産に先行するライフイベントなどがあげられている.妊娠、出産という家族形成における重要な時期に、母親となる女性の精神的な危機状態を支援することは、母親自身のみならず、良好な夫婦関係や母子相互関係の確立など安定した家族関係の形成に役立つことが報告されている.本邦ではこの領域の調査研究はまだ少なく、少子化、女性の就業率の増加、離婚や未婚による単親家庭の増加など家族のあり方が急激に変化してきている今まさに、この領域の研究をさらに充実させる必要がある.
結論
エモーショナル・サポートの方法は直接面接が最良である.電話相談はその前後での不安解消効果は著明でないが、常設の窓口としての意義は大である.支援介入者には保健婦、助産婦などのコメディカル・スタフが充分に機能する.エモーショナル・サポートの有効性には介入者の資質や技能が大きく影響する.これに対して、コミュニケーション理論に基づき、直接面接のための教育・研修用ビデオ・ソフトを作成した.
母児同室は母性概念の形成には有利な手段といえるが、単に同室にしたからといってそれのみでは完結しない.同室を可能にする環境整備そのものが効果を左右する.
訪問看護はその緒についたところである.実施施設と市町村との連携、さらに介入者の研修教育が重要である.
母児同室は母性概念の形成には有利な手段といえるが、単に同室にしたからといってそれのみでは完結しない.同室を可能にする環境整備そのものが効果を左右する.
訪問看護はその緒についたところである.実施施設と市町村との連携、さらに介入者の研修教育が重要である.
公開日・更新日
公開日
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