血管新生黄斑症に対するペプチドワクチン療法

文献情報

文献番号
201128144A
報告書区分
総括
研究課題名
血管新生黄斑症に対するペプチドワクチン療法
課題番号
H22-難治・一般-185
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
大路 正人(滋賀医科大学 医学部眼科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 辻川 元一(大阪大学 医学部眼科学教室)
  • 白神 史雄(香川大学 医学部眼科学教室)
  • 高橋 寛二(関西医科大学 医学部眼科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血管新生黄斑症は加齢黄斑変性等により引き起こされ失明の主要な原因となっている。治療には近年抗VEGF薬の硝子体注射(抗VEGF療法)が行われるようになったが、効果が不十分であること、さらに効果を維持するためには硝子体注射を何度も繰り返す必要があることなど問題が多い。我々は本研究で病的新生血管に多く発現しているVEGFR1および2を特異的に認識し傷害する細胞障害性T細胞を誘導することができるHLA-A*0201およびA*2401拘束性のエピトープペプチドを皮下に注射することによりVEGFR特異的CTLを誘導し眼内血管新生を阻害するという新しいワクチン療法の開発を目的としている。
研究方法
まず、標準療法無効例に対し安全性を検証する事を主目的とした第I相臨床試験を完成させた。2年間の経過観察にて、副次目的として有効性や免疫学的応答も観察した。また、最終年度において続いて上記HLA拘束性エピトープペプチドによる維持療法第II相臨床試験を開始した。これは新生血管黄斑症に対し、従来の抗VEGF療法の導入療法期間中に、上記HLA拘束性エピトープペプチドワクチン療法を開始し、以後に必要な抗VEGF薬の硝子体注射の回数を軽減できるか否かを主目的として評価する
結果と考察
第I相臨床試験については安全性について問題となるような事項は期間中に発生しなかった。また、HLA型不一致例を対象として視力の経過を見てみると2年にわたってワクチン投与群のほうが有意に視力がよかったため、有効性もある程度示されたと考えた。第II相試験は滋賀医科大学医学部眼科、大阪大学医学部眼科、香川大学医学部眼科、関西医科大学医学部眼科による多施設共同試験として行った。本試験は、HLA拘束性エピトープペプチドと不完全フロイントアジュバントと混合し、エマルジョンとしてから皮下に投与するという特殊な調剤が必要であり、薬剤部との折衝等で時間を要したが、各施設とも倫理委員会の承諾を得たうえで、試験をオープンにすることができた。現在、疾患群2例、対照群1例の観察を行っているところである。したがって、統計的な結果解析はまだ無理であるが、疾患群の中で現在も1.0ときわめてよい視力を持続しているものがある。
結論
HLA-A*0201およびA*2401拘束性のエピトープペプチド療法は重症加黄斑変性例に対して、安全であり、また、有効である可能性が高い。また、これにより抗VEGF療法の回数を軽減することができれば、患者の肉体的な負担だけでなく、我が国の医療経済に対しても良い影響がある。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201128144B
報告書区分
総合
研究課題名
血管新生黄斑症に対するペプチドワクチン療法
課題番号
H22-難治・一般-185
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
大路 正人(滋賀医科大学 医学部眼科学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 辻川 元一(大阪大学 医学部眼科学教室)
  • 白神 史雄(香川大学 医学部眼科学教室)
  • 高橋 寛二(関西医科大学 医学部眼科学教室)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
血管新生黄斑症は加齢黄斑変性等により引き起こされ失明の主要な原因となっている。治療には近年抗VEGF薬の硝子体注射(抗VEGF療法)が行われるようになったが、効果が不十分であること、さらに効果を維持するためには硝子体注射を何度も繰り返す必要があることなど問題が多い。我々は本研究で病的新生血管に多く発現しているVEGFR1および2を特異的に認識し傷害する細胞障害性T細胞を誘導することができるHLA-A*0201およびA*2401拘束性のエピトープペプチドを皮下に注射することによりVEGFR特異的CTLを誘導し眼内血管新生を阻害するという新しいワクチン療法の開発を目的としている。
研究方法
まず、標準療法無効例に対し安全性を検証する事を主目的とした第I相臨床試験を完成させた。2年間の経過観察にて、副次目的として有効性(視力の変化)や免疫学的応答も観察した。また、最終年度において続いて上記HLA拘束性エピトープペプチドによる維持療法第II相臨床試験を開始した。これは新生血管黄斑症に対し、従来の抗VEGF療法の導入療法期間中に、上記HLA拘束性エピトープペプチドワクチン療法を開始し、以後に必要な抗VEGF薬の硝子体注射の回数を軽減できるか否かを主目的として評価する。
結果と考察
第I相臨床試験については17例の症例に対して投与を行った。重症例に対して行うことになったが、解剖学的にも一時的でも著効した症例が4例存在した。また、同意取得したもののHLA不適合により治療ができなかったもの(これら症例には従来療法である抗VEGF療法もしくは光線力学的療法を引き続き行っている。平均の抗VEGF療法の回数4.7回)を対象として視力の推移を比較したところ、2年という長期の観察時点でも、対象に比べ有意によい視力が得られた。よって、少なくとも、このような症例に対しては従来療法に比べ、遜色ない効果があると考えている。また、本来の主目的である安全性においても腫瘍領域における報告と同様、投与部の発赤、腫瘤は認めるが、重篤な副作用は発生していない。したがって、第I相臨床試験では満足が得られる結果が得られた。第II相試験は現在、疾患群2例、対照群1例の観察を行っているところである。したがって、統計的な結果解析はまだ無理であるが、疾患群の中で現在も1.0ときわめてよい視力を持続しているものがある。
結論
HLA-A*0201およびA*2401拘束性のエピトープペプチド療法は重症加黄斑変性例に対して、安全であり、また、有効である可能性が高い。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128144C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ペプチドワクチン療法は主に腫瘍領域において効果が期待できる第四の治療として、大規模な企業主導型治験が行われるなど注目されている。この中で腫瘍特異的高原でなく腫瘍血管をターゲットとした抗VEGFRワクチン療法が開発された。しかしながら、このワクチンが他の血管増殖を病理とする疾患に有効かどうかは不明である。今回我々は当ワクチンを眼科の難病である血管新生黄斑症に応用し、安全性と効果について検討した。
臨床的観点からの成果
加齢黄斑変性を代表とする血管新生黄斑症は難治性・進行性で視力予後不良な疾患であり、本邦でも失明原因の上位を占める。本研究は、世界的に見て新規の治療法であるVEGFRに対するHLA拘束性ペプチドワクチン療法の開発を重点に行った。本研究は医師指導型治験の遂行が主目的であって、これにより、本療法が加齢性黄斑変性患者のような高齢者にも安全であり、従来療法不応例のような重症例にも一定の効果があることが示された。
ガイドライン等の開発
滋賀医科大学、大阪大学、香川大学、関西医科大学において血管新生黄斑症の研究班を設立し、疾患概要を定めた。また、同4大学においてプロトコールを共有することで血管新生黄斑症に対するHLA拘束型抗VEGFRワクチンの第Ⅱ相試験を他施設共同で実施している。
その他行政的観点からの成果
加齢黄斑変性に対しては近年抗VEGF療法、特に抗体療法が出現したことにより今まで治療法がなかったこの領域にも保険適応のある標準治療が出現した。しかしながら、侵襲の高い硝子体注射を繰り返さなければならず、また、1回の治療に保険を適応しても患者負担が6万円ほどかかるなど、患者、社会に双方に負担が大きい治療となっている。また、不応例も多く加齢黄斑変性以外の血管新生黄斑症には適応がない。ワクチン療法はこれらの問題を解決できる治療として期待されており、臨床治験にまで持ち込めた
その他のインパクト
我々の医師主導型治験の結果から、本年度より、当ワクチンの企業主導型治験が世界に先駆けて本邦で行われることとなった。また、抗腫瘍効果をめざす全国規模のワクチン研究会にも出席し、担癌患者以外を対象とした唯一の治験として結果を報告してきた。また、本ワクチン療法は企業主導の治験として第I/II相試験が、実際に施行され、製品化を検討されている。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
3件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
3件
その他成果(特許の出願)
1件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sawada O, Kawamura H, Kakinoki M. et. al.
Vascular Endothelial Growth Factor in the aqueous humor in eyes with myopic choroidal neovascularization.
Acta Ophthalmol , 89 , 459-462  (2011)
原著論文2
Sawada O,Miyake T,Kakinoki M. et. al.
Negative Correlation between Aqueous Vascular Endothelial Growth Factor Levels and Axial Length
Jpn J Ophthalmol. , 55 , 401-404  (2011)
原著論文3
Sawada O,Miyake T,Kakinoki M. et. al.
Aqueous Vascular Endothelial Growth Factor after Intravitreal Injection of Pegaptanib or Ranibizumab in Patients with Age-Related Macular Degeneration.
Retina , 30 , 1034-1038  (2011)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201128144Z