周産期の医療システムに関する研究

文献情報

文献番号
199701001A
報告書区分
総括
研究課題名
周産期の医療システムに関する研究
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
多田 裕(東邦大学医学部新生児学教室)
研究分担者(所属機関)
  • 多田裕(東邦大学医学部新生児学教室)
  • 中村肇(神戸大学医学部小児科学教室)
研究区分
心身障害研究費補助金 分野名なし 事業名なし
研究開始年度
平成7(1995)年度
研究終了予定年度
平成9(1997)年度
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
地域の周産期医療システムの整備のあり方と整備の現状を調査検討することを目的に研究した。
各地域の周産期医療を整備するにあたって、都道府県は周産期医療情報を収集するとともに、各施設や地域内の整備状況を評価する基準が必要になる。
また、各周産期医療システムの整備の中には、産科医療施設間、新生児医療施設間、産科・新生児医療施設間、新生児医療施設と地域の保健所や療育施設間などの情報ネットワ-クシステムも重要である。情報システムが確立することにより、ハイリスク児の死亡率が改善するばかりでなく、退院後のフォロ-アップや医療と保健や福祉が連携してハイリスク児や家族への適切なケアを提供することも可能となり、予後はさらに改善することが期待される。
本研究班では、都道府県げ整備すべき周産期医療システムに関し検討し報告してきたが、本年度は都道府県が収集すべき周産期医療情報の内容と収集方法を検討し、さらに、周産期医療情報の伝達方法についても検討した。また、周産期医療システム整備の評価につなげるために、超低出生体重児の長期予後調査を全国的に実施した。
研究方法
各地域の周産期医療システムの実施状況や周産期施設と関連する保健・療育施設の連携などについて、班員が所属する地域の現状を調査するとともに、全国調査を実施した。また、周産期医療施設の実績に関して、1995年1年間の状況について全国調査し結果を分析した。超低出生体重児の予後に関しては、全国のNICUに調査表を配布して記入を依頼した。
結果と考察
1)周産期医療システムに関する研究(分担研究者多田裕)
?各県の周産期医療体制の評価
NICUおよび産科施設の実態を把握するための調査用紙を作成し、さらに調査項目に点数をつけて、各施設の比較や地域の評価が可能であるかを検討した。
本調査の内容は今後の都道府県での周産期医療実態調査に利用が可能であり、施設間や地域の整備状況も可能であると考えられた。
また、全国の周産期医療施設の中のNICUの整備状況を検討した結果、狭義のNICUがあると回答している施設は351施設あるが、3床以上あるところは291施設に過ぎず、このうち社会保険の新生児集中治療室管理加算の認められる施設は122施設しかなかった。また、新生児医療に従事する医師数が5人以上の施設は52施設に過ぎなかった。この結果から、各地の中心となるNICU施設は存在するが、病床数や要員は十分でなく、今後は既存の施設をいかに整備するかが重要な課題であることが明らかになった。
? 周産期医療情報の内容と収集方法のあり方
施設情報について検討した結果、都道府県が各周産期医療施設から収集し、総合周産期母子医療センタ-の協力の下に分析し、周産期医療協議会で検討されることが適当であると考えられた。情報の収集のためには、「ハイリスク児出生の実態把握と追跡管理に関する研究」班で作成した「ハイリスク新生児入院基本情報」の利用が効果的である。
?周産期医療システム整備に関する班の見解
各地域で周産期医療システムを整備する上で比較的多く問題になる点について、当研究班で検討し、班としての見解をQ&A形式で付記し、さらに関連の資料を参考として添付した。
2)ハイリスク児出生の実態把握と追跡管理に関する研究(分担研究者中村肇)
? ハイリスク新生児入院基本情報についての通信ネットワ-クシステムの開発
周産期医療施設間および新生児医療施設と保健所や療育施設との情報ネットワ-クについての調査の結果、新生児医療施設間では約半数の23都道府県でネットワ-クが稼働中ないし準備中であり、17都道府県ではコンピュ-タ通信ないしインタ-ネットを利用していた。産科施設間では17、産科と新生児の施設間では16の都道府県がネットワ-クを組んでいるに過ぎず、新生児施設間に比べ普及が遅れていた。
産科施設から新生児施設への情報提供に共通用紙を使用しているのは、16都道府県であった。また、本研究班では、今後の各地域での情報提供の円滑化をはかるために「ハイリスク新生児入院基本情報」にリンクさせた「新生児医療情報提供書」「新生児搬送連絡票」「母体搬送情報提供書」を作成した。
? 超低出生体重児6歳時予後に関する全国調査
1990年に出生した超低出生体重児の予後を調査し次の結果を得た。
6歳時においても、超低出生体重児の87.6%は新生児期に収容されていたNICUのある施設でフォロ-アップされており、548例の超低出生体重児の83.2%が普通学級、4.9%が障害児学級、5.3%が養護学校を予定しており、0.9%が就学猶予、5.7%が未定であった。
神経学的予後は正常が76.8%、脳性麻痺が5.8%、精神発達遅延が9.7%、両者の合併7.7%であった。脳性麻痺の背景因子としては、中小規模のNICUは大規模のNICUに比し発生率が高く、750g未満の出生体重、非母体搬送などでも発生率が高かった。
精神発達遅延の頻度は17.5%%と3歳時点より増加しており、少なくとも就学時までのフォロ-アップの必要性が指摘された。
? 周産期医療情報の把握のための疾病コ-ドの標準化
「ハイリスク新生児入院基本情報」とリンクさせることにより、地域での周産期医療情報デ-タベ-スとして活用できるように、ICD10に準じた疾病コ-ドの標準化を行った。
結論
周産期医療対策事業が発足した結果、各地でシステム化へ向けての検討が行われており、近い将来多くの都道府県で本事業が開始される可能性が高い。しかし、要員や病床数の点で周産期医療整備実施事業に定められた基準を満たす施設が少ない現状も明らかになった。総合周産期母子医療センタ-および地域周産期母子医療センタ-のもととなる施設は存在しているので、今後要員等の拡充を図り、施設を整備して行くことで必要である。
また、超低出生体重児のようなハイリスク児の予後の改善のためには、長期予後の追跡が必要であり、さらに退院後の周産期医療施設間および周産期施設と小児保健・福祉機関や療育期間との連携が重要である。しかし、これらの施設間の情報システムは、未だ十分に機能していないことが明らかになった。当研究班では入院基本情報を基にした地域情報システムの確立についても提言した。


調査項目は、?.NICUの実態調査に関しては、1)新生児病室病床数 2)年間入院数 3)新生児・未熟児病棟担当当直医師数 4)新生児・未熟児病棟担当医師数 5)小児科当直医師数 6)小児科医師数  7)新生児・未熟児病室の看護単位 8)新生児・未熟児病室の夜勤看護婦数  9)NICUへの新生児搬送状況である。
産科の実態調査に関しては、1)年間分娩数 2)体重別年間出生数/新生児死亡数 3)体重別年間死産数 4)在胎週数別出生数/新生児死亡数 5)在胎週数別死産数 6)多胎分娩数 7)ハイリスク妊婦入院数 8)帝王切開数 9)緊急帝王切開までの所要時間 10)産婦人科当直医師数/産科専任当直医師数 11)産科専任医師数
12)産科病室の看護体制 12)病的新生児の取扱い 13)社会保険での母胎・胎児集中治療管理室相当病室の有無(認可病床数、面積、器材整備状況)である。

公開日・更新日

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