中條―西村症候群の疾患概念の確立と病態解明に基づく特異的治療法の開発

文献情報

文献番号
201128134A
報告書区分
総括
研究課題名
中條―西村症候群の疾患概念の確立と病態解明に基づく特異的治療法の開発
課題番号
H22-難治・一般-175
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
金澤 伸雄(和歌山県立医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 有馬 和彦(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科分子設計学)
  • 井田 弘明(久留米大学医学部呼吸器・神経・膠原病内科)
  • 吉浦 孝一郎(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科人類遺伝学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
中條-西村症候群は、乳幼児期に凍瘡様皮疹で発症し弛張熱や結節性紅斑様皮疹と拘縮を伴う長く節くれ立った指趾を特徴とする、本邦固有の遺伝性自己炎症・消耗性疾患である。本研究班はこれまでに全国疫学調査や原因であるPSMB8遺伝子変異の同定による疾患概念の確立、患者由来検体の解析による病態解明を進めてきた。平成23年度は、これら研究の成果をまとめて論文に発表し、国際的な変異遺伝子データベースを構築するとともに、基礎研究による病態解明を進め、明らかとなった分子・細胞機能異常をターゲットに有効な治療法の開発を目指す。
研究方法
国際自己疾患研究会と連携した類縁疾患の臨床・遺伝子情報の収集、患者由来検体を用いた基礎研究による分子・細胞機能異常の検索、iPS細胞の樹立と単球・脂肪細胞への分化異常の検索、関節リウマチでのプロテアソーム機能不全の検討、PSMB8変異ノックインマウスの作製と表現型の解析を行った。
結果と考察
8月に米国科学アカデミー紀要に論文が掲載され,マスコミ各紙に内容が紹介された。また自己炎症疾患関連変異遺伝子データベースであるINFEVERSにおけるPSMB8変異の登録と管理を開始した。本年度の基礎研究により、患者由来不死化リンパ球株におけるプロテアソーム機能不全の詳細な定量化、プロテアソーム成熟障害の同定、健常者由来線維芽細胞のプロテアソーム阻害によって発現が変化する炎症関連遺伝子の選別がなされ、患者末梢血単核球におけるK48ユビキチンのライソソームへの蓄積、IFNγ刺激後のSTAT1チロシンリン酸化の低下、患者血中IgE値とIgG値の相関、患者由来iPS細胞の脂肪細胞への正常分化、関節リウマチ患者由来滑膜細胞でのプロテアソーム活性の低下、PSMB8変異ノックインマウスにおける胸腺の退縮の遅延、血中IL-6とKCの高値が示されるなど、本疾患の病態解明が進むとともに,他炎症疾患でのプロテアソーム機能不全の関与が示唆された。ただ抗IL-6受容体抗体の患者への投与は、倫理委員会の承認を得たが行われなかった。
結論
我々の報告と相前後してPSMB8変異を伴う類症が世界から次々と報告され,プロテアソーム機能不全症ワールドが一気に花開いた。世界的な視野のもとで本研究が今後も発展的に継続され、この分野の研究を牽引し、病態解明と特異的治療法の開発に向けて更なる歩みを進めることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201128134B
報告書区分
総合
研究課題名
中條―西村症候群の疾患概念の確立と病態解明に基づく特異的治療法の開発
課題番号
H22-難治・一般-175
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
金澤 伸雄(和歌山県立医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 有馬 和彦(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 井田 弘明(久留米大学 医学部)
  • 吉浦 孝一郎(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
乳幼児期に凍瘡様皮疹で発症し、弛張熱や結節性紅斑様皮疹と顔面・上肢を中心とした上半身のやせと拘縮を伴う長く節くれ立った指趾を特徴とする本邦固有の遺伝性炎症・消耗性疾患である中條-西村症候群(MIM#256040, ORPHA2615)の病態解明と特異的治療法の開発を目標とする。
研究方法
症例の蓄積があり臨床疫学的アプローチを担当する和歌山県立医科大学皮膚科を中心に、長崎大学人類遺伝学が分子遺伝子学的アプローチ、長崎大学分子設計学と久留米大学呼吸器・神経・膠原病内科が細胞生物学的アプローチを担当する。
結果と考察
患者ゲノムのホモ接合部マッピングにより、免疫プロテアソームサブユニットをコードするPSMB8遺伝子に創始者効果を伴うG201Vホモ変異を同定した。患者由来不死化リンパ球株においてキモトリプシン様活性の著明な低下とトリプシン様・カスパーゼ様活性の低下を認めた。蛋白質モデリングで予測された通り、プロテアソーム複合体の成熟障害が同定された。皮疹に浸潤する単球系細胞にユビキチンの蓄積を認めた。患者血清・線維芽細胞上清ともにIL-6が高値で、リン酸化p38の核への蓄積を認めたが、NF-κBの挙動は正常であった。以上の結果をまとめ米国科学アカデミー紀要に発表し、マスコミ各紙で紹介された。自己炎症疾患関連変異遺伝子データベースのINFEVERSでのPSMB8変異の登録と管理を開始した。さらに健常者由来線維芽細胞のプロテアソーム阻害によって発現が変化する炎症関連遺伝子を選別し、患者末梢血単核球におけるK48ユビキチンのライソソームへの蓄積、IFNγ刺激後のSTAT1チロシンリン酸化の低下、患者由来iPS細胞の脂肪細胞への正常分化、関節リウマチ患者由来滑膜細胞でのプロテアソーム活性の低下、PSMB8変異ノックインマウスでの胸腺の退縮の遅延などの結果が得られた。このように本疾患の病態解明が進むとともに、他炎症疾患でのプロテアソーム機能不全の関与が示唆された。ただ患者への抗IL-6受容体抗体の投与は、倫理委員会の承認を得たが行われなかった。
結論
我々の報告と相前後して世界からPSMB8変異を伴う類症が次々に報告され、プロテアソーム機能不全症ワールドが一気に花開いた。世界的な視野のもとで本研究が今後も発展的に継続され、この分野の研究を牽引し、病態解明と特異的治療法の開発に向けて更なる歩みを進めることが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128134C

成果

専門的・学術的観点からの成果
患者ゲノムのホモ接合部マッピングにより、免疫プロテアソームβ5iサブユニットをコードするPSMB8遺伝子に創始者効果を伴うG201Vホモ変異が同定された。患者由来細胞においてプロテアソーム複合体の成熟障害と、キモトリプシン様活性の著明な低下を含むすべてのプロテアソーム活性の低下が認められた。皮疹に浸潤する単球系細胞におけるユビキチンの蓄積、患者血清・培養細胞上清におけるIL-6の高値とリン酸化p38の核への蓄積が認められ、病態形成に寄与すると考えられる。
臨床的観点からの成果
臨床診断基準案を作成し、全国の大学と大病院の関連各科を対象に疫学調査を行ったが、新規症例は発見されなかった。中條の報告以来これまでに30症例あり、現在は関西に12例生存するが、小児例は和歌山の6歳男児と奈良で新たに見出された16歳男児のみである。病態から抗IL-6受容体抗体の効果が期待され、奈良の小児例は全身型若年性関節リウマチとして投与され有効である。臨床研究として和歌山県立医科大学で1成人例に投与されたが明らかな効果、副作用とも認めなかった。
ガイドライン等の開発
本邦症例すべてについて臨床診断基準案の妥当性を検証したところ,最近の症例はすべて基準を満たすが、幼児例の早期診断はできなかった。疑い例において、基準を満たさず変異を認めた例はないが、基準を満たし変異を認めない例があり、その原因遺伝子変異を検索中である。海外から報告された類症であるJMP症候群とCANDLE症候群もこの基準を満たす。本基準案について和文誌・英文誌の総説で紹介し、難治性疾患研究事業の分担研究において引き続き診断基準と診療フローチャートの作製を行っている。
その他行政的観点からの成果
以前から存在は知られていたが、きちんとした疾患名もなく、遺伝性かどうかすら明らかでなかった本疾患に名前をつけ、原因遺伝子を同定し病態解明に迫った。いまだ有効な治療薬はなく進行性であり、成人後徐々に萎縮、関節拘縮、臓器障害が進むことから、早期診断と有効な早期介入が望まれる。そのために早期診断の可能な診断基準の策定と、病態に基づく特異的治療法の開発と速やかな導入が不可欠である。
その他のインパクト
本疾患の責任遺伝子変異の同定から病態メカニズムの解明までをまとめて米国科学アカデミー紀要に報告したことを受け、マスコミ各紙や各大学ホームページなどで報道、紹介された。また自己炎症疾患関連変異遺伝子データベースのINFEVERSでのPSMB8変異の登録と管理を行っている。特許「自己炎症疾患又は自己免疫疾患関連遺伝子及びその利用」を吉浦,井田,金澤の連名で出願し、公開された(出願2011-177269、公開2013-39065)。

発表件数

原著論文(和文)
12件
原著論文(英文等)
63件
その他論文(和文)
32件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
47件
学会発表(国際学会等)
25件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件
OrphanetとGenetics Home ReferenceのNakajo-Nishimura syndromeと関連疾患 ・遺伝子の記述内容の加筆修正を行った。

特許

特許の名称
自己炎症疾患又は自己免疫疾患関連遺伝子及びその利用
詳細情報
分類:
特許番号: 2011-177269
発明者名: 吉浦孝一郎、井田弘明、金澤伸雄
権利者名: 長崎大学、久留米大学、和歌山県立医科大学
出願年月日: 20110812
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kazuhiko Arima, Akira Kinoshita, Hiroyuki Mishima, et al.
Proteasome assembly defect due to a proteasome subunit beta type 8 (PSMB8) mutation causes the autoinflammatory disorder, Nakajo-Nishimura syndrome.
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America , 108 (36) , 14914-14919  (2011)
原著論文2
Nobuo Kanazawa
Rare hereditary autoinflammatory disorders: Towards an understanding of critical in vivo inflammatory pathways.
Journal of Dermatological Science , 66 (3) , 183-189  (2012)
原著論文3
Nobuo Kanazawa
Nakajo-Nishimura syndrome: an autoinflammatory disorder showing pernio-like rashes and progressive partial lipodystrophy.
Allergology International , 61 (2) , 197-206  (2012)
原著論文4
金澤伸雄,有馬和彦,井田弘明、他
中條ー西村症候群
日本臨床免疫学会会誌 , 34 (5) , 388-400  (2011)
原著論文5
Kayo Kunimoto, Ayako Kimura, Koji Uede, et al.
A new infant case of Nakajo-Nishimura syndrome with a genetic mutation in the immunoproteasome subunit. An overlapping entity with JMP and CANDLE syndrome related to PMSB8 mutations.
Dermatology , 227 , 26-30  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-20

収支報告書

文献番号
201128134Z