ゲノム異常症としての歌舞伎症候群原因遺伝子同定と遺伝子情報に基づく成長障害治療可能性の研究開発

文献情報

文献番号
201128127A
報告書区分
総括
研究課題名
ゲノム異常症としての歌舞伎症候群原因遺伝子同定と遺伝子情報に基づく成長障害治療可能性の研究開発
課題番号
H22-難治・一般-167
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
吉浦 孝一郎(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 木下 晃(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 新川 詔夫(北海道医療大学 学長)
  • 太田 亨(北海道医療大学 個体差健康科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
歌舞伎症候群は,平成21年には未だ原因不明であった。本研究の目的は (1) 歌舞伎症候群の原因遺伝子同定と病態生理の解明,(2) 病態生理,分子病態にもとづいた歌舞伎症候群の症状,特に出生後成長障害,女児の思春期早発の治療方針策定の基礎データを得ること,(3)全国の公立病院小児科,整形外科,精神科等へ歌舞伎症候群患者の有無や試料提供の意思等を調査し,小児科管理から離れた成人歌舞伎症候群の患者情報,変異情報を統合することを目的とした。
研究方法
新規・既収集試料に関して次世代シーケンサーを用いたampliconシーケンス解析とキャピラリー塩基配列決定による変異解析を行った。その後,遺伝子変異の詳細と臨床症状との関連を明らかにする。また,変異の見つからない症例に関しては,両親と患児を対象にexome解析をおこないMLL2遺伝子とは異なる歌舞伎症候群原因遺伝子の探索を行った。
結果と考察
合計53例の歌舞伎症候群患者の変異スクリーニングの結果,33名が変異有りと認定し,20名を変異なしとした。歌舞伎症候群内でのMLL2変異陽性率は33/53 = 62% であった。SOLiD5500のscreeningから見た変異解析について,全てキャピラリーシーケンサーによって確認作業を行い次の様な正誤の割合となった。SNV52個 -(真23個,偽29個), Ins28個 -(真1個,偽27個), Del9個 -(真2個,偽7個)。
次ぎに,全例塩基配列確認をおこなったexon39とexon48に存在した変異は12例であった。単純塩基置換が9例,insertion/deletionが3例であった。単純塩基置換が9例のうち2例はSOLiD5500のscreening workflowによって見落とされていた。insertion/deletion 3例においてはSOLiD5500を使用したworkflowでは全て見落されていた。
結論
歌舞伎症候群患者でのMLL2遺伝子の変異発見率は70?80%と考えられる。次世代シーケンサーでのampliconシーケンス法では,特に短い範囲の塩基欠失/挿入は見落としている可能性が認められた。当初目標として掲げた,phnotype-genotype corelationを明らかにし,成長障害にいたる病態解明とそれに基づく治療可能性の探求までには至らなかった
 患者情報収集・アンケート調査を行う。アンケート対象は全国公立病院の小児科,整形外科,精神科等を対象とし,全国の患者数調査を行う予定としたが,行う事が出来なかった。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

文献情報

文献番号
201128127B
報告書区分
総合
研究課題名
ゲノム異常症としての歌舞伎症候群原因遺伝子同定と遺伝子情報に基づく成長障害治療可能性の研究開発
課題番号
H22-難治・一般-167
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
吉浦 孝一郎(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 木下 晃(長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科 )
  • 新川 詔夫(北海道医療大学 学長)
  • 太田 亨(北海道医療大学 個体差健康科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
歌舞伎症候群(新川-黒木症候群)は研究分担者新川らが確立した疾患単位で,世界で400例以上の報告がある。平成21年には未だ原因不明であった。本研究の目的は (1) 歌舞伎症候群の原因遺伝子同定と病態生理の解明,(2) 病態生理,分子病態にもとづいた歌舞伎症候群の症状,特に出生後成長障害,女児の思春期早発の治療方針策定の基礎データを得ることである。
研究方法
研究期間中に,下口唇窩または下口唇中央溝をもつ典型例を収集し不死化細胞株を樹立する。加えて,すでに当教室で凍結保存している典型例・非典型例の本症患者のlymphoblastoid cell line (LCL) 細胞とあわせて解析対象とした。ゲノムアレイ検査はAffymetrix Cytogenetics Whole - Genome 2.7M Array および Human SNP Array 6.0を用いての(Affymetrix 社) を使用してコピー数変化部位を抽出するよう試みた。Exome解析は,Coding sequence (CDS)とされるエキソン領域についてカスタムアレーデザインを行い1M arrayのformatにプローブを合成し,エキソン濃縮を行い,次世代シーケンサーにて塩基配列決定をおこなった。exome解析によって同定したMLL2遺伝子について,54エキソンについて,68断片として全コード領域を増幅できるようにプライマー作成設計した。増幅確認後キャピラリーシーケンス法によってMLL2遺伝子コード領域の変異解析を行った。
結果と考察
欠失・重複は同定されなかった。Washington Universityのグループによって10名の歌舞伎症候群患者がexome解析にかけられ,患者共通にtruncation ypeの変異が存在する遺伝子を選択していくことにより,MLL2遺伝子の変異が歌舞伎症候群患者に同定できた。我々が収集した症例のキャピラリーシーケンスおよび次世代型シーケンサーにより解析した53名の結果により,MLL2の変異は,歌舞伎症候群患者の約70 % に認められMLL2のtruncation type変異すなわち機能喪失をもたらす変異が歌舞伎症の原因となっていることが明らかとなった。
結論
既収集症例および新規収集歌舞伎症例のexome解析によって,歌舞伎症候群の原因遺伝子がMLL2遺伝子であることを確定した。しかし,当初目標として掲げた成長障害にいたる病態解明とそれに基づく治療可能性の探求までには至らなかった。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128127C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで,原因が全く不明であった歌舞伎症候群の原因遺伝子が,MLL2遺伝子であることを同定した。症候群としか診断されなかった歌舞伎症候群をMML2遺伝子変異疾患と確定させることができ,患者治療の指針に有益である。
一方でMML2遺伝子異常が見つからない歌舞伎症候群の患者(全体で約20% が MLL2変異陰性とされる)の把握にもつながる。
臨床的観点からの成果
歌舞伎症候群は,特徴的な顔貌パターンから臨床症状によって診断され,確定診断に利用されうる検査法はなかった。遺伝子診断が可能となった今,遺伝子診断が可能であることを情報発信し全国的な調査による患者実数の把握,長期予後の把握が可能となった。
ガイドライン等の開発
歌舞伎症候群は,
(1) 特徴的な顔貌(~100%)
(2) 骨格系の異常(~92%)
(3) 軽度?中等度精神遅滞(~92%)
(4) 生後始まる成長障害(低伸長)(~88%)
(5) 皮膚紋理異常(~90%)
が見られる。確定した診断ガイドラインは明記されていないが,既に知られており新たに診断ガイドラインは不要であった。その他,参照されたガイドラインなし。
その他行政的観点からの成果
症候群としか診断されなかった歌舞伎症候群をMML2遺伝子変異疾患と確定させることができ,患者治療の指針に有益である。今後の治療あるいは患者支援を行っていく上で確定診断に役立てることが出来るという意味で意義深い。
 しかしこれまでの所,審議会等で参考にされたり,行政施策に活かされてはいない。
その他のインパクト
Exome解析によって同定された初めての,常染色体優性遺伝病である(学術的インパクト)。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
25件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
39件
学会発表(国際学会等)
6件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ng SB, Bigham AW, Buckingham KJ et al.
Exome sequencing identifies MLL2 mutations as a cause of Kabuki syndrome.
Nature Genetics , 42 (9) , 790-793  (2010)
原著論文2
Kurotaki N, Tasaki S, Mishima H st al.
Identification of Novel Schizophrenia Loci by Homozygosity Mapping Using DNA Microarray Analysis.
PLos One , 6 (5) , 20589-20589  (2011)
原著論文3
Hannibal MC, Buckingham KJ, Ng SB et al.
Spectrum of MLL2 (ALR) mutations in 110 cases of Kabuki syndrome.
American Journal of Medical Genetics PartA. , 155 (7) , 1511-1516  (2011)
原著論文4
Mishima H, Sasaki K, Tanaka M et al.
Agile parallel bioinformatics workflow management using Pwrake.
BMC Research Notes , 4 (1) , 331-  (2011)
原著論文5
Ono S, Yoshiura K, Kurotaki N et al.
Mutation and Copy Number Analysis in Paroxysmal Kinesigenic Dyskinesia Families.
Movement disorders , 26 (4) , 762-764  (2011)
原著論文6
Yamasaki K, Miura K, Shimada T et al.
Epidemiology of human papillomavirus genotypes in pregnant Japanese women.
Journal of Human Genetics , 56 (4) , 313-315  (2011)
原著論文7
Sasaki K, Okamoto N, Kosaki K et al.
Maternal uniparental isodisomy and heterodisomy on chromosome 6 encompassing a CUL7 gene mutation causing 3M syndrome.
Clinical Genetics , 80 , 478-483  (2011)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201128127Z