エマヌエル症候群の疾患頻度とその自然歴の実態調査

文献情報

文献番号
201128126A
報告書区分
総括
研究課題名
エマヌエル症候群の疾患頻度とその自然歴の実態調査
課題番号
H22-難治・一般-166
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
倉橋 浩樹(藤田保健衛生大学 総合医科学研究所・分子遺伝学研究部門)
研究分担者(所属機関)
  • 柳原 格(大阪府立母子保健総合医療センター・研究所・免疫部門)
  • 菅井 裕行(国立大学法人宮城教育大学・特別支援教育講座)
  • 大橋 博文(埼玉県立小児医療センター・遺伝科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エマヌエル症候群は特異顔貌、口蓋裂、小下顎、心奇形、発達遅延などを特徴とする先天異常症候群である。多くは、t(11;22)均衡転座保因者の親から受け継いだ染色体の不均衡により発生する。これまでは、染色体検査の核型の所見から、過剰22番派生染色体症候群、11/22混合トリソミー、部分トリソミー11/22、11/22不均衡転座などと種々の名称で呼ばれてきたため、疾患認識が低かった。近年、エマヌエル症候群と命名されたが、なじみやすい疾患名のついたことの波及効果は計り知れない。患者やその家族は、インターネットなどで疾患の検索がしやすくなり、容易に情報が得られるようになった。また、医療従事者にとってもひとつの疾患アイデンティテイーができたことで、大規模な疫学調査が可能となり、新しい疾患の特徴などがわかるよい機会を得た。本研究では、エマヌエル症候群の自然歴と発生頻度の実態を調査し、患者家族や医療従事者に情報提供することを目的とする。
研究方法
(1)疾患の認知度の拡大をはかる事業、(2)疾患の自然歴と発生頻度の調査研究、(3)疾患の発生頻度の理論値の算出の基礎研究、をおこなった。認知度の拡大のためには、研究代表者の運営するウェブサイトの充実化、海外の症例報告の日本語訳の公開、総説の出版などをおこなった。疾患の自然歴と発生頻度の調査では、アンケート調査をおこなった。発生頻度の理論値は、健常男性精子でのt(11;22)新生転座の発生頻度に、転座保因者の不妊・流産頻度などの疫学データを加味して算出した。これらは、学内倫理審査委員会の承認を得た上でおこなった。
結果と考察
1次アンケートの結果、35名のエマヌエル症候群の患者と、38名のt(11;22)均衡転座保因者の存在が確認された。患者の男女比はほぼ同数で、最高齢は31才の男性であった。心疾患は88%に、口蓋裂は76%、けいれんが65%にみられ、易感染性は18%と予想外に頻度が低かった。聴力障害に関わる耳の疾患が予想外に高頻度にみられた(76%)。成人例でも発語は少なかったが、コミュニケーションはとれ、介助により歩行可能であった。t(11;22)転座保因者に関しては、13例(76%)が少なくとも1回の流産を経験していたが、3回以上の流産を繰り返した例は2例(12%)のみであった。乳癌を発症した保因者はいなかった。
結論
アンケート調査により、とくに成人例の自然歴を把握することができ、患者家族や医療従事者に有用な情報を提供することができた。

公開日・更新日

公開日
2013-03-12
更新日
-

文献情報

文献番号
201128126B
報告書区分
総合
研究課題名
エマヌエル症候群の疾患頻度とその自然歴の実態調査
課題番号
H22-難治・一般-166
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
倉橋 浩樹(藤田保健衛生大学 総合医科学研究所・分子遺伝学研究部門)
研究分担者(所属機関)
  • 柳原 格(大阪府立母子保健総合医療センター・研究所・免疫部門)
  • 菅井 裕行(国立大学法人宮城教育大学・特別支援教育講座)
  • 大橋 博文(埼玉県立小児医療センター・遺伝科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
エマヌエル症候群は特異顔貌、口蓋裂、小下顎、心奇形、発達遅延などを特徴とする先天異常症候群である。多くは、t(11;22)均衡転座保因者の親から受け継いだ染色体の不均衡により発生する。これまでは、染色体検査の核型の所見からの名称で呼ばれてきたため、疾患認識が低かった。近年、エマヌエル症候群と命名されたが、なじみやすい疾患名のついたことの波及効果は計り知れない。患者やその家族は、インターネットなどで疾患の検索がしやすくなり、容易に情報が得られるようになった。また、医療従事者にとってもひとつの疾患アイデンティテイーができたことで、大規模な疫学調査のよい機会を得た。本研究では、エマヌエル症候群の自然歴と発生頻度の実態を調査し、患者家族や医療従事者に情報提供することを目的とする。
研究方法
(1)疾患の認知度の拡大をはかる事業、(2)疾患の自然歴と発生頻度の調査研究、(3)疾患の発生頻度の理論値の算出の基礎研究、をおこなった。認知度の拡大のためには、研究代表者の運営するウェブサイトの充実化、海外の症例報告の日本語訳の公開、総説の出版などをおこなった。疾患の自然歴と発生頻度の調査では、アンケート調査をおこなった。発生頻度の理論値は、健常男性精子でのt(11;22)新生転座の発生頻度に、転座保因者の不妊・流産頻度などの疫学データを加味して算出した。これらは、学内倫理審査委員会の承認を得た上でおこなった。
結果と考察
1次アンケートの結果、35名のエマヌエル症候群の患者と、38名のt(11;22)均衡転座保因者の存在が確認された。患者の男女比はほぼ同数で、最高齢は31才の男性であった。心疾患は88%に、口蓋裂は76%、けいれんが65%にみられ、易感染性は18%と予想外に頻度が低かった。聴力障害に関わる耳の疾患が予想外に高頻度にみられた(76%)。成人例でも発語は少なかったが、コミュニケーションはとれ、介助により歩行可能であった。t(11;22)転座保因者に関しては、13例(76%)が少なくとも1回の流産を経験していたが、3回以上の流産を繰り返した例は2例(12%)のみであった。乳癌を発症した保因者はいなかった。精子における新生転座の発生頻度に基づく患者数の理論値は743人であった。
結論
アンケート調査により、とくに成人例の自然歴を把握することができ、患者家族や医療従事者に有用な情報を提供することができた。患者数の実測値は理論値よりはるかに低く、認知度をあげる啓蒙活動の継続が患者のQOLの向上に貢献すると思われた。

公開日・更新日

公開日
2013-03-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128126C

成果

専門的・学術的観点からの成果
エマヌエル症候群の頻度の理論値を計算した。1分子検出感度のt(11;22)転座特異的PCRを用いて、精子での新生転座の発生頻度を算出した。エマヌエル症候群患児の転座染色体由来親のバイアスから転座保因者男性の不妊頻度を計算し、転座保因者からの転座保因者の出生率を計算し、日本の転座保因者数を概算した。また、男女別転座保因者のエマヌエル症候群患児の出産率から日本のエマヌエル症候群の患者数を概算した。日本には理論値として、12184人の転座保因者、743人のエマヌエル症候群患者が存在すると推定された。
臨床的観点からの成果
疾患頻度に関するアンケート調査をおこなった。全国に合計735通の第1次アンケートを投函し、454通の返事をいただいた。その内訳は、t(11;22)転座保因者が35名、エマヌエル症候群の患者が38名おられることがわかった。また、詳細な実態調査のために第2次アンケートを送付し、17名から返事をいただいた。患者数の男女比はほぼ同数で、最高齢の31才の男性を含め、成人例の情報が多く得られたことで、医療従事者や患者の家族にとって極めて貴重な情報源となった。
ガイドライン等の開発
アンケート調査によりエマヌエル症候群の患者17名の自然歴を解析できた。症状では、先天性心疾患は15例(88%)に、口蓋裂は13例(76%)に見られ高頻度であった。腎奇形は4例(24%)、鎖肛は3例(18%)と頻度が低かった。これまであまり知られていなかった症状としては耳の疾患が13例(76%)と高頻度に見られた。また、けいれんは10例(59%)と高頻度で、予防内服を続けている症例が多かった。易感染性は予後に影響するが、4例(24%)と頻度が低かった。ガイドライン作成に向けて、解析を続けている。
その他行政的観点からの成果
難病医療法に基づき、2015年の夏から医療費が助成される「指定難病」の第2次実施分に、エマヌエル症候群が承認された。また、エマヌエル症候群の遺伝学的検査が2016年に保険収載された。患者会の設立に向けて、北米の患者会を運営されているセントピエール氏と患者代表とが連絡をとれるようにセットアップし、患者とその家族のQOLの向上へ向けての動きが活発化し、患者とその家族に将来の展望を与えることができた。
その他のインパクト
研究代表者が運営している、患者とその家族向けにエマヌエル症候群とt(11;22)の情報を発信しているウェブサイトのアップデートを随時おこなっている。このサイトと、同じく研究代表者が翻訳を担当した医療従事者向け情報サイトGeneReviewのエマヌエル症候群のページは、エマヌエル症候群というキーワードで検索すると上位にリストアップされてくる。また、患者さんやその家族のかたが公開しておられるブログがいくつかあるが、そこで本事業や研究代表者のウェブサイトが紹介されている。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
5件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
17件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ohye T, Inagaki H, Kogo H, et al.
Paternal origin of the de novo constitutional t(11;22)(q23;q11).
Eur J Hum Genet , 18 (7) , 783-787  (2010)
10.1038/ejhg.2010.20
原著論文2
Tong M, Kato T, Yamada K, et al.
Polymorphisms of the 22q11.2 breakpoint region influence the frequency of de novo constitutional t(11;22)s in sperm.
Hum Mol Genet , 19 (13) , 2630-2637  (2010)
10.1093/hmg/ddq150
原著論文3
Kurahashi H, Inagaki H, Kogo H, et al.
The constitutional t(11;22): implications for a novel mechanism responsible for gross chromosomal rearrangement.
Clin Genet , 78 (4) , 299-309  (2010)
10.1111/j.1399-0004.2010.01445.x
原著論文4
Kato T, Inagaki H, Tong M, et al.
DNA secondary structure is influenced by genetic variation and alters susceptibility to de novo translocation.
Mol Cytoenet , 4 (18)  (2011)
10.1186/1755-8166-4-18
原著論文5
大江瑞恵、倉橋浩樹
エマヌエル症候群の臨床像と遺伝
小児科 , 51 (4) , 443-450  (2010)
原著論文6
大江瑞恵、Livija Medne、Beverly S. Emanuel、他
絨毛検査で偶然見つかり切断点の解析を必要とした胎児t(11;22)新生転座
日本遺伝カウンセリング学会誌 , 31 (3) , 169-173  (2010)
原著論文7
Inagaki H, Ohye T, Kogo H etal.
Two sequential cleavage reactions on cruciform DNA structures cause palindrome -mediated chromosomal translocations.
Nat Commun , 4 , 1592-  (2013)
10.1038/ncomms2595
原著論文8
Ohye T, Inagaki H, Kato T, Tsutsumi M, Kurahashi H.
Prevalence of Emanuel syndrome: theoretical frequency and surveillance result.
Pediatr Int , 56 (4) , 462-466  (2014)
10.1111/ped.12437

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201128126Z