特定疾患に関するリサーチ・リソース・バンク研究班

文献情報

文献番号
199700998A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患に関するリサーチ・リソース・バンク研究班
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小早川 隆敏(東京女子医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 橋本雄之(国立感染症研究所)
  • 吉川泰弘(東京大学)
  • 宮村達男(国立感染症研究所)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 横断的基盤研究グループ 政策的研究部門
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年のめざましい科学技術の発展に伴い、特定疾患に対する研究においても先端的技術を応用した新たなアプローチがなされている。即ち、疾患・病態の遺伝子レベルでの解析、遺伝子組換え技術や細胞融合法の応用による新しい医薬品の開発、更には遺伝子治療の導入などによって、従来は不治とされてきた疾病に対する画期的な治療法さえも可能となった。これら先導的科学技術を駆使しての疾病研究は、従来の医学研究と異なり、学際的な資料・資材・技術を投入しての先端的な生物学的研究が実施されることとなった。一方で先端的テクノロジーの更なる発展には、具体的な疾病研究を通じての絶えまざる問題提起が必須である。そのために本研究においては、先ずそれら生物系特有の研究用資材・資源の開発・保存・供給機能の実態の明確化、及び更なる資材・資源の開発促進のための整備強化方策の研究を行なうと同時に、応用研究現場からのテクノロジー開発への要請との橋わたしを行なう。
本研究に於いては、二年目の研究目標を一年目の研究に於いて特定された特定疾患の研究遂行に当り不可欠な資材・資源の現有状況、その所在、及びその保存・供給状況を調査、更に現在及び将来に期待されるテクノロジーの新たな要請を具体的に調べることとした。
研究方法
結果と考察
結果と考察及びこれに従い橋本班員は、初年度の研究に於いて特定された、国内外での疾病研究に必要な細胞遺伝子資材の開発保存状況をインターネット等を利用して調べ、更に、米国ATCC、厚生省細胞・遺伝子バンク等の活動状況をそれらに対するヒアリング等により調査した。それらの調査結果を以下に述べる。
遺伝子資材の開発、保存状況をヒト遺伝子についてみると、cDNAクローンに関する国際的なデータベースdbEST、UniGeneによれば約60万個のESTが登録され、約4万個に分類され、うち、2万近くはマッピングされている。DNAクローンのバンキングに関していえば米国ATCCにおいて、染色体特異的DNAライブラリーとそれらから分離したコスミドクローンについてローレンス・リバモア、ロスアラモス国立研究所と共同して、その保存と品質管理を行っている。米国コーリエル医学研究所(CIMR)においては、ヒト染色体を1本づつ持つ雑種細胞からDNAを調整し、DNAサンプルを販売し、その品質管理は、蛍光インサイツハイブリダイゼーション法で行っている。ESTクローンについてはC.Venterの開発したものをATCCで、ワシントン大で開発したものをMerck社が取り扱うなど供給体制が確立している。さらに、TIGR社をはじめ、完全長cDNAを開発してATCCが販売するなど機能解析に用いる動きがでている。また、米国NOBIでは他の研究所と協力して、10万以上に及ぶESTシークエンスを解析し、約2万にグループ分けして、それらを染色体上にマッピングした結果をUniGeneというデータベース名で公開している。イギリスではUK Resource Centreが稼働している。フランスにおいてはOEPHやGenethonなど民間機関がYACによる遺伝子地図作りを行い順調に進捗している。日本では厚生省遺伝子バンクにおいて胎児肺由来cDNA断片の既知クローン多数の寄託を受け、その内、435個は増幅・保管してリストアップした。また、成人心臓由来のEST約2,500クローンを収集・保管した。うち完全長となるcDNA約300を選別した。さらに、ヒト小腸粘膜からオリゴキャップ法によりcDNAライブラリーを作製し、完全長クローン約800を選別した。このように国際的に疾病遺伝子の機能解析に有用なcDNAクローン多数が分離されてきているが、日本でも完全長cDNAクローンを中心に研究者が必要に応じて、それらを利用できる体制を整える必要がある。
細胞資材については本年度は特に、正常ヒト2倍体細胞をはじめ、初代培養細胞について調べた。
ヒト初代培養細胞については国際的にも枯渇が問題となっており、細胞内での遺伝子発現を調べることによって機能解析を行うことの出来るヒト初代培養細胞を確保するために、繊維芽だけでなく、上皮細胞などの開発する体制、さらにそれらを保存・供給する体制を整備する必要がある。
吉川班員は厚生省特定疾患動物モデル班の報告、各種学会の抄録等をもとに、特定疾患に関連する動物モデルの研究の現状について調査した。また実験動物協会や実験動物業者組織について疾患動物やミュータント動物の供給の現状について調査を行った。更にバンクへの保存のための胚操作技術の現状についても調査を行った。調査の結果を以下に述べる。
ヒトの特定疾患に対するモデル動物としては、平成7年度の難病の疾患モデル調査研究班では、主として免疫異常動物(MRL/1pr)や神経異常ミュータント(IP3レセプター欠損)マウス、トランスジェニック動物の開発が行われている。またバイオメディカルリサーチマニュアルの疾患モデル動物では、原発性免疫不全症、家族性アミロイドニューロパチー、前庭機能異常動物が紹介されている。モデル動物の作成と新薬開発のための試験実験法には運動失調症のマウス、ラット、水頭症モデル、進行性腎障害モデル、原発性高脂血症、血液凝固異常症、造血障害モデルが記載されている。またCJDではプリオンのノックアウトマウスやヒト型プリオン遺伝子導入マウスなどが作成されている。以上の如く37特定疾患のうち約1/3については、適切なモデルが開発されていると考えられる。尚、これらの動物の胚の保存や安定供給に関する文献は見られない。
宮村班員はインターネット等を利用して、国内外のウイルスベクター及び発現の為のプロモーターの開発状況を調べ、汎用性、その更なる応用について検討すると共に、問題点や課題を明らかにし、新たな効率のよいベクター系を開発した。以下にその開発研究結果を記す。
即ちバキュロウイルスを用いて、目的とする外来遺伝子を哺乳動物細胞で発現させるために、トランスファーベクターの多角体プロモーターをCAGプロモーターに変更した組み替えバキュロウイルスを作製した。CAGプロモーター下にluciferase遺伝子、あるいはβ-galactosidase遺伝子をレポーター遺伝子として組み込み、種々の哺乳動物細胞に感染させ、luciferase活性またはβ-galactosidase活性を測定し、宿主域を検討した。次に、CAGプロモーター下にβ-galactosidase遺伝子を組み込んだ非増殖型アデノウイルスを用い、種々の細胞で発現効率を比較検討した。その結果、CAGバキュロウイルスはヒト肝細胞系、サル腎臓系、ブタ腎臓系細胞など多くの細胞系で遺伝子発現が可能であることが確認された。特にHepG2細胞、FS-L3細胞、CPK12細胞で高い発現を認めた。非増殖型アデノウイルスと比較したところ、HepG2細胞では同等以上の高い発現効率が得られた。また感染価を高くしても、感染細胞への細胞障害性は認められなかった。CAGバキュロウイルス発現系は、哺乳動物細胞への遺伝子導入の手段として有用であると考えられた。
次に、C型肝炎ウイルス(HCV)複製機構を解析する系の開発をめざして、T7プロモーターの下流に挿入した完全長のHCV遺伝子からORFを取り除き、代わりにレポーター遺伝子を組み込んだミニジーンプラスミドを構築し、HCVのミニジーンRNAの合成及び、リポーター遺伝子としてのluciferase活性を種々の細胞で検討した。調べた細胞のなかで、ヒト肝細胞由来のJH細胞において最も高い活性が得られた。この肝細胞のなかでHCVの転写、蛋白発現が効率よくおこっていると考えられ、培養細胞で効率よく増殖する系を持たないHCVの研究に役だつ簡便な系が確立された。
結論

公開日・更新日

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研究報告書(紙媒体)