ロイス・ディーツ症候群の診断・治療のガイドライン作成および新規治療法の開発に向けた臨床所見の収集と治療成績の検討

文献情報

文献番号
201128115A
報告書区分
総括
研究課題名
ロイス・ディーツ症候群の診断・治療のガイドライン作成および新規治療法の開発に向けた臨床所見の収集と治療成績の検討
課題番号
H22-難治・一般-155
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
森崎 裕子(独立行政法人国立循環器病研究センター 研究所 分子生物学部)
研究分担者(所属機関)
  • 森崎 隆幸(独立行政法人国立循環器病研究センター 研究所 分子生物学部 )
  • 圷 宏一(日本医科大学)
  • 平田 恭信(東京大学 循環器内科)
  • 古庄 知己(信州大学 小児科学)
  • 水野 誠司(愛知県心身障害者コロニー 小児科学)
  • 東 将浩(独立行政法人国立循環器病研究センター 放射線医学)
  • 河野 淳(神戸大学 放射線医学)
  • 渡邉 航太(慶應義塾大学 先進脊椎脊髄病治療学)
  • 伊庭  裕(独立行政法人国立循環器病研究センター 心臓血管外科学)
  • 白石 公(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児循環器科学)
  • 小崎 健次郎(慶應義塾大学 小児科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ロイス・ディーツ症候群(LDS)はTGF-β受容体(TGFBR1 / TGFBR2)の遺伝子変異による常染色体優性遺伝性結合織疾患として近年提唱された疾患で、血管病変を主に様々な全身症状を伴う。マルファン症候群(MFS)との異同がしばしば問題になるが、大動脈病変の進行がMFSより早いとされ、治療管理の上からもMFSとLDSとを区別すべきである。本研究の目的は、遺伝子診断で確定したLDS症例を抽出しLDSとその他のマルファン症候群(MFS)等類縁の結合織疾患の臨床像を、臨床所見、自然歴、治療効果を含めて集積し、本疾患に特徴的な所見を検索し、有効な治療法を探索することを目的とした。
研究方法
昨年度までに国循にて遺伝子診断を行った38例に、今年度に新たにLDSと診断された13例、関連協力機関で解析された15例を加えた計66例のうち、詳細な臨床所見の得られた64例を対象に、共通臨床情報シートとカルテ記載事項等を元に臨床像を検討した。
結果と考察
1)LDSの三徴と報告された「眼間解離・二分口蓋垂・血管蛇行」は、それぞれ、検討した症例の約65-80%に認め、MFSでは比較的稀であることから、診断上重要な所見であるが、これらをいずれも伴わない症例も2例認めた。また、MFSと比較して、皮膚線条、水晶体亜脱臼の合併が稀であることが明らかとなった。さらに、血管外病変に乏しく家族性大動脈瘤あるいは若年性大動脈瘤と診断されている症例を認めた。
2)以上より、「眼間解離・二分口蓋垂・血管蛇行」「皮膚線条、水晶体亜脱臼を認めない」、「骨格系など血管外病変に乏しい」家族性大動脈瘤あるいは若年性大動脈瘤にはLDSの診断を考慮して遺伝子解析を行うべきと考えられる。
3)LDS患者に対する内科的治療は、β遮断薬あるいはロサルタンが投与されている症例が多く、大動脈拡張の抑制を認めた症例もあるが、まだ、統計的な治療効果の判定は困難である。LDSによる大動脈拡張についての手術成績は、早期、遠隔期とも満足すべきものであり、積極的な治療介入が望ましいと考えられる。
結論
LDSとMFSとは、一部の臨床所見はオーバーラップするが、臨床所見や臨床経過はやはり区別する必要のある異なる疾患概念である。LDSはMFSに比べて一般的に血管系病変の進行が早く、小児期に外科的介入が必要な例も少なくない。一方、LDSは、適切な疾患管理により大動脈解離等の重篤な合併症を予防することが可能であることが明かとなり、QOLと予後の改善のためには早期診断と適切な介入が必須であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201128115B
報告書区分
総合
研究課題名
ロイス・ディーツ症候群の診断・治療のガイドライン作成および新規治療法の開発に向けた臨床所見の収集と治療成績の検討
課題番号
H22-難治・一般-155
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
森崎 裕子(独立行政法人国立循環器病研究センター 研究所 分子生物学部)
研究分担者(所属機関)
  • 森崎 隆幸(独立行政法人国立循環器病研究センター 研究所 分子生物学部 )
  • 荻野 均(独立行政法人国立循環器病研究センター 心臓血管外科学)
  • 圷 宏一(日本医科大学)
  • 平田 恭信(東京大学 医学部)
  • 古庄 知己(信州大学 医学部)
  • 水野 誠司(愛知県心身障害者コロニー)
  • 東 将浩(独立行政法人国立循環器病研究センター 放射線医学)
  • 河野 淳(神戸大学 医学部)
  • 渡邉 航太(慶應義塾大学 医学部)
  • 伊庭  裕(独立行政法人国立循環器病研究センター 心臓血管外科学)
  • 白石 公(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児循環器科学)
  • 小崎 健次郎(慶應義塾大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ロイス・ディーツ症候群(LDS)はTGF-β受容体(TGFBR1 / TGFBR2)の遺伝子変異による常染色体優性遺伝性結合織疾患として近年提唱された稀な疾患で、血管病変を主に様々な全身症状を伴う。マルファン症候群(MFS)との異同がしばしば問題になるが、大動脈病変の進行がMFSより早いとされ、治療管理の上からも両疾患を区別すべきである。本研究の目的は、遺伝子診断で確定したLDS症例を抽出し、臨床所見、自然歴、治療効果情報を含めて集積し、診断上の特徴的所見および有効な治療法を探索することを目的とした。
研究方法
本研究開始までに国循にて遺伝子診断を行った27例に、研究期間中に新たにLDSと診断した24例、関連協力機関で解析された15例を加えた計66例のうち、詳細な情報の得られた64例を対象に、共通臨床情報シートとカルテ記載事項等を元に臨床像を検討し、本疾患に特徴的な所見を探索し、現在の治療内容についても検討した。
結果と考察
1)LDSの三徴と報告された「眼間解離・二分口蓋垂・血管蛇行」は、それぞれ、検討した症例の約65-80%に認めたが、これらのいずれも伴わない症例も2例認めた。また、MFSと比較して、皮膚線条、水晶体亜脱臼の合併は稀であった。さらに、血管外病変がほとんどない家族性大動脈瘤あるいは若年性大動脈瘤と診断されている症例でもTGFBR遺伝子変異が見いだされた。
2)以上より、「眼間解離・二分口蓋垂・血管蛇行」「皮膚線条、水晶体亜脱臼を認めない」、「骨格系など血管外病変に乏しい」家族性大動脈瘤あるいは若年性大動脈瘤にはLDSの診断を考慮して遺伝子解析を行うべきと考えられる。
3)LDS患者に対する内科的治療は、β遮断薬あるいはARBが投与されている症例が多く、大動脈拡張の抑制を認めた症例もあるが、まだ、統計的な治療効果の判定は困難である。LDSによる大動脈拡張についての直達手術の成績は、早期、遠隔期とも満足すべきものであり、積極的な治療介入は好ましいと考えられた。
結論
LDSとMFSとは、臨床所見にはオーバーラップする部分もあるも、臨床経過は大きく異なり、患者管理のためにも両疾患を鑑別する必要があるが、臨床所見のみからの鑑別診断はむずかしく、確定には遺伝子診断が必要である。LDSはMFSに比べて一般的に血管系病変の進行が早く、小児期に外科的介入を要する例も少なくない。一方、LDSは、適切な疾患管理により大動脈解離等の重篤な合併症を予防することが可能であることが明らかとなり、QOLと予後の改善のためには早期診断と適切な介入が必須であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128115C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Loeys-Dietz症候群(LDS)および鑑別が必要なMFS、EDS等のマルファン症候群類縁疾患疑い症例、家族性および若年性大動脈瘤・解離症例について遺伝子解析を行い、研究期間内に新たに24症例をLDSと診断した。また、国内他施設のこれまでの報告例や関連協力機関での診断例を併せ国内で診断された78症例のうち64例について、詳しい臨床所見を検討し、MFS他の類縁疾患との比較検討を行った。対外的には、海外の研究者・患者との意見交流、国内では他の研究班との合同会議を行った。
臨床的観点からの成果
LDSは大小動脈系の血管病変と特徴的な全身症状を呈する疾患であるが、症例報告数が少なく、臨床症状・自然歴・治療など疾患の全体像は明らかではない。今年度も引き続き関連学会等にて診断と治療の現状など疾患を紹介し、疾患認知度を高めることができた。また、遺伝子解析により診断された症例の臨床像の把握をおこなって、LDSを疑うべき所見を抽出し遺伝子解析による診断鑑別を必要とする症例の臨床像、自然歴を明らかにし、有効な治療法の検討に資するデータを蓄積することができた。
ガイドライン等の開発
LDSの臨床像は非常に広く、検討症例を増やして検討したが、遺伝子解析を行わずに類縁疾患と鑑別することは困難であることがわかり、本疾患は遺伝子解析による診断は必須であると考えられた。従って、LDSを疑い鑑別のために遺伝子検査を行うべき所見を集積し、遺伝子解析による診断鑑別を必要とする症例の特徴を見いだしたが、遺伝子検査の必要性についてさらに周知を図る必要がある。
その他行政的観点からの成果
LDSは、比較的若年でも大動脈解離など重篤な合併症を生じうるが、早期の診断、適切な疾患管理により大動脈解離等の重篤な合併症を予防することが可能であることが明らかになりつつある。今後とも早期診断と適切な介入により、患者のQOLと予後の改善が期待される。本研究期間中、診断のための遺伝子解析を依頼数は増加していることから、LDSなど類縁疾患について遺伝子解析による診断の必要性の班員を中心に認識されつつあると判断され、今後、さらなる本疾患患者の適切な管理が期待される。
その他のインパクト
他の遺伝性結合織病の研究班代表者とともに、東京および大阪にて、患者及び医療関係者を対象とした市民公開セミナー「遺伝性結合織病市民公開セミナー in 東京」、「遺伝性結合織病市民公開セミナー in 大阪」を開催した。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
24件
その他論文(和文)
13件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
24件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
2件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Muramatsu Y, Kosho T,Magota M et al
Progressive aortic root and pulmonary artery aneurysms in a neonate with Loeys-Dietz syndrome type 1B.
Am J Med Genet A , 152 (2) , 417-421  (2010)
原著論文2
Kono A, Higashi M, Morisaki H et al
High prevalence of vertebral artery tortuosity of Loeys-Dietz syndrome in comparison with Marfan syndrome
Jpn J Radiol , 28 (4) , 273-277  (2010)
原著論文3
Akutsu K, Morisaki H, Okajima T et al
Genetic Analysis of Young Adult Patients with Aortic Disease Not Fulfilling the Diagnostic Criteria for Marfan Syndrome.
Circ J , 74 (5) , 990-997  (2010)
原著論文4
Tanaka H, Ogino H, Matsuda H et al
Midterm outcome of valve-sparing aortic root replacement in inherited connective tissue disorders
Ann Thorac Surg , 92 (5) , 1646-1650  (2011)
原著論文5
Kawazu Y, Inamura N, Kayatani F et al
Prenatal complex congenital heart disease with Loeys-Dietz syndrome
Cardiol Young , 21 , 1-4  (2011)
原著論文6
Iwasa T, Ban Y, Doi H et al
Neonatal Marfan Syndrome and Review of 12 Cases in Japan
Pediatric Cardiology and Cardiac Surgery , 27 , 262-269  (2011)
原著論文7
Morisaki H, Yamanaka I, Iwai N et al
CDH13 gene coding T-cadherin influences variations in plasma adiponectin levels in Japanese population.
Hum Mutat , 33 (2) , 402-410  (2011)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2015-06-30

収支報告書

文献番号
201128115Z