日本におけるリンパ管腫患者(特に重症患者の長期経過)の実態調査及び治療指針の作成

文献情報

文献番号
201128110A
報告書区分
総括
研究課題名
日本におけるリンパ管腫患者(特に重症患者の長期経過)の実態調査及び治療指針の作成
課題番号
H22-難治・一般-150
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
藤野 明浩(独立行政法人 国立成育医療研究センター 外科系専門診療部 外科)
研究分担者(所属機関)
  • 森川 康英(慶應義塾大学 医学部 小児外科)
  • 上野 滋(東海大学 医学部 小児外科)
  • 岩中 督(東京大学 医学部 小児外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 「リンパ管腫」は主に小児期に発生するリンパ管を発生母体とした原因不明の腫瘤性疾患である。当疾患は比較的稀であり、一般には十分な認知がされていない。多くは治療にて改善するが、一方で現時点では有効な治療法のない重症・難治性症例が存在し当疾患における大きな問題となっている。当研究では我が国におけるリンパ管腫の実態を明らかにし、特に重症・難治性リンパ管腫の診断とその治療へ向けた基礎研究を目的とした。
研究方法
 研究施設における倫理審査を経て研究を開始。
 小児外科施設へのアンケートによる症例登録調査、Web登録における症例調査にて当疾患の病態、診断、治療、予後、また重症度、難治性度に関する調査を行った。それら各々の項目と重症度・難治性度の関連につき統計的解析を行い、診断基準案を設けた。また、リンパ管シンチグラフィを用いたリンパ流の検討、リンパ管腫由来細胞を用いた基礎研究を行った。
結果と考察
 リンパ管腫患者の治療・予後・QOL等の実態を把握するための予備調査に基づいて、難治性度寄与因子を列挙し、実施した全国調査を統計処理した結果により「リンパ管腫の重症・難治性度診断基準」案が作成された。登録者の診断の反映は感度80%、特異度90%の精度であった。今後感度を上げるよう検討の後、再度Web調査にて妥当性の検証を行ったのちに提言として報告予定である。
 「リンパ管腫内リンパ流の研究」にて、リンパ管腫の嚢胞内外に局所投与された薬剤は正常組織より長い時間局所に留まることや、リンパ管腫は正常なリンパ管ネットワークとの交通が乏しく、やはり局所に発生した腫瘍的な性質を示すことが示唆された。
 基礎研究においては、リンパ管腫由来リンパ管内皮細胞(HL-LEC)の培養に成功し、その生物学的特性が徐々に明らかにされつつある。特にHL-LECと正常LECはリンパ嚢胞の形成の有無や遺伝子発現において明らかな差異を呈しており、HL-LECを研究することが、疾患の病態理解や治療法開発において近道であることが示唆された。
 リンパ管腫に関する情報を集積し提示し、一般・医療者の認知・理解の向上を目指すためのウェブサイト「リンパ管腫情報ステーション」を開設し、情報を提供するとともにWeb調査の窓口として利用した。
結論
今後のリンパ管腫の診療、研究において重要な基礎的結果を重ねることが出来た。今後のまとめとさらなる発展が期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-03-01
更新日
-

文献情報

文献番号
201128110B
報告書区分
総合
研究課題名
日本におけるリンパ管腫患者(特に重症患者の長期経過)の実態調査及び治療指針の作成
課題番号
H22-難治・一般-150
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
藤野 明浩(独立行政法人 国立成育医療研究センター 外科系専門診療部 外科)
研究分担者(所属機関)
  • 森川 康英(慶應義塾大学医学部小児外科)
  • 上野 滋(東海大学医学部小児外科)
  • 岩中 督(東京大学医学部小児外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 「リンパ管腫」は主に小児期にリンパ管より発生する原因不明の腫瘤性疾患である。当疾患は比較的稀であり、一般には知られていない。有効な治療法のない重症・難治性症例が存在し大きな問題となっている。当研究では我が国におけるリンパ管腫の実態を明らかにし、特に重症・難治性リンパ管腫の診断とその治療へ向けた基礎研究を目的とした。
研究方法
 研究施設における倫理審査を経て研究を開始。
 小児外科施設へのアンケートによる症例登録調査、Web登録における症例調査にて当疾患の病態、診断、治療、予後、また重症度、難治性度に関する調査を行った。それら各々の項目と重症度・難治性度の関連につき統計的解析を行い、診断基準案を設けた。また、リンパ管シンチグラフィを用いたリンパ流の検討、リンパ管腫由来細胞を用いた基礎研究を行った。
結果と考察
 リンパ管腫患者の治療・予後・QOL等の実態を把握するための予備調査にて610例の詳細な臨床データを得た。難治性度寄与因子を抽出し「リンパ管腫の重症・難治性度診断基準」案の作成を目的に全国Web調査を行なった。1300例越の登録症例の統計処理により寄与因子を点数化し難治性を合計値とした。これにより難治性診断基準を設定すると、感度80%、特異度90%で登録者の診断が反映された。ただ感度を上げる必要性があると考えられ、今後Web調査にて妥当性の検証を行ったのちに最終報告する。
 「リンパ管腫内リンパ流の研究」により、腫瘍内リンパ液の貯留性や、リンパ管腫は正常なリンパ管ネットワークとの交通が乏しいことが示唆された。
 基礎研究においては、リンパ管腫由来リンパ管内皮細胞(HL-LEC)の培養に成功したが、正常LECとはリンパ嚢胞の形成の有無や遺伝子発現において明らかな差異を呈しており、HL-LECの研究が、疾患の病態理解や治療法開発に直結することが示唆された。
 リンパ管腫に関する情報を集積し提示し、一般・医療者の認知・理解の向上を目指すためのウェブサイト「リンパ管腫情報ステーション」を開設し、疾患に関する情報を提供するとともに登録調査の窓口として利用した。これからも有効利用が期待される。
結論
 リンパ管腫は難治性疾患としての一般の認識が殆ど無い疾患であるが、当研究の結果、重症・難治性について明確に示すことが可能なった。完成には今一歩届いていないが、今後のリンパ管腫の診療・研究への重要な基礎的結果を得られたため、まとめとさらなる発展が期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-03-01
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128110C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 リンパ管腫の臨床像・診断治療の実態について世界的にも類をみない多数の症例についての調査を行った。調査範囲は日本小児外科学会に属する全国の小児外科施設であり、効率よく症例情報の収集が可能であった。症例数が十分であったため、統計的な解析が有効に行えた。結果として当疾患において特に問題である重症・難治性症例につきその特徴、程度等を数値化することが出来た。重症度基準の無かった当疾患において非常に画期的であると考えられる。
臨床的観点からの成果
 リンパ管腫は大多数が比較的良い経過を経るため、難治性疾患としての認識は非常に希薄である。しかしながら、重症・難治性で悲惨な経過を経る一部の症例が存在し、これらを全て同等に扱うのは不合理である。しかしながら臨床において重症度・難治性度を決める基準を設けることは実際には困難であった。今回の研究において診療を担当した臨床医の重症度診断を元に統計的に重症・難治性度基準を設けたため、臨床に則しており、しかも客観的な基準となっている。
ガイドライン等の開発
 1,000症例を越える症例データの統計的な検討から導いた「リンパ管腫の重症・難治性度診断基準」原案が作成された。当原案については引き続き日本小児外科学会の枠を越えてweb登録による検証を行い、修正を経た上で完成版として公表し、臨床での使用が開始される。
その他行政的観点からの成果
 今後リンパ管腫の重症・難治性症例を難病として認定するシステム構築を目指していくが、多くの症例が難治性とはいえない疾患であるので、「難治性」を診断する客観的な診断基準をもとに、対象を限定する必要がある。全体の第一歩としてこの基準を作成出来たことは、今後の発展のための確実な土台を築いたといえる。
その他のインパクト
 リンパ管腫の重症度・難治性度基準は当疾患においては世界に例のない基準であるため、各国で用いられる可能性がある。同程度の規模の研究を遂行することは困難であり、我が国で率先して行われたことの意義は大きい。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
5件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
第109回東京小児外科研究会において、当研究内容を含めて当疾患につき講演。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
藤野明浩、北村正幸、黒田達夫、他
リンパ管腫内リンパ液動態の検討
リンパ学 , 34 (1) , 7-12  (2011)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
2016-07-19

収支報告書

文献番号
201128110Z