特定疾患におけるQOL研究班

文献情報

文献番号
199700997A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患におけるQOL研究班
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
福原 信義(国立療養所犀潟病院)
研究分担者(所属機関)
  • 福原俊一(東京大学大学院医学系)
  • 岩尾泰(慶応大学医学部)
  • 川村佐和子(東京医科歯科大学医学部)
  • 福永秀敏(国立療養所南九州病院)
  • 大橋靖雄(東京大学大学院医学系)
  • 喜多義邦(滋賀医科大学)
  • 橋本秀樹(帝京大学医学部)
  • 上野文昭(東海大学医学部)
  • 杉田昭(横浜市立大学浦船病院)
  • 宮原透(防衛医科大学)
  • 新村和哉(京都府保健環境部)
  • 水島洋(国立がんセンター研究所)
  • 堀川楊(信楽園病院)
  • 小森哲夫(都立神経病院)
  • 今井尚志(国立療養所千葉東病院)
  • 久野貞子(国立療養所宇多野病院)
  • 難波玲子(国立療養所南岡山病院)
  • 旭俊臣(旭神経内科病院)
  • 川島みどり(健和会看護研究所)
  • 尾藤誠司(国立東京第二病院)
  • 木村格(国立療養所山形病院)
  • 熊本俊秀(大分医科大学)
  • 牛込三和子(都立神経科学総合研究所)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 横断的基盤研究グループ 社会医学研究部門
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
難病の臨床では、病気の原因、病態生理、治療などの解明以上に、患者の闘病意欲をあげ、疾病により日常生活に障害を抱える患者のQOL(生活の質、生命の質)の改善を図ることが重要である。ALSをはじめとする神経難病には、非常に長期の療養、介護の人手が大きいという特徴があり、入院療養と在宅療養の有機的な連携、効果的な在宅支援がますます不可欠となってきている。 本研究班の目的は、日本における難病患者に有効なQOL評価尺度の開発と、データ解析における定量的手法の活用と質的手法との有効な組み合わせを見いだすこと、難病患者のQOL向上のための保健・医療・福祉技術の開発、それに加えて効率的な難病のケアシステムの構築に関する研究である。
本研究班にとって本年度は2年目であるが、昨年度に引き続き、難病患者のQOLの向上のために、難病医療のあり方、医療、看護、介護の技術向上、またQOL評価方法についての検討を行ってきた。また、神経難病患者のQOLの改善のための新しい情報通信インフラ(インターネット技術)を利用した保健・医療・福祉技術に付いても昨年度に引き続き研究を進めた。

研究方法
結果と考察
結論
1) QOL評価に関する研究:a) QOL評価についての基礎的研究:健康関連関連QOLの評価尺度は、SF-36も含め殆ど全てが、自己記入式質問法によっており、項目数の限定もあるために、信頼性あるいは精度の点で限界があり、個人レベルでの応用は困難である。パーキンソン病(PD)患者のSF-36によるHQOL測定のデータをもとにして、Raschモデルを用いて身体機能(PF)の下位尺度の一次元性、被検者の潜在能力と、SF-36・PF各項目の困難度とを、共通尺度上で推定し、SF-36・PFがPDに対して強い識別力を有していることと、さらにこの一次元性が異なる対象集団において頑健性に大きな違いは認めないことを見いだした。また、1つの町で悉皆調査を行い、特に喫煙習慣がHQOL全般に対してそれを低下させる因子であることが示唆された。b) 神経難病におけるQOL評価の研究:PDの排尿障害に関連したQOL障害についての定量的評価では、QOLの障害度はYahr重症度及び排尿障害の程度に相関することと、国際前立腺症状スコア(IPSS)質問票の有用性が明らかになった。一方、重度の神経難病患者では、知的障害や構音障害、筋力低下などの合併があるためQOL評価は、極めて困難である。ALSとPDの重度神経難病患者についての生きがい調査では、聴取不能例が20%もあったことは注目される。c) 炎症性腸疾患に関するQOL評価の研究:平成8年度は潰瘍性大腸炎についてSF-36評価スケールの有効性について検討したが、本年は、クローン病について調査した。SF-36を構成する全てのサブスケールにおいてCronbach's alpha値は0.80以上であり、質問項目の内的整合性は高く、クローン病の評価においても信頼性を有することが確認された。実際のQOL評価では、身体機能を除く全ての項目で国民標準値と比較して有意に低下していた。また。就労状況ではSF-36尺度の8項目中3項目( RP,SF, RE)では低スコアが休業日数との有意の関連を示した。潰瘍性大腸炎患者のパーソナリティとSF36との関連についての検討では、パーソナリティでは安定性尺度がQOLとの関連が強く、QOLの中ではメンタルヘルス尺度がパーソナリティと関連を持つことが示された。クローン病患者の多変量解析で患者QOLが疾患活動性のみならず、社会的サポートや心理的適応状態により有意な影響を受けることが明らかにされ、患者QOL改善のためには臨床的介入のみならず、健康心理学的な教育介入が有効である可能性が示唆された。
2) 難病患者のQOL向上のための保健・医療・福祉技術の開発について:a) 神経難病のインフォームドコンセントに関する研究:ALSに対して適切な時期に適切な援助を行うためには正確なインフォームド・コンセントが不可欠である。国立療養所神経内科協議会加入34施設からのアンケート結果では患者本人へ積極的に告知する施設が91%と高率であったが、根本的治療方法が無いことを告げない施設が35%存在し、説明の内容・行い方の違いには色々と問題があった。次年度には的確なインフォームド・コンセントを行うための具体性をもったマニュアル作製に取り組みたい。 一方、大学病院におけるALS患者に対するインフォームド・コンセントの現状も分析した。診断直後の告知、病状説明は主治医により多くは患者の配偶者に行われているが、内容は純医学的事項に終始し、介護、福祉面の事項は少なく、必ずしもより質の高い長期療養生活を見据えた上で告知、病状説明をしているとは言い難かった。また、3/4の患者が病名告知を受けているが、告知後の十分な療養支援体制が保障されていないため、その家族の半数が告知に対してして「不満足」「良かったかどうか判らない」と答えており、大学病院における難病医療の問題点を浮き彫りにした。b) 神経難病医療に関する技術的研究:ALSでは球麻痺のため唾液が嚥下できず、頻回の口腔内の吸引が介護上の大問題となっているが、既製品をわずかな費用で改造することにより在宅患者にも長時間持続的に使用できる低圧の吸引器を開発できた。また、ALS患者では病気の進行により外眼筋を除き、四肢筋の完全麻痺をきたすため、知能が正常であるにも関わらず、情報メデイアの利用、知的創造活動は困難となる。最後まで残される眼球運動を利用したコンピュータ入力装置の作成が可能かどうかを検証するため、コンセプトモデルの開発研究を行い、実証モデルの開発についての必要な要件について検討した。Head Mounted Display、See-through visionに赤外線LEDCCDカメラを内蔵することで体位変換、頭位変換とは無関係に視線位置に対応してマウスポインターを動かすことが可能であり、視線入力によりパーソナルコンピュータに組み込まれた、インターネットブラウザ、Wivik2scan、環境制御装置のボタン操作が可能であった。c) ALSの呼吸リハビリに関する研究:ALSにおける呼吸筋障害の予後推定に関して、経時的記録による横隔神経伝導時間の遅延、誘発波振幅の低下と波形の多相化が重要であり、胸郭可動域訓練と吸気筋力訓練を組み合わせて行うと、最大吸気圧、一回換気量や肺活量の維持などの点で呼吸理学療法の有用性が確認した。
3) 地域における難病ケアシステム(入院在宅療養の有機的連携)の構築に関する研究:ALSに対する訪問看護の基準化について検討したが、ALSは進行性で症状が複雑・多岐に渡るので患者ののニーズに対応するには、看護職がより早期から支援を開始し、予測的・予防的ケアを行える体制が必要である。全国の保健所における難病事業と保健婦活動について分析し、難病対策事業の実施率は医療相談以外は40%以下と低いこと、患者の送迎の確保、保健・医療・福祉の連携、専門医・専門医療機関の情報交換・協力、保健婦の資質向上のための研修、マニュアルやガイドライン、保健婦の増員、かかりつけ医や医師会との連携が急務であることを報告した。また、7年間の新潟市難病ケース検討会の実践を通して在宅難病患者の問題点を浮き彫りとすると同時に難病ケース検討会の実施の重要性を明らかにした。検討された疾患はALS、PD、SCDで全体の83%を占め、60歳以下が35%、70歳以下が80%であり、問題とされたのは家族介護者の不足(69%)、高度の医療処置に訪問看護婦要請(21%)であった。
熊本県における農山村部での調査で、医療相談、訪問による療養・看護指導は高率に行われているが、ヘルパー・訪問看護婦派遣、福祉サービスの利用などの実質的な支援が不十分なことが報告されている。在宅医療を含めた神経難病の医療システムについては、地域格差と医療機関VS大学病院の差が大きいことがいっそう明らかとなり、今後解決すべき問題として浮き彫りにした。
4) 情報ネットワークの利用に関する研究:現在、コンピューターネットワークを利用している患者、家族を対象として調査したところ、コンピュータネットワークの利用は難病患者のQOL向上に大変効果があることが明らかになった。また、遠隔地の難病患者に対してテレビ電話の利用がリハビリテーション、介護指導、コミュニケーションの増加によるQOL向上と精神的サポートに役立つ。

公開日・更新日

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