マルファン症候群の日本人に適した診断基準と治療指針の作成

文献情報

文献番号
201128103A
報告書区分
総括
研究課題名
マルファン症候群の日本人に適した診断基準と治療指針の作成
課題番号
H22-難治・一般-143
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
平田 恭信(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 今井 靖(東京大学 医学部附属病院)
  • 縄田 寛(東京大学 医学部附属病院)
  • 永原 幸(東京大学 医学部附属病院)
  • 竹下 克志(東京大学 医学部附属病院)
  • 森崎 裕子(国立循環器病センター・臨床遺伝・分子遺伝学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は本症患者の便宜を図るため関連する院内10科でマルファン外来を開設し、各科が横断的に診療する体制を整えた。その上で、日本人の体格に適した診断基準を作成し、予後を規定する心血管合併症の易発症例を早期に同定することを目標とした。
研究方法
マルファン外来受診者に対してGhent診断基準に関する診察、検査を行った。遺伝子解析は独自に開発したDNAチップ法によった。
結果と考察
マルファン外来への総受診者は479名、うち431症例につきGhent基準の診断項目が十分評価できた。平均年齢28.4(3-81)歳、女性が203名(47.1%)であった。成人例ではGhent基準陽性は136症例(43.9%)であり、バルサルバ洞拡大が88.5%、水晶体脱臼が49.2%と高率に認められた一方、骨の大基準を満たしたのは20.5%と低かった。骨の基準のうち手首親指徴候、偏平足、高口蓋が高頻度であった。また、肺尖ブレブ(26.0%)、萎縮皮膚線状(50.8%)、硬膜拡張(61.7%)もGhent陽性例において比較的多く認められた。Ghent基準陽性かつフィブリリン1(FBN1)遺伝子変異陽性は91例中51例と56%に認められ、特にGhent陽性例では80%にFBN1変異を認めた。今までに合計76種のFBN1変異を検出した。バルサルバ洞拡大、水晶体脱臼および遺伝素因に重点を置く新Ghent基準による本症の診断はより簡便であり、厳格な旧基準とも95%の一致率を認め、本邦患者にも適応可能と考えられた。マルファン症候群において血中TGFβ1濃度は高値を示すものの、健常者との差はわずかであった。アンギオテンシン受容体拮抗薬は大動脈基部の拡張速度を有意に減少させた。また近年、種々の動脈硬化症の発生に歯周病菌の関与が示されているが、大動脈瘤を易発症するマルファン症候群において歯周病が高頻度に認められ、かつそれに関与する菌種を同定した。
結論
本症のような多系統疾患では本外来のような総合的診療が必要であり、今後このシステムを全国に広めて行きたい。

公開日・更新日

公開日
2013-03-10
更新日
-

文献情報

文献番号
201128103B
報告書区分
総合
研究課題名
マルファン症候群の日本人に適した診断基準と治療指針の作成
課題番号
H22-難治・一般-143
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
平田 恭信(東京大学 医学部附属病院)
研究分担者(所属機関)
  • 今井 靖(東京大学 医学部附属病院 )
  • 縄田 寛(東京大学 医学部附属病院 )
  • 永原 幸(東京大学 医学部附属病院 )
  • 竹下 克志(東京大学 医学部附属病院 )
  • 森崎 裕子(国立循環器病センター・臨床遺伝・分子遺伝学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本症患者の便宜を図るため関連する院内10科でマルファン外来を開設し、各科が横断的に診療する体制を整えた。その上で、日本人の体格に適した診断基準を作成し、予後を規定する心血管合併症の易発症例を早期に同定することを目標とした。
研究方法
マルファン外来患者をGhent基準にのっとり診断した。遺伝子解析は独自に開発したDNAチップ法によった。本症患者の妊娠分娩に関し、全国調査を行った。また薬物療法による大動脈瘤の経過を観察した。
結果と考察
1. 2005年4月から2012年4月までに当院マルファン専門外来の成人患者の平均年齢は34.1歳、男女比はほぼ1:1であった。Ghent基準においてマルファン症候群と診断されたのは40.7%であった。Ghent陽性成人例においてバルサルバ洞径の拡大あるいは上行大動脈解離の既往を有する症例が92.4%、水晶体亜脱臼が49.2%と高率に認められた。
2. 144症例に遺伝子検査を施行し、85症例にFBN1変異が検出された。変異はFBN1の65エクソン全体に、偏りなく分布し、その内訳は、スプライス変異7症例、ノンセンス変異15症例、フレームシフト10症例ミスセンス変異48症例であった。
3. 最近の改訂Ghent基準では、①水晶体亜脱臼、②バルサルバ洞の拡大あるいは上行大動脈解離、③遺伝性の3つを評価し、うち2つを満たせば診断に至る。従来のGhent基準と改定Ghent基準の一致率は92.4%であった。
4. 当院における最近のマルファン症候群患者の分娩成績は11例の内、3例で解離等の心血管イベントを主に産褥期に起こした。1064病院へアンケート調査を依頼し、610病院より回答が得られた。うち40病院で、マルファン症候群合併妊娠を取り扱っていた。56妊娠のうち5妊娠で妊娠中絶が行われた。56妊娠のうち11例で妊娠・分娩・産褥期の解離を起こしていた。その中でも2例の死亡例があった。分娩まで至った48例で考えると、妊娠中に解離を起こした10例と解離を起こさなかった38例とで、両群間で明らかな差は見られなかった。
5.投薬と大動脈径拡張速度との関係では新規β遮断薬投与例では、内服に伴いバルサルバ洞径の拡大速度が有意に低下した。新規にARBが開始された例では大動脈径進展抑制効果は明らかでなかった。一方、小児例では治療群のARB内服開始時Valsalva径平均拡大速度は治療前に対し治療後と低下傾向を認めた。無療群では治療群に比べ拡大傾向をみとめた。
結論
新Ghent基準により診断が簡易に可能となった。β遮断薬とARBの使用により大動脈径の拡張が抑制される可能性がある。

公開日・更新日

公開日
2013-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128103C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Ghent基準は測定項目が多くまた多くの診療科を受診せねばならなかった。新基準はより簡便でかつ正診率も劣らず、本邦患者に対しても適切な診断基準と考えられた。
ARBによる大動脈拡張速度の遅延効果は特に小児例で、β遮断薬のそれは成人例で認めた。
近年、大動脈瘤などの発生に歯周病菌の関与が示されている。本症患者においては、年齢の割に歯周病の罹患率は高率かつ重症であり、歯周病菌陽性率も高率であった。本研究の進展により歯周病の早期治療も大動脈瘤の予防につながる可能性がある。
臨床的観点からの成果
マルファン症候群患者は正確な診断がつかない、多数の病院にかからねばならないなどの困難が多く、
我々の開設したマルファン外来には現在、遠方からも患者が訪れるようになった。患者の受診負担
を減らしたばかりでなく、遺伝子解析が可能な施設が限られていることも関係すると思われる。同様
の総合診療が可能な診療形態を導入しようとする他施設からの問い合わせも少なくない。今後、我々
の遺伝子解析法を含めた診療方法の普及にも努めたい。
ガイドライン等の開発
マルファン症候群患者の妊娠・出産に関するガイドラインを準備中である。
その他行政的観点からの成果
本院における本症患者の出産に伴う心血管イベントの発生率は国内外のガイドラインに基づいて実
施しているにも関わらず実に30%に達した。全国調査の結果においても少なくない解離を妊娠分娩前後
で認めていることより、大動脈解離の回避への厳しい提言が必要と考えられた。
その他のインパクト
結合織疾患に関する一般向けシンポジウムを東京と大阪で開催した。多くの該当患者さんならびにその家族等が来場され、患者会との交流をはかることができた。
歯周病と血管病変との関連に関する取り組みがNHKの「おはよう日本」の中で取り上げられた。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
58件
その他論文(和文)
9件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
57件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ogawa N, Imai Y, Takahashi Y, Nawata K, et al.
Evaluating Japanese Patients With the Marfan Syndrome Using High-Throughput Microarray-Based Mutational Analysis of Fibrillin-1 Gene
Am J Cardiol , 108 (12) , 1801-1807  (2011)
10.1016/j.amjcard.2011.07.053.
原著論文2
Ogawa N, Imai Y, Nishimura H, et al.
Circulating transforming growth factor β-1 level in Japanese patients with Marfan syndrome.
Int Heart J , 54 (1) , 23-26  (2013)
原著論文3
Fujita D, Takeda N, Imai Y, et al.
Pathophysiology and Japanese clinical characteristics in Marfan syndrome.
Pediatr Int , 56 (4) , 484-491  (2014)
10.1111/ped.12423.

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201128103Z