特定疾患に関する疾病モデル研究班

文献情報

文献番号
199700994A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患に関する疾病モデル研究班
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
鍋島 陽一(国立精神・神経センター)
研究分担者(所属機関)
  • 阿部訓也(熊本大学)
  • 稲葉宗夫(関西医科大学)
  • 白沢卓二(東京都老人総合研究所)
  • 瀧原圭子(大阪大学)
  • 田辺勉(東京医科歯科大学)
  • 徳久剛史(千葉大学)
  • 中村晃一郎(東京大学)
  • 野田哲生(東北大学)
  • 向田直史(金沢大学)
  • 北村大介(東京理科大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 横断的基盤研究グループ 基盤研究部門
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班では、分子生物学の発展の成果を病態解明、治療法の開発に結びつけるために、(1)モデル動物の開発が進められている疾患については病態の解析を行い、(2)研究対象遺伝子が同定されている分子についてはノックアウトマウス、トランスジェニックマウス等を作成し、疾患モデルとしての評価を確立し、病態解明と治療法の開発に活用することを目的として研究を進めることとした。
研究方法
上記の目的のもと、(1)既にBCL-6, gp130, イソアスパラギン酸メチル転移酵素(PIMT)のノックアウトマウス、及びケモカインを皮膚で過剰産生するトランスジェニックマウスに認められる心筋異常、けいれんなどの神経症状、免疫異常について病理学的、生理学的解析、(2)ケモカイン、サイトカインの肝繊維症発症における役割、自己免疫疾患モデルにおける造血幹細胞の分化とその異常の解析、(3)Brn4, Brn3.1,シントロフィン、ジストロフィンのアイソフォーム(DP260)、Caチャンネル遺伝子のノックアウトマウスの作成、(4)自己免疫、運動失調に関連する遺伝子を分離に関する研究を行い、以下の結果を得た。
結果と考察
1)新規RNA結合蛋白質をコードする候補遺伝子QkIをノックアウトしたマウスを作製し、その解析からQkIがquaking変異の原因であることを示した.。ミエリン形成はQkI発現レベルと相関があり、QkIレベルが30%以下となると、様々な神経学的症状が現れると考えられる.この点は、同一遺伝子の変異であるにも関わらず、表現型が著しく異なるという点で、遺伝性疾患全般を考える上でも良いモデル系となると考えられる。ヒトQkIは6q25.3にマップされたこの領域にミエリン形成に関係する疾患は未だマップされていないが、juvenile Parkinsonismがマップされている.2)ドナー・レシピエント間にH-2SとH-2Dがcompatibleである場合にsyngenicな組み合わせと同様の脾コロニーおよびCobblestoneコロニーが形成され、H-2KおよびMHC class IIの一致、もしくはMHC class IB抗原であるQa-1、Qa-2、Tla 部位の一致は影響が少ないことが明らかになった。造血前駆細胞/造血幹細胞はMHCが一致しない環境下ではquiescentな状態で維持されており、MHCが一致した状態に移行した場合、分化増殖過程に入るものと想定された。 自己免疫疾患マウス造血幹細胞とストローマ細胞との間にはMHC拘束性が極めて弱く、自己免疫疾患モデルマウス由来造血幹細胞の異常が推測された。 3)PIMT欠損マウスは生後4週から12週の間にてんかん発作で死亡した。抗けいれん剤であるDPA(デパケン)の投与により生存曲線が約4週間延長した。微小管の高密度化・束化を認め、空間学習能の低下を認めた。4)LIFは、PI3-kinaseを介してMAP kinase、p70 S6 kinase、PKBを活性化し心筋肥大と心筋保護に関与することが示唆された。5)α1Eチャネルの欠損マウスを作成し、生理機能の解析を進めている。6)IL-6遺伝子欠損マウスでは、四塩化炭素投与12週後に野生型マウスで認められた、I型プロコラーゲン遺伝子発現増強ならびにコラーゲンの沈着が著明に減弱していた一方で、血清アルブミン値は低下していた。すなわち、内因性に産生されるIL-6が線維化の進展に働く一方で、肝細胞のアルブミン産生能の維持にも関与しているという、両面の作用を示すことが明らかとなった。7)BCL6遺伝子のノックアウト(KO)マウスは著明な心拡張を示し、好酸球の浸潤を伴う心筋炎により死亡した。正常な心臓をもちかつ成熟リンパ球のいないRag-1KOマウスにBCL6-KOマウスの骨髄細胞を移植したキメラマウスの心臓では細胞浸潤も見られなかったことから、BCL6-KOマウスの心臓に見られた好酸球の浸潤は二義的な現象であり、BCL6は心筋の機能維持に必須であると考えられた。また、Bazfは、BCL6と同様な転写抑制活性を示し、心臓と肺に限局してBCL6よりも強い発現が見られたことから、心臓においてはBCL6より大きな役割をしていることが示唆された。
8)Gro-atgマウスには皮膚炎は惹起されなかったが、皮膚への白血球浸潤を組織学的に認めた。この浸潤細胞は多核で細胞質内に顆粒を有する好中球であり、この細胞がk14を発現する毛庖上皮へ浸潤すると推測された。croton oilを用いた一次刺激皮膚炎では、Gro-atgマウスで皮膚への著明な白血球浸潤の増加を認めた。LPS腹腔内投与後には、Gro-atgマウスで皮膚炎が惹起され、組織学的に真皮内、血管周囲性の好中球、リンパ球の細胞浸潤が認められた。Gro-atgマウスは皮膚炎を惹起しやすいマウスであり、膿疱性乾癬において、ある種の病巣感染が皮膚炎を増悪させるように、Gro-atgマウスも種々の刺激物質によって容易に皮膚への白血球浸潤を引き起こすモデルであると考えられた。
9)シントロフィン遺伝子を欠失したホモマウスは外見上は正常で、筋ジストロフィーで認められる筋変性壊死、及び再生像は認められなかった。筋形質膜のa1シントロフィンの発現は完全に欠失していたが、ジストロフィン、サルコグリカンの局在には異常を認めなかった。一方、NOSの局在の指標となるNDP活性は筋形質膜ではほぼ消失しており、また、細胞分画法によってnNOSが細胞膜分画から細胞質分画へ移行していることを確認した。nNOSの局在の変化は顕著な筋収縮整理の変化をもたらさない。DP260欠損マウスのOPLではb-dystroglycanが観察されなくなるが、mGluR6の局在に変化は認められなかった。ホモマウスのERGのb-waveの高さに変化は見られないが、implicit timeの延長が観察された。この変化は筋ジストロフィー患者に認められるERGの変化とは異なっており、病態との関連は明瞭とはならなかったが、DP260が正常なERGにとって必要であることが確認された。10)Brn-4遺伝子機能を欠失したマウスの聴覚機能を解析したところ、聴性脳幹反応(ABR)において90dBSPLまでABRを認めず、中耳伝音系に形態異常は存在せず、可動性も保持されており、感音性難聴と結論された。内リンパ静止電位(EP)は野生型では100mVであったが、Brn-4変異マウスでは44mVと明らかな低下を認めた。蝸牛外側壁のラセン靭帯の線維細胞の形態に異常が認められたが、蝸牛機能の維持に必須な有毛細胞、血管条等には異常が認められなかった。おそらく、ラセン靭帯の線維細胞が正常な機能を保てなくなることが内リンパ静止電位低下の原因と考えられる。11)B細胞抗原受容体(BCR)刺激で活性化されるチロシンキナーゼのうちSykはそのシグナル伝達に必須であったが、Lynはむしろそれを抑制していた。このLynの抑制作用はキナーゼ活性非依存性で、蛋白キナーゼC活性化の阻害による。Lyn欠損マウスの自己免疫発症原因は、BCRシグナルの抑制性制御の欠陥による非特異的B細胞活性化にあると考えられた。また抗原受容体シグナルによるリンパ球アポトーシス誘導に関与すると思われる蛋白を新たに同定した。
結論
(1)BCL-6, gp130, イソアスパラギン酸メチル転移酵素(PIMT)のノックアウトマウス、及びケモカインを皮膚で過剰産生するトランスジェニックマウスに認められる心筋異常、けいれんなどの神経症状、免疫異常についての病理学的、生理学的解析、(2)ケモカイン、サイトカインの肝繊維症発症における役割、自己免疫疾患モデルにおける造血幹細胞の分化とその異常の解析、(3)Brn4, Brn3.1,シントロフィン、ジストロフィンのアイソフォーム(DP260)、Caチャンネル遺伝子のノックアウトマウスの作成、(4)自己免疫、運動失調に関連する遺伝子を分離に関する研究を行い、特定疾患のモデル動物としての評価を行い、有用な動物が作成されたことを確認した。

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