Gorlin症候群の病態解明と治療法確立のための臨床的研究

文献情報

文献番号
201128081A
報告書区分
総括
研究課題名
Gorlin症候群の病態解明と治療法確立のための臨床的研究
課題番号
H22-難治・一般-120
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
藤井 克則(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 宮下 俊之(北里大学 医学部)
  • 杉田 克生(千葉大学 教育学部)
  • 斎藤 加代子(東京女子医科大学 小児科)
  • 野口 一馬(兵庫医科大学 歯科口腔外科 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Gorlin症候群は、1960年にGorlinらによって報告された身体奇形と高発癌性を特徴とする神経皮膚症候群である。欧米豪での疫学調査によりGorlin症候群の診断基準と有病率がそれぞれ示されているが、本邦を含めアジアでの報告はまだない。またGorlin症候群の発症機序についても不明な点が多い。本研究では日本国内におけるGorlin症候群患者の特徴を明らかにするとともに、細胞・遺伝子解析を通じて疾患の発症機序を明らかにすることを目的とした。
研究方法
我々は本事業において平成22年度に行った第二次アンケート調査結果をさらに詳細に解析し、欧米豪の有病率等と比較した。また遺伝子解析では責任遺伝子のPTCH1以外にSUFU, SMO, PTCH2等のヘッジホッグ関連分子の変異解析を行い、またPTCH1の発現をコントロールするmiRNAの変動や、患者由来KCOT細胞の不死化研究を行うことで発症機序の解明を行った。Gorlin症候群に対する臨床上の遺伝カウンセリング法についても研究を行った。
結果と考察
日本国内に311人のGorlin症候群患者が存在すること、日本人Gorlin症候群の臨床症状の有病率、基底細胞癌の発症率が欧米豪と比較して少ないこと、Gorlin症候群の有病率が10万人に0.42人であることを明らかにした。遺伝子解析ではPTCH1遺伝子に複数のエキソンで重複する症例を、またヘッジホッグシグナル伝達経路の下流で機能するSUFU遺伝子の変異を同定し、Gorlin症候群の新たな発症機序を明らかにした。遺伝子発現を調節するmiR-431の機能を明らかにし、3遺伝子の導入により患者由来KCOT細胞の樹立に成功した。また本年度もGorlin症候群シンポジウムを開催し医療関係者のみならず疾患罹患者に対する啓発活動を行うとともに、Gorlin症候群のホームページを開設して広く疾患情報の提供を行う場を整えた。
結論
本邦におけるGorlin症候群では基底細胞癌の発症率が年少時は低くその後徐々に上昇する。従って20歳以降も定期的な皮膚科受診が必要であると考えられる。Gorlin症候群は症状が多岐にわたり診断が遅れる傾向にある。患者のみならず医療関係者に対して疾患理解を促すとともに、Gorlin症候群の継続的な病態解明と今後訪れるであろう新しい経路阻害薬による治療展開を進めてゆくことが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2013-03-04
更新日
-

文献情報

文献番号
201128081B
報告書区分
総合
研究課題名
Gorlin症候群の病態解明と治療法確立のための臨床的研究
課題番号
H22-難治・一般-120
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
藤井 克則(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 宮下 俊之(北里大学 医学部)
  • 斎藤 加代子(東京女子医科大学 小児科)
  • 杉田 克生(千葉大学 教育学部)
  • 野口 一馬(兵庫医科大学 歯科口腔外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Gorlin症候群は、1960年にGorlinらによって報告された身体奇形と高発癌性を特徴とする神経皮膚症候群である。欧米豪での疫学調査によりGorlin症候群の診断基準と有病率がそれぞれ示されているが、本邦を含めアジアでの報告はまだない。またGorlin症候群の発症機序についても不明な点が多い。本研究では日本国内におけるGorlin症候群患者の特徴を明らかにするとともに、細胞・遺伝子解析を通じて疾患の発症機序を明らかにし、有効な治療法を確立することを目的とした。
研究方法
全国アンケート調査により日本国内のGorlin症候群患者数、臨床症状、診療科を明らかにし、欧米豪の有病率等と比較した。また遺伝子解析では責任遺伝子のPTCH1以外にSUFU, SMO, PTCH2等のヘッジホッグ関連分子の変異解析を行った。またPTCH1の発現をコントロールするmiRNAの変動や、患者由来KCOT細胞の不死化研究を行うことで発症機序の解明を行った。Gorlin症候群に対する臨床上の遺伝カウンセリング法についても研究を行った。
結果と考察
日本国内に311人のGorlin症候群患者が存在すること、日本人Gorlin症候群の臨床症状の有病率、基底細胞癌の発症率が欧米豪と比較して少ないこと、Gorlin症候群の有病率が10万人に0.42人であることを明らかにした。遺伝子解析ではPTCH1遺伝子に複数のエキソンで重複する症例を、またヘッジホッグシグナル伝達経路の下流で機能するSUFU遺伝子の変異を同定し、Gorlin症候群の新たな発症機序を明らかにした。遺伝子発現を調節するmiR-431の機能を明らかにし、3遺伝子の導入により患者由来KCOT細胞の樹立に成功した。また本年度もGorlin症候群シンポジウムを開催し医療関係者のみならず疾患罹患者に対する啓発活動を行うとともに、Gorlin症候群のホームページを開設して広く疾患情報の提供を行う場を整えた
結論
本邦におけるGorlin症候群では基底細胞癌の発症率が年少時は低く、その後徐々に上昇する。従って20歳以降も定期的な皮膚科受診が必要であると考えられる。Gorlin症候群は症状が多岐にわたり診断が遅れる傾向にある。患者のみならず医療関係者に対して疾患理解を促すとともに、Gorlin症候群の継続的な病態解明と今後訪れるであろう新しい経路阻害薬による治療展開を進めてゆくことが望まれる。

公開日・更新日

公開日
2013-03-10
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128081C

成果

専門的・学術的観点からの成果
Gorlin症候群の全国調査を行い310名の患者を確認し有病率を10万人あたり0.4人と推定した。また157名の臨床症状を詳細に解析し、欧米と比較し基底細胞癌の発症率が低いことを報告した。欧米豪では報告があるものの、本調査はアジアで初めてのGorlin症候群の疫学調査であり、合併症である基底細胞癌や角化性歯原性嚢胞のアジア人種における特性を明らかにしたことで学術的価値は高い。また責任遺伝子のPTCH1解析からGorlin症候群の発症機序を明らかにすることができた。
臨床的観点からの成果
Gorlin症候群は基底細胞癌、角化嚢胞性歯原性腫瘍、肋骨奇形、手掌小陥凹、大脳鎌石灰化を特徴とする疾患だが、臨床症状が様々であるため診療科が多岐にわたり診断が遅れる傾向がある。本研究では多診療科からの報告をもとに各症状の有病率、発症年齢を通じて、各診療科の特徴を明らかにすることにより、Gorlin症候群の年齢に応じた診療体系を提言することができた。これをもとに今後各科が連携をとることによって早期診断・早期治療が可能になると考えられる。
ガイドライン等の開発
Gorlin症候群の診断基準はすでにアメリカ(Kimonis)、イギリス(Evans)、オーストラリア(Shanley)より提唱されている。今回我々は日本人における各臨床症状の有病率、発症形式をこれら三国と比較し基底細胞癌の発症率が低いことを報告したが、三国の診断基準はおおむね妥当であり本邦用に新たな診断基準を策定する必要性は低いと考えられた。放射線感受性亢進の観点からは今後放射線や紫外線照射の回避等の方策の策定が望ましいが今後症例経過の蓄積により作成されるべきものと思われる。
その他行政的観点からの成果
Gorlin症候群では年齢ごとに好発する合併症があり、医療費抑制の観点から年代ごとに必要な検査を受けることが重要である。これにより不必要な医療費の支出を避け、早期診断と早期治療が可能になる。また患者のQOLでは基底細胞癌の推移が生涯通じて重要であるが、定期的に診療を受けることによりQOLを維持することが可能になる。Gorlin症候群の臨床上の特徴が今回の班研究で明らかになり、今後行政政策および予防医学へこれらの結果を反映することができると考えられる。
その他のインパクト
Gorlin症候群のシンポジウムを2回にわたり(第1回東京・市ヶ谷、第2回兵庫・神戸)で開催した。この2回のシンポジウムにはのべ100名の参加者があり、医療関係者のみならず患者ご家族も参加されて活発な議論が交わされた。今後は患者会の結成に向けて医療側から支援を行ってゆく。またGorlin症候群のホームページも作成され()、今後はこうしたウエブベースで情報を発信してゆくことになった。これらによりGorlin症候群の知識が広く普及し、啓発活動につながるものと考えている。

発表件数

原著論文(和文)
12件
Gorlin症候群の総説、遺伝カウンセリング関係の論文が中心である。
原著論文(英文等)
13件
Gorlin症候群の疫学調査、遺伝子解析、症例検討の論文を作成した。
その他論文(和文)
2件
Gorlin症候群の症例報告
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
日本小児神経学会、日本癌学会等にてGorlin症候群の発表・討議を行った。
学会発表(国際学会等)
5件
国際小児神経学会(2011 Egypt)、ヨーロッパ小児学会議(2012 Austria)でGorlin症候群の発表・討議を行った。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
第1回Gorlin症候群シンポジウム(2011 東京・市ヶ谷)、第2回Gorlin症候群シンポジウム(2012 兵庫・神戸)を開催し、またGorlin症候群ホームページを作成した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Endo M, Fujii K, Sugita L et al.
Nationwide survey of nevoid basal cell carcinoma syndrome in Japan revealing the low frequency of basal cell carcinoma
Am J Med Genet A , 158 , 351-357  (2012)
原著論文2
Ishizuka Y, Furuta J, Miyashita T et al.
Splicing aberration in nevoid basal cell nevus syndrome
Acta Derm.-Venereol (in press)  (2012)
原著論文3
Suzuki M, Hatsuse H, Nagao K, et al.
Selective haploinsufficiency of longer isoforms of PTCH1 protein can cause nevoid basal cell carcinoma syndrome
J Hum Genet (in press)  (2012)
原著論文4
Kosaki R, Nagao K, Kameyama K, et al.
Heterozygous tandem duplication within the PTCH1 gene results in nevoid basal cell carcinoma syndrome
Am J Med Genet A (in press)  (2012)
原著論文5
Tanaka T, Sugaya S, Kita K, et al.
Inhibition of cell viability by human IFN-β is mediated by microRNA-431
Int J Oncol , 40 (5) , 1470-1476  (2012)
原著論文6
Kita K, Sugita K, Chen SP, et al.
Extracellular recombinant annexin II confers UVC-radiation resistance and increases the Bcl-xL to Bax protein ratios in human UVC-radiation-sensitive cells
Radiat Res , 176 (6) , 732-742  (2011)
原著論文7
Nagao K, Fujii K, Saito K, et al.
Entire PTCH1 deletion is a common event in point mutation-negative cases with nevoid basal cell carcinoma syndrome in Japan
Clin Genet , 79 (2) , 196-198  (2011)
原著論文8
Sasaki R, Miyashita T, Saito K, et al.
Multiple keratocystic odontogenic tumors associated with nevoid basal cell carcinoma syndrome having distinct PTCH1 mutations
Oral Surgery, Oral Medicine, Oral Pathology, Oral Radiology and Endodontology , 140 , 41-46  (2010)
原著論文9
藤井克則、宮下俊之
ヘッジホッグと形態形成 ―Gorlin症候群とPTCH遺伝子変異―
日本小児皮膚科学会雑誌 , 28 , 65-71  (2010)
原著論文10
宮下俊之、桐生麻衣子、斎藤加代子他
見逃してはいけない家族性腫瘍:本邦における母斑基底細胞癌症候群の遺伝子変異と臨床的特徴
家族性腫瘍 , 11 , 14-18  (2011)
原著論文11
Fujii K, Ohashi H, Suzuki M, Hatsuse H, Shiohama T, Uchikawa H, Miyashita T.
Frameshift mutation in the PTCH2 gene can cause nevoid basal cell carcinoma syndrome.
Familial Cancer (in press)  (2013)
原著論文12
Kijima C, Miyashita T, Suzuki M, Oka H, Fujii K.
Two cases of nevoid basal cell carcinoma syndrome associated with meningioma caused by a PTCH1 or SUFU germline mutation.
Fam Cancer. , 11 , 565-570  (2012)
原著論文13
藤井克則、宮下俊之
ゴーリン症候群
日本臨床 日本臨床 新領域別症候群シリーズNo. 28。神経症候群(第2版)Ⅲ 581-4. , 28 , 581-584  (2014)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-29

収支報告書

文献番号
201128081Z