文献情報
文献番号
199700993A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患に関する分子病態研究班
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
辻 省次(新潟大学脳研究所臨床神経科学部門神経内科分野)
研究分担者(所属機関)
- 井上正康(大阪市立大学医学部第一生化学教室)
- 木下タロウ(大阪大学微生物病研究所)
- 垣塚彰(大阪バイオサイエンス研究所)
- 道勇学(名古屋大学医学部神経内科)
- 末松誠(慶應義塾大学医学部医化学教室)
- 西本育夫(慶應義塾大学医学部薬理学教室)
- 永井良三(群馬大学医学部第二内科)
- 赤池孝章(熊本大学医学部微生物学教室)
- 三谷絹子(東京大学医学部第三内科)
- 中川正法(鹿児島大学医学部第三内科)
- 小嶋哲人(名古屋大学医学部第一内科)
- 岩井一宏(京都大学大学院医学研究科感染・免疫学講座免疫細胞生物学)
- 児玉龍彦(東京大学先端科学技術研究センター)
- 安河内幸雄(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 横断的基盤研究グループ 基盤研究部門
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
近年の分子遺伝学的研究の進歩は著しく、遺伝性の難治性疾患についても原因遺伝子が同定されつつある。本研究班では、遺伝子異常が、タンパク、細胞、組織のレベルでどのような機序で細胞障害、組織障害を引き起こすかという点に焦点を当て、難治性特定疾患の病態機構を解明し、治療学へと発展させることを目的としている。大きな柱として 1.神経変性疾患の分子病態機序の解明、2.難治性特定疾患に関する分子病態機構を明らかにする、3.難病発症に関する酸化的ストレスの役割の3つをあげ研究を展開している。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
本研究班は設立の主旨から、横断的な班構成を行っており、その結果、研究領域も多岐にわたるが、それらを概略的に分類して説明する。
神経疾患:辻(省次)らはアデノウイルスベクターを用いて 野生型および変異型DRPLA cDNAについて、両側から欠失させ、大部分CAGリピートとした断片を含むアデノウイルスベクターを作成し、皮膚線維芽細胞、neuronal PC12細胞に感染させたところ、neuronal PC12細胞では、皮膚線維芽細胞に比較して早期から高率に核内封入体を形成しアポトーシスを示すことを明らかにした。この結果は、最近CAGリピート病剖検脳において核内封入体が変性部位の神経細胞に観察されることとあわせて、神経細胞における核内封入体形成が重要であることを示している。山田らは、DRPLAタンパク質がcaspaseの基質となることを示した。垣塚らは伸長したCAGリピート部分をinducibleに発現するPC12細胞を確立し、伸長したポリグルタミンの細胞毒性を定量的に解析することを可能とした。今後 治療法 開発の点で、この培養細胞系は有用であると考えられる。滝山らは、歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症 (DRPLA) 患者2名の精子について、変異DRPLA遺伝子の増大CAGリピートの長さの分布を調べ、他のCAGリピート病に比較して、CAGリピートが著しく不安定であることを示した。
中川らは、沖縄型筋萎縮症の遺伝子座を3q13.1領域にまで狭めることができた。これを足場にして病因遺伝子クローニングが期待される。阿部らは、11家系の家族性筋萎縮性側索硬化症においてCu/Zn superoxide dismutase (SOD1) 遺伝子の解析を行い、7種類の遺伝子変異を見いだし、臨床像との対比を行った。
岩井らは、鉄結合により生じる酸化変化がユビキチン依存性のプロテアソームによる選択的分解のシグナルになることを示した。
岩坪らは、Lewy小体を単離して単クローン抗体を作成し、その抗原が最近一部の家族性パーキンソン病で責任遺伝子として 発見された α-synucleinに一致することを示し、一般のパーキンソン病における α-synucleinの重要性を示した。
西本らは、家族性アルツハイマー病の病因遺伝子の一つであるアミロイド前駆体タンパク遺伝子 (APP) について変異型APPが、Goを活性化した後に遊離されるGβ2γ2を介してアポトーシスを誘導することを証明した。
中里らは、家族性アミロイドポリニューロパチーの診断法として質量分析法を用いたシステムを確立し、新たに3種類の遺伝子変異を見いだした。
堂浦らは、プリオン病の病態機序を明らかにする目的で、differential display法を用いて発症前の罹患脳においてカテプシンS、 シスタチンC、 ライソザイムMなどの発現亢進を見いだした。
道勇らは、分子インデックス法を用いて、筋萎縮性側索硬化症脊髄前角において特異的に遺伝子発現が変動している84個の遺伝子を同定した。
池田らは、家族性モヤモヤ病の病因を解析すべく、全染色体にわたる連鎖解析を開始した。
佐谷らは、神経線維腫症2型の責任遺伝子産物merlinに結合するタンパクとして、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼとKu80であることを見いだした。
肺疾患:慶長は、びまん性汎細気管支炎とHLA-B*5401、TAP2遺伝子多型性との間の相関を見いだし、これらの遺伝子が疾患感受性にかかわっている可能性を示した。
心疾患:永井は、老化のモデルであるklotho遺伝子の欠損マウスを用いて解析を行い、kloth遺伝子産物は、血管内皮細胞の一酸化窒素の賛成を高めることにより、血管保護効果を示す液性因子であることを明らかにした。
内分泌疾患:後藤は、ヒトAd4BP(SF-1) 遺伝子の全構造を決定し、性分化機構におけるヒトAd4BP遺伝子の転写調節機構について解析を行った。矢野は、男児の思春期早発症の遺伝子変異として、LH/GC受容体のミスセンス変異がcAMP伝達系を活性化することを見いだした。
網膜色素変性症:大黒は、悪性腫瘍随伴性網膜症の発症機構を調べるために、26kDaのリカバリン、70kDaのタンパクが自己抗原として作用している可能性を見いだし、その発症機構の解析を進めている。
腎疾患:今井らは、TGFβ 受容体キメラ分子を用いた糖尿病性腎症の治療の可能性を見いだした。
血栓性疾患:小嶋は、プロテインC (PC) Nagoyaが分泌されず細胞内で速やかに分解されること、ERからGolgi装置への輸送過程が障害されている可能性が高いことを見いだした。辻(肇)らは血栓性素因の一つ先天性アンチトロンビン (AT) 欠損症の6家系について3種類のミスセンス変異を同定した。
免疫不全症:塚田は、無ガンマグロブリン血症の責任遺伝子産物であるBtkについての機能解析を行い、その生理的基質としてWASP (Wiscott-Aldrich 症候群の責任遺伝子)を同定した。
造血疾患:三谷は、Evi-1による不応性貧血発症の機構を明らかにする目的で、TGFβ増殖抑制シグナルについてレポーター遺伝子を利用した解析の結果、Evi-1はTGFβによる転写活性化を抑制することを証明した。木下らは、再生不良性貧血に高率に合併する発作性夜間血色素尿症では、PIG-A遺伝子が体細胞性に変異しその変異を有する造血幹細胞が異常増殖することが病態機序であることを明らかにした。造血幹細胞のクローンの異常増殖のメカニズムを明らかにする目的で、片方のPIG-A遺伝子を欠失するマウスを作成し、胎児期の肝細胞を致死量照射したマウスに移植し、キメラマウスを作成、PIG-A遺伝子欠損造血幹細胞の異常増殖を解析する実験系が確立された。
高脂血症:児玉らは、ステロール代謝の中心的な役割を果たしているSREBP (Sterol responsive element binding protein)に着目し、生細胞の状態でその活性を測定できる基質を新たに開発した。武城らは高脂血症の動物モデルの一つであるニワトリR/Oについて、VLDL受容体遺伝子に変異を発見した。
皮膚疾患:石川らは、ヒト線維芽細胞を低酸素、低栄養下に培養し、TGFβmRNA発現の上昇と、MMP-1 mRNAの発現の低下をもたらすことを見いだした。
疾患の発症機構に関する基礎的研究:末松らは、ヘムオキシゲナーゼの2種類のアイソザイム (HO-1、 HO-2)について、HO-1はKupffer 細胞に、HO-2は肝細胞に高発現していることを明らかにした。
安河内らは、血管内皮細胞上のE-セレクチンは恒常的にリン酸化を受けており、白血球の接着に伴って脱リン酸化をおこすことを見いだした。
工田らは、リポポリサッカライドによる内耳炎のモデルを用いて、NOSII、キサンチンオキシダーゼ、ニトロチロシン量等が増大すること、これらが NOS阻害剤、SOD、パーオキシナイトライト消去剤により抑制されることを見いだした。
赤池らは、インフルエンザ肺炎モデルパーオキシナイトライトが、細胞外マトリックスプロテアーゼを活性化すること、ウイルスのRNAゲノムに対して強い変異原性を示すことを明かにした。井上らは、虚血再循環病態で血管がSOD依存性に弛緩すること、これが低酸素下でのNO依存性cGMP産生増加に起因することを示した。瀬戸口らは、内皮細胞由来NO合成酵素cDNAを経気道的に遺伝子導入し急性低酸素暴露に由来する肺動脈の昇圧反応を有意に抑制することを報告した。
まとめ:以上、本年度においては、多方面にわたる研究が行われたが、中でもトリプレットリピート病における神経細胞変性機構、老化モデルマウスで見いだされたklotho遺伝子の機能解析などの点で、飛躍的な発展が見られた。さらに、本研究班は横断的な構成をしていることから、基礎系の研究者、臨床系の研究者の交流、異なる分野の研究者の間で活発な意見の交換が行われ、研究の推進上有益であった。
神経疾患:辻(省次)らはアデノウイルスベクターを用いて 野生型および変異型DRPLA cDNAについて、両側から欠失させ、大部分CAGリピートとした断片を含むアデノウイルスベクターを作成し、皮膚線維芽細胞、neuronal PC12細胞に感染させたところ、neuronal PC12細胞では、皮膚線維芽細胞に比較して早期から高率に核内封入体を形成しアポトーシスを示すことを明らかにした。この結果は、最近CAGリピート病剖検脳において核内封入体が変性部位の神経細胞に観察されることとあわせて、神経細胞における核内封入体形成が重要であることを示している。山田らは、DRPLAタンパク質がcaspaseの基質となることを示した。垣塚らは伸長したCAGリピート部分をinducibleに発現するPC12細胞を確立し、伸長したポリグルタミンの細胞毒性を定量的に解析することを可能とした。今後 治療法 開発の点で、この培養細胞系は有用であると考えられる。滝山らは、歯状核赤核・淡蒼球ルイ体萎縮症 (DRPLA) 患者2名の精子について、変異DRPLA遺伝子の増大CAGリピートの長さの分布を調べ、他のCAGリピート病に比較して、CAGリピートが著しく不安定であることを示した。
中川らは、沖縄型筋萎縮症の遺伝子座を3q13.1領域にまで狭めることができた。これを足場にして病因遺伝子クローニングが期待される。阿部らは、11家系の家族性筋萎縮性側索硬化症においてCu/Zn superoxide dismutase (SOD1) 遺伝子の解析を行い、7種類の遺伝子変異を見いだし、臨床像との対比を行った。
岩井らは、鉄結合により生じる酸化変化がユビキチン依存性のプロテアソームによる選択的分解のシグナルになることを示した。
岩坪らは、Lewy小体を単離して単クローン抗体を作成し、その抗原が最近一部の家族性パーキンソン病で責任遺伝子として 発見された α-synucleinに一致することを示し、一般のパーキンソン病における α-synucleinの重要性を示した。
西本らは、家族性アルツハイマー病の病因遺伝子の一つであるアミロイド前駆体タンパク遺伝子 (APP) について変異型APPが、Goを活性化した後に遊離されるGβ2γ2を介してアポトーシスを誘導することを証明した。
中里らは、家族性アミロイドポリニューロパチーの診断法として質量分析法を用いたシステムを確立し、新たに3種類の遺伝子変異を見いだした。
堂浦らは、プリオン病の病態機序を明らかにする目的で、differential display法を用いて発症前の罹患脳においてカテプシンS、 シスタチンC、 ライソザイムMなどの発現亢進を見いだした。
道勇らは、分子インデックス法を用いて、筋萎縮性側索硬化症脊髄前角において特異的に遺伝子発現が変動している84個の遺伝子を同定した。
池田らは、家族性モヤモヤ病の病因を解析すべく、全染色体にわたる連鎖解析を開始した。
佐谷らは、神経線維腫症2型の責任遺伝子産物merlinに結合するタンパクとして、ポリ(ADPリボース)ポリメラーゼとKu80であることを見いだした。
肺疾患:慶長は、びまん性汎細気管支炎とHLA-B*5401、TAP2遺伝子多型性との間の相関を見いだし、これらの遺伝子が疾患感受性にかかわっている可能性を示した。
心疾患:永井は、老化のモデルであるklotho遺伝子の欠損マウスを用いて解析を行い、kloth遺伝子産物は、血管内皮細胞の一酸化窒素の賛成を高めることにより、血管保護効果を示す液性因子であることを明らかにした。
内分泌疾患:後藤は、ヒトAd4BP(SF-1) 遺伝子の全構造を決定し、性分化機構におけるヒトAd4BP遺伝子の転写調節機構について解析を行った。矢野は、男児の思春期早発症の遺伝子変異として、LH/GC受容体のミスセンス変異がcAMP伝達系を活性化することを見いだした。
網膜色素変性症:大黒は、悪性腫瘍随伴性網膜症の発症機構を調べるために、26kDaのリカバリン、70kDaのタンパクが自己抗原として作用している可能性を見いだし、その発症機構の解析を進めている。
腎疾患:今井らは、TGFβ 受容体キメラ分子を用いた糖尿病性腎症の治療の可能性を見いだした。
血栓性疾患:小嶋は、プロテインC (PC) Nagoyaが分泌されず細胞内で速やかに分解されること、ERからGolgi装置への輸送過程が障害されている可能性が高いことを見いだした。辻(肇)らは血栓性素因の一つ先天性アンチトロンビン (AT) 欠損症の6家系について3種類のミスセンス変異を同定した。
免疫不全症:塚田は、無ガンマグロブリン血症の責任遺伝子産物であるBtkについての機能解析を行い、その生理的基質としてWASP (Wiscott-Aldrich 症候群の責任遺伝子)を同定した。
造血疾患:三谷は、Evi-1による不応性貧血発症の機構を明らかにする目的で、TGFβ増殖抑制シグナルについてレポーター遺伝子を利用した解析の結果、Evi-1はTGFβによる転写活性化を抑制することを証明した。木下らは、再生不良性貧血に高率に合併する発作性夜間血色素尿症では、PIG-A遺伝子が体細胞性に変異しその変異を有する造血幹細胞が異常増殖することが病態機序であることを明らかにした。造血幹細胞のクローンの異常増殖のメカニズムを明らかにする目的で、片方のPIG-A遺伝子を欠失するマウスを作成し、胎児期の肝細胞を致死量照射したマウスに移植し、キメラマウスを作成、PIG-A遺伝子欠損造血幹細胞の異常増殖を解析する実験系が確立された。
高脂血症:児玉らは、ステロール代謝の中心的な役割を果たしているSREBP (Sterol responsive element binding protein)に着目し、生細胞の状態でその活性を測定できる基質を新たに開発した。武城らは高脂血症の動物モデルの一つであるニワトリR/Oについて、VLDL受容体遺伝子に変異を発見した。
皮膚疾患:石川らは、ヒト線維芽細胞を低酸素、低栄養下に培養し、TGFβmRNA発現の上昇と、MMP-1 mRNAの発現の低下をもたらすことを見いだした。
疾患の発症機構に関する基礎的研究:末松らは、ヘムオキシゲナーゼの2種類のアイソザイム (HO-1、 HO-2)について、HO-1はKupffer 細胞に、HO-2は肝細胞に高発現していることを明らかにした。
安河内らは、血管内皮細胞上のE-セレクチンは恒常的にリン酸化を受けており、白血球の接着に伴って脱リン酸化をおこすことを見いだした。
工田らは、リポポリサッカライドによる内耳炎のモデルを用いて、NOSII、キサンチンオキシダーゼ、ニトロチロシン量等が増大すること、これらが NOS阻害剤、SOD、パーオキシナイトライト消去剤により抑制されることを見いだした。
赤池らは、インフルエンザ肺炎モデルパーオキシナイトライトが、細胞外マトリックスプロテアーゼを活性化すること、ウイルスのRNAゲノムに対して強い変異原性を示すことを明かにした。井上らは、虚血再循環病態で血管がSOD依存性に弛緩すること、これが低酸素下でのNO依存性cGMP産生増加に起因することを示した。瀬戸口らは、内皮細胞由来NO合成酵素cDNAを経気道的に遺伝子導入し急性低酸素暴露に由来する肺動脈の昇圧反応を有意に抑制することを報告した。
まとめ:以上、本年度においては、多方面にわたる研究が行われたが、中でもトリプレットリピート病における神経細胞変性機構、老化モデルマウスで見いだされたklotho遺伝子の機能解析などの点で、飛躍的な発展が見られた。さらに、本研究班は横断的な構成をしていることから、基礎系の研究者、臨床系の研究者の交流、異なる分野の研究者の間で活発な意見の交換が行われ、研究の推進上有益であった。
公開日・更新日
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