ATR-X(X連鎖αサラセミア・精神遅滞)症候群の診断及び治療方法の更なる推進に関する研究

文献情報

文献番号
201128075A
報告書区分
総括
研究課題名
ATR-X(X連鎖αサラセミア・精神遅滞)症候群の診断及び治療方法の更なる推進に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-114
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
和田 敬仁(地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター 神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂 仁(地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター 神経内科 )
  • 黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
  • 齋藤 伸治(名古屋市立大学 大学院医学研究科・医学部)
  • 福嶋 義光(国立大学法人 信州大学 医学部 遺伝医学・予防医学講座)
  • 田辺 秀之(総合研究大学院大学 先導科学研究科)
  • 松本 直通(横浜市立大学 医学部 遺伝医学)
  • 岡本 伸彦(大阪府立母子保健総合医療センター 遺伝診療部)
  • 後藤 雄一(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
X連鎖性αサラセミア・精神遅滞(ATR-X:X-linked α-thalassemia/Mental Retardation)症候群は、重度精神遅滞、特異顔貌、αサラセミア、性分化異常、骨格異常、行動異常など多彩な症状を特徴とする奇形症候群である。責任遺伝子ATRXはX染色体に局在し、DNAメチル化とともに、エピジェネティクス機構に関わるクロマチンリモデリング蛋白因子をコードしているがその機能は不明な部分が多い。本研究では、臨床研究において、国内における患者数の把握と臨床症状の登録、診断基準の作成、疾患の周知を目的とし、基礎研究においては、病態解明とリサーチリソースの整備を目的とした。
研究方法
本研究においては、臨床的研究および基礎的研究を推進するための研究班を構成した。臨床的研究においては、日本におけるATR-X症候群の頻度の推定(黒澤)、患者データベースの作成および診断基準の作成(岡本,黒澤、斉藤、和田)、患者・ご家族への医療情報提供のためのホームページの作成や勉強会の開催(黒澤、和田)を目的とした。また、基礎的研究として、ATR-X症候群の分子遺伝学的診断方法の確立(小坂、和田)、病態解明のためのオリゴDNAアレーを用いた解析(松本)、3D-FISH法を用いた遺伝子発現と核内配置の解析(田辺)を行うとともに、臨床および基礎研究推進のための基盤整備(後藤、福嶋)を目的とした。
結果と考察
臨床研究においては56家系68名で ATRX遺伝子変異を明らかにし、その臨床情報をまとめ、診断基準および脳MRI所見の分類を行い、アメリカ人類遺伝学会で発表した。大阪府堺市で第3回勉強会を行い、19の患者様・ご家族とともに情報交換を行った。また、Gibbons博士による講演会を行うとともに、最新のATRX研究について情報交換を行った。基礎研究においては、ATR-X症候群の鑑別診断として重要な疾患の診断方法を確立した。また、病態解明として、3D-FISH法を用いた検討により、ATR-X症候群においては、核内における遺伝子空間配置の特性が健常者と異なることが示された。
結論
本研究において、ATR-X症候群の臨床および基礎研究の基盤整備が行われた。来年度は、臨床研究においては診断基準の確立、基礎研究においてはATR-X症候群患者のiPS細胞を用いた神経細胞を中心とした病態解明を進めていきたい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201128075B
報告書区分
総合
研究課題名
ATR-X(X連鎖αサラセミア・精神遅滞)症候群の診断及び治療方法の更なる推進に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-114
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
和田 敬仁(地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター 神経内科)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂 仁(地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター 神経内科 )
  • 黒澤 健司(地方独立行政法人神奈川県立病院機構 神奈川県立こども医療センター 遺伝科)
  • 齋藤 伸治(名古屋市立大学 大学院医学研究科・医学部)
  • 福嶋 義光(国立大学法人 信州大学 医学部 遺伝医学・予防医学講座)
  • 田辺 秀之(総合研究大学院大学 先導科学研究科)
  • 松本 直通(横浜市立大学 医学部 遺伝医学)
  • 岡本 伸彦(大阪府立母子保健総合医療センター 遺伝診療部)
  • 後藤 雄一(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 神経研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
X連鎖性αサラセミア・精神遅滞(ATR-X:X-linked α-thalassemia/Mental Retardation)症候群は、重度精神遅滞、特異顔貌、αサラセミア、性分化異常、骨格異常、行動異常など多彩な症状を特徴とする奇形症候群である。責任遺伝子ATRXはX染色体に局在し、DNAメチル化とともに、エピジェネティクス機構に関わるクロマチンリモデリング蛋白因子をコードしているがその機能は不明な部分が多い。本研究では、臨床研究において、国内における患者数の把握と臨床症状の登録、診断基準の作成、疾患の周知を目的とし、基礎研究においては、病態解明とリサーチリソースの整備を目的とした。
研究方法
本研究においては、臨床的研究および基礎的研究を推進するための研究班を9名の班員により構成した。臨床研究は、和田、岡本、黒澤が、基礎研究は松本、田辺、小坂、齋藤が、臨床および基礎研究推進のための基盤整備は後藤、福嶋が担当した。
結果と考察
1.日本人患者56家系68名でATRX遺伝子変異を同定し、その臨床像をまとめた。2.診断基準を作成し、アメリカ人類遺伝学会(ASHG)で発表した。3.脳MRIの所見を分類し、ASHGで発表した。4.患者・ご家族、患者に関わるスタッフを対象に勉強会を3回開催し、ATR-X症候群に関する情報を共有するとともに、ご家族との情報交換を行った。4.ホームページを作成し、本症候群の周知に役立てた。5.Gibbons博士による講演会を開催し、最新のATRX研究について情報交換を行った。6. ATR-X症候群の鑑別診断として重要な疾患の診断方法を確立した。7.3D-FISH法を用いた検討により、核内における遺伝子空間配置の異常が本症候群発症に関わっている可能性を示した。8.患者由来の皮膚線維芽細胞からiPS細胞を樹立した(熊本大学発生医学研究所江良択実教授との共同研究による)。
結論
臨床研究においては、日本における本症候群の患者のほとんどの情報を登録し、これにより、診断基準および脳MRI所見の分類を提唱することが出来、一定の評価を受けた。勉強会の開催は、希少疾患ゆえに孤立しがちな患者・ご家族に大きな力を与えたことは大変意義がある。基礎研究においては、エピジェネティクス、遺伝子発現とその核内空間配置を結びつけるデータであり、iPS細胞の樹立により、より一層の基礎研究の発展が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128075C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ATR-X症候群の責任遺伝子であるATRX はエピジェネティクスに関わると考えられているが、その機能は不明な点が多い。今回の我々の研究において、3D-FISH法を用いて、ATR-X染色体の発症に、遺伝子の空間配置の特異性の破綻が関わっていることが示された。これは、エピジェネティクス、遺伝子の発現、核内における遺伝子・染色体の空間配置の3者の関連を示し、大変興味深い。また、患者皮膚線維芽細胞からのiPS細胞樹立により、病態解明への基礎研究の発展が期待される。
臨床的観点からの成果
日本人患者56家系68名でATRX遺伝子変異を同定し、日本国内におけるATR-X症候群の患者の診断のほとんどに関わり、臨床情報を登録することが出来た。これにより、診断基準および脳MRI所見の分類を提唱することが可能となった。また、ホームページの公開、勉強会の開催により、本症候群を臨床家に周知することが出来、認知度が飛躍的に上昇した。また、情報交換することにより、より良い患者のマネジメント方法を検討することが出来た。
ガイドライン等の開発
登録された患者の臨床情報をもとに、ATR-X症候群の診断基準を作成し、第60回アメリカ人類遺伝学会(2010年10月、ワシントンDC)においてPlatform sessionで発表した。また、今まで注目されていなかった脳MRI所見に着目し、脳MRI所見の分類を提唱し、第61回同学会(2011年11月、モントリオール)でポスター発表した。
その他行政的観点からの成果
神奈川県立こども医療センターにおける患者数の推定から、ATR-X症候群の発生頻度は、Down症候群の約145分の1であり、男児5.8-7.3万人に1人であることが示された。日本における出生数は約100万人で、年間約10人が発症していると推定され、診断されていない症例が多数存在すると推測される。
その他のインパクト
「ATR-X症候群 患者さんに関わる皆さんのための勉強会」を開催した。第1,2回は平成22年2月および9月に神奈川県立こども医療センター(横浜市)で、第3回は平成23年9月に国際障害者交流センター(大阪府堺市)で開催した。全国より、のべ47患者・ご家族、総勢200名を超える方々にご参加いただいた。また、ATR-X症候群ネットワークジャパンを設立し、ホームページを作成し、ご家族や医療者に対する本症候群の周知、および情報の提供に大きな役割を果たした。

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
4件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
第52および54回日本小児神経学会、第55回日本人類遺伝学会で発表。
学会発表(国際学会等)
3件
第60および61回アメリカ人類遺伝学会で発表。
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計1件
その他成果(特許の取得)
0件
特許出願2011-19561 弱酸性陽イオン交換カラムを用いた生体アミンの検出.
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件
「ATR-X症候群ネットワークジャパン」の設立とホームページの公開 「ATR-X症候群 患者さんに関わる皆さんのための勉強会」を開催(第1~3回)

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
和田敬仁
小児神経科医が知っておくべき遺伝学的検査シリーズ X連鎖性精神遅滞症候群の兄弟例
脳と発達 , 47 (3) , 161-162  (2015)
原著論文2
和田敬仁
X連鎖精神遅滞症候群 症候群性X連鎖精神遅滞 ATR-X症候群
日本臨床 別冊神経症候群IV , 441-444  (2014)
原著論文3
Shimbo H, Ninomiya S, Kurosawa K, Wada T
A case report of two brothers with ATR-X syndrome due to low maternal frequency of somatic mosaicism for an intragenic deletion in the ATRX.
J Hum Genet , 59 (7) , 408-410  (2014)
原著論文4
海老島優子、三崎貴子、大和謙二。奥野毅彦、和田敬仁、末廣豊
喉頭軟化症による無呼吸発作を繰り返したX連鎖αサラセミア・精神遅滞(ATR-X)症候群の1症例
脳と発達 , 45 (1) , 44-48  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-05-26

収支報告書

文献番号
201128075Z