特定疾患に関する免疫研究班

文献情報

文献番号
199700992A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患に関する免疫研究班
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
山本 一彦(東京大学医学部物療内科)
研究分担者(所属機関)
  • 佐伯行彦(大阪大学医学部第三内科)
  • 西村泰治(熊本大学大学院医学研究科免疫識別学)
  • 中尾真二(金沢大学医学部附属病院第三内科)
  • 山村隆(国立精神・神経センター神経研究所疾病研究第6部)
  • 住田孝之(聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター)
  • 斉藤隆(千葉大学医学部附属高次機能制御研究センター遺伝子情報分野)
  • 東みゆき(国立小児病院小児医療研究センター免疫研究室)
  • 高昌星(信州大学医学部附属病院第三内科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 横断的基盤研究グループ 基盤研究部門
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の柱とするテーマは、「免疫疾患の病因となる特異抗原を検索する新たな技術、さらにその特異抗原に対する免疫応答を検出、解析し、制御する基盤技術を開発、推進する。」である。本研究班の母体は、特定疾患に関する免疫研究班として、平成8年度に指定班員5名、公募班員5名、研究協力者3名、班長を加え14名でスタートした。本年度、班員の研究費の一部を厚生科学研究「免疫・アレルギー等研究事業」から得ることになり、また一部班員が科学技術庁の大型研究のため班を離れたため若干班の構成を変更した。本年度も上記の独自班員に、特定疾患調査研究班の臨床研究グループからの難病特別研究員9名が加わり、全体で21名の構成で平成9年度の研究事業を行った。上述のテーマから、主として研究の対象とする分子群は、抗原提示細胞上の主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子、それに結合する抗原ペプチド、それらを認識するT細胞レセプター(TCR)、さらにこれらの細胞間抗原認識に重要な役割をはたす細胞表面機能分子などがある。免疫応答を制御するという意味で、サイトカインも取り上げた。本班は方法論が主眼なので、対象疾患は限定していない。
研究方法
研究方法、T細胞に関しての基礎的検討として、佐伯班員は慢性関節リウマチにおける病態形成性T細胞の解析を行った。SCIDマウスへの細胞移入実験から、病態形成性T細胞が存在すると考えられる患者を同定し、その病変滑膜組織に集積したT細胞のTCR配列に患者間で共通なものがあることを見い出した。さらにこの配列を持つT細胞クローンを樹立し、病態形成性T細胞であることも証明した。今後、これらのクローンを用いることで、対応抗原を同定することが可能になると思われる。西村班員はインスリン依存型糖尿病におけるHLA分子の解析から、日本人患者は欧米白人にない抗原提示の様式である可能性を考えた。そこで、標的抗原の一つと考えられるGAD65 に注目し、そのオーバーラッピングペプチドを用いてT細胞クローンを樹立した。その結果、Th1様で細胞傷害活性を持ち、欧米人とは異なるクラスII分子により抗原提示されるT細胞が患者に存在することが判明した。このようなT細胞クローンは健常人では検出されなかった。中尾班員は、再生不良性貧血患者の骨髄中のT細胞に注目し、異なる患者でVβ15陽性で類似のCDR3モチーフを持つT細胞がクローナルに増殖していることを明らかにした。さらに、このようなT細胞の消長が、CDR3サイズの分析やSSCP法により、疾患の寛解継続と相関があることを見いだした。
山村班員は、多発性硬化症患者の末梢血リンパ球における抗原特異的T細胞をSSCP法で解析し、それらが持続的に存在することを見い出し、さらにこれらの抗原特異性を、抗原との培養後のクローンとの同一性で簡単に同定できることを示した。本法は、昨年本研究班で山本らが報告した方法である。住田班員は、SSCP法とペプチドライブラリーを用いる法、West-Western法を用いる法などにより、T細胞の対応自己抗原を解析する手法の確立を目指し、実際にシェーグレン症候群患者の口唇唾液腺に集積しているT細胞クローンの標的抗原を決定することが可能であることを示した。山本班員は、既に確立したSSCP法を用いたT細胞クロノタイプ解析法を発展させ、病変に集積しているT細胞のTCRを試験管内で再構築するための方法として、一つの細胞内で、TCRのα鎖とβ鎖のRNAの情報を結合させる方法を確立した。病変に集積しているT細胞の抗原認識機構を試験管内で再構築することが出来れば、病因抗原の同定などに広く応用可能である。以上各班員が確立しつつある方法が簡単に利用できるようになれば、今後多くの疾患での病因抗原の同定と病態形成性T細胞の把握が可能となると考えられる。上阪研究協力者は、アンカードPCR-ELISA法により使用V領域遺伝子を同定し、その情報を用いて全長cDNAを単離する方法を開発した。
抗原認識以外の分子に関する研究では、斉藤班員はFcR欠損マウスの作成を通じて、マスト細胞上のFcRが自己免疫性の血管炎の発症に重要な役割を果たしていることを見いだした。また東班員は、抗原特異的T細胞の反応に際しての補助因子としてのCTLA-4分子に注目し、種々の反応系でこの分子が反応を抑制 する方向に働いていることを見いだした。さらに、高班員はタイラー脳脊髄炎ウイルスによる免疫性脱髄疾患において、IL-12がCD4陽性Th1細胞を活性化し、病態の形成に重要であることを見いだした。石田研究協力者は、IFNγとIL-10に注目し、これらとそれに対する抗体を組み合わせることで、自己免疫疾患のモデル動物の病態への影響を検討した。これらの分子の研究は、今後、病態形成性T細胞を制御する上での重要な知見を与えてくれるものと考えられる。
結果と考察
結論
以上、まだ班の発足より間もない為、今年度の成果だけで十分満足できるものは多くはないが、来年度以降に向けた確実な進展が見られたと考える。わが国の免疫学の分野は、例えばサイトカインやそのシグナル伝達を中心とした基礎的研究では国際的にリーダーの役割を果たしているが、疾患に関する研究は十分進んでいない。さらに抗原特異的免疫応答の解析については、国内外でまとまった研究体制が組まれる機会は多くない。しかし、各疾患の病因、病態の解析、将来的な抗原特異的免疫療法などの重要性を考慮すると、疾患における抗原特異的免疫異常を追及する手法を確立し、その異常を制御する方法の研究を推進することは大きな意義がある。これらの点を考慮して、班員間の技術的交流の促進を計りつつ、来年度以降の研究を進めたい。

公開日・更新日

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