先天性高インスリン血症の病態解明と治療適正化に関する研究

文献情報

文献番号
201128062A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性高インスリン血症の病態解明と治療適正化に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-101
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
依藤 亨(大阪市立総合医療センター 小児代謝・内分泌内科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉澤明彦(信州大学医学部 病態解析診断学講座)
  • 増江道哉(木沢記念病院 小児科)
  • 西堀弘記(木沢記念病院 放射線科)
  • 楠田 聡(東京女子医科大学 母子総合医療センター)
  • 河井昌彦(京都大学 新生児集中治療部)
  • 安達昌功(神奈川県立こども医療センター 内分泌代謝科)
  • 市場博幸(大阪市立総合医療センター 新生児科)
  • 井上 健(大阪市立総合医療センター 病理部)
  • 中村哲郎(大阪市立総合医療センター 小児外科)
  • 平野賢一(大阪大学大学院 循環器内科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦において欧米先進諸国と比べて実態把握・診断・治療面で遅れがあると考えられる先天性高インスリン血症について、早急に診療態勢を整えて国際的水準の医療を実現するとともに、新規医療を開発してより良い予後を達成することを目的とした研究である。
研究方法
本研究班では平成22年度に、我が国の持続性先天性高インスリン血症の全症例に対応できる欧米並みの遺伝子診断体制・PET診断体制を整えた。その基盤に立って、平成23年度は持続性本症に対して、(1)我が国での長期予後の検証、(2)前年度確立した診断・治療手法のより多数での検証、(3)外科治療困難例に対するオクトレオチド持続皮下注療法の開発と検証、(4)診断・治療体制の広報、永続提供体制の確立を行い、また一過性本症に対しては、(1)大規模な糖尿病母体児データベースの検討による一過性本症の発症頻度の検討、(2)我が国で本症に対して唯一保険適用のあるジアゾキサイドについて使用状況調査を行い、臨床的問題点の検討を行った。
結果と考察
上記の検討により、下記の結果を得た。(1)持続性本症症例の長期予後調査から、本症に自然治癒傾向があることを確認した。(2)全145例の遺伝子解析から、我が国における本症のうち、ジアゾキサイド抵抗性症例の80%ではKATPチャネルの父由来片アリル変異があり、局所切除の対象となる局所性病変が大部分であることを証明した。実際に、局所切除により大部分の症例を治癒に導いた。(3)びまん性病変や膵頭部局所性病変など外科治療が困難な症例に対し、オクトレオチド持続皮下注射療法を行い、2例を自然治癒に導いた。また、残りの症例も改善傾向である。(4)確立した治療体制の永続化のため、遺伝子診断の先進医療化を申請し、またPET診断の有償継続提供体制を整えた。一過性本症に対しては、(1)一過性の先天性高インスリン血症が決してまれではなく、従来新生児でケトン体が陽性になりにくいと考えられた原因の一部がその点にある可能性が示唆された。(2)ジアゾキサイド治療の副作用としての水分貯留が臨床的問題点となり得ることを見出し、望ましい治療方針を提案した。
結論
平成23年度の研究で、我が国の持続性本症に対する診療レベルは欧米同等に近いものとなった。先進的医療の継続提供体制を確保するとともに残存する問題点に対して、引き続き解決のために努力が必要である。

公開日・更新日

公開日
2013-03-04
更新日
-

文献情報

文献番号
201128062B
報告書区分
総合
研究課題名
先天性高インスリン血症の病態解明と治療適正化に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-101
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
依藤 亨(大阪市立総合医療センター 小児代謝・内分泌内科)
研究分担者(所属機関)
  • 吉澤 明彦(信州大学医学部 病態解析診断学講座)
  • 増江 道哉(木沢記念病院 小児科)
  • 西堀 弘記(木沢記念病院 放射線科)
  • 楠田 聡(東京女子医科大学 母子総合医療センター)
  • 河井 昌彦(京都大学 新生児集中治療部)
  • 安達 昌功(神奈川県立こども医療センター 内分泌代謝科)
  • 市場 博幸(大阪市立総合医療センター 新生児科)
  • 井上 健(大阪市立総合医療センター 病理部)
  • 中村 哲郎(大阪市立総合医療センター 小児外科)
  • 平野 賢一(大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学)
  • 米川 幸秀(京都大学 小児外科学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本邦において欧米先進諸国と比べて実態把握・診断・治療面で遅れがあると考えられる先天性高インスリン血症(CHI)について、早急に診療態勢を整えて国際的水準の医療を実現するとともに、新規医療を開発してより良い予後を達成する。
研究方法
持続性CHIに対しては、(1)我が国での長期予後の検証(2)遺伝疫学的研究による我が国における病型の検討(3)18F-DOPA PETによる局所性CHIの局在診断の試み(4)局在診断後の症例に対する、病変部局所切除による根治(5)KATP-CHIの自然治癒機構の解明のための、有症時・治癒後の18F-DOPA PET像の比較検討(6)外科治療困難例に対する自然治癒機構を利用した内科的治療の開発(7)確立した診療手法の永続提供のための社会基盤確立の整備を行った。また、一過性本症については、(1)大規模な糖尿病母体児データベースによる一過性本症の発症頻度の検討(2)我が国で本症に対して唯一保険適用のあるジアゾキサイドについて使用状況調査を行い、臨床的問題点の検討を行った。
結果と考察
(1)持続性本症症例の長期予後調査から、本症に自然治癒傾向があること、膵亜全摘を受けた患児では糖尿病が高率に発生していることを確認した。(2)我が国のCHIのうち、ジアゾキサイド抵抗性症例の80%ではKATPチャネルの父由来片アリル変異があり、局所切除による根治の対象となることを証明した。(3)病変の局在診断に18F-DOPA PETが有効であること、また我が国症例特有の困難もあることを見出した(4)実際に、局所切除により12例の症例を治癒に導いた。(5)外科治療が困難な症例に対するオクトレオチド持続皮下注射療法の有効性を確認した。(6)これらの成果を元に、本症治療の暫定的ガイドラインを策定した。(7)確立した治療体制の永続提供のため、遺伝子診断の先進医療化を申請し、またPET診断の有償継続提供体制を整えた。一過性本症に対しては、(1)一過性の先天性高インスリン血症が決してまれではないことを確認した。(2)ジアゾキサイド治療の副作用としての水分貯留が臨床的問題点となり得ることを見出し、望ましい治療方針を提案した。
結論
本研究で、我が国の持続性本症に対する診療レベルは欧米同等に近いものとなった。先進的医療の継続提供体制を確保するとともに残存する問題点に対して、引き続き解決のために努力が必要である。

公開日・更新日

公開日
2013-03-04
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128062C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我が国の先天性高インスリン血症の遺伝背景を明らかにし、ATP感受性カリウムチャネルの父由来片アリル変異を持つ者の比率が海外の報告より高頻度であることを明らかにした。また、本症の自然治癒が異常β細胞死を伴わない機能的変化であることを明らかにした。
臨床的観点からの成果
ATP感受性カリウムチャネルの父由来片アリル変異を持つものは、すなわち膵局所性病変の可能性が高く、従来膵亜全摘で糖尿病にいたっていた患者の多くは、18F-DOPA PETによる局在診断と組み合わせて後遺症なく治癒できる可能性があることが判明した。実際に、治療にも成功した。また、外科治療困難例に対する長期オクトレオチド治療も開発した。開発したオクトレオチド治療の成果を論文報告し、その成果を元にして、本治療の保険承認を目指した先進医療の申請にいたり、現在進行中である。
ガイドライン等の開発
報告書の中で、新生児高インスリン血症に対する暫定診療ガイドラインを提案した。本研究で得られた知見は、現在改訂中の小児内分泌学会の先天性高インスリン血症ガイドラインに反映される予定である。
その他行政的観点からの成果
今後、本症治療にあたって医原性糖尿病患者を作り続けないために、継続的な遺伝子診断、18F-DOPA PET診断体制の樹立が必要であることを報告書内で提議した。
その他のインパクト
本症治療においてオクトレオチド治療の有用性が学会内で認識され、小児内分泌学会からの本剤の保険適用採用の申請(医療上重要な未承認薬)がなされた。同申請は、その後不承認となったが、その際の指摘事項である国内外でのエビデンス不足を解決するための学会主導の臨床試験の開始につながり、現在進行中である。

発表件数

原著論文(和文)
10件
原著論文(英文等)
48件
その他論文(和文)
27件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
10件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Yorifuji T, Kawakita R, Nagai S et al.
Molecular and Clinical Analysis of Japanese Patients with Persistent Congenital Hyperinsulinism: Predominance of Paternally Inherited Monoallelic Mutations in the KATP Channel Genes.
J Clin Endocrinol Metab , 96 , 141-145  (2011)
原著論文2
Masue M, Nishibori H, Fukuyama S et al.
Diagnostic accuracy of [¹⁸F]-fluoro-L-dihydroxyphenylalanine positron emission tomography scan for persistent congenital hyperinsulinism in Japan.
Clin Endocrinol (Oxf) , 75 , 342-346  (2011)
原著論文3
Yorifuji T, Hosokawa Y, Fujimaru R et al.
Lasting F-DOPA PET Uptake after Clinical Remission of the Focal Form of Congenital Hyperinsulinism.
Horm Res Paediatr , 76 , 286-290  (2011)
原著論文4
川北理恵、杉峰啓憲、長井静世 他
本邦における先天性高インスリン血症の実態調査
日本小児科学会誌 , 115 , 563-569  (2011)
原著論文5
松原康策、和田珠希、依藤 亨 他
3年間のオクトレオチド持続皮下注射により膵手術を回避できた先天性高インスリン血症
日本小児科学会誌 , 115 , 1445-1450  (2011)
原著論文6
Yorifuji T, Kawakita R, Hosokawa Y et al.
Efficacy and safety of long-term, continuous subcutaneous octreotide infusion for patients with different subtypes of K(ATP) -channel hyperinsulinism
Clin Endocrinol(Oxf) , 78 , 891-897  (2013)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-20

収支報告書

文献番号
201128062Z