劇症1型糖尿病のウイルス原因説に関する研究

文献情報

文献番号
201128058A
報告書区分
総括
研究課題名
劇症1型糖尿病のウイルス原因説に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-097
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
永淵 正法(九州大学 医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 勝田仁(九州大学医学研究院)
  • 栗崎宏憲(九州大学医学研究院)
  • 下田和哉(宮崎大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
劇症1型糖尿病がウイルスにより発症する可能性が考えられるため、実験的脳心筋炎ウイルス誘発糖尿病モデル動物における感受性遺伝子を探索するとともにヒト劇症1型糖尿病の感受性遺伝子を探索同定し、将来の原因ウイルス同定につなげることを目的とする。
研究方法
Tyk2 (Tyrosine kinase 2)遺伝子欠損マウスがウイルス誘発糖尿病に感受性であるかどうかを検証した。一方,recombination activating gene 2(Rag2)遺伝子はT細胞あるいはB細胞の抗原特異的レセプターを形成するための遺伝子再構成に関与することによりリンパ球の多様性を生む獲得免疫の要である.そこで、ウイルス誘発糖尿病における自然免疫と獲得免疫の意義を解明する目的で,Tyk2 KO,Rag2 KOおよびTyk2 Rag2 double KOマウスを用いた検討を行った.また、放射線照射後の脾臓細胞移入実験を行うことによりTyk2遺伝子の発症制御における意義が、膵島実質細胞であるのか、免疫細胞が重要であるのかについて、検討した.
 次にヒトにおけるウイルス誘発糖尿病の感受性に関わる宿主要因を明らかにするために、ウイルス感染を先行とする1型糖尿病患者検体のヒトTYK2遺伝子多型の解析を行った。
結果と考察
脳心筋炎ウイルス亜種D株による実験研究では、膵島実質細胞におけるTyk2遺伝子発現がウイルス糖尿病に対する防御に重要であった。さらに、自然感受性系統のマウスで同定したTyk2遺伝子変異がウイルス糖尿病における感受性に関与することが明らかとなった.
 ヒトTYK2プロモーター領域の多型を検討した。その結果、あらたな多型を同定した。その意義について、1型糖尿病、2型糖尿病、健常対照で比較検討したところ、驚くべきことに、すべての糖尿病群で、対照群より、明らかに有意なリスク因子であると判定された。一方、花房班の協力も得て、劇症1型糖尿病患者で検討したところ、対照群よりこの多型の頻度は高かったが統計的な有意差は認められなかった。
結論
今回、ヒトおよびマウスにおいてウイルス誘発糖尿病の感受性にTyk2遺伝子が関与していることを明らかにした。その意義については、1型糖尿病、2型糖尿病、すべての糖尿病群で、対照群より、明らかに有意なリスク因子であると判定された。一方、劇症1型糖尿病患者で検討したところ、対照群よりこの多型の頻度は高かったが統計的な有意差は認められなかった。今後、花房班のさらなる協力も得て、症例を蓄積し検討することが必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201128058B
報告書区分
総合
研究課題名
劇症1型糖尿病のウイルス原因説に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-097
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
永淵 正法(九州大学 医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 勝田仁(九州大学医学研究院)
  • 栗崎宏憲(九州大学医学研究院)
  • 下田和哉(宮崎大学医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
劇症1型糖尿病がウイルスにより発症する可能性が考えられるため、実験的脳心筋炎ウイルス誘発糖尿病モデル動物における感受性遺伝子を探索するとともにヒト劇症1型糖尿病の感受性遺伝子を探索同定し、将来の原因ウイルス同定につなげることを目的とする。
研究方法
Tyk2 (Tyrosine kinase 2)遺伝子欠損マウスおよび自然感受性マウスにTyk2遺伝子変異があるかどうかを探索し、その変異がウイルス誘発糖尿病に感受性であるかどうかを検証した。
 次にヒトにおけるウイルス誘発糖尿病の感受性に関わる宿主要因を明らかにするために、劇症1型糖尿病、対照としてウイルス感染を先行とする1型糖尿病患者、2型糖尿病患者検体のヒトTYK2遺伝子多型の解析を行い健常人と比較検討した。
結果と考察
Tyk2遺伝子欠損マウスおよび自然変異がウイルス誘発糖尿病に感受性であることを検証した。一方,Tyk2遺伝子の発症制御における意義が、免疫細胞ではなく、膵島実質細胞が重要であるのことを明らかにすることができた。また、Tyk2遺伝子と関連するアポトーシス誘導蛋白SIVAにも膵島細胞障害に働く可能性を示唆できた。.
 一方、ヒトにおけるウイルス誘発糖尿病の感受性に関わる宿主要因について、ヒトTYK2遺伝子プロモーター領域が糖尿病全体のリスクであり、劇症1型糖尿病も含め、1型糖尿病でリスクが高く、特にインフルエンザ様症状先行例で最高のリスクであった。
結論
ヒトおよびマウスにおいてウイルス誘発糖尿病の感受性にTyk2遺伝子が関与していることを明らかにした。その意義については、1型糖尿病、2型糖尿病、すべての糖尿病群で、対照群より、明らかに有意なリスク因子であると判定された。一方、劇症1型糖尿病患者で検討したところ、対照群よりこの多型の頻度が高い傾向を示した。今後、花房班のさらなる協力も得て、症例を蓄積し検討することが必要であると考えられた。 本研究の進展は劇症1型糖尿病のみならず広く、糖尿病発症に関る特にウイルス誘発に関る遺伝子であることが強く示唆された。本研究の進展は、高感度ウイルス糖尿病感受性マウスを作製することによる糖尿病原因ウイルスの同定、さらには、劇症1型糖尿病も含む、ウイルス糖尿病予防ワクチン開発へと展開することが期待され、しかるべき研究支援が必要である。

公開日・更新日

公開日
2017-04-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128058C

成果

専門的・学術的観点からの成果
糖尿病誘発性脳心筋炎ウイルスD株による実験研究を行い、Tyk2遺伝子のプロモーター領域の自然変異が、TYK2遺伝子発現を低下させることにより、膵島細胞特異的な抵抗性の低下をもたらすことを明らかにした(Nat Commun 2015).さらにこの研究をヒトに展開する事ができた(EBioMedicine 2015)。糖尿病学2016(診断と治療社、編集 門脇孝教授)に世界で初めてのウイルス糖尿病感受性遺伝子の発見研究成果として巻頭の11ページに掲載された。
 
臨床的観点からの成果
ヒトのTYK2遺伝子多型が広く糖尿病のリスクであり、特にウイルス感染先行1型糖尿病患者で高率に認められた。(EBioMedicine 2015)。今回の研究成果は、ヒトの感受性を模倣するためのマウスモデルとして、Tyk2変異マウスが有用であることを示している。今後、糖尿病誘発性のあるウイルスを的確かつ高感度に同定するヒトのウイルス糖尿病高感受性モデルマウスを開発し、ウイルス糖尿病予防のためのワクチン開発につなげて、1型糖尿病の予防、2型糖尿病の発症リスクの低下に貢献することが期待できる。  
ガイドライン等の開発
該当なし
その他行政的観点からの成果
今回の研究では、対象とした劇症1型糖尿病よりはむしろ、広く糖尿病発症に関るウイルス糖尿病感受性遺伝子の同定につながりつつある可能性が高く、将来、糖尿病誘発性ウイルスを同定し、ワクチン開発を行うことにより、世界的に爆発的に拡大している糖尿病患者増加抑制に寄与することができる可能性を示すことができた。前年度の糖尿病領域の最先端研究成果を書籍として出版される糖尿病学2016(診断と治療社、編集 門脇孝教授)で、社会的な経済効果の大きさ(数百億円レベル)も示した。
 
その他のインパクト
今回、対象とした劇症1型糖尿病も含め、広く糖尿病発症に関るウイルス糖尿病感受性遺伝子の同定につながった、将来、糖尿病誘発性ウイルスを同定し、ワクチン開発を行うことにより、糖尿病患者増加抑制に寄与することができることを示した。2015年4月8日前後に、西日本新聞、毎日新聞、読売新聞、朝日新聞、日本経済新聞、産経新聞、その他、地方紙:北海道新聞、大分合同新聞などに研究紹介記事が掲載された。また、2015年5月15日には、NHK福岡で2回、テレQで1回、放送され5月20日の日刊新聞にも報道された。  

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
2件
一編は、Diabetes and VIruses (Springer) Book 下記リストの1に原著として記載
学会発表(国内学会)
2件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nagafuchi S, Kurisaki H, Katsuta H
Encephalomyocarditis virus
Diabetes and Viruses (Book, Chapter 5) in press , 5 , 501-510  (2012)
原著論文2
Ishizaki M, SHimoda M, SHimoda K, et al.
Involvement of TYk2 in both the IL-12/Ht1 and IL-23/Th17 axis in vivo
J Immunol , 187 (1) , 181-189  (2011)
原著論文3
Shide K, Shimoda M, Shimoda K, et al.
R723, a selective JAK2 inhibitor, efectively treats JAK22V617F- induced arthritis in mice
Blood , 117 , 6866-6875  (2011)
原著論文4
Ishizaki M, Muromoto T, Shimoda K, et al.
Tyk2 deficiency protects joints against destruction in anti-type II collagen antibody-induced arthritis in mice.
Int Immunol , 23 (9) , 575-582  (2011)
原著論文5
Muromoto R, SHimoda K, Matsuda T, et al.
Functional involvement of Daxx gp130-mediated cell growth and survival BaF3 cell
Euro J Immunol , 40 , 3570-3580  (2010)
原著論文6
Oku S, Shimoda HK, Shimoda K, et al.
JAK2 V617F uses distinct signalling pathways to induce cellular proliferation and neutrophil activation in murine myeloproliferative neoplasma.
Br J haematol , 150 , 334-344  (2010)
原著論文7
Kameda T, SHide K, Shimoda K, et al.
Absence of gain-of-function JAK and JAK3 mutations adult T cell leukemia/lymphoma
Int Hematolo , 92 (2) , 320-325  (2010)
原著論文8
Shimoda HK, Shida K, SHimoda K. et al.
Tyrosine kinase 2 interactis with the proapoptotic protein SIva-1 augments its apoptotic fucntions
Biphys Biochem Rs Commun , 400 (2) , 252-257  (2010)
原著論文9
Izumi K, Mine K, Inoue Y, Teshima M, Nagafuchi S, et al.
Reduced Tyk2 gene expression in β-cells due to natural mutation determines susceptibility to virus-induced diabetes.
Nature Communications , 6 (4) , e6748-  (2015)
10.1038/ncomms7748
原著論文10
Nagafuchi S, Kamada Y, Hirakawa K , Tsutsu N, Katsuta H, et al.
TYK2 Promoter Variant and Diabets Mellitus in the Japanese
EBioMedicine , 2 , 744-749  (2015)
10.1016/j.ebiom.2015.05.004

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-05-26

収支報告書

文献番号
201128058Z