特定疾患に関する微生物研究班

文献情報

文献番号
199700991A
報告書区分
総括
研究課題名
特定疾患に関する微生物研究班
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 倉田毅(国立感染症研究所)
  • 生田和良(北大免疫科学研究所)
  • 山西弘一(大阪大学医学部)
  • 光山正雄(新潟大学医学部)
  • 荒川宜親(国立感染症研究所)
  • 中込治(秋田大学医学部)
  • 阿部淳(国立小児病院小児医療研究センター)
  • 田代真人(国立感染症研究所)
  • 山谷睦雄(東北大学医学部付属病院)
  • 野間口博子(国立感染研ハンセン病センター)
  • 村田幸作(京都大学食糧科学研究所)
  • 結城伸泰(独協医科大学神経内科)
  • 内山竹彦(東京女子医科大学)
  • 江石義信(東京医科歯科大学医付属病院)
  • 和泉徹(北里大学医学部)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 横断的基盤研究グループ 基盤研究部門
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
特定疾患の大部分は、現在まで全く原因が不明である。本研究班では、血液凝固異常、特発性造血障害、神経変性疾患、難治性炎症性腸管障害、びまん性肺疾患等につき、発症病理像をウイルス学的、細菌学的、その他微生物学的、病理学的に解析し、起因病原体を明らかにすることを目的とする。
研究方法
特定疾患は、ウイルスあるいは細菌等の感染が引きがねとなって自己免疫機序が惹起されたり、あるいは微生物の潜伏・持続感染が疾患と密接な関係があることが示唆されている。そこで、当班としては、各臨床班と密接に連絡し、患者の髄液、血液、血清、その他体液、病巣材料を用いて;
?できるだけ早期のあるいは再発等の際の病巣検体を用いて関与病原体の分離を試みる。
?疾患の微生物との関連を抗体検出とその動態から検索する。
?及び遺伝子レベルで検索する。
?ウイルスや細菌の蛋白の認識と自己免疫機構との関連を明らかにする。
?微生物による免疫担当細胞の破壊の機序とその結果としての疾患の惹起について検討する。
?疾患の発生、憎悪の機序と潜伏・持続感染微生物の再活性化との関連を明らかにする。
結果と考察
1. びまん性肺疾患グループでは、2者がサルコイドーシス(サ症)を対象として、常在嫌気性菌P. acnesの病因的役割を明らかにすることが主目的である。サ症分離株と非サ症由来株の比較による宿主サイトカイン誘発能とサイトカインメッセージによる病因論的解析を試みた。ヒト末血リンパ球をP.acnesで刺激すると、サ症由来株は非サ症由来株に比べ高いIL-1α、IL-12、IFN-γ誘導能を認めた。このことより、P. acnesはMφのIL-12産生亢進を介し、非特異的にNK細胞由来のIFN-γを誘導し、 Mφを活性化することが示唆される(光山)。また、サ症組織内のP. acnes含有量をみると、サ症リンパ節で12/15にP. acnes DNAが検出され、これは結核リンパ節の2/15、対照群リンパ節の3/15に比べ有意に(P<0.005)高率であった。定量解析でもP<0.0001と極めて有意であった。また、P. acnes由来のRP35抗原に対し、SI値はサ症患者は、結核、RA、健常者よりも有意に高かった。これらの結果は、起因病原体として、組織培養の結果と相関している。さらに宿主反応から見て、IV型アレルギー反応を基盤として、肉芽腫形成が引き起こされている可能性がある(江石)。他の1名は、研究方向をかえて、ベーチェト病患者の末血中(30人)で、30%にγδ型T細胞の増加がみられ、病因との関連を解析中である(内山)。
2. 神経変性疾患グループでは、2者がウマや動物に自然感染しているボルナ病ウイルス(BDV)との関連性を昨年に引き続き検討した。4名のパーキンソン病患者脳で、1例の若年発症例を除き、3名の黒質および前頭葉でp24、あるいはp40、あるいは双方がmested PCR法で検出された。その患者脳黒質領域のホモジネートを、生後1日のスナネズミ脳内に接種したところ、19日目に大脳および小脳でBDV p24遺伝子がPCR法で、またin situハイブリダイゼーション法で、BDV mRNAが検出された。これより、ヒト脳φBDVがスナネズミに感染したものと考えられた(生田)。一方、パーキンソン病(16例)およびALS2例の患者の末血単核球(PBMC)由来RNAを用いBDVゲノムの検出を試みたが、陰性であった(田代)。両者の結果から脳内に存在してもPBMC中にBDVゲノムが陰性であるが、このような現象は他のウイルス病でもよくみられることで(例えば、HSV脳炎あるいはSSPEのような)、今後さらに多数の例でつめる必要がある。
3. 難活性炎症性腸管障害グループでは、2者がクローン病の発症病因について解析した。典型的CD患者腸組織からcDNAライブラリーをつくり、麻疹抗体でイムノスクリーニングしたところ1個の陽性クローンが得られたが、遺伝子配列で解析すると麻疹ウイルスとはホモロジーを認めなかった。しかし陽性クローンの発現する蛋白(CDX)に対するモノクローナル抗体は、抗麻疹モノクローナル抗体と同一の細胞を認識していた。これより、CDXは麻疹由来ではなくヒト由来蛋白である可能性が示唆された(中込)。また、CD患者/50例中31例(21.7%)で抗YPM抗体(エルシニア菌由来スーパー抗原-YPM)の上昇がみられた。また、CD患者11例中4例の糞便検体で、PCR法でYPM遺伝子は検出されなかった。関連は不明である。
4. 血液疾患関連では、近年分子生物学的技術の応用により、新種の病原ウイルスが発見されてきている。特定疾患患者末血から、未知のウイルスを検索することを目的として、既知ヘルペスウイルスの遺伝子配列をもとにして、consensus primer PCR法の開発、応用を試みた。プライマーはβC CMV、HHV-6, 7)およびγ(EBV、HHV-8)ヘルペスを主標的とし、それらの保存性の高いlate spliced gene領域に設定したところ、臨床検体でもウイルス由来増幅産物をうることが可能となり、現在臨床検体をスクリーニングしているが、ウイルスコピー数が一定以上必要であり、高感度化がテーマである(山西)。また突発性骨髄障害例では、2例の骨髄生検組織でヒトパルボウイルスB19を検出した。1例は自己免疫性溶血性貧血の、aplastic crisis例であり、他の1例は、骨髄低形成(血小板、骨髄球、赤芽球減少)であった。血清学的にIgM抗体を認めた。これから基盤疾患のない再生不良性貧血の原因として、B19感染を否定する必要がある(倉田)。
5. 以下のグループは共通項がないので、個々にまとめる。慢性肺気腫におけるウイルス感染毒検索したところ、アデノウイルスはPCR法で陰性であった。また、ライノウイルス感染は、上皮細胞の肺炎球菌接着を増加させることが示唆された(山谷)。微生物感染とIgA腎症の関連については、新しくIgA腎症を発症した患者血清で、口腔常在菌、腸内細菌、マイコプラズマの抗原と反応する抗体をELISAやウエスタンブロット法で検査したが、疾患特異的所見は得られなかった。発症直後の患者検体を用い、ウイルス等も含めて検索する必要があろう(荒川)。難治性細菌感染症の感染要因バイオフィルムの構造と機能)の解析と治療法開発では、緑濃菌バイオフィルム構成多糖であるアルギン酸を微生物由来酵素(アルギン酸リアーゼ)で分解することにより、バイオフィルムを破壊し、抗生物質との併用により、感染菌除去の治療法を確立することを目指した。PEG修飾系の動物(ラット、ウサギ)中、動態 をみると、いずれの場合も良好な結果が得られた(村田)。突発性心筋症の発症機序では、心筋ミオシン重鎮α鎖とβ鎖を分離しラットを感作すると、心のう液貯溜がみられ、心筋細胞壊死と著明な細胞浸潤を認めた。これを基にして、ペプチド化抗原で心筋炎を惹起させ、病原体との分子学的な共有性、類似性、免疫交叉性を検索する予定である(和泉)。抗酸菌感染と自己免疫疾患では、I型糖尿病発症とらい菌関与につきNODマウスで検討した。NODマウスのIDDM発症初期の培養脾細胞hsp65の刺激によりリンパ球応答とγ-IFNの産生がみられたことから、このhsp65とそれに対する反応性Th1細胞がIDDM発症につながるとも考えられた。より詳細な検討が必要である(野間口)。ギランバレー症候群(GBS)における病原体の検索では、既にCampylobacter jejuni腸炎後の抗体産生を明らかにした。他のCampylobacter(upsaliensis)もGBSを起こすことも報告があるが、今回はこの菌との関連をみたところ、GBS例で、C. up.抗体は、C. jejuni抗原と交叉反応することがわかった。
結論
本年度の研究より、4つのトピクスとしてあげうる成果がみられた。
?基礎疾患を有しない再生不良性貧血の除外診断として、ヒトパルボウイルスB19の感染を考慮する必要があることを明らかにした。
?パーキンソン病の病変主座の黒質にボルナウイルスRNAを検出しえたことからこのウイルスがパーキンソン病発症に関わる可能性を示した。
?C. jejuniが有するGMI様ポリ多糖に対する抗体産生から、ギランバレー症候群のひとつの原因といえる。
?サルコイドーシス例の肉芽組織にきわめて有意にP. acnesの遺伝子が検出された。
以上により重要な4所見が得られたが、これらを含め、全ての対象疾患につき、臨床グループと密接な連絡をとり、詳細な検索をする必要がある。

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