進行性腎障害

文献情報

文献番号
199700989A
報告書区分
総括
研究課題名
進行性腎障害
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
堺 秀人(東海大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 富野康日己(順天堂大学医学部)
  • 小山哲夫(筑波大学臨床医学系)
  • 土肥和紘(奈良県立医科大学)
  • 東原英二(杏林大学医学部)
  • 重松秀一(信州大学医学部)
  • 遠藤正之(東海大学医学部)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 腎・泌尿器系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、進行性腎障害のうち特に難治性が高く予後不良である4疾患、すなわち「IgA腎症」、「急速進行性糸球体腎炎」、「難治性ネフローゼ症候群」および「多発性嚢胞腎」について、わが国における実態の調査結果をふまえての有効な治療法の確立をめざすものである。基盤的研究としては、難病特別研究として「進行性腎障害に対する遺伝子治療」を開発するための作業を分子病態研究班と共同して行った。
研究方法
本研究の方法は、上記の4疾患と基盤的難病特別研究の合計5つの項目ごとに記載する。
1 IgA腎症=1995年の前研究班以来集積されてきたIgA腎症全国調査を用いて、1997年に3409例について予後調査を行い、そのうちの2728例(80.0%)から回答を得て解析を行った。特に本症の予後に関する因子について分析し、それと平行して現行の治療法における有效性を考察した。
2 急速進行性糸球体腎炎=わが国における急速進行性糸球体腎炎の現状把握を目的として全国個別症例アンケート調査を行って、腎機能低下と透析導入の危険因子について解析した。
3 難治性ネフローゼ=難治性ネフローゼにはさまざまな原因疾患が知られているが、その中で多数を占めている膜性腎症と巣状糸球体硬化症について、はじめての全国アンケート調査を行った。
4 多発性嚢胞腎=前年度においては、主として日本人に特有な遺伝子型が存在するか否かが検討されたが、今年度においては多発性嚢胞腎の予後と治療に関する調査研究が行われた。まず全国アンケートによる retrospective study の結果から、発見時における血清クレアチニン値と収縮期血圧値とが予後への危険因子として抽出された。
5 進行性腎障害における遺伝子治療=腎障害進展の共通因子に対して遺伝子レベルでの治療を行うことが検討されるようになった。今年度は、とくに腎糸球体の硬化進展に大きな役割を有している TGF-βとPDGFについて、動物実験のレベルでは有効な成果を得るに至った。
結果と考察
1 IgA腎症=腎生検による本症の診断時における尿蛋白量ならびに血清クレアチニン濃度値が、その後の腎機能低下および透析導入の危険因子として多変量解析結果から結論された。特筆すべきとして、事は前研究班によって提唱された本症の腎生検組織診断に基づく予後判定基準の妥当性が証明された。本症の有効な治療法としては、ステロイド治療の可能性が現在検討されていて、いわゆる prospective study が開始された。
2 急速進行性糸球体腎炎=134施設から583件の症例が得られ、それによれば、ANCA検査とステロイド療法あるいは免疫抑制療法が行われていた。今後は、これらのデータを元に危険因子の解析と各種治療法の有効性の検討を行う予定である。
3 難治性ネフローゼ=全国的な調査に先だって、一部の施設からそれぞれにおける本症の早期診断法や治療成績が発表された。早期診断法としては、患者の遺伝子解析から特に 非野生型のApoE遺伝子型・表現型が難治性の指標として有望であることが示された。また治療法としては、主として膜性腎症におけるステロイド持続療法の有効性が示された。
4 多発性嚢胞腎=一般に降圧薬は多発性嚢胞腎の腎機能保全上有効であるが、一部で期待されていたACE阻害薬の効果は顕著ではなかった。この他、家系内でのDNA解析が18家系について行われ、PKD1との連鎖はそのうちの12家系に認められたが、変異検索の結果は未だ明らかではない
5 進行性腎障害における遺伝子治療= ラットの Thy-1 腎炎モデルにおいてTGF-β受容体ヒトIgGFcキメラ分子およびPDG-β受容体ヒトIgGFcキメラ分子を腎糸球体内へ導入することに成功し、その結果腎糸球体繊維化の抑制が可能であることを示した。
結論
今年度は進行性腎障害の主要な原因である4つの疾患について、全国的な調査に基づいて病態の現状と治療法の有效性を検討し、それぞれ有益な成果を得た。これらの結果は近い将来に診療指針を作成して全国の日常臨床に役立つ資料とする予定である。また腎疾患の遺伝子治療についても、固有臟器における遺伝子導入に成功したことは、今後の新しい治療法の開発にとって大きな成果であった。

公開日・更新日

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更新日
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