遺伝性鉄芽球性貧血の診断分類と治療法の確立

文献情報

文献番号
201128037A
報告書区分
総括
研究課題名
遺伝性鉄芽球性貧血の診断分類と治療法の確立
課題番号
H22-難治・一般-076
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
張替 秀郎(東北大学 大学院医学系研究科 血液・免疫病学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 小島 勢二(名古屋大学 大学院医学系研究科 小児科学)
  • 伊藤 悦朗(弘前大学 大学院医学研究科 小児科学)
  • 古山 和道(東北大学 大学院医学系研究科 分子生物学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
鉄芽球性貧血は、骨髄における環状鉄芽球の出現を特徴とする難治性貧血であり、遺伝性鉄芽球性貧血と、骨髄異形成症候群を主とする後天性鉄芽球性貧血に大別される。遺伝性鉄芽球性貧血は希少疾患であるため、調査研究が行われたことはなく、その疫学や病態は不明であり、また遺伝性と後天性の分子遺伝学的基盤の異同についても明らかとなっていない。本研究の目的は、遺伝性鉄芽球性貧血の病態を明らかにし、遺伝性鉄芽球性貧血の診断および治療指針を確立することである。
研究方法
臨床病態を解析するために全国の専門施設から鉄芽球性貧血の臨床情報を得る。臨床情報から遺伝性鉄芽球性貧血と診断した症例について、遺伝性鉄芽球性貧血の原因遺伝子の変異解析を行う。
結果と考察
臨床情報から遺伝性鉄芽球性貧血 18例の診断に至った。遺伝性鉄芽球性貧血症例18例中、新たに同定された3例を含め計10例でALAS2遺伝子の変異が認められた。その他臨床上、PMPS症例が疑われた症例が1例確認されたが、ミトコンドリア遺伝子に欠失が認められず、現在原因遺伝子について解析中である。また、ALAS2蛋白質の変異の一つであるR170Lについて生化学的に解析したところ、変異蛋白の活性は正常に比べ低下しており、VitB6の添加により活性が上昇した。この点からR170Lの変異はVitB6反応性変異と考えられたが、この変異を有する2例のうち1例は臨床的にVitB6反応例であり、もう1例は無効例であった。また、現時点で、本邦で認められた遺伝性鉄芽球性貧血の遺伝子変異はALAS2遺伝子のみであった。この結果から、遺伝性鉄芽球性貧血の原因遺伝子は地域間、人種間で異なることが示唆された。また、ALAS2遺伝子の変異部位については好発部位があることが示唆されたが、同じ変異であっても臨床的にVitB6の反応性については異なっており、変異部位以外に、鉄過剰による臓器障害や栄養状態などさまざまな要因が治療反応性に関与していることが示唆された。
結論
本邦において、遺伝性鉄芽球性貧血は18例が確認され、現時点で確認し得た変異遺伝子はALAS-2遺伝子のみであった。ALAS-2遺伝子の変異部位は複数認められたが、同一変異を有する症例であってもVitB6治療については異なった反応が認められた。今後変異遺伝子が不明の症例の解析から、新たな遺伝性鉄芽球性貧血の原因遺伝子が同定されることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2013-03-12
更新日
-

文献情報

文献番号
201128037B
報告書区分
総合
研究課題名
遺伝性鉄芽球性貧血の診断分類と治療法の確立
課題番号
H22-難治・一般-076
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
張替 秀郎(東北大学 大学院医学系研究科 血液・免疫病学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 小島 勢二(名古屋大学 大学院医学系研究科 小児科学)
  • 伊藤 悦朗(弘前大学 大学院医学研究科 小児科学)
  • 古山 和道(東北大学 大学院医学系研究科 分子生物学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
鉄芽球性貧血は、骨髄における環状鉄芽球の出現を特徴とする難治性貧血であり、このうち、ミトコンドリアにおける鉄代謝遺伝子の変異により発症する遺伝性鉄芽球性貧血は希少疾患であるため、その疫学や病態は不明である。本研究の目的は、遺伝性鉄芽球性貧血の病態を明らかにし、遺伝性鉄芽球性貧血の診断および治療指針を確立することである。
研究方法
遺伝性鉄芽球性貧血の症例把握のために鉄芽球性貧血の全体の症例数を、予備調査で把握する。次に鉄芽球性貧血の症例が確認された施設から個々の症例について臨床情報を得る。得られた臨床情報をもとに遺伝性鉄芽球性貧血が疑われる症例を対象に遺伝性鉄芽球性貧血の原因遺伝子の変異解析を行い、遺伝性鉄芽球性貧血の診断を確定し、その病態について検討を行う。
結果と考察
148例の鉄芽球性貧血症例から臨床情報が得られ、遺伝性鉄芽球性貧血 18例の診断に至った。遺伝性鉄芽球性貧血症例18例中、新たに同定された3例を含め計10例でALAS2遺伝子の変異が認められた。後天性と比較した際の遺伝性の特徴として、小球性貧血・若年発症・男性・血清鉄高値が抽出された。また、ALAS2遺伝子の変異部位については、複数の症例でArg411、Arg170、Arg452の部位に変異が認められ、これらの部位がhot spotであることが示唆された。また、最近MDS-RSで高率に変異が報告されたRNAスプライシング複合体の構成分子であるSF3B1遺伝子の変異は、遺伝性鉄芽球性貧血では変異が認められなかった。また、現時点で、本邦で認められた遺伝性鉄芽球性貧血の遺伝子変異はALAS2遺伝子のみであり、遺伝性鉄芽球性貧血の原因遺伝子は地域間、人種間で異なることが示唆された。また、ALAS2遺伝子の変異部位についてはhot spot部位があることが示唆されたが、同じ変異であっても臨床的にVitB6の反応性については異なっており、さまざまな要因が治療反応性に関与していることが示唆された。また遺伝性鉄芽球性貧血とMDS-RSでは遺伝的基盤が異なっていることが示唆された。
結論
本邦において、現時点で確認し得た遺伝性鉄芽球性貧血の変異遺伝子はALAS2遺伝子のみであった。この結果を反映し、本邦において遺伝性と後天性の鑑別する際の基準として、1.小球性、2.男性、3.若年発症、4.家族歴の有無が重要である。また、遺伝性鉄芽球性貧血と後天性鉄芽球性貧血での遺伝的背景は、互いに異なることが示唆された。

公開日・更新日

公開日
2013-03-12
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128037C

成果

専門的・学術的観点からの成果
これまで明らかでなかった遺伝性鉄芽球性貧血の病態や遺伝子異常が明らかとなった。とくに遺伝性鉄芽球性貧血の原因となる遺伝子変異については地域・人種で異なることが明らかとなった。また、本研究において小児血液学会との連携システム、遺伝子変異の解析基盤が確立されたことにより、今後継続的に本疾患の遺伝子解析が遺漏なくかつ正確に行えることが可能となった。また、遺伝子変異が認めらなかった症例について網羅的遺伝子解析を行っており、今後新たな鉄代謝遺伝子が同定されることが期待される。
臨床的観点からの成果
本邦での遺伝性鉄芽球性貧血の特徴として、1.男性、2.小球性貧血、3.鉄過剰があげられた。これは本邦の症例で変異が認められた遺伝子がALAS2のみであったことを反映している。、また、成年の症例が確認されたことから、これらの特徴を有する鉄芽球性貧血は年齢を問わず、遺伝子解析を行うことが推奨される。遺伝性鉄芽球性貧血の診断が得られた症例は少なからずVitB6が有効であることから、正確な診断に結び付くこれらの知見が得られたことは臨床的成果であるといえる。
ガイドライン等の開発
成人領域の「特発性造血障害に関する調査研究班」と合同で診断基準と診療の参照ガイドを作成した。
その他行政的観点からの成果
希少疾患の研究を進める上では、少ない症例をいかに蓄積し普遍的な結論得るかが重要であるが、疾患の希少性から財政的な点も含め研究環境を構築することが難しい。今回の事業により、全国規模の調査が行えたこと、小児血液学会との連携システム、遺伝子変異の解析基盤が確立できたことは、本疾患のような極めて希少な疾患を継続的に登録・解析する上で、大きな成果といえる。
その他のインパクト
初年度に遺伝性貧血研究班合同でシンポジウムを行った。本研究班は「遺伝性貧血の病態解明と診断法の確立に関する研究」班に統合されたため、同班の事業として成果の広報を続けていく。また、本研究により、遺伝性鉄芽球性貧血においてもっとも変異頻度が高い遺伝子がALAS2遺伝子であることが明らかになったことから、ALAS2酵素の合成産物であるALAの臨床的有効性を検証する治験を計画中である。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
11件
学会発表(国内学会)
11件
学会発表(国際学会等)
7件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Harigae H, Furuyama K.
Hereditary sideroblastic anemia: pathophysiology and gene mutations.
International Journal of Hematology , 92 (3) , 425-431  (2010)
原著論文2
Ohgari Y, Miyata Y, Miyagi T, et al.
Roles of porphyrin and iron metabolisms in the δ-aminolevulinic acid (ALA) -induced accumulation of protoporphyrin and photodamage of tumor cells.
Photochemistry and Photobiology , 87 (5) , 1138-1145  (2011)
原著論文3
張替秀郎
遺伝性鉄芽球性貧血の病態と診断
日本小児血液学会雑誌 , 25 , 118-122  (2011)
原著論文4
Kadirvel S, Furuyama K, Harigae H,et al.
The carboxyl-terminal region of erythroid-specific 5-aminolevulinate synthase acts as an intrinsic modifier for its catalytic activity and protein stability.
Experimental Hematology , 40 (6) , 477-486  (2012)
原著論文5
Ohba R, Furuyama K, Yoshida K,et al
Clinical and genetic characteristics of congenital sideroblastic anemia: comparison with myelodysplastic syndrome with ring sideroblast (MDS-RS).
Annals of Hematology. , 92 (1) , 1-9  (2013)
10.1007/s00277-012-1564-5
原著論文6
Kaneko K, Furuyama K, Fujiwara T,et al
Identification of the novel erythroid-specific enhancer for ALAS2 gene and its loss-of-function mutation associated with congenital sideroblastic anemia.
Haematologica , 99 (2) , 252-261  (2014)
原著論文7


公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201128037Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
13,000,000円
(2)補助金確定額
13,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 9,482,054円
人件費・謝金 0円
旅費 516,522円
その他 1,424円
間接経費 3,000,000円
合計 13,000,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
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