先天性赤芽球癆(Diamond Blackfan貧血)の効果的診断法の確立に関する研究

文献情報

文献番号
201128034A
報告書区分
総括
研究課題名
先天性赤芽球癆(Diamond Blackfan貧血)の効果的診断法の確立に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-073
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 悦朗(弘前大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 照井 君典(弘前大学 大学院医学研究科)
  • 小島 勢二(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 小原 明(東邦大学医療センター大森病院)
  • 大賀 正一(九州大学 大学院医学研究院)
  • 浜口 功(国立感染症研究所)
  • 森尾 友宏(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 菅野 仁(東京女子医科大学 大学院先端生命医科学系専攻)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Diamond-Blackfan anemia(DBA)は、赤血球造血のみが障害される稀な先天性赤芽球癆である。海外では約50%のDBA患者にリボソームタンパク(RP)遺伝子の変異が認められているが、本邦では原因遺伝子が同定されている症例はほとんどなかった。本研究の目的は、DBAの診断基準を作成し、それに基づいた家族内の軽症例をも含む包括的な疾患登録を行い、本症の全貌を明らかにすることである。さらに、原因遺伝子の解析と疾患特異的なバイオマーカーの検索を行い、病態解明とともに精度の高い診断を目指す。
研究方法
1)日本小児血液学会の疾患登録システムの中で、中央診断を伴うDBAの登録システムを発展させる。2)既知のDBA原因遺伝子について、High resolution melt analysis法で変異の有無をスクリーニングした後、ダイレクト・シークエンス法で解析する。遺伝子解析は本学の倫理委員会の承認を得て、本人あるいは両親の同意の上実施する。3)赤血球還元グルタイオン(GSH)がバイオマーカーとして有用であるかどうかを検証する。4)上記の解析結果と臨床情報をもとに、診断基準を作成する。5)全国の小児科専門医研究施設を対象に二次調査を行う。
結果と考察
平成23年度には、新たに15例について既知のDBA原因遺伝子を解析し、本研究で解析した症例は76家系(83例)となり、21例(27.6%)にRP遺伝子変異を認めた。次に、ダイレクト・シークエンス法では検出できない片アレルの欠失を検出することができる遺伝子コピー数解析法(同期的qPCR法)を開発し、変異同定を試みた。その結果、遺伝子変異未知の31例中7例でDBAの原因遺伝子の片アレル欠失を検出し、SNPアレイで欠失を確認した。さらに、我々は、GSHがDBAのバイオマーカーとして有用であることを見出した。現在、一次調査で把握された132症例を対象に二次調査と遺伝子解析が進行中である。
結論
本邦では、原因遺伝子が同定できない症例が60%も存在することが明らかになった。新規の原因遺伝子を同定するために、「稀少小児遺伝性血液疾患の迅速な原因究明及び診断・治療法の開発に関する研究班(小島勢二班長)」と共同して次世代シークエンサーを用い、全エクソンシークエンスを開始した。遺伝子解析と疾患特異的なバイオマーカーの検索により、より精度の高い診断が可能になったと思われる。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

文献情報

文献番号
201128034B
報告書区分
総合
研究課題名
先天性赤芽球癆(Diamond Blackfan貧血)の効果的診断法の確立に関する研究
課題番号
H22-難治・一般-073
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 悦朗(弘前大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 照井 君典(弘前大学 大学院医学研究科)
  • 小島 勢二(名古屋大学 大学院医学系研究科)
  • 小原 明(東邦大学医療センター 大森病院)
  • 大賀 正一(九州大学 大学院医学研究院)
  • 浜口 功(国立感染症研究所)
  • 森尾 友宏(東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 菅野 仁(東京女子医科大学 大学院先端生命医科学系専攻)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成22(2010)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
Diamond-Blackfan anemia(DBA)は、赤血球造血のみが障害される稀な先天性赤芽球癆である。海外では約50%のDBA患者にリボソームタンパク(RP)遺伝子の変異が認められているが、本邦では原因遺伝子が同定されている症例はほとんどなかった。本研究の目的は、DBAの診断基準を作成し、それに基づいた家族内の軽症例をも含む包括的な疾患登録を行い、本症の全貌を明らかにすることである。さらに、原因遺伝子の解析と疾患特異的なバイオマーカーの検索を行い、病態解明とともに精度の高い診断を目指す。
研究方法
1)日本小児血液学会の疾患登録システムの中で、中央診断を伴うDBAの登録システムを発展させる。2)既知のDBA原因遺伝子について、High resolution melt analysis法で変異の有無をスクリーニングした後、ダイレクト・シークエンス法で解析する。遺伝子解析は本学の倫理委員会の承認を得て、本人あるいは両親の同意の上実施する。3)赤血球還元グルタイオン(GSH)がバイオマーカーとして有用であるかどうかを検証する。4)上記の解析結果と臨床情報をもとに、診断基準を作成する。5)全国の小児科専門医研究施設を対象に二次調査を行う。
結果と考察
本研究で解析した症例は76家系(83例)となり、21例(27.6%)にRP遺伝子変異を認めた。欧米に比して本邦におけるRP遺伝子の変異頻度は低く、約70%の症例では原因遺伝子が不明であった。そこで、ダイレクト・シークエンス法では検出できない片アレルの欠失を検出することができる遺伝子コピー数解析法(同期的qPCR法)を開発し、変異同定を試みた。その結果、遺伝子変異未知の31例中7例でDBAの原因遺伝子の片アレル欠失を検出し、SNPアレイで欠失を確認した。さらに、我々は、GSHがDBAのバイオマーカーとして有用であることを見出した。現在、一次調査で把握された132症例を対象に二次調査と遺伝子解析が進行中である。
結論
本邦では、原因遺伝子が同定できない症例が約60%も存在することが明らかになった。新規の原因遺伝子を同定するために、「稀少小児遺伝性血液疾患の迅速な原因究明及び診断・治療法の開発に関する研究班(小島勢二班長)」と共同して次世代シークエンサーを用い、全エクソンシークエンスを開始した。新規原因遺伝子の同定が進めば、我々が見出した疾患特異的なバイオマーカーと組み合わせることにより精度の高い診断が可能になったと思われる。

公開日・更新日

公開日
2013-03-28
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128034C

成果

専門的・学術的観点からの成果
我々は、リボソームタンパク(RP)遺伝子の片アレル欠失がDiamond-Blackfan anemia(DBA)の約10%で起こっていることを世界で初めて発見した。この成果は、血液学で最も権威のある国際誌Bloodに掲載された。さらに、DBAには信頼できるバイオマーカーが存在しなかったが、我々は新たなバイオマーカー 赤血球還元グルタチオン(eGSH)を発見した。eGSHと赤血球アデノシンデアミナーゼ活性(eADA)を組み合わせることで、ほとんど全てのDBAの診断が可能となった。
臨床的観点からの成果
海外では約50%のDBA患者にリボソームタンパク(RP)遺伝子の変異が認められているが、本邦では原因遺伝子が同定されている症例はほとんどなかった。本研究により、我が国におけるDBAの遺伝的背景が初めて明らかとなった。さらに、遺伝子解析に加えて、我々が見出したバイオマーカーを用いることにより、診断精度が格段に上昇した。DBAは悪性腫瘍を合併しやすいため、家族内の軽症例を診断することは極めて重要である。本研究により、家族内の軽症DBAを骨髄移植のドナーとして選択するリスクを軽減できるようになった。
ガイドライン等の開発
これまでに76家系(83例)のDBAの臨床情報を収集し遺伝子解析を行った。さらに、30例以上のDBA症例とその家族のバイオマーカー(eGSHとeADA)を解析し、ほぼ100%のDBAを非罹患家族と鑑別できることが明らかになった。これらの情報をもとに、診断基準と診療の参照ガイドを作製した。また現在、一次調査で把握された132症例を対象に二次調査と遺伝子解析が進行中であるが、その情報を加味して、さらに診断基準を改良する予定である。
その他行政的観点からの成果
DBAは、軽症例から最重症例まで広範囲な病像を示すことから、臨床所見のみで診断するのは容易ではない。本研究により、多数の検体が収集され、原因遺伝子の解析やバイオマーカーの検索が進んだ。本研究を実施することにより全国レベルでのスクリーニングから確定診断にいたるシステムが整備され、発症頻度をはじめ原因遺伝子、病型分布などの疫学事項を高い精度で把握することが可能となった。今後、本研究は、発症機構や病態の解明の研究や、新たな治療法の開発に結びつく基盤となると考えられる。

その他のインパクト
新規の原因遺伝子を同定するために、「稀少小児遺伝性血液疾患の迅速な原因究明及び診断・治療法の開発に関する研究班(小島勢二班長)」と共同して次世代シークエンサーを用い、全エクソンシークエンスを開始した。DBAはリボソームの異常に起因した新たな疾患群「リボソーム病」の一つである。この疾患群の中には、Shwchman-Diamond症候群や先天性角化異常症などの先天性骨髄不全症候群が含まれる。本研究は、これらの疾患の診断や治療法の開発に貢献する可能性がある。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
41件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
20件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
伊藤悦朗
Ribosomal proteinと赤血球産生障害 (Diamond-Blackfan anemiaと5q欠失症候群)
臨床血液 , 50 (10) , 215-226  (2009)
原著論文2
Ito E, Konno Y, Toki T et al.
Molecular pathogenesis in Diamond-Blackfan anemia.
Int J Hematol. , 92 (3) , 413-418  (2010)
原著論文3
Konno Y, Toki T, Tandai S et al.
Mutations in the ribosomal protein genes in japanese patients with Diamond-Blackfan Anemia.
Haematologica , 95 (8) , 1293-1299  (2010)
原著論文4
Kamio T, Ito E, Ohara S et al.
Relapse of aplastic anemia in children after immunosuppressive therapy: a report from the Japan Childhood Aplastic Anemia Study Group.
Haematologica , 96 (6) , 814-819  (2011)
原著論文5
Kuramitsu M, Sata-Otsubo A, Morio T et al.
Extensive gene deletions in Japanese patients with Diamond-Blackfan anemia.
Blood , 119 (10) , 2376-2384  (2012)
原著論文6
Xu T, Takahashi Y, Wang Y et al.
Downregulation of GATA-2 abd Overexpression of Adipogenic Gene-PPAR gamma in Mesenchymal Stem Vells from Patients with Aplastic Anaemia.
Exp Hematol. , 37 (12) , 1393-1399  (2009)
原著論文7
Nanki T, Takada K, Komano Y et al.
Chemokine receptor expression and functional effects of chemokineson B cells: implication in the pathogenesis of rheumatoid arthritis.
Arthritis Res Ther. , 11 (5)  (2009)
原著論文8
Morio T, Takahashi N, Watanabe F et al.
Phenotypic vatiations between affected siblings with ataxia-telangienctasia: atazia-telangiectasia in Japan.
Int J Hematol. , 90 , 455-462  (2009)
原著論文9
Suzuki N, Morimoto A, Ohga S et al.
Characterisrics of hemophagocytic lymphohistiocytosis in neonates: a nationwide survey in japan.
J Pediatr. , 155 , 235-238  (2009)
原著論文10
Ishimura M, Ohga S, Ichiyama M et al.
Hepatitis-associated aplastic anemia during a primary infection of genotype la torque teno virus.
Eur J Pediatr. , 169 (7) , 899-902  (2010)
原著論文11
Mutramatsu H, Makishima H, Cazzolli H et al.
Mutations of E3 ubiquitin ligase Cb1 family members but not TET2 mutations are pathogenic in juvenile myelomonocytic leukemia.
Blood , 115 , 1969-1975  (2010)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
2016-06-13

収支報告書

文献番号
201128034Z