特発性大腿骨頭壊死症

文献情報

文献番号
199700988A
報告書区分
総括
研究課題名
特発性大腿骨頭壊死症
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
二ノ宮 節夫(埼玉医科大学整形外科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 骨・関節系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1.腎移植における症例対照研究
腎移植例の特発性大腿骨頭壊死症発生要因に関する症例対照研究を行い、骨壊死発生例と非発生例における背景、ステロイド投与量、移植腎との関係などの違いを分析し、その発生要因、危険因子の分析を行う。
2.急速破壊型股関節症症例の集積と解析
本疾患症例を班所属施設からできるだけ多く収集し、臨床的特徴、病理、病態像などを明らかにしたい。
3.急速破壊型股関節症の全国疫学調査
難病の疫学調査研究班とともに合同で急速破壊型股関節症の全国疫学調査を実施する。
4.治療成績の検討
大腿骨頭前方回転骨切り術、骨移植術、人工骨頭・人工関節などの治療成績はすでに、各施設から個別に発表されているが、より信頼できる治療成績を得るにはなるべく多くの施設から症例を収集してかつ長期追跡例で検討するのが望ましい。それに基づいて症例の集積と解析を行う。
5.予防薬の検討と開発
血栓溶解剤、高脂血症改善剤などが骨内循環の改善に役立ち、骨壊死の発生率を低下させうる可能性は否定できない。そこで、特発性大腿骨頭壊死症の発症リスクの高い全身性エリテマトーデスを対象にして、その効果を検討する。
6.動物モデルの作成と骨壊死発生原因の究明
大腿骨頭壊死症の動物モデルの作成に成功したので、これに用いて骨壊死の発生要因の解明に至る基礎的研究を行う。

研究方法
結果と考察
結論
1.腎移植における症例対照研究
腎移植患者を対象に特発性大腿骨頭壊死症(ION)の発症例と未発症例を比較する症例・対照研究を実施した。収集した症例・対照47セットに関して予備的に単変量解析を行ったところ、以下の結果を得た。
死体腎は生体腎に比し、IONのリスクを高めることが示唆された[Odds Ratio(OR)=1.6]。HLAマッチング数が増加するほど、リスクは低下する傾向を認めた。[マッチング数0-2に比し、3ではOR=0.7,4-6では0.4]。移植後1年間のステロイド・パルス療法の回数の影響は認められなかった[パルス療法“なし"に比し、1回ではOR=0.9,2-3回ではOR=1.2,4回以上ではOR=1.0]。シクロスポリンAの投与は症例・対照間で大差がない(症例85%,対照92%)。以上の関連はマッチング数を考慮した解析を行うことにより、さらに鮮明になることが予想される。
2.急速破壊型股関節症症例の集積と解析
1998年1月までに研究班所属施設から65症例を集積し、その病態解析を行った。発症から関節破壊までの期間は2-6カ月が20関節、6-12カ月が29関節であり、12-36カ月の亜急性の症例が16関節みられた。大腿骨頭の破壊形式では骨頭破壊の高度のものが44関節、完全破壊消失が21関節であった。臼蓋の破壊様式をみると臼蓋拡大型が32関節で、荷重部破壊亜脱臼型が21関節、混合型が12関節であった。骨粗鬆症に由来するような骨梁の減少と脆弱化といった単純なメカニズムで本疾患が発生するものではないことがわかった。
3.急速破壊型股関節症の全国疫学調査
特定疾患に関する疫学調査研究班との共同研究により、第一次調査を開始した。調査対象の病院数は99床以下が111件(抽出率5%)、100~199床が158件(10%)、200~299床が149件(20%)、300~399床が194件(40%)、400~499床が148件(80%)、500床以上199件(100%)、大学病院123件、股関節疾患症例の比較的多い別階層病院47件の計1099施設である。調査内容は過去1年間(1997年1月1日~12月31日)の急速破壊型股関節症患者数(新患、再診)を調査し、平成10年2月末までに該当患者ありの回答をえた施設にはさらに詳しい調査表を送り、平成10年6月末までに集計を行い、本疾患の実態を明らかにする予定である。
4.治療成績の検討
(1) 骨切り術の成績
1980年1月から1991年12月までの11年間に特発性大腿骨頭壊死症に対して施行された大腿骨頭回転骨切り術は116例144股、内反骨切り術が13例16股、外反骨切り術が2例2股である。術後経過観察期間は平均9年である。
症例数の多い回転骨切り術の成績を述べると、臨床成績はsatisfactoryは Stage?で79.6%、Stage?で75.7%、Stage?で50%であり、Stageが進行するにつれて臨床成績が悪くなることが明らかであった。すなわち、早期に手術適応を判断して早期に本手術を行うのがよいと思われた。X線学的成績は術後正面健常部占拠率が36%以上であれば、再圧潰率は22.2%であり、20%以下では再圧潰率は50%であった。術前側面健常部占拠率と人工物置換の間では、占拠率が1/3以下と1/3以上の症例の人工物置換率はそれぞれ、6.5%、11.1%であった。すなわち、X線学的に壊死範囲、部位をよく調べて適応を的確に判断することが重要である。
(2) 人工骨頭・人工関節の治療成績
術後10年以上経過を観察できた症例は139股であったが、解析が可能な有効データは111股である。死亡は19例、再置換20股であった。これらの症例の臨床成績を今後解析する予定である。
5.予防薬の検討と開発
全身性エリテマトーデス(SLE)に対して、抗凝固薬であるワーファリンを投与することにより、合併症である特発性大腿骨頭壊死症の発生を予防できるか検討した。多施設(内科)の共同研究を計画し、現在までにワーファリン投与群12例、同非投与群14例について解析した。MRI診断による特発性大腿骨頭壊死症の発生は投与群で5例、非投与群で6例にみられ、両群間に差は見られなかったが、特発性大腿骨頭壊死症の発症例でみると、非投与群では4例で発症したが、投与群での発症例はなかった。この理由は明らかではないが、壊死が発生しても投与群ではその範囲が小さい可能性は否定できないが、今後症例数を増やして検討する予定である。
6.動物モデルの作成と骨壊死発生原因の究明
大量のコルチコステロイドホルモン1回投与によって、thrombocytopenia,hypofibrinogenemia,hyperlipemiaが生じること、組織学的に多発性の骨壊死が発生することが明らかになった。また、作用強度を等しくした3種類のステロイドを対象に、骨病変および血液生化学的変化を検討したところ、methylprednisolone acetate群(発生率65.3%)はtriamcinoloneacetonide群(発生率15.4%)、predonisolone succinate群(発生率11.5%)より骨壊死発生率が明らかに高いことがわかった。全群で1,2週後に著明な高脂血症を呈し、またMPSL群は多群より有意な高値を示した。すなわち、ステロイドの違いにより骨や脂質代謝への影響が異なること、ステロイドによる骨壊死発生と脂質上昇との間の関連性が示唆された。
ステロイド投与家兎における大腿骨内血管の免疫組織学的研究では、同血管内皮細胞でのthrombomodulinの活性が低下しており、血管内皮細胞レベルでの抗血栓性が低下していると考えられた。

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