脊柱靭帯骨化症

文献情報

文献番号
199700987A
報告書区分
総括
研究課題名
脊柱靭帯骨化症
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
原田 征行(弘前大学整形外科)
研究分担者(所属機関)
  • 酒匂崇(鹿児島大学整形外科)
  • 茂手木三男(東邦大学整形外科)
  • 守屋秀繁(千葉大学整形外科)
  • 河合伸也(山口大学整形外科)
  • 黒川高秀(東京大学整形外科)
  • 三木哲郎(大阪大学第3内科)
  • 神宮司誠也(九州大学整形外科)
  • 金田清志(北海道大学整形外科)
  • 中村孝志(京都大学整形外科)
  • 今給黎篤弘(東京医大整形外科)
  • 佐藤光三(秋田大学整形外科)
  • 玉置哲也(和歌山大学整形外科)
  • 園田俊郎(鹿児島大学ウイルス学)
  • 馬場久敏(福井医科大整形外科)
  • 米延策雄(大阪大学整形外科)
  • 藤村祥一(慶應大学整形外科)
  • 飛騨一利(北海道大学脳神経外科)
  • 嶋村正(岩手医大整形外科)
  • 藤原奈佳子(名古屋市大公衆衛生)
  • 植山和正(弘前大学整形外科)
  • 井形高明(徳島大学整形外科)
  • 藤井克之(慈恵医大)
  • 古賀公明(鹿児島大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 骨・関節系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
骨関節症調査研究班が形成されてから2年目になる本年は、遺伝子解析を重点的に分担研究することを目的とした。特に、これまでに判明している11型コラーゲンA2遺伝子の近辺に骨化症の遺伝子が存在することが知らされており、これに関わるVitamin A receptor 遺伝子の解析を行うことも目的の1つとした。骨形成因子の究明については、既に判明している各種の骨形成性サイトカインに関わる機序について解明を進めると共に、骨を形成する過程における骨吸収の面からも、サイトカインの研究を行うことを目的とした。軟骨基質は、プロテオグリカンの加齢的分析とコラーゲンの分析を行い、骨基質における骨形成についての研究を行うこととした。臨床的研究としては,研究班で扱うOPLL患者も既に高齢化しつつあること、また、加齢と共に脊柱変形が進行すること等と合わせて、罹患者のQOLを主に検討することとした。脊椎外科関連研究施設に於ける全国的なQOL の調査を開始し、それらの分析を、骨化形態、治療法別等にQOL の経過を検討することを目的とした。臨床的な外科的治療法についても未だ解明されていない点が多いので、これらについても検討を進めることとした。

研究方法
結果と考察
結論
(1)遺伝子解析: OPLL患者に特異なHLA-B遺伝子群が分布していることとcollagen 11α2遺伝子の多型が連鎖することから、HLA-B遺伝子に連鎖したOPLL感受性遺伝子の他に、MICA-A9遺伝子に連鎖したOPLL抵抗性遺伝子の存在が示唆され、OPLLの成因に関わる発症遺伝子と抵抗性遺伝子が第6染色体上のHLA-B遺伝子の近傍に存在している可能性が明らかになった。OPLL候補遺伝子11型コラーゲンA2については、OPLL遺伝子は11型コラーゲンA2遺伝子である可能性が極めて高いことが示唆された。XR遺伝子3を同定することができ、これらの遺伝子と密接な関係を持っていると推察された。また第6染色体21・3にマッピングされているRetinoid X Receptorβ遺伝子の近傍に原因遺伝子が存在すると考えられた。OPLL患者と健常人の間で、白血球由来の高分子DNAを用いて、遺伝子多型を利用した研究を行った結果では,OPLL発症の候補となるタンパク質つまりアポリポ蛋白E(APOE)、アポリポタンパク質E(APOE)、アンジオテンシン交換酵素(ACE)遺伝子の多型性を調べたが、何れの遺伝子も、候補遺伝子ではないと考えられた。
(2)骨形成因子: dexamehtasoneによる脊柱靱帯細胞の分化誘導についての実験的研究では,alkaline phosphatase mRNAの骨形成過程におけるbFGF及びFGF受容体(FGFR)の発現については、bFGFおよびFGFRは外骨膜性骨形成部、軟骨形成、内軟骨性骨形成、仮骨のリモデリングといった骨折治癒のほぼ全ての過程でその発現を認めた。bFGFおよびFGFRのリガンド・受容体反応は骨形成過程において重要な役割を果たすと思われ,これがOPLLにおける骨形成と密接な関係を示すものと思われた。OPLL患者より摘出した後縦靭帯標本では,靱帯骨化移行部と椎体隅角部付近のenthesisでオステオネクチンの産生が亢進していることから、オステオネクチンは骨化層の発生進展に重要な役割を果たしていると推察された。女性では対照群に比しOPLL患者で有意に上昇していたことから、レプチン又はその受容体の異常がOPLLの発症に関わる因子の一つである可能性が推察された。OPLL患者では、血清TGF-β1濃度が対照群に比し有意に高値を示したことから、血清中の細胞増殖因子が、末梢単核球増殖能の低下に関与している可能性が示唆された.脊柱靱帯におけるインテグリンの発現を免疫組織学的に検討すると、インテグリン、抗インテグリンα2・α3・α4・αV、β1抗体を用いての免疫染色では、加齢とともにその発現が減少していた。IRS-1ノックアウトマウスの脛骨および大腿骨骨量を測定は、野生型マウスに比べて約20%減少していたことから、内因性のインスリンが生体内において骨形成促進に重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
(3)軟骨基質・その他: 黄色靱帯のプロテオグリカンは高分子プロテオグリカンのアグリカンと低分子プロテオグリカンのデコリンとバイグリカンであった。デコリンとバイグリカンは・型コラーゲンとの親和性が強いことがわかった。実験的脊椎症における・型コラーゲンα2鎖遺伝子の発現では,骨軟骨コラーゲン遺伝子に比較し、他の骨軟骨コラーゲン・型、・型、・型コラーゲンα1で相対的に強く発現する傾向があった。手術時に採取した組織を、靱帯部・骨化部・靱帯-骨化部移行部にわけ、ヒト・型(C・)、・型(C・)コラーゲンに対する抗体を用いた免疫組織染色をおこなった。その結果,OPLLにおいては,後縦靭帯のコラーゲンの分子種のみならず分子内に生じる旺盛な変化が、その骨化の進展に関与している可能性が示唆された。Twy mouseではcontrolに比べて、圧迫部位でのbrain-derived neuro trophic factor(BDNF)、neurotrophin(NT)-3の染色性の低下が前角部を中心に顕著であった。慢性圧迫状態の脊髄では、神経細胞自体がその生存維持のためBDNF、NT-3を産生し、損傷が高度になれば周囲のグリア細胞からもBDNFが産生される可能性が示唆された。Twyマウスにおける前角細胞の機能的変化では、脊柱管の占拠率が20%程度までは病理学的変化は明らかではなかったが、30%以上の圧迫群ではほとんどの前角細胞に病理組織学的変化が見られ、免疫組織学的検討では、占拠率と蛍光量を比較すると,占拠率が高値になるほど蛍光量が減少する傾向が見られた。慢性圧迫による脊髄の神経細胞とグリアの死にアポト-シスが重要な役割を果たしていること、そのシグナル伝達経路にMAPKカスケ-ドが関与することが証明された。
(4)臨床的研究: OPLL患者の手術後の経過を見るとMRIでは、脊髄の除圧後の膨らみが不良である群は脊髄組織の復元力が劣っているものがOPLL群では多く見られ、罹病期間も長い例に多く見られた。OPLL群では頚椎症群に比し、より長期間に亘る脊髄圧迫により、脊髄の可塑性、復元力が低下していると考えられた。頚椎OPLLのmyelopathyの原因としてdynamic factor であるdisc herniaの合併が重要と思われた。
片開き式脊柱管拡大術の長期成績でみると、骨化巣の進展の他に、術前の圧迫により変性した脊髄の加齢に伴う変化が,頚椎後縦靭帯骨化症の術後長期成績に間接的に関与する可能性が示唆された。後縦靭帯骨化症患者のADLとQOLに関する研究では、平成9年度の班員にアンケートを出し、29施設460名分の患者にデータを送った結果、370名、回収率80.4%で解析し、その結果を検討中である。RA患者83例を対象に、頚椎後縦靭帯骨化症の合併の頻度や合併症例の臨床的な特徴について検討した。OPLLを合併した症例は4例(4.8%)で、RAにおけるOPLLの発生は特に低くはないと考えられた。骨化形態は連続型2例、分節型1例、限局型1例で、骨化椎体は平均2.2椎体であった。狭窄率は12%から33%(平均20.9%)であった。環軸椎亜脱臼を合併したものや神経症状を示した症例はなかった。神経症状を示した症例はなく、これは、脊柱管狭窄率が平均20.9%、最高でも33%と軽度であったことが原因と考えられた。一般成人を対象とした疫学的調査での骨化症例の平均脊柱管狭窄率よりも低く、このことはRAが骨化の伸展や形態に何らかの影響を与えた可能性を示している。

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