神経皮膚症候群

文献情報

文献番号
199700986A
報告書区分
総括
研究課題名
神経皮膚症候群
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
大塚 藤男(筑波大学臨床医学系皮膚科)
研究分担者(所属機関)
  • 大野耕策(鳥取大学医学部神経生物学)
  • 樋野興夫(癌研究所実験病理)
  • 吉川邦彦(大阪大学医学部皮膚科)
  • 吉田純(名古屋大学医学部脳神経外科)
  • 新村眞人(東京慈恵会医科大学皮膚科)
  • 縣俊彦(東京慈恵会医科大学環境保健医学)
  • 今門純久(筑波大学臨床医学系皮膚科)
  • 倉持朗(埼玉医科大学皮膚科)
  • 水口雅(自治医科大学小児科)
  • 佐谷秀行(熊本大学腫瘍医学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 皮膚・結合組織疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
二年目を迎えた本研究班は班員5名、研究協力者4名と難病特別研究員1名によって構成され、神経皮膚症候群(neurocutaneous syndrome, NCS)に属する疾患のなかで神経線維腫症1(NF1,Recklinghausen病、R病)と両側聴神経腫瘍を特徴とする神経線維腫症2(NF2)、および結節性硬化症(tuberous sclerosis, TS)を対象として、“遺伝子と患者QOLについての研究"を推進している。発症機構を遺伝子レベルで解明するとともに遺伝子診断法の確立や患者QOLの把握による重症度基準や治療指針の作製をも目標としている。

研究方法
結果と考察
結論
1.疫学、臨床統計
本研究班は疫学研究班と協同でNF1の定点モニタリングをおこなっている。同モニタリングが全国疫学調査の代替法となりうるかの検討、継続的情報収集体制の整備、患者数、疫学情報、臨床情報などの経年推移の把握を目的としている。1994年の全国疫学調査施設の一部から患者情報を得て、1994年度と1997年度を比較した。疫学的特性や臨床症状の変遷はある程度把握できたが、モニタ-施設の規定、協力体制などの検討課題も明らかになった(縣)。 本研究班は1994年度に全国調査をおこなって既にその報告をしている。今年度、同調査結果を用いてTS患者のQOLの把握を目的にADLの規定要因について検討した。患者年齢と知能低下がQOL(ADL)の規定因子であることが示唆され、その他の諸因子についても、QOL(ADL)との関連が明らかとなった(縣)。
日本病理剖検輯報の1974-92年の19年間に298例のR病が記載されており、全剖検例の0.064%に相当した。平均死亡年令は42才と若く、死因の半数は神経系腫瘍であり、そのまた半数が神経線維肉腫であった。消化管穿孔、心・血管系の破裂などの組織破たんも死因に占める率が高いことが明らかとなった(大塚)。
山陰地方、特に米子市周辺地域のTS患者の有病率を検討すると人口1万人に1人の頻度であった。CT検査などによる補足率の向上によって、有病率が従来より上昇したと考えられた。これをもとに本邦の患者数を12,000人と推定した。また25例のTS患者の5例にTSC1、10例にTSC2遺伝子の変異を検出した。同じ変異を有する患者がほとんどいないこと、同一患者で2種の変異を有することがあるなど、TSC1, TSC2遺伝子は突然変異を起こしやすい遺伝子と推定した(大野)。 
2.診断と症例
爪下線維腫のみで他のTSの症候を欠いた症例を報告し、GomezのTS診断基準の問題点が指摘された(倉持)。
TSとCowden病の症候の合併する症例が報告され、Cowden病の異質性が指摘され、両疾患の合併した可能性が示唆された(倉持)。TS患者に生じたcement-ossifying fibromaが報告された(倉持)。
3.病因・病態生理
本邦のNF1患者34例中2例にNF1遺伝子の全欠損と考えられるbig deletionを検出した。Big deletion検出例は各々多発性グロームス腫瘍とmalignant peripheral nerve sheath tumorを合併しており、重症型が多いことが示唆された(新村)。 NF1患者の皮膚神経線維腫の腫瘍発生機序を明らかにする目的で同線維腫由来の培養線維芽細胞のチロシンキナーゼ遺伝子の発現を検討した。健常人由来の培養線維芽細胞と異なりPDGFレセプター、ryk、IGFレセプター、JAK1、fyn、hek2、flk1などが単離された。神経線維腫では正常の線維芽細胞と異なるチロシンキナーゼ群を介した増殖シグナルが働いていることが示唆された(大塚)。
NF1患者の皮膚神経線維腫由来培養細胞にβーガラクトシダーゼの発現ベクターをリン酸カルシウム法を用いてトランスフェクトし、同遺伝子をtransientに発現させた。トランスフェクシオン効率は1/1000であった。βーガラクトシダーゼ遺伝子とneomycin耐性遺伝子を持つプラスミドを神経線維腫由来培養細胞にトランスフェクトし、G418存在下に培養してG418耐性細胞を得ることができた。この細胞はβーガラクトシダーゼを発現するが、分裂能が低かった。神経線維腫細胞に外来遺伝子を移入するにはG418を用いない別法が必要と思われた(今門)。 NF1患者の皮膚神経線維腫由来培養細胞に各種ビタミンD添加下に培養すると10-15%の増殖抑制効果があったが、正常線維芽細胞でも同様であり、同抑制効果は神経繊維腫に特異な所見ではなかった(今門)。 NF2の遺伝子産物(マーリン)の正常型は核周囲に分布するが、変異型は膜直下には分布せず、細胞の付着性も低かった。マーリンと5つの蛋白分子が結合するが、その2つはpoly(ADPribose)polymeraseとKu80であることが明らかとなった。マーリンがDNA修復の制御に働いていることが示唆された(佐谷)。
グリオ-マ細胞株をTNF-αとINF-βで刺激すると前記サイトカインに抵抗性の細胞では転写因子であるNF-κBが活性化し、感受性細胞では活性化しなかった。NF-κBがサイトカインにより誘導されるアポト-シスを抑制する機構に関与している可能性が示唆された(吉田)。
TSC1とTSC2遺伝子のプライマーを用いてPCR-SSCP法により本邦TS患者の遺伝子診断をおこなった。両遺伝子の変異を認める例とともに、両遺伝子の変異が認められない例も存在した。TSC2蛋白の臓器局在を免疫組織学的に検索したところ、病理組織学的に異常のない臓器にも高発現すること、発現は外分泌、内分泌に関与する臓器に多いことが明かとなった(樋野)。
抗ヒトtubering合成ペプチド抗体を作製してWestern blottinと免疫組織染色をおこなった。Tuberin発現量はTS大脳の結節性病変の内外で激減し、腎・心過誤腫では低下していた。TSと類似した病理組織像を示す局所性皮質異形成では低下していないことが分かった。Tuberin発現からはTSと局所性異質異形成とは異なる病態と考えられた(水口)。
TSで特異的に減少するp40蛋白の細胞分裂制御作用を調べた。Antisense-p40とsense-p40と導入すると、前者ではp40のm-RNA量、蛋白量が低下し、細胞の増殖能が低下した。アポトーシスの誘導もみられ、細胞死の原因と考えられた(吉川)。
4.治療
9例のNF2患者の聴神経腫瘍に対しガンマナイフによる放射線治療を試みた。平均38.5ケ月の経過を観察しているが、局所制御率は89%であった。顔面神経麻痺などの副作用はなかった。効果、副作用の精確な判定には5-10年の長期追跡調査が必要である(吉田)。
両側大脳半球に巨大皮質結節を有し、点頭てんかんを呈したTS患者の巨大結節を切除したところ、点頭てんかんの改善をみた。発作の焦点となる皮質結節の除去により部分てんかんよりの二次性全般化を防ぐことができた。結節の早期切除がQOL改善に有用であった症例を報告を報告している(倉持)。

公開日・更新日

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