難治性疾患由来外来因子フリー人工多能性幹細胞の委託作製とバンク化

文献情報

文献番号
201128003A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性疾患由来外来因子フリー人工多能性幹細胞の委託作製とバンク化
課題番号
H21-難治・一般-169
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
江良 択実(熊本大学 発生医学研究所 幹細胞部門 幹細胞誘導分野)
研究分担者(所属機関)
  • 西中村 隆一(熊本大学 発生医学研究所 器官構築部門 腎臓発生分野)
  • 尹  浩信(熊本大学大学院生命科学研究部皮膚病態治療再建学)
  • 房木 ノエミ(ディナベック株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
65,385,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
希少性が高く有限である難治性疾患の生体試料を有効利用するために、難治性疾患由来人工多能性幹細胞(iPS細胞)の医師や研究者からの委託作製と、作製したiPS細胞のバンク化システムの構築が研究目的である。
研究方法
ヒトの皮膚生検から作製した皮膚由来線維芽細胞、あるいは患者末梢血液細胞をiPS細胞のソースとして用いる。センダイウイルスベクター(SeV)によって患者由来細胞へ初期因子(Oct3/4, Sox2, KLF4, c-Myc)を一過性に発現させiPS細胞を誘導する。樹立したiPS細胞については、1)ALP染色2)Nanog, Oct3/4, SSEA-4, TRA-1-60などの未分化マーカーの発現をPCR法や免疫染色法にて確認する。必要ならば、三胚葉系細胞への分化を誘導し多能性を確認する。
結果と考察
1) 線維芽細胞を65症例(合計244症例)、iPS細胞を40症例(合計70症例)から樹立し、依頼医師に提供した。2)バンク登録を29症例(86株、合計32症例、94株)について行なった。3) 血液細胞からのiPS細胞樹立方法を確立し、血液疾患の標的血液細胞からiPS細胞を作製した。4) 成果発表を兼ねた市民と研究者への公開シンポジウムを東京にて開催した。5) 共同研究を推進し、新たに4つの研究(計9件)において共同研究を開始した。以上のように、当初の目標を大きく上回る線維芽細胞の樹立とiPS細胞樹立を行うことができた。さらに血液細胞からの樹立方法を確立したことは、難治性血液疾患からの作製を可能にしたばかりか、皮膚生検が困難である小児からの樹立をも可能にした進歩と考えている。バンクに登録したiPS細胞については、体制が整いしだい供給を開始するが、使用機関での倫理審査の承認があることが供給の前提となる。
結論
1.線維芽細胞を65症例、iPS細胞を40症例から樹立した。
2.バンク登録を29症例(86株)について行なった。
3.血液疾患の標的血液細胞からiPS細胞を作製した。
4.作製したiPS細胞は基礎研究と臨床研究に広く活用可能であり、多くの研究者が使うことが予想できる。
5.市民シンポジウムを開催し、バンク事業を紹介していくことは、この事業を理解してもらう上で重要である。

公開日・更新日

公開日
2012-05-25
更新日
-

文献情報

文献番号
201128003B
報告書区分
総合
研究課題名
難治性疾患由来外来因子フリー人工多能性幹細胞の委託作製とバンク化
課題番号
H21-難治・一般-169
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
江良 択実(熊本大学 発生医学研究所 幹細胞部門 幹細胞誘導分野)
研究分担者(所属機関)
  • 西中村 隆一(熊本大学 発生医学研究所 器官構築部門 腎臓発生分野)
  • 尹  浩信(熊本大学大学院生命科学研究部 皮膚病態治療再建学)
  • 房木 ノエミ(ディナベック株式会社)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 難治性疾患克服研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
希少性が高く有限である難治性疾患の生体試料を有効利用するために、疾患由来人工多能性幹細胞(iPS細胞)の委託作製とバンク化システムの構築が研究目的である。
研究方法
ヒトの皮膚生検から作製した線維芽細胞、あるいは末梢血液細胞をiPS細胞のソースとして用いる。センダイウイルスベクター(SeV)によって患者由来細胞へ初期因子(Oct3/4, Sox2, KLF4, c-Myc)を発現させiPS細胞を誘導する。樹立したiPS細胞については、1)ALP染色2)Nanogなどの未分化マーカーの発現を確認する。必要ならば、三胚葉系細胞への分化を誘導し多能性を確認する。
結果と考察
研究期間2年6ヶ月間に、1) 109疾患、244症例から線維芽細胞を樹立。うち70症例(47疾患、700株)からiPS細胞を樹立し依頼医師へ提供した。また、32症例(94株)のiPS細胞のバンク登録が終了した。2) 線維芽細胞と末梢血液から温度感受性センダイウイルスベクター(SeV)を使ってのiPS細胞樹立技術を確立し、iPS細胞樹立技術を標準化した。3) バンク化について医薬基盤研、理研BRCとの共通同意書、説明用パンフレットや分配の規則を記した書類の作製等を行いiPS細胞バンク体制を確立した。4) 合計5回の市民公開シンポジウムを行い市民に事業を理解してもらう活動を行なった。5) 作製したiPS細胞を使っての計9件の共同研究の成立に寄与した。以上より、当初の目的をすべて達成できた。しかし、1) 未作製の疾患がまだ多くあり、すでに線維芽細胞は樹立したこと、2) iPS細胞量産化の基盤が整ったこと3) バンクを軌道に乗せるために短期間に細胞登録を増やす必要があること4) iPS細胞が難治性疾患研究において有用なツールであること5) 市民・患者の関心が高いことから総合的に判断して、この研究を何らかの形で継続する必要があると考察する。
結論
1.合計109疾患、244症例の皮膚生検サンプルより線維芽細胞を樹立、70症例からのiPS細胞の樹立し、うち32症例から作製したiPS細胞、合計94株のバンク登録も完了した。
2.iPS細胞樹立の標準化、量産化の基盤・体制が整った
3.医薬基盤研、理研BRCと連携し難治性疾患由来iPS細胞バンク体制を確立した。
4.iPS細胞は疾患研究に有用なツールであり、研究者、市民、患者の関心が高い。

公開日・更新日

公開日
2012-05-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201128003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
皮膚由来線維芽細胞と血液細胞から、センダイウイルスベクターを使って外来因子フリーのiPS細胞樹立技術を確立し標準化した。研究期間内(2年半)に、計109疾患、244症例の難治性疾患から線維芽細胞を樹立した。このうち70症例(1症例から10株、合計700株)から外来因子フリーのiPS細胞を樹立し依頼医師へ提供した。また、32症例(94株)についてはiPS細胞のバンク登録が終了した。さらにベクターの改良を行い、1ヵ月半でiPS細胞を作製できる新型ベクターを開発し、加速化された作製体制を構築した。
臨床的観点からの成果
少量の末梢血液から容易にかつ短期間に外来因子フリーのiPS細胞樹立方法を確立した。これによってこれまで線維芽細胞由来のiPS細胞では解析が不十分であった血液疾患や皮膚生検が困難であった小児科領域の疾患からのiPS細胞作製が簡単かつ短期間にて可能となった。また作製したiPS細胞を使っての計9件の基礎と臨床の共同研究の成立に協力し研究の発展に寄与した。さらに一部の疾患由来iPS細胞を使って、疾患モデルを作製し、新規治療薬の候補化学物質を同定し薬剤開発の可能性を示した。
ガイドライン等の開発
難治性疾患由来iPS細胞のバンクを構築した。依頼者(医師・研究者)は研究代表者(江良択実)へ連絡する。収集班からの対応窓口には医薬基盤研も加わる。所属機関の倫理委員会承認と患者の同意があることが必須である。iPS細胞のバンク化については、理研バイオリソースセンター、医薬基盤研究所と連携し、管理・配布の体制を構築した。共通の同意書や説明用パンフレットの作製、分配規則や細胞配布、委託に関する書類を作成整備した。登録した細胞については、十分な増幅後、供給が可能な状態にある。
その他行政的観点からの成果
本研究を提案した段階では、文科省関連の疾患iPS細胞作製プロジェクトがあった。しかし、この研究は、1) 医師のために委託作製を行う2) 難治性疾患(難病)に焦点を当て、バンク化することでサンプル供給の問題を解決する3) 厚労省難病研究班と連携して、世界初の国産技術を用いて、外来因子フリーiPS細胞を作製・バンク化し、研究に用いる、といった新アイデアを有する画期的なものであった。その主旨は、今後予定されている、文科省と厚労省が共同で行う、疾患特異的iPS細胞を活用した難病研究、に受け継がれている。
その他のインパクト
患者や市民の理解を深めるための活動合計5回の市民公開シンポジウム全国にて開催し(熊本、大阪、東京等)、研究者、市民、患者にこの事業を理解してもらう活動を行なった。市民公開シンポジウムには多くの人々の参加があった。特に熊本市では、地方都市開催にもかかわらず、参加者が100名以上にのぼったことは、市民や患者のiPS細胞への関心の高さをうかがわせる。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
19件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
15件
学会発表(国際学会等)
19件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Kitagawa M and Era T
Differentiation of mesodermal cells from pluripotent stem cells.
Int J Hematol  (2010)
原著論文2
N. Fusaki, H Ban, A Nishiyama, K et al.
Efficient induction of transgene-free human pluripotent stem cells using a vector based on Sendai virus, an RNA virus that does not integrate into the host genome.
Proc. Jpn. Acad. Ser. B  (2009)

公開日・更新日

公開日
2014-05-22
更新日
-

収支報告書

文献番号
201128003Z