混合性結合組織病

文献情報

文献番号
199700985A
報告書区分
総括
研究課題名
混合性結合組織病
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
東條 毅(国立東京第二病院)
研究分担者(所属機関)
  • 鳥飼勝隆(藤田保健衛生大)
  • 国枝武義(慶応大)
  • 近藤啓文(北里大)
  • 原まさ子(東京女子医大)
  • 岡本尚(名古屋市大)
  • 高崎芳成(順天堂大)
  • 三森経世(慶応大)
  • 三崎義堅(九大生体防御研)
  • 湯原孝典(筑波大)
  • 大久保光夫(福島医大)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 皮膚・結合組織疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本分科会の研究目的は混合性結合組織病(MCTD)について、以下の重点研究課題を解明するとである。すなわち、?MCTDの疾患概念をより明確にすること、?抗 U1RNP 抗体の産生機序および病態形成機構を解明すること、の2課題である。
研究方法
重点課題の第一は、主として臨床的な研究課題である。このため臨床系の分科会構成員を中心とした臨床協同研究組織を作り、プロジェクト臨床研究を推進した。さらにこれに加えて、厚生省難病の疫学調査研究班との協同研究を推進した。これに対して重点課題の第二は、班構成員それぞれの各個研究にまかせた。
結果と考察
1.MCTDの自然歴に関するプロジェクト臨床研究
本分科会ではプロジェクト臨床研究(研究総括者:近藤啓文、東條毅)よって、MCTDの自然経過を明らかにする課題に取り組んでいる。これにより、新たな観点から疾患概念をより明確にしようとするものである。昨年度までの本班の研究成果により、MCTDについてはすでに304例の臨床経過調査票が回収されて分析された。この解析成績からMCTDの自然歴の特徴が報告されている。しかしこの成績の妥当性を裏付けるためには、他の膠原病についても同様な調査をする必要がある。この対照疾患として、全身性エリテマトーデス(SLE)、全身性強皮症(PSS)、多発性筋炎・皮膚筋炎(PM・DM)を選び、同様な方法で臨床経過を調査した。これにより、SLE104例、PSS85例、PM・DM85例の経過票が回収された。この対照症例の経過観察年は8.6±5.2年であった。
近藤啓文(研究協力員)らはMCTD例をこれらの対照例と比較検討した。この結果、「手指・手背の腫脹」が経過を通じて持続する点、および肺高血圧症例が経過とともに増加する点は、対照疾患では認められないことが明らかとなった。したがってこれらの点はMCTDの臨床経過の特徴といえる。すなわち、疾患単位としての臨床面での特異性が認められたこととなる。
湯原孝典(研究協力者)も、所属施設内症例を対象として同様の検討を行った。この検討よりMCTD例は、臨床経過を含めた多変量解析によって一つのクラスターを形成する可能性が示された。
2.(2):肺高血圧症を合併したMCTDの予後に関するプロジェクト臨床研究(研究総括者:鳥飼勝隆、国枝武義、東條毅)
肺高血圧症はMCTDの主死因と推測されているため、本分科会としての重要研究課題である。しかし肺高血圧症は呼吸不全班の重点課題でもあるため、本分科会での研究課題は主として治療および予後に関するものに限定している。本班のこれ迄の成績で、肺高血圧症を合併したMCTD例でも、比較的予後良好の群のあることが示唆されている。鳥飼勝隆(研究協力員)は、その予後規定因子を明らかにするために、これ迄に本班に集積された肺高血圧症合併MCTDの94例を再検討した。予後不良群36例と比較的良好群30例の2群間の検討で、予後悪化因子として筋原性酵素値上昇、肺血栓症、等の諸項が示唆された。
国枝武義(研究協力員)は原発性肺高血圧症(PPH)53例を含む肺高血圧症77例の分析から、PPH発症機序への抗U1RNP抗体の関与の可能性は少ないと報告した。この成績は肺高血圧症の病態の不均質性を示唆している。したがってMCTDにおける肺高血圧症の治療についても、PPHとは異なる観点からの検討が必要である。
3.MCTDの生命予後調査に関する難病の疫学班との協同研究(研究総括者:東條毅、  鳥飼勝隆/難病の疫学班:松本美富士、玉腰暁子、川村孝、大野良之)
横断的基盤班である難病の疫学班との協同研究で、1992年の全国疫学調査で把握したMCTD850例の5年後再調査により、生命予後とその規制因子を求めた。平成9年11月迄の回収率は90.7%で、665例(対象例の78.2%)の現況が把握された。死亡例は58/665例で、主死因は呼吸器病変で既報と一致した。肺高血圧症の合併例の累積生存率は非合併例より有意に低く、これが予後規制因子であることが示された。推定発症時および初診時からの5年生存率は99.2%および97.8%と計算されたが、かかる生存率を全国疫学調査例より求める場合の種々の問題点も明らかにされた。
4.抗 U1RNP 抗体の産生機序および病態形成機構の解明に関する各個研究
MCTDに特徴的な免疫異常は抗U1RNP抗体の持続的産生にある。このため本分科会では前述の重点研究課題を設定して、これに沿った各個研究を推進している。
三崎義堅(特別研究員)はヒトU1RNP-A抗原を導入したトランスジェニックマウス(Tg)系を樹立して、U1RNPに対する自己免疫応答と病態との関連を引き続き解析している。TgにはヒトU1RNP-A抗原の発現量の異なる2系があり、野生型マウス由来の同抗原特異的T細胞集団を移入すると、それぞれに異なる生体反応を示した。これより生体は自己免疫応答を制御する機能を持ち、その機能が病態形成に関連すると推測している。
大久保光夫(研究協力員)は、MCTD患者の末梢血中のT細胞が、U1RNP-AとU1RNP-70Kのどちらを優位に認識しているかを調べた。この結果、U1RNP-A抗原が優位であることを示し、MCTD発症後の病態はU1RNP-A抗原を認識するT細胞で維持されていると推測している。
三森経世(分科会員)は、MCTDを含む抗U1RNP抗体陽性70例のHLAクラス?遺伝子を解析した。その成績を昨年度の成績と併せて解析し、MCTDが免疫遺伝学的にも独立性のあることを示唆した。
岡本尚(分科会員)は、アポトーシスに関連すると考えられる53BP2の染色体局在を調べ、Iq42.1にマップされることを明らかにした。この領域は家族性SLEのリンケージ解析から得られた疾患感受性遺伝子座位と重なっていた。両遺伝子が同一か否かは今後の検討に待たれるが、MCTD発症にアポトーシス異常を推測し、今後さらに家族性MCTDでの解析を進めることとしている。
5.MCTDの病態の解明に関する各個研究 
高崎芳成(研究協力員)は25塩基のランダムな配列のRNAライブラリーを用いたスクリーニング法で各膠原病血清との反応性を調べ、主にMCTDに認められる新たな抗RNA抗体を示唆した。また昨年度に引き続き抗CD80モノクロナール抗体を用いた研究を進め、SCIDマウスの系での実験より同抗体がγグロブリンの産生を抑制することを示し、新たな免疫療法の可能性を示した。
原まさ子(研究協力員)はエンドセリン(ET)と一酸化窒素(NO)のMCTD病態との関連を検討した。MCTDでは血漿ET-1濃度および培養線維芽細胞でのET-1mRNAの発現量は正常人より高値であった。MCTDでのETおよびET受容体(ETR)の解析は、鳥飼勝隆(研究協力員)によっても研究されている。肺高血圧の治療反応性の差に、ETとETRが関与する可能性も示唆されている。
上記の他にも、MCTD筋細胞上に発現する機能分子の検討(原)、MCTDでのHERV遺伝子産物発現の検討(高崎)、抗U1RNP抗体と無菌性髄膜炎の関連の検討(近藤)、リコンビナント蛋白抗原の改良によるU1RNP-ELISA感度の上昇(東條)などの各個研究が報告された。
結論
前述のように、本分科会は重点研究課題として2課題を設定した。第一の課題である疾患概念をさらに明らかにする研究に関しては、かなりの進捗がみられた。すなわちMCTDの自然歴の研究がほぼ纏められた。これによりMCTDに特異的な臨床経過のあることが初めて示されたこととなる。MCTD群をコントロール群と対比させて、その特異な臨床経過をさらにまとめる予定である。他方、免疫遺伝学的な検討成績からも、抗U1RNP抗体陽性例には特異性のあることが示されている。これらをふまえて、MCTDをどのように把握すべきかの纏めを、最終年度の課題としたい。
第二の課題である抗U1RNP抗体の産生機序と病態形成機構の解明は、広く自己免疫性疾患研究に共通する命題である。本分科会でU1RNP-Aのトランスジェニックマウスの系が確立されたことは、この課題研究の進捗を裏付けている。今後この系を利用しての研究の進展が期待される。
最後に、横断的基盤研究グループの免疫研究班から斉藤隆研究協力員が本分科会に参加され、有益な交流がなされたことを付記し感謝する。

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