強皮症

文献情報

文献番号
199700984A
報告書区分
総括
研究課題名
強皮症
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
新海 浤(千葉大学皮膚科)
研究分担者(所属機関)
  • 西岡清(東京医科歯科大学皮膚科)
  • 片山一朗(長崎大皮膚科)
  • 岩本逸夫(千葉大学第二内科)
  • 石川治(群馬大学皮膚科)
  • 水谷仁(三重大皮膚科)
  • 畑隆一郎(東京医科歯科大学難治疾患研究所)
  • 稲垣豊(国立金沢病院内科)
  • 竹原和彦(金沢大学皮膚科)
  • 五十嵐敦之(関東逓信病院皮膚科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 皮膚・結合組織疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本症の初期のマーカーを捉え、線維化防御の治療の道を開くこと。強皮症は疾患の概念・診断基準は国際的にもほぼ確立しているものの、その病因は不明で随伴する症状が多彩であるため、各症状に対応した治療が行われているのが現状である。本症の本態が皮膚、肺を始めとした結合組織の線維化であり、免疫異常を基盤とした細胞外マトリックスの異常蓄積と考えられているもののその本態は依然として不明である 
研究方法
?線維芽細胞の活性化と免疫機構、T細胞の関与。?線維化誘導とケモカイン、サイトカインの役割。?コラーゲン線維化機構の解明。?コラーゲン線維化予防・治療剤の開発。
結果と考察
線維芽細胞の活性化と免疫機構、T細胞の関与
本症ではCD4-CD8-T細胞がクロナールに増加することが前回の研究で判明した。CD4-CD8-T細胞より分泌される Interleukin-17の発現を末梢血より検討した。健常人末梢血単核球はPHA未刺激状態ではIL-17の遺伝子発現が見られなが、本症では未刺激状態でもその発現は認められた。しかしSLE、皮膚筋炎・多発性筋炎、シェーグレン症候群の患者には認められなかった。強皮症患者皮膚の浸潤細胞のIL-17の発現は4中2例に認められ、IL-17が線維芽細胞を活性化し、強皮症を特徴付ける皮膚硬化、内臓の線維化を引きおこし、強皮症の発症に免疫機構、とくにT細胞の関与が強く示唆された。IL-17は線維芽細胞を活性化し、強皮症でみられるICAM-1の発現亢進、IL-6を産生誘導するのみでなく、血管内皮細胞にも作用し、接着分子の発現誘導、IL-6, IL-8などのサイトカイン産生を誘導し、強皮症の発症には血管内皮の傷害、異常が重要な役割を果たしていることが考えられた。
線維化誘導とケモカイン、サイトカインの役割
特定の白血球の遊走や浸潤を調節しているMonocyte chemotactic protein 1 (MCP-1) は、本症患者血清中て有意に高値を示した。Macrophage inflammatory protein 1 (MIP-1) αは,limited systemic sclerosisとdiffuse systemic sclerosis の両群で健常人よりも 高率に検出されたが有意ではなかった。一方、MIP-1βは本症患者(20-2850 pg/ml) では有意に高値を示した。MCP-1とMIP-1αの上昇は肺線維症の存在と有意に相関し,MIP-1βの上昇している患者では正常値の患者よりも赤沈の亢進と血中IgGの上昇が高率に認められた。TGF-βは線維芽細胞の細胞外マトリックスの合成を著明に亢進させ、線維化にTGF-βが深く関与している。TGF-β1、2、3の皮下に注入より作成した皮膚硬化モデルの組織変化を経時的に観察し、TGF-β単独,TGF-βとb-FGFの組み合わせ,いずれの場合も肉芽形成もしくは線維化の見られた部分にCTGFの発現を認めた。一方線維化を認めない組織ではCTGFの発現は認めなかった。 以上の結果から創傷治癒と異なり、本症では持続性にCTGFが発現することで、病態形成に深く関与することが示唆された。
コラーゲン線維化機構の解明
病初期の皮膚では組織学的に血管周囲性のマクロファージ、リンパ球浸潤、間質結合織の浮腫が見られ、均質化したコラーゲンが真皮下層から沈着してくる。この時期には細胞浸潤は認められなくなり、血管壁が肥厚し、内腔が狭小化してくる。この血管の変化は低酸素状態や低栄養状態をもたらしていると考え、低酸素状態での皮膚真皮線維芽細胞のコラーゲン代謝関連遺伝子mRNA発現を検討した。低酸素条件,低栄養条件,低栄養および低酸素条件下でTGF-β mRNA発現の上昇とともにMMP-1 mRNA発現の低下を認めたが、他のマトリックス関連遺伝子の発現に変化はなかった.また低酸素条件下でのコラーゲン分子架橋は低下した。これらの結果から、低酸素状態ではTGF-βの活性化により、それに由来するマトリックス成分の変化と、MMP-1発現低下による作用が相まってマトリックス成分蓄積の方向に導くことが考えられた。HSP-47はコラーゲンの特異的分子シャペロンで、コラーゲン前駆体の正常なプロセッシング、分泌に必要不可欠なタンパク質である。強皮症ではその遺伝子とタンパク質発現が有意に亢進し、HSP-47遺伝子の高発現した強皮症培養細胞は同時にコラーゲン遺伝子も亢進していた。またin vivoでの両者の関係は並行し、TGF-β、IL-4添加によりHSP-47遺伝子、コラーゲン遺伝子の発現をは亢進することが判明した。一方INF-γは両者の遺伝子、タンパク質発現を抑制し、INF-γは線維化防止の治療に使用可能であることがうらずけられた。 本症は肺をはじめ、内臓の線維化を来すが、肝の線維化は希である。この臓器の違いによるコラーゲンの発現調節を明らかにするため、COL1A2 鎖の転写調節機構の差を検討した。 皮膚線維芽細胞、肝星細胞ではCOL1A2の-313から-183塩基間に強いenhancer活性とTGF-β-responsive elementが存在する。この上流塩基配列を、CAT遺伝子に連結して肝細胞癌由来の細胞や、肝初代培養細胞に導入した場合、皮膚線維芽細胞、肝星細胞で認められるrepressor活性や、TGF-β添加によるCOL1A2の転写促進が認められないことが判明した。このことは間葉系細胞と肝実質細胞ではことなる転写調節機構が存在することを示唆している。
コラーゲン線維化予防・治療剤の開発
Th2型サイトカインを産生するとされる組織肥満細胞への制御を目的としてブレオマイシン誘導性強皮症モデルマウスに対するIFNγの効果およびTGFβ誘導性の線維芽細胞活性化に対するIFNγの抑制効果をIFN誘導性の転写因子であるIRF1、IRF2それぞれのノックアウトマウスを用いて検討を行った。 ブレオマイシン投与により、皮膚のコラーゲン線維の膨化、均質化を主体とする組織硬化像が誘導されたが、幼若な線維芽細胞の増生を主体とする線維化病変としての変化は軽度であった。このブレオマイシン誘導性の組織硬化はIFNγ及びTGFβ阻害作用を有するマンノース6燐酸(M6P)の皮内投与により減弱する傾向が見られた。IRF-1ノックアウトマウスではIRF-2ノックアウトマウスに比し硬化の増強が見られた。ブレオマイシン投与終了時の組織ヒアルロン酸の低下とデルマタン硫酸軽度増加が見られたが改善部皮膚ではデルマタン硫酸が増加する傾向が見られた。トコレチネートの外用が強皮症皮膚の硬化,肥厚性瘢痕,ケロイドに有効で,組織学的にも硬化改善を前回の当研究班で報告した。レチノイドが過剰な張力の抑制に働く可能性を想定し,これらの臨床的効果の機序解明のために線維芽細胞のコラーゲンゲル内培養系のよるトコレチネートはじめ各種レチノイドの収縮力に与える影響を検討した。トコレチネート,13cis-retinoic acid(13cis),all trans-retinoic acid(All)のすべてはコラーゲンゲル収縮を抑制し、テネイシンCの発現が認められた。テネイシンC は細胞の細胞外マトリクスとの脱着をコントロールするとされていることから、その発現によりコラーゲンゲルと線維芽細胞との接着力を減少させ,ゲルの収縮を抑制した機序が推測された。 ブレオマシシンは活性酸素を生じる薬剤であり、その中でもスーパーオキサイドはブレオマイシンによる線維芽細胞からのコラーゲン産生増加に重要な役割を果たす一因である可能性が示唆される。スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)はスーパーオキサイドアニオン(O2ー)の特異的な消去剤であることから、皮膚硬化への治療的役割を検討し、PSD-04の2週間の局注で、組織学的に硬化が残存してみられた。PSD-04静注の2週間投与により組織学的に硬化は改菩した。 ブレオマイシンによる硬化完成後のPSD-04の静注投与では組織学的に硬化の度合いは減少してみられたが、皮膚ハイドロキシプロリン量はコントロールのマンニトール投与と比較して有意差は認められなかった。しかし、ブレオマイシンと同時に投与した系では組織学的な硬化の緩和に加え、ハイドロキシプロリン量も有意に減少して認められた。以上よりブレオマイシンにより誘導された皮膚硬化はその発症機序の一部にスーパーオキサイドを介することが示唆されるとともに、その皮膚硬化に対しSOD投与は有効であると思われた。
結論
強皮症皮膚に浸潤するリンパ球はIL-17を発現し、CTGFは持続的な線維化に関与する。 コラーゲン発現とHSP-47は連動し、TGF-β、IL-4は両者の遺伝子発現を亢進させる。一方INF-γはそれらの発現を抑制することで線維化治療に効果が期待される。ブレオマイシン誘導性皮膚硬化の発症機構にスーパーオキサイドを介する機序があり、SODの投与は線維化防止に有効と考えられた。

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