肝内結石症

文献情報

文献番号
199700981A
報告書区分
総括
研究課題名
肝内結石症
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
二村 雄次(名古屋大学第一外科)
研究分担者(所属機関)
  • 豊嶋英明(名古屋大学公衆衛生学)
  • 古川正人(国立長崎中央病院外科)
  • 田中雅夫(九州大学第一外科)
  • 伊勢秀雄(東北大学第一外科)
  • 田中直見(筑波大学臨床医学系消化器内科)
  • 太田哲生(金沢大学第二外科)
  • 中沼安二(金沢大学第二病理)
  • 本田和男(愛媛大学第一外科)
  • 税所宏光(千葉大学第一内科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 消化器系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝内結石症の診断、治療成績は確実に進歩しているが、成因は明らかでなく、治療終了後の結石遺残率も高率である。年々減少傾向にあるとはいえ、治療成績の向上により症例が累積することもあり、まだまだ臨床上問題となることの多い難治性疾患である。本研究班では、肝内結石の発生機序に関する疫学的、形態学的、流体力学的、病態生理学的、分子生物学的、遺伝子学的研究を行い、これら多方面からの研究結果をもとに、肝内結石の成因を解明する。さらに、これらの結果と現在までに集積された治療成績をもとに肝内結石の成因別にみた治療体系を確立することを目的とする。

研究方法
結果と考察
結論
1.疫学的知見
肝内結石症重症度基準を作成する上で基礎となる情報を得る目的で、班員の施設での肝内結石症症例を対象に、アンケート調査を行った。184例を集積でき、再発例は36例(20%)であった。再発までの期間は平均5.4年である。再発率は左葉型16%、右葉型17%、両葉型26%で、両葉型に高い傾向を認めた。手術法をみると、肝切除群6%に対し、非肝切除群は63%と高率であった。再発要因の主なものは、胆管狭窄53%、不適切な胆道手術の既往17%である。死亡例は23例(12%)であり、治療日から死亡までの期間は平均1.9年であった。肝内結石に関連した死亡は10例であり、このうちの5例が胆管細胞癌で死亡していた。
肝内結石症の予後要因を明らかにする目的で、初回入院治療後の転帰が明らかな症例21例の検討結果が報告された。再発例は9例、非再発例は12例である。再発群では、女性が多い傾向があり、多数が胆道系手術の既往を持っていた。結石は肝内限局型がほとんどで、右葉に多い傾向がみられ、治療法としては経皮経肝胆道鏡のみが多かった。非再発群では、肝内結石だけでなく総胆管や胆嚢にも結石をもち、治療法も経皮経肝胆道鏡のみでなく、肝切除術や胆嚢摘出術などが半数近くに施行されていた。検査結果では、再発群は肝機能が悪く、貧血の傾向がみられ、HDLコレステロールが低い値を示した。
無症候性肝内結石症の転帰に関しては、まとまった報告はなく、長崎県上五島地区の肝内結石症患者の検討結果は注目される。診断時無症状であり、無治療で経過観察された原発性肝内結石症は122例であった。観察期間は平均10年であり、14例で症状が発現した。症状発現までの期間は平均3年5月であった。症状が発現した14例中13例(93%)で肝葉萎縮を認めており、発現しなかった108例での肝萎縮の頻度13%と比較して有意に高率であった。症状が発現した症例のうち3例が死亡し、すべて肝内結石と関連していたが、症状が発現しなかった群では肝内結石に関連した死亡例はなかった。この結果から、肝葉萎縮が症状発現や肝内胆管癌合併の危険因子であるこれが示唆された。
2.成因に関する検討
肝内結石症では胆管粘膜が胃粘膜化することが明らかになり、一方胃粘膜では、Helicobactor pyroli(HP)の感染が胃炎や胃癌発生と関連することが知られている。肝内結石症でもHPが病態形成や発癌に関与するのではないかとの仮説をたて、肝内結石症、肝内胆管癌、対照肝のホルマリン固定パラフィン包埋切片を用いて免疫組織化学的検討がなされた。肝内結石症や肝内胆管癌では全例に比較的高度なHP感染が認められたのに対し、対照肝では39%に軽度の感染を認めるのみであった。肝内結石症では、増生壁内付属腺にHP感染が顕著であった。この報告は、肝内結石症と肝内胆管癌の胆管粘膜におけるHP感染を初めて明らかにしたこと、HP感染が肝内結石症や肝内胆管癌の発生および進展に関連することを示唆したことで、きわめて大きなインパクトを持つものである。
肝内結石症では慢性増殖性胆管炎が特徴的な所見であるが、その進展に関与する因子は十分には検討されていない。代表的な神経栄養因子であるnerve growth factor(NGF)は、ほかの神経栄養因子と異なり肥満細胞やマクロファージに作用するcolony stimulating factorとしての機能ももっている。肝内ビリルビン結石症の切除肝を用いた免疫組織化学的な検討で、大型胆管壁の内外に増生している胆管付属腺の細胞質内にNGFの強い発現を認めた。このことから、付属腺から産生されるNGFは付属腺周囲の神経線維増生に関与するだけでなく、慢性炎症の持続に重要な役割を演じている可能性が示された。
肝内結石症の発生や進展には、胆管炎ならびにムチン過分泌が大きな意義を持つことが示唆されている。分泌型低分子ホスホリパーゼA2(PLA2)は炎症の進展に関与する可能性が示されており、一方、胆嚢結石の形成にかかわるムチン遺伝子が最近報告されている。これらの背景から、肝内結石症の胆管における低分子PLA2およびムチン遺伝子の発現を解析し、胆汁組成の異常と対比することで、遺伝子発現とその変動の意義が検討された。肝内結石症の胆管では、胆管炎の増悪因子と考えられる分泌型低分子PLA2の発現が著明に増加しており、ムチン遺伝子ではゲル形成能の高いMUC5B、MUC6の発現が亢進していた。これらの異常は硫酸ムチンの発現増加の病態因子として重要と考えられた。
胆汁うっ滞は肝内結石発生の重要な要素と考えられているが、どのような機序で胆汁がうっ滞するか解明はされていない。胆管枝相互の胆汁動態を比較検討することで、一領域の胆管枝だけに胆汁うっ滞が起こるかどうか家兎を用いて解析された。肝葉をふたつに分けてカニュレーションし、圧逆流速曲線を作成し検討すると、15cm水柱から20cm水柱の胆道内圧上昇で、一領域のみに胆汁のうっ滞あるいは逆流が起こりうることが示唆された。すなわち、胆管に狭窄や拡張がなくても、胆汁うっ滞が起こる可能性が示された。
肝内結石症では十二指腸乳頭括約筋に障害を認める症例があり、結石の成因との関連で注目されている。乳頭括約筋内圧測定を経皮経肝的に行うことで、その機能が評価された。肝内結石症では、乳頭基礎圧、収縮圧、収縮頻度の有意な増加を認めた。結石を肝内と肝外の両方に認める群では乳頭括約筋が比較的弛緩しており、結石の通過あるいは総胆管の拡張を介して結果的に徐々に括約筋機能が障害されていくものと考えられた。
3.治療に関する検討
尾状葉胆管枝に結石を認める肝内結石症の報告は少なく、本研究班の分類規約にも尾状葉の記載はない。しかし、尾状葉枝にも結石が存在して治療上問題になる症例があり、その頻度は7%(9例)であると報告された。5例がコレステロール石で、4例がビリルビンカルシウム石であった。コレステロール石の4例では、肝内胆管に結石が散在しその一部として尾状葉枝にも結石が存在していた。これに対し、ビリルビンカルシウム石の3例では、結石は肝内胆管に充満しそれに連続して尾状葉枝にも結石を認めた。尾状葉は胆道癌で大きく注目されているが、肝内結石症においてもトピックの一つになるものと思われる。
経口胆道鏡は手術やPTCSに続く新しい治療法であり、成績が注目されている。34例の成績が報告された。切石成功例は21例であり、10例では部分的に切石でき、3例では胆管狭窄のため切石できなかった。切石が可能であった31例のうち30例で、治療後の経過を検討できた(平均経過観察期間は4年6月)。結石成功例では肝内結石の再発はなかった。部分切石例では5例が胆管炎を生じたが、すべて内視鏡的治療で軽快した。3例が死亡しており、1例が肝内結石に関連した死亡例(胆管細胞癌)であった。経口胆道鏡に関しては、適応の問題や手技の確立、器具の開発など、今後の検討や発展が望まれる。
肝内結石症に伴う増殖性胆管炎の治療として、遺伝子導入のためのベクターを直接胆管内へ局所投与し、胆管へ選択的に遺伝子導入するふたつの方法の報告がなされた。ラット増殖性胆管炎モデルを用いて、Rb遺伝子アデノベクターを胆管内に投与すると、胆管上皮と胆管壁で発現し、増殖性変化を著明に抑制した。蛍光標識したオリゴヌクレオチドを含むHVJ-cationic liposomeをラットの胆管内に投与すると、胆管に選択的に導入された。pCAGlacZを含むHVJ-cationic liposomeをラットの胆管内に投与し、3日目、7日目、14日目にX-Gal染色を行うと胆管上皮に限局した発現を認めた。このような治療法の報告はほとんどなく、今後の発展が期待される。

公開日・更新日

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