門脈血行異常症

文献情報

文献番号
199700980A
報告書区分
総括
研究課題名
門脈血行異常症
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
杉町 圭蔵(九州大学医学部第二外科)
研究分担者(所属機関)
  • 二川俊二(順天堂大学第二外科)
  • 加藤紘之(北海道大学第二外科)
  • 兼松隆之(長崎大学第二外科)
  • 黒木哲夫(大阪市立大学第三内科)
  • 徳重克年(東京女子医科大学消化器内科)
  • 中沼安二(金沢大学第二病理)
  • 末松誠(慶応大学医化学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 消化器系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の研究目的は、原因不明で門脈血行動態の異常を来す特発性門脈圧亢進症(IPH)、肝外門脈閉塞症(EHO)、バッドキアリ症候群などを対象疾患として、これらの疾患の病因および病態の追求とともに、患者発生状況、その予後などわが国における実態を正確に把握し、予後の向上のために治療上の問題点を明かにすることにある。平成8年度より、班長をはじめとして、班員および研究協力者を組み替え、近年の分子生物学的アプローチと遺伝子学的アプローチに重点を置き、これらの疾患の解明を行う事とした。平成9年度は、研究目標を以下の項目に細分化し、各班員および研究協力者に役割分担して研究を行った:1)IPHの病期分類の作成、2)各疾患の実験モデルの作成、3)各疾患の分子生物学的ならびに遺伝子学的検討による病因および病態の検討、4)各疾患の疫学調査からみた成因の解明、5)各疾患の新しい診断方法の導入による診断基準の改訂、6)各疾患の治療方法の長期成績に基づいた治療指針の改訂、7)全国患者登録および検体保存センターの設立。
研究方法
結果と考察
結論
1)IPHの病期分類の作成
IPHの門脈血行異常に伴って発生する二次的変化を中心に、IPHの病理学的な病期の設定を試みた。その結果、本疾患では、門脈血行障害に関連した肝細胞障害や肝線維化が持続して出現し、進展すると思われ、これらの病変の組み合わせがIPHの病期設定に有用と考えられた。次年度(最終年度)に最終案をまとめる予定である。
2)各疾患の実験モデルの作成
黒木は、IPHの実験モデルを作成するため、Wister系ラットを用いて、T-cellを活性化させるConcanavalin Aを投与した。その結果、肝小葉内実質に病理学的な変化を伴うことなく、門脈域周囲での炎症持続、ならびに線維の増加が認められ、IPHの所見に合致するものと考えられた。兼松は、エンドトキシンーリピオドールエマルジョンを用いて門脈血栓モデルを作製し、その経時的変化を観察した。その結果、門脈血栓像、海綿状脈管増生、門脈域狭小化、異常血行路等の所見が確認された。本実験モデルの組織像はEHOに類似した所見を多く有し、EHOの病態解明に有効であると考えられた。杉町は、バッドキアリ症候群の動物実験モデルの作成を試みた。キセノン光とローズベンガルを用い、肝上部を照射することで同部位に血栓を作製することに成功した。エコードプラによる下大静脈血流の低下、血管造影での肝上部下大静脈の欠損像と側副血行路の発達、門脈圧の上昇を認め、本実験モデルは、ヒトのバッドキアリ症候群に類似した病態を持つことが分かった。
3)各疾患の分子生物学的ならびに遺伝子学的検討による病因および病態の解明
末松は、ヒトにおける誘導型のヘム分解酵素であるヘムオキシゲナーゼー1(以下hHO-1)の発現様式を検討するために、免疫組織染色、ウエスタンブロット解析に使用可能な抗hHO-1単クローン抗体を作製し、HO-1の誘導は、抗酸化ストレス応答としての防御的役割を果たすことが示唆された。北野は、門脈圧亢進症における胃粘膜の易障害性とadaptive cytoprotectionについて検討した結果、門脈圧亢進症群における潰瘍の治癒遷延は、潰瘍底の上皮増殖の減少が関与していることが分かった。杉町は、門脈圧亢進症ラットを作成し、胃のconstitutive nitric oxide synthase (cNOS)の発現を検討し、門脈圧亢進症の胃粘膜では、常にNOが過剰に産生されており、この過剰なNOが胃粘膜の脆弱性に関与していることを明らかにした。
IPH患者では、免疫学的異常の存在が疑われることを当研究班で報告してきた。黒木は、今回IFN-γ高値に注目し、IFN-γinducing factor(IL18)についてその発現を調べた。その結果、T-cellのクローナルな変化がIPHの病態を形成するのに重要であることを報告した。徳重は、スーパー抗原に対する抗体価の測定、スーパー抗原およびその他のリンパ球増殖因子に対する反応性に関して検討した。その結果、IPH患者では、VCAM-1を介した免疫反応が、IPHの発症に何らかの役割を果たしているものと考えられた。また、HLA class I およびclass IIのハプロタイプに関してIPH患者では、有意に HLA-DR8を持つ患者が多かったことより、IPH患者の抗原提示細胞に異常がある可能性が指摘された。
本年度は、門脈血行異常症の遺伝子異常についての調査研究を新たに開始した。IPH、EHOおよびバッドキアリ症候群患者の末梢血を採取し、DNAを抽出して、遺伝子異常に関する検索を行った。その結果、バッドキアリ症候群においては、7例中6例の患者で第V因子の遺伝子異常がみられることを始めて発見した。 
4)各疾患の疫学調査からみた成因の解明
門脈血行異常症の全国疫学調査は平成10年度に疫学班(班長大野)と協力し施行予定である。また、研究協力者の広田(九州大学公衆衛生学)と協力して、以前に施行された全国疫学調査結果を利用し、各疾患の成因について調査中である。
5)各疾患の新しい診断方法の導入による病態の解明と診断基準の改訂
加藤は、内視鏡下にドプラ血流測定装置による胃食道の血行動態の測定を試みた。その結果、静脈瘤の発赤所見と形態が血流速度と密接に関連し、静脈瘤の血流速度が速い程破裂の可能性が高いことが明らかとなった。今後、静脈瘤の破裂の予知として有用な検査項目となることが期待される。
IPHの血行動態の検討の結果では、IPHの門脈圧上昇に門脈血流量の増加が関与していることが示唆された。肝外の巨大シャントを有した例に短絡路結紮術を施行し、全例で高アンモニア血症の改善が得られ、シャントの遮断が有効であることがわかった。バッドキアリ症候群では、エコードプラを用いた肝静脈の血行動態の把握が診断に有用であることが分かった。また、治療法の選択には、狭窄部位上下よりの挟撃造影による杉浦の分類が有用で、I型、III型のような膜様閉塞にはPTAを、肝静脈の広範な閉塞を示すIV型に対しては、保存治療以外になく肝移植などを考慮する必要があることを明らかにした。以上の結果と全国調査結果を踏まえ、次年度までに診断基準の改訂を行なう予定である。
6)各疾患の治療方法の長期成績に基づいた治療指針の改訂
二川は、IPH、EHO、バッドキアリ症候群の3疾患について各種治療法の長期的有効性についてアンケート調査を実施中である。現在までに当研究班の協力施設258施設にアンケートを送付した。次年度に治療後の生存期間、再出血率などについて検討し、治療法の優劣を検討予定である。北野は、これらの検討結果を踏まえ、治療指針の改訂を行う。
7)全国患者登録および検体保存センターの設立
本研究班では、門脈血行異常症患者(IPH、EHO、バッドキアリ症候群)を有する全国の国公立大学および基幹病院にアンケート調査を施行した。その結果、280施設より患者登録および検体の保存の協力に同意を得、全国患者登録および検体保存センターを設立した。平成9年12月31日現在50例の登録と検体の保存を完了した。今後各疾患の遺伝子解析および成因の解明のために役立てていく予定である。

公開日・更新日

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