難治性の肝疾患

文献情報

文献番号
199700979A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性の肝疾患
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
小俣 政男(東京大学)
研究分担者(所属機関)
  • 井上恭一(関西医科大学)
  • 小原道法(東京都臨床医学総合研究所)
  • 佐藤俊一(岩手医科大学)
  • 田中紘一(京都大学)
  • 戸田剛太郎(東京慈恵会医科大学)
  • 幕内雅敏(東京大学)
  • 与芝真(昭和大学)
  • 市田隆文(新潟大学)
  • 岡上武(京都府立医科大学)
  • 沖田極(山口大学)
  • 恩地森一(愛媛大学)
  • 各務伸一(愛知医科大学)
  • 賀古眞(帝京大学)
  • 黒木哲夫(大阪市立大学)
  • 小林健一(金沢大学)
  • 白鳥康史(東京大学)
  • 滝口雅文(熊本大学)
  • 辻孝夫(岡山大学)
  • 坪内博仁(宮崎医科大学)
  • 西岡幹夫(香川医科大学)
  • 箱崎幸也(自衛隊中央病院)
  • 林直諒(東京女子医科大学)
  • 林紀夫(大阪大学)
  • 藤原研司(埼玉医科大学)
  • 牧野勲(旭川医科大学)
  • 三田村圭二(昭和大学)
  • 森脇久隆(岐阜大学)
  • 横須賀収(千葉大学)
  • 渡邊明治(富山医科薬科大学)
  • 濱田洋文(癌研究会)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 消化器系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の目的は、本邦における難治性の肝炎とその近縁疾患の実態を調査し、その成因、発症機序、病態の解明を通して、あらたな診断基準の設定と治療法の開発、体系化を目指すことにある。本研究班は昭和47年発足以来、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、劇症肝炎の診断基準の制定や改訂、非A非B型慢性肝炎のインターフェロン治療など関して多くの成果を挙げてきたが、平成6年度に組織の改変を行い、本邦において今後さらに問題となる肝移植の適用と予後を調査検討するとともに肝癌等に対する遺伝子治療の開発を目指す分科会を加えて再構成した。また、自己免疫肝疾患分科会、原発性胆汁性肝硬変分科会、劇症肝炎分科会の体制も改変し、基礎研究者と幅広い臨床研究者との共同研究による疾患の成因、機序に分子生物学的手法を用いて迫ると共に、これら疾患の全国調査を定期的に実施し診断基準や治療指針の改訂のみならず、本邦における疾患の病態の変遷を明らかにすることを目的とした。
研究方法
各分科会の主要研究テーマと方法
自己免疫性肝疾患
疫学、診断基準案の再評価:全国実態調査の継続と予後調査、Sib-studyの対象症例の登録
成因、機序の解明:自己免疫機序の解明
治療:免疫抑制剤による治療
原発性胆汁性肝硬変
疫学と予後調査:全国実態調査の継続、生命予後モデルの検討と新たな予後モデルの作成
成因、機序の解明:自己免疫機序の解明、T細胞レセプターレパトアの解析、自己抗体の疾患特異性の検討
治療:ウルソデオキシコール酸 (UDCA) 作用機序の解明、UDCA治療の長期予後の検討、肝移植への適応の基準
劇症肝炎
疫学:全国実態調査の継続、重症肝炎登録システムの構築、原因ウイルスの特定と予後の調査
成因、機序の解明:原因ウイルスの特定、肝炎劇症化発症機序の解明と進展防御、肝再生の機序
治療:新たな治療法の開発、人工肝臓の開発、肝移植の時期と適応
治 療
肝移植の適応、肝移植後のQOL調査:成人肝移植の適応疾患とその背景調査
肝移植の基礎的検討:生体部分肝移植のグラフトサイズの検討、異種肝移植の基礎的検討
肝癌に対する遺伝子治療の基礎的検討:ベクターの開発、腫瘍に対する特異的導入遺伝子の検討
結果と考察
結論
主な研究成果と考察
自己免疫性肝疾患
疫学:自己免疫性肝炎の診断基準の改訂を行ない国際的診断基準との適合性を図ったうえで、自己免疫性肝炎の診断の再評価と病態の変遷、成因、治療を目指して全国調査を平成9年に施行した。登録症例は平成7年以降で、394症例の集計がなされ(男 女比 1 : 6.4、平均年令;54才)、とくに60才以上が38%を占め、前回よりも高令者が多くなった。抗核抗体は 394 例で陽性、20 例では陰性であった。HCV関連自己免疫性肝炎と考えられるものは 27例 (7 %)と診断基準改訂後は著しく減少していた。死亡例は6例あり、その平均年齢は71才で死因は肝不全であった。同胞発症例は6家系に認められ、今後のSibーstudyとして重要な家系として登録し、次年度以降追跡調査と免疫学的検討を行なう予定である。
成因、機序の解明:前年、自己免疫性肝炎発症機構を明らかにするため、肝内浸潤リンパ球のT細胞クロノタイプ、T細胞レセプターレパトアの解析が精力的にすすめられ、多数のT細胞クロノタイプの肝への集積が明らかにされた。今年度はbcl2陽性細胞の関与が指摘された。さらに、HCV関連自己免疫性肝炎の自己免疫現象に伴う各種抗体、免疫複合体の検討が進められた。
治療:ステロイドなどの免疫抑制剤は87 %で有効であった。また、軽症例ではUDCAの投与が増加しており、その有効率は約80%であった。
原発性胆汁性肝硬変 (PBC)
疫学:第1-8回PBC全国調査における既登録症例の追跡調査に加えて、1995ー1996年発症の新規症例についての第9回全国調査を1997年度に行い、新規症例 765例が追加された。既登録追跡症例は1761例(回収率 73%)で、全登録症例は3673例となった。今回の追跡調査では1990年以降の年次死亡数は20例以下であり、死因での消化管出血の割合は著しく減少していた。本邦における本疾患の病態と予後の年代的変遷を推測するため、1989 年までに診断された症例(940例)と1990年以降に診断された症例(978例)に分類したうえ、その予後指数から1991年に作成した予後モデルを用いて比較したところ、後期群症例は前期群症例にくらべ優位に高い生存率を示した。現時点では、臨床病期S2で肝不全兆候を認めている症例の予後は1990年以降では改善されていた。しかるに、T。Bilが8mg/dl以上の症例では生存率の改善はなく、これらは肝移植の適応と考えられた。
成因、機序の解明:原発性胆汁性肝硬変の発症機序に関しては、リンパ性樹状細胞の機能異常が関与していること、胆管病変成立には胆管上皮細胞におけるPDCーE2の発現モデル作製のための胆管上皮特異的promotorの解析された。
治療:治療面では、ウルソデオキシコール酸(UDCA)の免疫調整作用の解明がさらに進んできた。グルココルチコイド受容体cDNA移入細胞を用いてUDCAの作用機序を検討したところ、UDCAはグルココルチコイド応答性遺伝子発現調節に関与する可能性が示され、とくに核移行システムにおいてはUDCAはグルココルチコイドと異なっていた。このような研究は、新たなPBC治療薬の開発に応用が可能である。
劇症肝炎
疫学と成因:今回の研究班全国調査では、平成8年度の劇症肝炎並びにLOHF (late onset hepatic failure;亜急性型)の実態調査では80例の劇症肝炎が報告され、劇症肝炎患者は減っていないことが明らかにされた。うちわけは急性型および亜急性型ともそれぞれ40例であり、病型による予後は急性型の生存率35%に対して亜急性型は17%であった。
前回、非A非B型劇症肝炎の成因を明らかにするため一部症例での血液中、肝組織中のウイルスの検索を様々なプライマーを用いて行ったところ、約5割にB型肝炎ウイルスが検出された。このため、劇症肝炎の成因では、本年度から新たにB型疑いを加えた。その結果、A型肝炎ウイルス感染10%、B型肝炎ウイルス感染24%、B型疑い15%、非A非B型25%、薬剤性は14%であった。この結果、B型肝炎ウイルス関連は39%に及んでいることが明かにされた。
本年度は、多施設で非A非B型劇症肝炎の成因を明らかにするため血液中、肝組織中のウイルスの検索を様々なプライマーを用いて行った。これらの約5ー7割にB型肝炎ウイルスが検出された。このため、このような非A非B型の成因を分子生物学的手法を用いてさらに詳細なウイルスの検索を行う必要が示された。また、B型肝炎ウイルスキャリアの重症化、劇症化の阻止が今後とも極めて重要であるとの指針が示された。
本年度、とくに特記すべきことは、急性重症肝炎登録システムの施行に入ったことである。施行後3ケ月で33例が登録され、うち6例が劇症化した。このシステムを用いて、新たに劇症化予測因子の解析、予後予測因子の解析、有効な治療法の解析を目指している。また、血液などの登録時に採取集積して全体としての統一測定に用いる予定である。さらに、Taq Man技術の開発、進歩により各種肝炎ウイルスのリアルタイムの測定が可能となり、劇症肝炎治療によるウイルス量のリアルタイムの測定が可能となった。
肝炎劇症化の機序; 肝炎劇症化や細胞死の病態解明では、劇症肝炎ウイルス特異的CTLとCTLエピトープの解析をモチーフに一致した86種類のペプチドで解析した。マクロファージやオステオポンチンなどのサイトカインの関与、各種線溶系機構が解析された。また、Alu配列を用いたB型肝炎ウイルスの宿主細胞への組み込みが開発され、感染早期からB型肝炎ウイルスの組み込みが示された。
肝再生:肝再生に係わるHGF、HGF関連遺伝子の発現の検討から、HGF活性化とHGF activator活性との関連、HGF/EGFの肝再生における情報伝達系(Ras、MAP、MAPK)の解析から、CCl4肝障害ではこれら情報伝達系の活性化がみられたが、Galactosamine/LPS肝不全ではこの系は作動していないことが明かにされた。治療:現時点ではGーI療法、血奬交換、特殊アミノ酸療法が主体で、さらに血液透析の併用施行例が増加している現状が明らかになった。本年度より施行した重症肝炎登録システムを用いて、新たに劇症化予測因子の解析、予後予測因子の解析、有効な治療法の解析を目指している。B型劇症肝炎では抗凝固療法、サイクロスポリン、インターフェロン療法の有効性はこれら重症肝炎登録システムでの解析が可能となることが指針として示された。
斬新的な治療法の開発や人工肝臓の開発にはさらに時間を要するため、現段階では肝移植の時期と適応を検討した。その結果、肝炎ウイルス感染者における肝移植後の予後調査から、既感染者での移植肝における肝障害の進展が明らかにされていることから、劇症肝炎患者における移植にあたっては、肝炎劇症化の成因を明らかにする必要がある。肝炎ウイルス感染での劇症肝炎では、移植施行前に抗ウイルス薬投与によりまえもってウイルスの駆除が望ましいとの結論に達した。この点に関しては、肝移植の問題と合わせて調査することとした。
治 療
肝移植の適応疾患とその背景調査、肝移植後のQOL調査:今年度、肝移植に関しては、本邦における成人肝移植例の現状把握を行った。肝移植研究会の把握している日本人の肝移植症例は78例であった。肝移植に至る原疾患は、原発性胆汁性肝硬変を含む肝硬変 54%、劇症肝炎 を含む急性肝不全21%、その他先天性代謝異常で、とくに1995年以降急速に増加傾向にあることが明らかにされた。本邦で施行された劇症肝炎、PBCに対する生体肝移植に関する報告から、サイズミスマッチの克服のための自己肝温存部分移植の試みが示された。また、成人に対する肝移植後の予後、Quality of Life (QOL) を調査したところ、原疾患が胆道閉鎖症例、先天性代謝異常例、劇症肝炎例、原発性胆汁性肝硬変であった症例の予後は5年生存率 80%以上であったが、B型肝炎肝硬変や肝癌症例での移植ではB型肝炎の重症化、癌再発のため予後は極めて悪いことが判明した。今後、このようなウイルス性の肝硬変に対する肝移植にあたっては、特異抗体やインターフェロンなどの抗ウイルス剤によるウイルス抑制により予後の改善を計る必要が示された。また、B型肝炎ウイルス抗体陽性例ドナーからの肝移植によるB型肝炎ウイルス再感染も指摘され、あらためて調査することとした。
肝移植の基礎的検討:本邦では死体肝からの移植が難しいことから、生体部分肝移植の適応の拡大のためグラフトサイズ適合の検討が示された。
肝癌に対する遺伝子治療の基礎的検討:ベクター、導入遺伝子の検討;遺伝子治療として、腫瘍細胞内への特定の遺伝子導入にはレトロウイルス、アデノウイルスなどによるウイルス感染や癌細胞のレセプターを介した導入が試みられているが、本年度は新たなベクターの開発として、変異ウイルスベクターの作製により腫瘍特異的で効率のよい遺伝子導入の検討が示された。腫瘍に対する特異的な導入遺伝子発現の検討;選択的な導入遺伝子発現にあたり癌に特異的に見られる蛋白のプロモーターによる制御と薬剤耐性克服への試みが示された。

公開日・更新日

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