抑制性T細胞類似の細胞による免疫寛容誘導の試み

文献情報

文献番号
201126008A
報告書区分
総括
研究課題名
抑制性T細胞類似の細胞による免疫寛容誘導の試み
課題番号
H21-免疫・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
寺岡 慧(国際医療福祉大学 熱海病院 移植外科)
研究分担者(所属機関)
  • 奥村 康(順天堂大学 アトピーセンター)
  • 清野 研一郎(北海道大学 遺伝子病制御研究所病態研究部門免疫生物分野)
  • 垣生 園子(順天堂大学 免疫学)
  • 小山 一郎(東京女子医科大学 腎臓外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
10,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
易感染性、悪性腫瘍などの免疫抑制薬の副作用、また移植後の慢性拒絶反応は。腎移植後の最大の問題である。これらを克服する究極の方法として免疫寛容の導入がある。本研究の目的は体外で誘導されたドナー特異的調節性Tリンパ球(DS-Treg)様リンパ球を腎移植患者に投与し、免疫寛容の誘導を試みるものである。
研究方法
予備実験として抗CD80/86抗体の存在下で、ドナー、レシピエントのリンパ球の共培養を行い、得られた培養細胞を添加してリンパ球混合培養(MLR)を行った。次に同様の方法で得られた培養細胞を12例の腎移植後のレシピエントに移入し、経時的にリンパ球サブセット、ドナーおよび第三者に対するMLRを行い、これに基づいて免疫抑制薬を漸減し、中止を試みた。移植腎生検を行い免疫組織染色により浸潤細胞の解析を行った。
結果と考察
培養細胞のphenotypeはCD4+CD25+CTLA-4+FoxP3+であり、ドナーとのMLRを容量依存性に抑制したが、第三者とのMLRは抑制しなかった。移入後レシピエントの末梢血中に長期間にわたりCD4+CD25+CTLA-4+FoxP3+が高率に認められ、ドナーとのMLRは経過とともに低下したが、第三者とのMLRは抑制されなかった。免疫抑制薬を漸減し、MMF、ステロイドの中止後、1例においてはCsAを10mg/日とした後に、また他の1例においては25mg/日とした後に、さらに他の3例においてはステロイド中止後CsAを20~35mg/日、MMFを125~250mg/日とした後に拒絶反応を発症した。治療により全例において寛解が得られ、若干の免疫抑制薬の増量により全例とも現在生着中である。12例の免疫抑制薬の平均投与量は、移植後9~18ヵ月において対照群の40~50%であり、その大幅な減量が可能であった。DS-Treg様細胞の移入に至るまでの期間に形成された考えられるメモリー細胞により拒絶反応が発症したと考えられ、移植時にthymoglobulinおよびrituximabを投与する新たなプロトコールのもとに研究を継続中である。
結論
抗CD80/86抗体の存在下に、リンパ球の共培養を行うことによりTreg様細胞を誘導することが可能であった。これを腎移植後レシピエントに移入することにより、ドナー抗原特異的に免疫応答性を低減させ、免疫抑制薬の減量が可能であった。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201126008B
報告書区分
総合
研究課題名
抑制性T細胞類似の細胞による免疫寛容誘導の試み
課題番号
H21-免疫・一般-008
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
寺岡 慧(国際医療福祉大学 熱海病院 移植外科)
研究分担者(所属機関)
  • 奥村 康(順天堂大学 アトピーセンター)
  • 清野 研一郎(北海道大学 遺伝子病制御研究所病態研究部門免疫学)
  • 垣生 園子(順天堂大学 免疫学)
  • 小山 一郎(東京女子医科大学 腎臓外科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 免疫アレルギー疾患等予防・治療研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
腎移植後の感染症、腎毒性、悪性腫瘍など免疫抑制薬の副作用は克服すべき最大の問題である。また慢性拒絶反応については現状では治療法はなく、いったん発症すると進行性に増悪して機能廃絶に至る。これらを克服する究極の方法として免疫寛容の導入がある。本研究の目的はドナー特異的調節性T細胞(DS-Treg)様細胞を腎移植患者に移入し、免疫寛容の誘導を試みるものである。
研究方法
09~10年においては抗CD80/86抗体の存在下で、ドナー、レシピエントリンパ球の共培養により、DS-Treg様細胞が得られることを確認し、次にDS-Treg様細胞を12例の腎移植患者に移入し、経時的にリンパ球サブセット、ドナーおよび第三者に対するMLRを行い、これに基づいて免疫抑制薬を漸減し、中止を試みた。移植腎生検を行い免疫組織染色により浸潤細胞の解析を行った。11年度は移植時のメモリー細胞の産生を制御すべく、抗ヒト胸腺細胞抗体、抗ヒトCD20単抗体を投与して3例の症例を追加し、同様の検討を行った。
結果と考察
DS-Treg様細胞はドナーとのMLRを容量依存性に抑制したが、第三者とのMLRは抑制しなかった。腎移植後DS-Treg様細胞の移入によりレシピエント末梢血中に長期間にわたってDS-Treg様細胞が高率に認められ、ドナーとのMLRを抑制したが、第三者とのMLRは抑制しなかった。免疫抑制薬を漸減する過程で、5例において(CsA 10mg/日単独、25mg/日単独、CsA 20~35mg/日+MMF 125~250mg/日)拒絶反応を発症した。治療により全例寛解し、現在生着中である。免疫抑制薬の平均投与量は、移植後9~18ヵ月で対照群の40~50%であり、免疫抑制薬の大幅な減量が可能であった。DS-Treg様細胞の移入までの期間に形成されたメモリー細胞により拒絶反応が発症したと考えられ、移植時に抗ヒト胸腺細胞抗体および抗ヒトCD20単抗体を投与するプロトコールのもとに研究を継続中である。 
結論
抗CD80/86抗体の存在下にドナー、レシピエントリンパ球の共培養を行うことによりDS-Treg様細胞の誘導が可能であり、これを腎移植後のレシピエントに移入した結果、ドナー特異的に免疫応答性を低減させ、免疫抑制薬の減量が可能であったが、現時点においては免疫寛容には至っていない。現在免疫抑制レジメンを修正して検討を続行中である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-30
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201126008C

成果

専門的・学術的観点からの成果
アカゲサルでは抗CD80/86抗体の存在下でドナー、レシピエントのリンパ球の共培養により、ドナー特異的調節性リンパ球様リンパ球(DS-Treg)が誘導でき、両者のリンパ球混合培養(MLR)を特異的に抑制し、腎移植モデルにおいて免疫寛容を誘導しえた。ヒトリンパ球においても同様の方法で、DS-Treg様細胞を誘導し、MLRを特異的、かつ容量依存性に抑制したが、臨床腎移植においてはドナー抗原に対する反応性を低下させ、免疫抑制剤の減量を行うことは可能であったが、現時点では免疫寛容の導入には至っていない。
臨床的観点からの成果
腎移植においては易感染性、慢性腎毒性、悪性腫瘍などの免疫抑制薬の副作用は克服すべき最大の問題であるが、本法により腎移植レシピエントのドナー抗原に対する免疫応答性を特異的に低減させ、腎移植における標準的投与量の約半量程度に免疫抑制薬の投与量を減少させることができた。今後メモリー細胞に対する対策を講じることにより、さらに投与量の減量、最終的には免疫寛容の導入を追求する。また本法により病因となる抗原に対する抗原特異的Treg様リンパ球を誘導できれば自己免疫疾患に対する治療法としても有望と考えられる。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
腎移植術後の医療費の大部分を占める免疫抑制薬の費用を大幅に軽減することが可能である。これは医療費の大幅な節減を可能とし、さらに安全性が確認されれば、免疫抑制薬を生涯服用することに抵抗を感じ腎移植を躊躇している多くの透析患者に、より安全かつ有効な治療法として提示することにより、腎移植数の増加が期待でき、それによる透析患者数の減少により、さらに医療費の節減が必要と考えられる。また腎移植患者と透析患者の労働時間には大きな差があり、少子高齢化社会の到来の中で労働力確保の点からも有益と考えられる。
その他のインパクト
本件については2009年11月9日付け朝日新聞朝刊一面に大きく報道され、多くの国からの講演依頼が来ている。2012年7月ベルリンで開催された国際移植学会では注目を浴び、学会本部により本講演のビデオ収録(TTS 2012 Lecture Recordings)がなされ、公式学会誌であるTransplantationからも論文投稿の招待があり、現在投稿中である。また先進医療推進機構のAMPO(代表高久文麿日本医学会会長)のライブラリーに掲載されているhttp://www.ampo.jp。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
Transplantation (2012, in press)
その他論文(和文)
1件
今日の移植(2012, in press)
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
6件
日本移植学会総会(2090, 2010, 2011) 日本臨床腎移植学会(2010, 2011) 日本輸血・細胞治療学会秋季シンポジウム(2011)
学会発表(国際学会等)
2件
米国移植学会(2011) 国際移植学会(2012)
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
1件
日本先進医療推進機構 AMPO http://www.ampo.jp

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
S Teraoka, I Koyama, H Bashuuda, et al
A clinical trial of tolerance induction by adoptive transfer of ex vivo-induced, donor-specific TReg-like cells in clinical kidney transplantation.
Transplantation (in press)  (2012)

公開日・更新日

公開日
2015-04-27
更新日
-

収支報告書

文献番号
201126008Z