難治性炎症性腸管疾患

文献情報

文献番号
199700978A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性炎症性腸管疾患
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
下山 孝(兵庫医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 馬場忠雄(滋賀医科大学)
  • 棟方昭博(弘前大学)
  • 日比紀文(慶應義塾大学)
  • 樋渡信夫(東北大学)
  • 櫻井俊弘(福岡大学)
  • 岡村登(東京医科歯科大学)
  • 金城福則(琉球大学)
  • 古野純典(九州大学)
  • 杉村一仁(新潟大学)
  • 高添正和(社会保険総合中央病院)
  • 西倉健(新潟大学)
  • 馬塲正三(浜松医科大学)
  • 牧山和也(長崎大学)
  • 松本誉之(大阪市立大学)
  • 八木田旭邦(杏林大学)
  • 阿部淳(国立小児病院)
  • 中込治(秋田大学)
  • 名川弘一(東京大学)
  • 向田直史(金沢大学)
  • 山本正治(新潟大学)
  • 田村和朗(兵庫医科大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 消化器系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
研究対象を潰瘍性大腸炎(UC)とクローン病(CD)に絞って、QOL向上を目標に新治療法の開発と再燃・再発の予防法確立を目的とする。このために、1.両疾患の患者実態を把握・記録するとともに、2.病因と増悪因子を解明することが肝要であり、3.明確な重症度判定を含む適切な診断基準と、4.重症患者でも早期に緩解導入でき、且つ導入時に患者のQOLを損なわない新治療法を確立しなければならない。
研究方法
当班では上記の目標を達成するために、以下の15項目のプロジェクト研究課題(P-01~P-15)を設定し、班員・研究協力者が共同で調査・研究することにした。
1.UCとCD患者のQOLを含む実態の把握とデータの保存・利用に関して;
P-01:UC、CD患者のデータベースを拡張・充実する
P-02:UC患者とCD患者のQOLを調査し、改善策を検討する
P-03:CD患者へ最新の情報を伝達し、治療法を説明して普及を図る
2.病因と増悪因子を解明するためのプロジェクト;
P-04:UCとCDの病因としての関連遺伝子を探索、検討する
P-05:CD患者の病因としての食事ほかの生活環境因子を解析する
P-06:CDの成分栄養療法に、食事脂肪が影響するか否かを検討する
P-07:UCとCDの病因因子として、どんな腸管微生物が関与するかを検索する
P-08:UCとCDの病因・病態と免疫異常の関係を解明する
3.重症度を含めた診断基準の見直しと治療指針の改訂に関するプロジェクト;
P-09:現行のUCとCDの診断基準を評価し重症度を明示して改訂する
P-10:現行のUCの治療指針を評価し、重症度を明示して改訂する
P-11:現行のCDの治療指針を評価し、重症度を明示して改訂する
4.UC・CDの発症の予防と治療並びに合併症予防に関するプロジェクト;
P-12:UCの新治療法として、白血球除去療法を確立する
P-13:UC患者のQOLを高める新しい外科治療法を開発する
P-14:Dysplasiaの発生をUCで検討し、ガンのサーベイランス実現を図る
P-15:UCとCDの新しい治療法の開発: 1) SODなどの活性酸素消去療法の開発
2)サイトカイン療法の検討、 3) CD患者の腸内抗原の検討と吸着療法開発
結果と考察
上記のプロジェクト毎に、研究の進展状況と研究結果を述べる。
P-01:昨年に引き続いて、大項目19、小項目61よりなるアンケート調査を行い、当班関連21施設のUC2452例、CD1501例の電子化作業が終了した。別にCD2975例を追加し、目下、電子化作業が進んでいる。次年度以降も解析症例数の増加を精力的に行う。
P-02:横断研究QOL班と共同で研究を進めている。本年は福岡大学を中心にCD患者をアンケート調査した。一般健康人に比して、CD患者ではQOLが全般的に低下していることが判明したので、次年度は班員と研究協力者全員が参加して調査を拡げていく。
P-03:平成9年5月と12月に東京と神戸で、CD患者のQOL向上を目指す公開市民講座をもち、CD医療のポイントを患者さんを交えて公開討論した。患者と家族、医師・看護婦、薬剤師、栄養士、在宅医療関係勤務者など1600~1700名の参加を得た。
P-04:関連Cytokine gene をIL-1ra,IL-2(DNA),IL-18(RNA)を対象に検討した。
IL-18:codon 18 の多型性でUCとCD間に明らかな差があり、両者間の遺伝的背景に差異のあることが判明した。また、第19染色体短腕のICAM-1遺伝子の多型性は、CDの疾患感受性とUCの罹患範囲に関連がみられた。動物実験では、IL-7トランスジェニックマウスの慢性大腸炎、IL-1ra遺伝子欠損マウスの炎症性腸疾患モデルを作成した。
P-05:発症後3年未満のCD患者を対象に、発症要因としての食事その他の生活環境要因を調査している。次年度内に調査・研究を完結すべく鋭意努力中である。
P-06:成分栄養剤に大豆油を13.5g,27.0g添加した脂肪負荷群を設け、CD患者を無作為に割りつけて、栄養療法における食事脂肪の影響を検討し、次年度内に完結する。
P-07:腸管内ウィルスとして、2種の株の異なるマシンウィルス(MV)の感染細胞を抗原とした間接蛍光抗体法で、CD患者血清のIgG 抗体価を測定検討した。CDの病因にはMV各種蛋白を規制するゲノムの中で、保存度の高いシークエンスが主に働いているらしい。また、CD腸組織中のMV抗体陽性物質は、ヒト由来の物質である可能性がある。
空置大腸炎はUCに似て正常と異なり、腸内容と粘膜細菌叢が酷似し好気性菌、腐敗菌が増数していた。CD患者血清の20%でエルシニア菌由来抗原の抗体価が高い。
P-08:9施設で免疫プロジェクトチームを形成し、以下の如くグループ研究を始めた。UCについては各施設から慢性持続型、再燃緩解型、初回発作型の患者血清を10例ずつ集め、抗トロポミオシン抗体、抗ムチン抗体など検討できる抗体を分担して一斉検査する。とくに白血球除去療法の有効例と無効例で、臨床的、免疫学的相違点を確認する。
CDについては、サイトカインからみた病態に基づき、各自が得意なところを分担して共同でプロジェクト研究を進めている。
P-09:平成5年度のUC診断基準の重症度を見直し、生検検査の緩解期の所見、除外診断を含む改訂案を新規に作成する。CDの診断基準の重症度分類を新設し、改訂する。
P-10:現行のUCの重症度別治療を評価した結果、軽症と中等症の治療指針を分け、重
症・激症の治療に白血球除去療法を加えた治療指針を、新たに提出することにした。
P-11:現行のCDの治療指針を評価した結果、新たに重症度を考慮した治療指針を改訂提出する。外科治療は、適応、術前・術後と栄養管理、病変部別術式などの指針を作る。
P-12:UCの白血球除去療法は、当班が開発した画期的な新治療法である。UC難治・重症例を、無作為に白血球除去療法群と従来の完全静脈栄養・ステロイド強力静注療法群に割りつけて、治療効果を群間比較した。白血球除去療法群は早期に高率(74%)に緩解に導入でき、その60%の症例が維持療法を続け良好なQOLで1年間緩解を維持できた。因みに従来の治療法では、緩解導入例は44%、1年間の緩解維持率は40%であった。
P-13:UC患者のQOLを高める外科療法の検討。大腸全摘後のUC患者のQOLは、回肛吻合後の下痢を如何にして軽減するかにかかっており、班としてこの点を検討し、CDにおける痔瘻の処置とともに、術式と適応を案として提示したい。
P-14:Dysplasia の発生を、大腸ガンを発生したUC症例を集めて検討している。その結果に基づいてUCのガンサーベイランスを全国的に開始できる具体案を作成する。
P-15:UCとCDの新しい治療法の開発:CD患者の40%に、抗豚アミラーゼ血清抗体が検出され、自由に食事を続けて増悪を繰り返す患者では抗体価が高いことが知られた。このようにCDでは、蛋白の少ない栄養源摂取と蛋白吸着療法の必要性が示唆された。また、N-酪酸を産生する腸内細菌を投与・増生させると、治癒の促進を期待できる。
結論
難治性炎症性腸管疾患分科会では今年度新たに2項目を加えた15のプロジェクトに、班員・協力者が全員参加して共同で研究をすすめている。UCとCD患者のデータベースは経年的に増数しており、家族発症例を抽出した遺伝子の研究で、UCとCD両者間の遺伝的背景に差のあることが知られた。免疫研究を含む治療面で大きな進歩が得られ、UCの白血球除去療法の有用性と、CDでの異常蛋白抗原排除の重要性が示唆された。

公開日・更新日

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