文献情報
文献番号
199700977A
報告書区分
総括
研究課題名
呼吸不全
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
栗山 喬之(千葉大学医学部肺癌研究施設第二臨床研究部門呼吸器内科)
研究分担者(所属機関)
- 白土邦男(東北大学医学部第一内科)
- 大井元晴(京都大学胸部疾患研究所臨床生理)
- 国枝武義(慶應義塾大学伊勢慶應病院内科)
- 福地義之助(順天堂大学医学部呼吸器内科)
- 白日高歩(福岡大学第二外科)
- 西村正治(北海道大学医学部第一内科)
- 堀江孝至(日本大学医学部第一内科)
- 金沢実(慶應義塾大学医学部内科)
- 木村謙太郎(大阪府立羽曳野病院呼吸器科)
- 白澤卓二(東京都老人総合研究所分子病理部門)
- 橋本修二(東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻)
- 山谷睦雄(東北大学医学部老人科)
- 瀬戸口靖弘(順天堂大学医学部呼吸器内科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 呼吸器系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、臨床的には以下の6疾患各々の原因究明、治療方法の解明、診断および治療につながる課題を、さらにはそれら疾患の原因的治療法確立のための基礎的研究課題を選定してとりあげ、研究することである。(1)若年性肺気腫;肺気腫の早期発見、およびそれによる呼吸不全への進展の防止を目指すことが患者の予後およびQOLの改善につながると考えられる。臨床的には、病態の解明、内科的および外科的治療の適応およびその効果を明らかにすることを目的とする。基礎的検討としては、喫煙に対する個体感受性の違いを明らかにし、また、増悪因子対策の一つとして気道炎症の抑制方法を模索する。(2)ヒスチオサイトーシスX ;臨床的に病態を検討の上、呼吸不全への進展防止対策の確立を目標とする。(3)肥満低換気症候群・肺胞低換気症候群;臨床的には、合併症の発症機序を解明してそれらに対する治療方法を確立することを目的とする。特に、在宅人工呼吸器療法の治療体系の確立を目的とする。その一環として、鼻マスクによるNIPPV、およびNasal CPAPの保険適応を申請する。(4)原発性肺高血圧症・慢性肺血栓塞栓症;臨床的には、血管拡張療法の適応および効果を明らかにすること、肺移植をめぐる条件の整備、慢性肺血栓塞栓症に対する治療指針の作成を目的とする。また、特定疾患治療研究事業対象疾患として、原発性肺高血圧症の認定を目指す。さらに、低酸素が肺高血圧の増悪をもたらしうるので、肺動脈の低酸素に対する応答を検討する。(5)基礎的検討;呼吸不全に陥った際の治療への応用の可能性を考慮して、変異ヘモグロビンが生体内で組織呼吸に及ぼす影響を生理学的に検討し、慢性呼吸不全症に対する遺伝子治療の可能性を最終目標とする。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
研究の成果を項目別に以下に述べる。
[1] 若年性肺気腫
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は190人(150 - 230人)であった。二次調査の解析結果より、若年性肺気腫症は男性に多く認められ、発生に関しては喫煙との関係は強く示唆されるが、それ以外の遺伝的要因も考慮する必要があると思われた。a1-antitrypsinの低下例は少数で、それ以外の遺伝的関与を考慮する必要があると思われた。外科的治療としてVolume Reduction Surgery(VRS)による治療成績の解析が施行され、予後が数年間延長される可能性が示唆された。肺気腫の発症機序に関する基礎的検討として、気腫病変の形成には好中球の関与が示唆された。喫煙による肺気腫発症のメカニズムの一つとして活性酸素の関与が考えられる。従って、喫煙による肺気腫発症のしやすさと、強力な抗酸化作用を持つHO-1遺伝子の酸化ストレス時の発現し難さが関係している可能性が考えられ、それを検証する。また、ウイルス感染がもたらす気道炎症の機序を検討した結果、エリスロマイシンの投与は、ICAM-1の減少により、サイトカインの分泌を抑制することが示された。
[2] ヒスチオサイトーシスX
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は160人(140 - 180人)であった。二次調査の解析結果より、肺好酸球性肉芽腫症は若年男性に多く認められ、発生に関しては遺伝的関与は少なく、喫煙との関係が強く疑われた。画像上の陰影は、上中肺野型よりも全肺野に広がる症例が多く認められた。悪化・死亡例もおよそ4分の1に認められ、慎重な経過観察が必要と考えられた。
[3] 肥満低換気症候群
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は180人(150 - 210人)であった。二次調査の解析結果より、循環器系の合併症の有無は睡眠呼吸障害の予後の規定因子の一つと考えられるが、睡眠時無呼吸症候群の重症型と位置づけられる肥満低換気症候群では、高血圧症のみならず、右心系の合併症の有無が予後に関与することが示唆された。呼吸不全症例における組織低酸素の評価として、昨年度よりアデノシン代謝に注目してきた。その結果、アデノシン産生は低酸素血症で亢進することが認められ、組織低酸素の評価に尿中尿酸/クレアチニン比が使用できる理論的根拠が得られた。また、睡眠時無呼吸症候群における睡眠前後の検討より、尿中尿酸/クレアチニン比は、動脈血酸素飽和度低下の程度からは推定できないATP異化すなわち組織低酸素を反映する指標である可能性が示唆された。
[4] 肺胞低換気症候群
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は40人(30 - 50人)であった。二次調査の中で、12症例を対象に行ったHLA解析にて、HLAクラスIIでは、DPB1*0501は3例/12例でのみ陽性(25%)で、対照群(64%)と比較して有意に低率であった。また、HLA-DQB1*0301は6例/12例にて陽性(50%)で、対照群(64%)より高率であった。これらの結果より、原発性肺胞低換気症候群では遺伝学的素因が発症に関与する可能性も示唆された。
医療行政上、慢性呼吸不全症例に伴う高炭酸ガス血症に対する治療として、鼻マスクによるNIPPVの保険適応を模索していたが、今年度において保険適応を取得できた。また、Nasal CPAPの保険適応も申請中である。
[5] 原発性肺高血圧症
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は230人( 200 - 260 人)であった。原発性肺高血圧症の治療の一環として、PGI2持続注入の急性および慢性効果およびNO吸入ガスによる効果を検討した。PGI2持続注入の急性効果では、全肺血管抵抗の低下が認められたが、体血圧の低下が同時に認められた。一方、慢性効果では、体血圧の低下は認められず、心拍出量の増加と肺動脈平均圧の低下が観察された。また、NOガスの吸入も試みられ、肺血管抵抗の低下は40-80ppmの比較的高濃度で認められた。原発性肺高血圧症は現時点では完治しえない疾患であるので、臓器移植法案が成立した現在、最終的な治療として肺移植も検討する必要がある。そこで、本研究班では、肺移植をめぐる条件の整備として、肺移植を行う施設選択基準・肺移植ドナー適応基準・肺移植レシピエント選択基準を作成した。また、肺移植適応検討会の設置、インフォームドコンセントの作成を現在検討中である。また、今年度において、かねてから申請中であった、特定疾患治療研究事業対象疾患としての原発性肺高血圧症が認定され、今後、日本における患者実態の把握が容易になったものと考える。
[6] 慢性血栓塞栓性肺高血圧症
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は450人( 360 - 530 人)であった。二次調査の解析結果より、日本においては、慢性血栓塞栓性肺高血圧症は女性に多く認められ、基礎疾患としては、深部静脈血栓症、心疾患、悪性腫瘍、血液凝固異常などが認められたが、明らかな基礎疾患が認められない症例も47%に認められた。また、遺伝学的素因の有無に関してHLAによる解析を施行した結果、特にHLA class IIのDQB1*0601は女性で73%と陽性率が高率であった。高安動脈炎の関連遺伝子の一つと考えられているDQB1*0601の出現頻度が女性で高かったことより、本症の発症機序の一つに、肺動脈炎などの炎症機序の関与も考えられた。さらに、肺高血圧症を伴う慢性肺血栓塞栓症の発症における血液凝固線溶機構と血管内皮細胞の関与を検討し、肺微少血管における循環障害が病態の発症に関与していることが示唆された。
[7] 基礎的検討
ヘモグロビン分子は、種を越え生体内の酸素運搬機能をつかさどる分子で、種々の生活環境の中で、分子進化を果たしてきた分子である。従って、ヘモグロビン分子に認められる種特異的一次構造は、種々の生物の体内での酸素運搬様式を反映していると考えられている。そこで(1)重炭酸に対するアロステリック効果変異、(2)右方移動変異、(3)左方移動変異が生体内で組織呼吸に及ぼす影響を遺伝子工学・胚工学的手法を用いて、ヘモグロビン遺伝子改変マウスを作成することにより、生理学的検討を行い、慢性呼吸不全に対する遺伝子治療の可能性を検討することを最終目標とした。そのため、今年度は、それぞれのヘモグロビン遺伝子改変マウス作成のために、マウスのa鎖グロビン遺伝子、b鎖グロビン遺伝子に左方移動変異および右方移動変異を導入したターゲティングベクターを構築した。さらに、将来的に遺伝子治療を視野に入れ、低酸素応答性エンハンサー配列をヒトエリスロポイエチン遺伝子より単離し、その低酸素遺伝子応答を検討した。
[1] 若年性肺気腫
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は190人(150 - 230人)であった。二次調査の解析結果より、若年性肺気腫症は男性に多く認められ、発生に関しては喫煙との関係は強く示唆されるが、それ以外の遺伝的要因も考慮する必要があると思われた。a1-antitrypsinの低下例は少数で、それ以外の遺伝的関与を考慮する必要があると思われた。外科的治療としてVolume Reduction Surgery(VRS)による治療成績の解析が施行され、予後が数年間延長される可能性が示唆された。肺気腫の発症機序に関する基礎的検討として、気腫病変の形成には好中球の関与が示唆された。喫煙による肺気腫発症のメカニズムの一つとして活性酸素の関与が考えられる。従って、喫煙による肺気腫発症のしやすさと、強力な抗酸化作用を持つHO-1遺伝子の酸化ストレス時の発現し難さが関係している可能性が考えられ、それを検証する。また、ウイルス感染がもたらす気道炎症の機序を検討した結果、エリスロマイシンの投与は、ICAM-1の減少により、サイトカインの分泌を抑制することが示された。
[2] ヒスチオサイトーシスX
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は160人(140 - 180人)であった。二次調査の解析結果より、肺好酸球性肉芽腫症は若年男性に多く認められ、発生に関しては遺伝的関与は少なく、喫煙との関係が強く疑われた。画像上の陰影は、上中肺野型よりも全肺野に広がる症例が多く認められた。悪化・死亡例もおよそ4分の1に認められ、慎重な経過観察が必要と考えられた。
[3] 肥満低換気症候群
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は180人(150 - 210人)であった。二次調査の解析結果より、循環器系の合併症の有無は睡眠呼吸障害の予後の規定因子の一つと考えられるが、睡眠時無呼吸症候群の重症型と位置づけられる肥満低換気症候群では、高血圧症のみならず、右心系の合併症の有無が予後に関与することが示唆された。呼吸不全症例における組織低酸素の評価として、昨年度よりアデノシン代謝に注目してきた。その結果、アデノシン産生は低酸素血症で亢進することが認められ、組織低酸素の評価に尿中尿酸/クレアチニン比が使用できる理論的根拠が得られた。また、睡眠時無呼吸症候群における睡眠前後の検討より、尿中尿酸/クレアチニン比は、動脈血酸素飽和度低下の程度からは推定できないATP異化すなわち組織低酸素を反映する指標である可能性が示唆された。
[4] 肺胞低換気症候群
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は40人(30 - 50人)であった。二次調査の中で、12症例を対象に行ったHLA解析にて、HLAクラスIIでは、DPB1*0501は3例/12例でのみ陽性(25%)で、対照群(64%)と比較して有意に低率であった。また、HLA-DQB1*0301は6例/12例にて陽性(50%)で、対照群(64%)より高率であった。これらの結果より、原発性肺胞低換気症候群では遺伝学的素因が発症に関与する可能性も示唆された。
医療行政上、慢性呼吸不全症例に伴う高炭酸ガス血症に対する治療として、鼻マスクによるNIPPVの保険適応を模索していたが、今年度において保険適応を取得できた。また、Nasal CPAPの保険適応も申請中である。
[5] 原発性肺高血圧症
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は230人( 200 - 260 人)であった。原発性肺高血圧症の治療の一環として、PGI2持続注入の急性および慢性効果およびNO吸入ガスによる効果を検討した。PGI2持続注入の急性効果では、全肺血管抵抗の低下が認められたが、体血圧の低下が同時に認められた。一方、慢性効果では、体血圧の低下は認められず、心拍出量の増加と肺動脈平均圧の低下が観察された。また、NOガスの吸入も試みられ、肺血管抵抗の低下は40-80ppmの比較的高濃度で認められた。原発性肺高血圧症は現時点では完治しえない疾患であるので、臓器移植法案が成立した現在、最終的な治療として肺移植も検討する必要がある。そこで、本研究班では、肺移植をめぐる条件の整備として、肺移植を行う施設選択基準・肺移植ドナー適応基準・肺移植レシピエント選択基準を作成した。また、肺移植適応検討会の設置、インフォームドコンセントの作成を現在検討中である。また、今年度において、かねてから申請中であった、特定疾患治療研究事業対象疾患としての原発性肺高血圧症が認定され、今後、日本における患者実態の把握が容易になったものと考える。
[6] 慢性血栓塞栓性肺高血圧症
疫学調査班と共同で、全国呼吸器治療機関に対する調査を施行した。一次調査の結果、全国推計患者数は450人( 360 - 530 人)であった。二次調査の解析結果より、日本においては、慢性血栓塞栓性肺高血圧症は女性に多く認められ、基礎疾患としては、深部静脈血栓症、心疾患、悪性腫瘍、血液凝固異常などが認められたが、明らかな基礎疾患が認められない症例も47%に認められた。また、遺伝学的素因の有無に関してHLAによる解析を施行した結果、特にHLA class IIのDQB1*0601は女性で73%と陽性率が高率であった。高安動脈炎の関連遺伝子の一つと考えられているDQB1*0601の出現頻度が女性で高かったことより、本症の発症機序の一つに、肺動脈炎などの炎症機序の関与も考えられた。さらに、肺高血圧症を伴う慢性肺血栓塞栓症の発症における血液凝固線溶機構と血管内皮細胞の関与を検討し、肺微少血管における循環障害が病態の発症に関与していることが示唆された。
[7] 基礎的検討
ヘモグロビン分子は、種を越え生体内の酸素運搬機能をつかさどる分子で、種々の生活環境の中で、分子進化を果たしてきた分子である。従って、ヘモグロビン分子に認められる種特異的一次構造は、種々の生物の体内での酸素運搬様式を反映していると考えられている。そこで(1)重炭酸に対するアロステリック効果変異、(2)右方移動変異、(3)左方移動変異が生体内で組織呼吸に及ぼす影響を遺伝子工学・胚工学的手法を用いて、ヘモグロビン遺伝子改変マウスを作成することにより、生理学的検討を行い、慢性呼吸不全に対する遺伝子治療の可能性を検討することを最終目標とした。そのため、今年度は、それぞれのヘモグロビン遺伝子改変マウス作成のために、マウスのa鎖グロビン遺伝子、b鎖グロビン遺伝子に左方移動変異および右方移動変異を導入したターゲティングベクターを構築した。さらに、将来的に遺伝子治療を視野に入れ、低酸素応答性エンハンサー配列をヒトエリスロポイエチン遺伝子より単離し、その低酸素遺伝子応答を検討した。
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