びまん性肺疾患

文献情報

文献番号
199700976A
報告書区分
総括
研究課題名
びまん性肺疾患
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
工藤 翔二(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 阿部庄作(札幌医科大学)
  • 貫和敏博(東北大学)
  • 北村諭(自治医科大学)
  • 中田紘一郎(虎の門病院)
  • 佐藤篤彦(予防会京都支部)
  • 人見滋樹(京都大学)
  • 林清二(大阪大学)
  • 山木戸道郎(広島大学)
  • 菅守隆(熊本大学)
  • 慶長直人(東京大学)
  • 滝沢始(東京大学)
  • 田口善夫(天理よろず相談所病院)
  • 赤池孝章(熊本大学)
  • 江石義信(東京医科歯科大学)
  • 内山竹彦(東京女子医科大学)
  • 田中平三(東京医科歯科大学)
  • 光山正雄(新潟大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 呼吸器系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
びまん性肺疾患のうち、特発性間質性肺炎、サルコイドーシス、びまん性汎細気管支炎の3疾患を研究対象として、?特発性間質性肺炎の病因解明と新しい治療法の開発、?サルコイドーシスの病因解明ー特に Propionibacterium acnesの病因的役割の明確化、?びまん性汎細気管支炎の遺伝性要因の解明とエリスロマイシン療法の機序の解明について重点的に研究を推進し、これら疾患の病因解明と治療法の進歩を図る。
研究方法
3疾患について、臨床的研究課題に関しては臨床疫学的方法、臨床病理学的方法によって、病因・病態解明に関しては特に細胞分子生物学的方法によった。
結果と考察
1.特発性間質性肺炎:
1)臨床疫学的課題:?特発性間質性肺炎の全国疫学実態調査、?5段階重症度分類の策定、?NSIP(nonspesific interstitial pneumonia)等の欧米の新たな疾患概念との整合等を共同研究として進めた。
2)病因・病態の解明:?家族集積例の検討:49家系(178名)の調査を行い、18家系に家族集積を認めるとともに、基礎調査によって全国44施設において 約200家系の調査可能であることが明らかとなった。今後、これら対象家系の個別調査を開始するとともに、遺伝子多型に関する研究の推進を図る必要がある。?遺伝子導入マウス及び特定薬剤、物質による実験的研究:主としてブレオマイシン、LPSによる肺傷害を疾患モデルとし、主に病態前期の肺傷害段階に作用する薬剤、物質(可溶性セレクチン、ICAM-1、IL-10、レシチン化SOD、ONO-5049)に関する検討を行い、いずれも肺傷害の抑制を認めた。?好中球エラスターゼ活性の生理機能を明らかにするために、SLPI遺伝子をクローニングし、その構造と局在を明らかにした。?本疾患の肺組織と気管支肺胞洗浄液について、MMPsとTIMPsの検討が行われ、これらが肺胞構造の改築に関わることを明確にした。?パーオキシナイトライトによるproMMPsの活性化が、グルタチオンにより増強され、N-acetilcystein NACによって抑制されることを明らかにした。今後、病態後期の肺胞構造再構築(線維化)および上皮再生に関わる実験的・臨床的研究の推進を強化する必要がある。新しい治療に関する臨床研究については、NAC吸入療法、Pirfenidonの全国共同臨床研究の実施が検討されつつある。
3)新しい疾患活動性マーカーの導入に関する研究:?血清SP-A、SP-Dの疾患病態との関連及び病変局所における動態、細胞内酵素測定法による末梢血好中球エラスターゼ活性測定の有用性が検討された。4)合併する肺癌治療に関する研究:開胸手術後の急性増悪のリスクファクターが検討され、増悪因子としての高濃度酸素吸入の危険性が指摘された。また、肺癌化学療法に伴う急性増悪に関連して、単一抗癌剤による起因間質性肺炎について、臨床的特徴を明らかにした。
2.サルコイドーシス:
1)臨床疫学的研究;?難治性サルコイドーシスの概念の設定と全国疫学実態調査、?複数の臓器侵襲を想定した5段階重症度分類の策定、?ステロイド療法の適応に関するガイドラインの策定が進められた。
2)サルコイドーシスの病因解明ー特にP.acnesの役割の明確化:?サ症病変部におけるP.acnes の組織内含有量が対照群に比して1000倍以上であることを、P.acnes DNA を標的としたQPCR法によって明らかにした。?P.acnes 遺伝子ライブラリーからクローニングされたサ症患者血清と反応する菌体抗原遺伝子は、これをレコンビナント蛋白抗原とする末梢血単核球との反応において、サ症患者に特異的な細胞性免疫反応を惹起せしめた。?P.acnes で持続感作した家兎に本菌を経腸管的に投与することにより、サ症に酷似した肺病変が誘導された。?P.acnes 感作家兎肉芽腫モデル(経静脈投与)において、肉芽腫形成初期に幼弱な肉芽腫内に多数のP.acnes モノクロナール抗体陽性細胞を認めた。?1978年報告のサ症P.acnes 分離株について、ヒト末梢血単核球に対する炎症性サイトカイン誘導能が、非サ症分離株に比べて高いことをみいだした。今後、国内多施設のサ症検体を対象とした P.acnes DNAを標的とするQPCR法による定量分析の実施、外国症例に関する同様の検討、Kveim抗原におけるP.acnes DNA成分の検討等が、引き続く共同研究として予定されている。
3)サ症肉芽腫の形成機序に関する研究:サ症におけるケモカイン(RANTESおよびMIP-1a)のRT-PCR法による検討、Tリンパ球における細胞内サイトカイン測定による検討(Th2、Tc2の増加)、樹状細胞の肉芽腫形成への関与に関する検討を行い、それぞれ有意の成績を得た。
3.びまん性汎細気管支炎:
1)臨床疫学的研究:DPBに対するEM療法の治療ガイドラインの策定を目的として、再発率、副作用等の調査を含め全国アンケート調査を行い、第一次案が纏められた。最終的にEM無効例への対応を含め、治療ガイドラインが策定されることとなっている。
2)本疾患の発症に関わる遺伝性要因の解明:?諸外国の報告症例の収集ならびにアジア5都市(日本、韓国、中国、台湾、香港)の実態把握(シンポジウム)を行い、DPBが東アジア地域に集積する人種依存性の疾患であることがより明確となった。?HLA class?、?およびHLA関連機能遺伝子の多型性について日本(76例)、韓国(30例)で検討し、DPBの成立にclaa?抗原提示系自体か、HLA-A座B座間に位置する遺伝子が疾患感受性遺伝子の一つとして作用していることが示唆され、microsatellite marker を用いた候補遺伝子の探索が開始された。
3)本疾患の病態形成に関わる末梢気道浸潤リンパ球サブセット、産生サイトカインの肺内局在と分布が免疫組織学的に検討した。
4)EM療法の機序の解明:?特に、細胞内シグナル伝達機構の解明が重要な課題となっており、ヒト気道上皮細胞のIL-8発現の抑制に関わる転写抑制について、NFκBの活性抑制を認めず、AP-1等の他の転写因子に関する検討が必要であることが明らかとなった。?癌転移抑制の実験的研究として、14員環マクロライドであるCAMのB-16メラノーマ細胞の細胞外基質タンパクへの接着抑制効果が明らかとなった。今後、EM療法の作用機序に関しては、細胞内シグナル伝達機構の解明と、構造活性相間の関する研究を推進する。
結論
本年度(平成9年度)は、DPBの人種依存性、日韓HLA抗原解析、サ症のP.acnes関連の研究をはじめ、いくつかの領域において重要な成果をあげることができた。最終年度にあたっては、特に共同研究分野の取りまとめを重視して研究を進めたい。

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