経口感染する肝炎ウイルス(A型・E型)の感染防止、遺伝的多様性、および治療に関する研究

文献情報

文献番号
201125011A
報告書区分
総括
研究課題名
経口感染する肝炎ウイルス(A型・E型)の感染防止、遺伝的多様性、および治療に関する研究
課題番号
H21-肝炎・一般-011
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 宏明(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター 臨床研究センター)
  • 新井 雅裕(東芝病院 消化器内科)
  • 鈴木 一幸(岩手医科大学 医学部)
  • 横須賀 收(千葉大学 大学院 医学研究院)
  • 日野 学(日本赤十字社 血液事業本部)
  • 姜 貞憲(手稲渓仁会病院 消化器病センター)
  • 中山 伸朗(埼玉医科大学 医学部)
  • 李 天成(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
26,419,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A型肝炎について、発生状況のモニタリングを実施し、重症・劇症化の機序を解明する。治療法を開発する。また、ワクチン接種の普及・啓発を行う。E型肝炎について、感染経路の全解明、診断・治療・予防法の確立を目標とする。
研究方法
発生動向と重症化リスク因子の調査、感染実態の調査、HAVならびにHEVのウイルス株塩基配列の蒐集と解析、HEV宿主動物調査、食品媒介感染の可能性の調査、抗ウイルス剤、ワクチン開発のための予備的検討などによる。
結果と考察
A型肝炎については、1) 年代別性別のHAV抗体保有率を調査した結果、HAVに対する感受性者が着実に高齢化していること、49名が発症するA型肝炎の集団発生があったこと(千葉市寿司店)、従前稀であったⅢA型HAVが2007年以降国内感染例でも散見され、定着が疑われることなどから、引き続きA型肝炎流行の慎重な監視が必要であること、2)IFN-λが単独で、さらには AmantadineやIFN-αとの併用療法がHAV IRES活性の抑制に有効であること、などを明らかにした。E型肝炎については、1) Non-ABC急性肝炎の中でのE型肝炎の占める割合が増加傾向にあること[国立病院機構共同研究班の全国調査:1.7?3.4%から10%超(2000年以降)]、2)北海道でのE型肝炎の重症化率が高く[12/81 (14.8%)]、うち3例(3.7%)が劇症化したこと、さらに札幌圏で2011年12月から、2009年の4型新札幌株によるE型肝炎が再流行していること(7例中1例劇症、2例重症)、3) rat HEVの中空粒子の作製に成功し、抗体検出ELISA法を確立したこと、4) 培養系を用い、食物媒介性E型肝炎の感染源となりうる市販ブタ肝臓や野生イノシシ肝臓のHEV感染性を証明できたこと、5)ウサギ由来HEVも含め、動物由来HEVがヒト培養細胞(A549, PLC/PRF/5)で効率的に増殖しうることを示し、 HEVの人獣共通感染する特性を培養系でも再現できたこと、6) HEV粒子の細胞からの放出にはTsg101やVps4などの宿主因子が重要な働きをしており、HEVがユニークな放出機構を有していること、などを明らかにすることができた。
結論
感染予防対策の構築や治療法確立に資する多くの成果を班員および班友の協力によって得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201125011B
報告書区分
総合
研究課題名
経口感染する肝炎ウイルス(A型・E型)の感染防止、遺伝的多様性、および治療に関する研究
課題番号
H21-肝炎・一般-011
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
岡本 宏明(自治医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 八橋 弘(独立行政法人国立病院機構長崎医療センター臨床研究センター)
  • 新井 雅裕(東芝病院 消化器内科)
  • 鈴木 一幸(岩手医科大学 医学部)
  • 横須賀 收(千葉大学 大学院医学研究院)
  • 日野 学(日本赤十字社 血液事業部)
  • 姜 貞憲(手稲渓仁会病院 消化器病センター)
  • 中山 伸朗(埼玉医科大学 医学部)
  • 李 天成(国立感染症研究所 ウイルス第二部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
A型肝炎について、発生状況をモニタリングし、重症・劇症化の機序を解明する。治療法を開発する。また、ワクチン接種の普及・啓発を行う。E型肝炎について、感染経路の全解明、診断・治療・予防法の確立を目標とする。
研究方法
発生動向と重症化リスク因子の調査、感染実態の調査、HAV並びにHEVのウイルス株塩基配列の蒐集と解析、HEV宿主動物調査、食品媒介感染の可能性の調査、抗ウイルス剤、ワクチン開発のための予備的検討等を行う。
結果と考察
A型肝炎については、1) 我が国ではHAVに対する感受性者の高齢化が着実に進行し、高齢者での重症化や流行の拡大が危惧される状況にあること、2)2010年春に広域流行、2011年春にも集団発生(患者49名:寿司店)があり、従前稀であったⅢA型HAVが2007年以降国内感染例でも散見され、定着が疑われることなどから、引き続き慎重な監視が必要であること、3) AmantadineやIFN-α、IFN-λが治療に有効である可能性、などを示すことができた。E型肝炎については、1) 我が国の成人の5.3%がIgG-HEV抗体を保有し、約500万人が感染既往を有し、年間約12万人が新たにHEVに感染していると推定されること、2)Non-ABC急性肝炎の中でのE型肝炎の占める割合が増加傾向にあること[国立病院機構共同研究班の全国調査:1.7?3.4%から10%超(2000年以降)]、3)北海道でのE型肝炎の重症化率が高く[12/81 (14.8%)]、うち3例(3.7%)が劇症化したこと、さらに重症型4型株による小流行が発生し、監視が必要であること、4)野生イノシシから新種HEV(5型と6型)を発見できたこと、5) 培養系を用い、食物媒介性E型肝炎の感染源となりうる市販ブタ肝臓や野生イノシシ肝臓のHEV感染性を証明できたこと、6) 培養細胞由来の不活化HEVがウサギとラットで中和抗体を誘導できたこと、7) HEV粒子の細胞からの放出にはORF3蛋白質(特にPSAPモチーフ)などのウイルス因子やTsg101やVps4などの宿主因子が重要な働きをしており、HEVがユニークな放出機構を有していること、などを明らかにすることができた。
結論
3年間の本研究を通じて、A型肝炎及びE型肝炎のわが国に於ける実態並びに動向を明らかにするとともに、感染予防や治療法確立に資する多くの成果を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2012-06-29
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201125011C

成果

専門的・学術的観点からの成果
新たな遺伝子型に分類されうる2種類の新種E型肝炎ウイルス(HEV)を野生イノシシから同定した(2015年に国際ウイルス命名委員会によって、それぞれ新しい遺伝子型の5型と6型に分類された)。この発見は、HEVの遺伝的多様性についての理解を深化させるだけでなく、ウイルス検出系の向上にも寄与するものである。感染培養系を駆使し、HEVの感染細胞からのユニークな放出機構を明らかにした。いずれも当該分野での今後の研究の方向性に大きく影響する成果であり、国内外で注目を集めた。
臨床的観点からの成果
我が国ではA型肝炎ウイルス(HAV)に対する感受性者の高齢化が進んでおり、HAV感染の重症化、大流行への進展が危惧される状況にある。関係機関の情報共有、感染予防対策の周知徹底などが感染拡大の防止に有用であることが示唆された。E型肝炎について、過少評価されている実態は否めないが、患者数の多い北海道や北東北、全国の重点定点監視により、HEVの感染疫学や感染病態など行政の施策等に資する成果が得られた。
ガイドライン等の開発
特記事項なし。
その他行政的観点からの成果
A型肝炎について、発生動向と重症化リスク因子の調査、感染実態の調査によりワクチン施策の再検討に繋がるデータを提示した。E型肝炎について、人獣共通感染症としての特性が周知され、感染予防対策が実施されることにより、我が国におけるE型肝炎の罹患率、死亡率の減少が見込まれる。加えて、本研究の推進により、食の安全性、輸血血液の安全性が担保される。
その他のインパクト
A型及びE型肝炎ウイルスは食品を介して感染する重要なウイルスである。本研究班はこれらウイルスについての国内の唯一の研究班であり、食の安全を確立するためのモデルとしての行政への貢献も期待される。また、研究代表者が世界に先駆けて樹立した感染培養系を用いたE型肝炎ウイルスについての研究は、国内外の当該分野をリードする形で発展している。なお、毎年度末に公開報告会において成果概要を公表した。

発表件数

原著論文(和文)
16件
原著論文(英文等)
37件
その他論文(和文)
37件
その他論文(英文等)
4件
学会発表(国内学会)
83件
学会発表(国際学会等)
36件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
厚生労働省健康危険管理調整官宛、平成21年6月2日付けで健康危険情報「劇症肝炎発症に関連する強毒型と思われるE型肝炎ウイルスに関する情報」を提供し、注意喚起した。
その他成果(普及・啓発活動)
3件
毎年度末(3月)に都内で開催される公開報告会において成果概要を公表した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Tanaka T, Takahashi M, Takahashi H, et al.
Development and characterization of a genotype 4 hepatitis E virus cell culture system using a HE-JF5/15F strain recovered from a fulminant hepatitis patient
Journal of Clinical Microbiology , 47 , 1906-1910  (2009)
原著論文2
Yamada K, Takahashi M, Hoshino Y, et al.
ORF3 protein of hepatitis E virus is essential for virion release from infected cells
Journal of General Virology , 90 , 1880-1891  (2009)
原著論文3
Ichiyama K, Yamada K, Tanaka T, et al.
Determination of the 5'-terminal sequence of subgenomic RNA of hepatitis E virus strains in cultured cells
Archives of Virology , 154 , 1945-1951  (2009)
原著論文4
Takahashi K, Okamoto H, Abe N, et al.
Virulent strain of hepatitis E virus genotype 3, Japan
Emerging Infectious Diseases , 15 , 704-709  (2009)
原著論文5
Yano K, Tamada Y, Yatsuhashi H, et al.
Dynamic epidemiology of acute viral hepatitis in Japan
Intervirology , 53 , 70-75  (2010)
原著論文6
Kanda T, Jeong SH, Imazeki F, et al.
Analysis of 5’ nontranslated region of hepatitis A viral RNA genotype I from South Korea: comparison with disease severities
PLoS One , 5 (12)  (2010)
原著論文7
Yang L, Kiyohara T, Kanda T, et al.
Inhibitory effects on HAV IRES-mediated translation and replication by a combination of amantadine and interferon-alpha
Virology Journal , 7 , 212-  (2010)
原著論文8
Takeda H, Matsubayashi K, Sakata H, et al.
A nationwide survey for prevalence of hepatitis E virus antibody in qualified blood donors in Japan
Vox Sanguinis , 99 (4) , 307-313  (2010)
原著論文9
Xing L, Li TC, Mayazaki N, et al.
Structure of hepatitis E virion-sized particle reveals an RNA-dependent viral assembly pathway
Journal of Biological Chemistry , 285 (43) , 33175-33183  (2010)
原著論文10
Takahashi M, Tamura K, Hoshino Y, et al.
A nationwide survey of hepatitis E virus infection in the general population of Japan
Journal of Medical Virology , 82 , 271-281  (2010)
原著論文11
Takahashi M, Tanaka T, Takahashi H, et al.
Hepatitis E virus (HEV) strains in serum samples can replicate efficiently in cultured cells despite the coexistence of HEV antibodies: characterization of HEV virions in blood circulation
Journal of Clinical Microbiology , 48 (4) , 1112-1125  (2010)
原著論文12
Kanda T, Imazeki F, Nakamoto S, et al.
Internal ribosomal entry-site activities of clinical isolate-derived hepatitis A virus and inhibitory effects of amantadine
Hepatology Research , 40 (4) , 415-423  (2010)
原著論文13
Nagashima S, Takahashi M, Jirintai,et al.
A PSAP motif in the ORF3 protein of hepatitis E virus is necessary for virion release from infected cells.
Journal of General Virology , 92 , 269-278  (2011)
原著論文14
Takahashi M, Nishizawa T, Sato H, et al.
Analysis of the full-length genome of a hepatitis E virus isolate obtained from a wild boar in Japan that is classifiable into a novel genotype
Journal of General Virology , 92 , 902-908  (2011)
原著論文15
Nagashima S, Takahashi M, Jirintai S, et al.
Tumour susceptibility gene 101 and the vacuolar protein sorting pathway are required for the release of hepatitis E virions
Journal of General Virology , 92 , 2838-2849  (2011)
原著論文16
Sato Y, Sato H, Naka K, et al.
A nationwide survey of hepatitis E virus (HEV) infection in wild boars in Japan: identification of boar HEV strains of genotypes 3 and 4 and unrecognized genotypes
Archives of Virology , 156 (8) , 1345-1358  (2011)
原著論文17
Li TC, Yoshimatsu K, Yasuda SP, et al.
Characterization of self-assembled virus-like particles of rat hepatitis E virus generated by recombinant baculoviruses
Journal of General Virology , 92 , 2830-2837  (2011)
原著論文18
Takahashi H, Tanaka T, Jirintai S, et al.
A549 and PLC/PRF/5 cells can support the efficient propagation of swine and wild boar hepatitis E virus (HEV) strains: demonstration of HEV infectivity of porcine liver sold as food
Archives of Virology , 157 (2) , 235-246  (2012)
原著論文19
Ishii K, Kiyohara T, Yoshizaki S, et al.
Epidemiological and genetic analyses of a diffuse outbreak of hepatitis A in Japan, 2010
Journal of Clinical Virology , 53 (3) , 219-224  (2012)
原著論文20
Miyamura T, Ishii K, Kanda T, et al.
Possible widespread presence of hepatitis A virus subgenotype IIIA in Japan: Recent trend of hepatitis A causing acute liver failure
Hepatology Research , 42 (3) , 248-253  (2012)

公開日・更新日

公開日
2016-05-23
更新日
2017-01-20

収支報告書

文献番号
201125011Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
26,419,000円
(2)補助金確定額
26,419,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 22,915,439円
人件費・謝金 0円
旅費 1,341,178円
その他 2,177,806円
間接経費 0円
合計 26,434,423円

備考

備考
預金利息と自己資金の支出により15,423円の差異が生じた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-