肝炎ウイルスによる発がん機構の解明に関する研究

文献情報

文献番号
201125009A
報告書区分
総括
研究課題名
肝炎ウイルスによる発がん機構の解明に関する研究
課題番号
H21-肝炎・一般-009
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
堀田 博(神戸大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 齋藤 貴史(山形大学医学部)
  • 小池 和彦(東京大学大学院医学系研究科)
  • 丸澤 宏之(京都大学大学院医学研究科)
  • 佐々木 裕(熊本大学大学院生命科学研究部)
  • 森石 恆司(山梨大学大学院医学工学総合研究部)
  • 加藤 孝宣(国立感染症研究所ウイルス第二部)
  • 有海 康雄(熊本大学エイズ学研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
26,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝がんの発生、進展におけるC型(HCV)及びB型肝炎ウイルス(HBV)蛋白質の役割、特に、細胞内シグナル伝達の攪乱を介した病原性発現機構及び発がん機構を解明し、それに基づくHCV及びHBVの排除、肝がん早期診断及び発がん阻止・治療法開発の分子基盤の確立を図る。
研究方法
HCV NS3発現トランスジェニック(Tg)マウスにおける肝発がん、NS3及びコア蛋白質の多様性とIFN感受性の相関、HCV感染による宿主肝組織のゲノム変異、ヒト肝がん組織と非がん部組織の蛋白質リン酸化、コア蛋白質とPA28γ、P-body及びStress granule因子のHCV生活環における役割、コア蛋白質の変異とHCV増殖及びIFN感受性、及びコア蛋白質と脂質代謝、について解析する。
結果と考察
1) HCV NS3発現Tgマウスの肝組織では、p73のがん化関連アイソフォームであるΔNp73の発現が亢進していた。NS3 Tgマウス胎児線維芽細胞やNS3発現Huh-7.5細胞をシスプラチンで処理すると、ΔNp73発現が増強した。2) NS3のアミノ末端の多型性とC型慢性肝炎におけるIFN/リバビリン治療効果が相関した。3) HCV感染患者の肝組織では、感染と炎症反応により、遺伝子編集酵素が肝細胞に発現誘導され、発がん関連遺伝子に様々なゲノム異常が生成していた。4) PA28γ結合因子としてポリコーム複合体蛋白質を同定し、PA28γおよびコア蛋白質の有無によって細胞増殖能及びDNA修復能が影響されることを証明した。5) HCV感染によりstress granuleの形成が誘導され、stress granule因子はコア蛋白質と共局在することを明らかにし、これらがHCVの生活環に必要な宿主因子であることを証明した。6) コア蛋白質変異(Core-Q70)により細胞内での感染性ウイルス粒子の生成能が低下し、その結果、HCV蛋白質が細胞内に蓄積することを証明した。7) C型慢性肝炎における一価不飽和脂肪酸の増加はコア蛋白質によるdesaturase活性の増加によること、及びその活性増加は肝細胞内へのNADH蓄積によることを証明した。
結論
HCV発がんには、コア蛋白質のみならずNS3蛋白質も重要であること、及びAID、PA28γ等の宿主因子との相互作用が重要であることが新たにわかった。

公開日・更新日

公開日
2012-06-01
更新日
-

文献情報

文献番号
201125009B
報告書区分
総合
研究課題名
肝炎ウイルスによる発がん機構の解明に関する研究
課題番号
H21-肝炎・一般-009
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
堀田 博(神戸大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 河田 純男(山形大学医学部(現兵庫県立西宮病院))
  • 齋藤 貴史(山形大学医学部)
  • 丸澤 宏之(京都大学大学院医学研究科)
  • 佐々木 裕(熊本大学大学院生命科学研究部)
  • 森石 恆司(山梨大学大学院医学工学総合研究部)
  • 加藤 宣之(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科)
  • 有海 康雄(熊本大学エイズ学研究センター)
  • 加藤 孝宣(国立感染症研究所ウイルス第二部)
  • 小池 和彦(東京大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
肝がんの発生、進展におけるC型(HCV)及びB型肝炎ウイルス(HBV)蛋白質の役割、特に、細胞内シグナル伝達の攪乱を介した病原性発現機構及び発がん機構を解明し、それに基づくHCV及びHBVの排除、肝がん早期診断及び発がん阻止・治療法開発の分子基盤の確立を図る。
研究方法
HCV NS3発現トランスジェニック(Tg)マウスにおける肝発がん、NS3及びコア蛋白質の多様性と肝がん発症の相関、HCV感染による宿主肝組織のゲノム変異、ヒト肝がん組織と非がん部組織の蛋白質リン酸化、コア蛋白質とPA28γ、P-body及びStress granule因子のHCV生活環における役割、コア蛋白質の変異とHCV増殖及びIFN感受性、コア蛋白質と脂質代謝、及びHBV発がん機序、について解析する。
結果と考察
1) NS3発現Tgマウスは肝がんを発症した。p73遺伝子のがん化関連アイソフォームであるΔNp73の発現亢進が見られた。2) NS3アミノ末端の多型性とC型慢性肝炎におけるIFN/リバビリンの治療効果や発がんリスクとの相関が見られた。3) HCV感染患者の肝組織では、遺伝子編集酵素AIDやAPOBEC2が肝細胞に発現誘導され、発がん関連遺伝子に様々なゲノム異常が生成されていた。4) 細胞死抵抗性を担う候補責任分子としてNucleophosminを同定した。5) PA28γと結合する宿主因子としてホスホピルビン酸ヒドラターゼ、肺がんマーカー遺伝子産物及びポリコム遺伝子産物を同定した。6) Stress granule因子やP-body因子のHCV生活環への関与を解明した。7) コア蛋白質の感染性ウイルス粒子生成における意義を解明した。8) C型慢性肝炎における一価不飽和脂肪酸の増加はコア蛋白質によるdesaturase活性の増加によることを証明した。9) HBx蛋白質によるがん遺伝子産物様蛋白質PTTG1の安定化と蛋白質発現量の増加、及びTGFβ下流のSmad3のリン酸化の分別化によるシグナル伝達経路が、HBVによる肝発がんに関与することを解明した。
結論
HCV発がんには、コア蛋白質のみならずNS3も重要で、NS3とコア蛋白質の変異を発がんリスクの予測に応用可能である。AID、PA28γなどの宿主因子も関与する。HBV発がんにはHBxを介したPTTG1の関与が重要である。

公開日・更新日

公開日
2012-06-01
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-01-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201125009C

成果

専門的・学術的観点からの成果
C型肝炎ウイルス(HCV)NS3蛋白質を発現するトランスジェニック(Tg)マウスを作成した。このTgマウスは18ヶ月齢以降に約10%に原発性肝がんを発症し、対照マウスに比べて有意に高い発がん率を示した。本研究により、コア蛋白質に加えて、NS3蛋白質も生体レベルで発がん性を有する可能性があることがわかった。培養細胞レベルの検討により、p73のがん化関連アイソフォームであるΔNp73が関与する可能性が示唆された。本Tgマウスは、肝がん発症の分子機序の解明に有用である。
臨床的観点からの成果
NS3-Y56/Q86変異及びCore-Q70変異は、いずれも独立して肝がん発症と有意の相関を示した。NS3-Y56/Q86及びCore-Q70を併せ持つウイルス株は最も早期から肝がんを発症する傾向が見られた。一方、上記変異のいずれも持たないHCV株の肝がん発症率は有意に低率であった。以上の成績より、NS3-Y56/Q86変異株及びCore-Q70変異株は高発がん性HCV株であると考えられ、肝がん発症リスクの予測診断の指標として有用である可能性が示唆された。
ガイドライン等の開発
該当なし。
その他行政的観点からの成果
該当なし。
その他のインパクト
肝がん招く危険ウイルス発見、平成25年8月10日、神戸新聞。
研究代表者(神戸大・堀田博)が開発した高発癌性HCV株を識別する方法により、慢性C型肝炎患者の肝癌発症リスクを予測診断することができる。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
145件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
137件
学会発表(国際学会等)
92件
その他成果(特許の出願)
4件
その他成果(特許の取得)
1件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
C 型肝炎ウイルス株の評価方法及びその利用
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2010-206800
発明者名: 堀田博
出願年月日: 20100915
国内外の別: 国内
特許の名称
培養細胞で感染性ウイルス粒子産生可能なC型肝炎ウイルスJ6CF株変異体
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2011-122795
発明者名: 加藤孝宣他
出願年月日: 20110500
国内外の別: 国内
特許の名称
肝細胞癌発生予測因子としての血中ADAMTS13
詳細情報
分類:
特許番号: 特願12B10Y001-1
発明者名: 小池和彦他
出願年月日: 20101105
国内外の別: 国内
特許の名称
免疫原性ポリペプチド表層発現ビフィズス菌
詳細情報
分類:
特許番号: PCT/JP2014/53560
発明者名: 白川利朗, 堀田博, 片山高嶺
出願年月日: 20140214
国内外の別: 国外
特許の名称
p53 癌抑制蛋白との結合に関与するC型肝炎ウイルス非構造蛋白NS3のアミノ酸残基の同定と、医薬開発への利用
詳細情報
分類:
特許番号: 特許第4565180号
発明者名: 堀田博
出願年月日: 00000000
取得年月日: 20100813
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Mohd-Ismail NK, Deng L, Sukumaran SK, et al.
The hepatitis C virus core protein contains a BH3 domain that regulates apoptosis through specific interaction with human MCL-1.
J Virol , 83 (19) , 9993-10006  (2009)
10.1128/JVI.00509-09
原著論文2
Bungyoku Y, Shoji I, Makine T, et al.
Efficient production of infectious hepatitis C virus with adaptive mutations in cultured hepatoma cells.
J Gen Virol , 90 (7) , 1681-1691  (2009)
0.1099/vir.0.010983-0
原著論文3
Kasai D, Adachi T, Deng L, et al.
HCV replication suppresses cellular glucose uptake through down-regulation of cell surface expression of glucose transporters.
J Hepatol , 50 (5) , 883-894  (2009)
10.1016/j.jhep.2008.12.029
原著論文4
Sanjo M, Saito T, Ishii R, et al.
Secondary structure of the amino-terminal region of HCV NS3 and virological response to pegylated interferon plus ribavirin therapy for chronic hepatitis C.
J Med Virol , 82 (8) , 1364-1370  (2010)
10.1002/jmv.21818
原著論文5
Deng L, Shoji I, Ogawa W, et al.
Hepatitis C virus infection promotes hepatic gluconeogenesis through an NS5A-mediated, FoxO1-dependent pathway.
J Virol , 85 (17) , 8556-8568  (2011)
10.1128/JVI.00146-11
原著論文6
El-Shamy A, Shindo M, Shoji I, et al.
Polymorphisms of the core, NS3 and NS5A proteins of hepatitis C virus genotype 1b associate with development of hepatocellular carcinoma
Hepatology , 58 (2) , 555-563  (2013)
10.1002/hep.26205
原著論文7
Shoji I, Deng L, Hotta H.
Molecular mechanism of hepatitis C virus-induced glucose metabolic disorders.
Front Microbiol , 2 (278) , 1-5  (2012)
10.3389/fmicb.2011.00278
原著論文8
Takai A, Toyoshima T, Uemura M, et al.
A novel mouse model of hepatocarcinogenesis triggered by AID causing deleterious p53 mutations.
Oncogene , 28 (4) , 469-478  (2009)
原著論文9
Okuyama S, Marusawa H, Matsumoto T, et al.,
Excessive activity of APOBEC2 contributes to liver and lung tumorigenesis.
Int J Cancer , 130 (6) , 1294-1301  (2012)
原著論文10
Matsui C, Shoji I, Kaneda S, et al.
Hepatitis C virus infection suppresses GLUT2 gene expression via down-regulation of hepatocyte nuclear factor 1α
J Virol , 86 (23) , 12903-12911  (2012)
10.1128/JVI.01418-12
原著論文11
Tateyama M, Yatsuhashi H, Taura N, et al.
Alpha-fetoprotein above normal levels as a risk factor for the development of hepatocellular carcinoma in patients infected with hepatitis C virus.
J Gastroenterol , 46 (1) , 92-100  (2011)
原著論文12
Moriishi K, Shoji I, Mori Y, et al.
Involvement of PA28gamma in the propagation of hepatitis C virus.
Hepatology , 52 (2) , 411-420  (2010)
原著論文13
Taguwa S, Kambara H, Fujita N, et al.
Dysfunction of autophagy participates in vacuole formation and cell death in cells replicating hepatitis C virus.
J. Virol , 85 (24) , 13185-13194  (2011)
原著論文14
Ariumi Y, Kuroki M, Maki M, et al.,
The ESCRT system is required for hepatitis C virus production.
PLoS One , 6 (1) , 14517-  (2011)
原著論文15
Ariumi Y, Kuroki M, Kushima Y, et al.
Hepatitis C virus hijacks P-body and stress granule components around lipid droplets.
J Virol , 85 (14) , 6882-6892  (2011)
原著論文16
Murayama A, Weng L, Date T, et al.
RNA polymerase activity and specific RNA structure are required for efficient HCV replication in cultured cells.
PLoS Pathog , 6 (4) , e1000885-  (2010)
10.1371/journal.ppat.1000885.
原著論文17
Murayama A, Kato T, Akazawa D, et al.
Production of infectious chimeric epatitis C Virus Genotype 2b Harboring Minimal Regions of JFH-1.
J Virol , 84 (4) , 2143-2152  (2012)
原著論文18
Tsutsumi T, Matsuda M, Aizaki H, et al.
Proteomics analysis of mitochondrial proteins reveals overexpression of a mitochondrial protein chaperone, prohibitin, in cells expressing hepatitis C virus core protein.
Hepatology , 50 (2) , 378-386  (2009)
原著論文19
Shimizu YK, Hijikata M, Oshima M, et al.
Isolation of human monoclonal antibodies to the envelope E2 protein of hepatitis C virus and their characterization
PLoS ONE , 8 (2) , 55874-  (2013)
10.1371/journal.pone.0055874
原著論文20
Miyoshi H, Moriya K, Tsutsumi T, et al.
Pathogenesis of lipid metabolism disorder in hepatitis C: polyunsaturated fatty acids counteract lipid alterations induced by the core protein.
J Hepatol , 54 (3) , 432-438  (2011)

公開日・更新日

公開日
2016-05-23
更新日
2017-01-20

収支報告書

文献番号
201125009Z