文献情報
文献番号
201125006A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性C型肝炎のインターフェロン療法における幹細胞機能の変化とうつ病発症に関する基礎・臨床連携研究
課題番号
H21-肝炎・一般-006
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
金子 奈穂子(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科 再生医学分野)
研究分担者(所属機関)
- 竹内 浩(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科 精神・認知・行動医学分野)
- 田中 靖人(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科 ウイルス学分野)
- 野尻 俊輔(公立大学法人 名古屋市立大学 大学院医学研究科 消化器・代謝内科学分野)
- 島田 昌一(大阪大学大学院医学系研究科 神経細胞生物学)
- 早川 達郎(国立国際医療センター国府台病院 精神科)
- 今村 雅俊(国立国際医療センター国府台病院 消化器科)
- 日野 啓輔(川崎医科大学医学部 肝胆膵内科)
- 岡野 栄之(慶應義塾大学医学部 生理学教室)
- 中島 欽一(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 分子神経分化制御学研究室)
- 等 誠司(滋賀医科大学・統合生理学部門)
- 鵜飼 渉(札幌医科大学医学部 神経精神医学講座)
- 野村 秀幸(国家公務員共済組合連合会新小倉病院 内科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
16,727,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
慢性C型肝炎に対するインターフェロン療法においては、副作用としてうつ病が高頻度に発生し治療完遂の妨げとなっているが、リスク評価に関する臨床データは乏しく、発症メカニズムも未解明である。本研究では、海馬に存在する神経幹細胞に着目した新しい視点によって、IFN誘発性うつ病の発症のメカニズムを解明するとともに、発症リスクの評価方法の確立と有効な予防方法・治療法の開発を目指して研究を行った。
研究方法
海馬の神経幹細胞のニューロン新生機能に着目してIFN誘発性うつ病の発症メカニズムを解析する基礎研究と、IFN療法導入患者の精神医学的評価・画像診断・生物学的マーカーの追跡により、うつ病発症に関連する臨床的因子の同定を行う臨床研究を並行して行った。
結果と考察
基礎研究
神経前駆細胞の機能が細胞外ATPシグナルにより制御されていること、IFN投与時の神経幹細胞機能・行動学的変化がミクログリアの活性化制御により改善すること、ミクログリアに発現するTLR9の欠損マウスでは侵襲時の神経前駆細胞の増殖が促進されること、ミクログリア活性化抑制薬が神経幹細胞の増殖能を向上させることを示した。これらから、神経幹細胞機能が細胞外からのシグナルや免疫細胞との相互作用により調節され、IFNがこれらを介して幹細胞の機能低下・抑うつ行動を惹起している可能性が示唆された。
臨床研究
IFN療法を行った症例のデータを解析した。2-3割の症例が抑うつ評価尺度で有症状と判定され、精神科疾患の既往・治療開始前からの抑うつ傾向・特定の遺伝子多型が関連する可能性が示唆された。これらから、IFN療法開始前にうつ病発症ハイリスク患者を同定できる。また、うつ病発症例では先行して不眠スコアの上昇、血中BDNF・サイトカイン値の変化がみられ、これらのデータはハイリスク患者のフォローアップに有用と考えられた。
神経前駆細胞の機能が細胞外ATPシグナルにより制御されていること、IFN投与時の神経幹細胞機能・行動学的変化がミクログリアの活性化制御により改善すること、ミクログリアに発現するTLR9の欠損マウスでは侵襲時の神経前駆細胞の増殖が促進されること、ミクログリア活性化抑制薬が神経幹細胞の増殖能を向上させることを示した。これらから、神経幹細胞機能が細胞外からのシグナルや免疫細胞との相互作用により調節され、IFNがこれらを介して幹細胞の機能低下・抑うつ行動を惹起している可能性が示唆された。
臨床研究
IFN療法を行った症例のデータを解析した。2-3割の症例が抑うつ評価尺度で有症状と判定され、精神科疾患の既往・治療開始前からの抑うつ傾向・特定の遺伝子多型が関連する可能性が示唆された。これらから、IFN療法開始前にうつ病発症ハイリスク患者を同定できる。また、うつ病発症例では先行して不眠スコアの上昇、血中BDNF・サイトカイン値の変化がみられ、これらのデータはハイリスク患者のフォローアップに有用と考えられた。
結論
今年度の研究により、IFN誘発性うつ病の発症に脳内の免疫系細胞と神経幹細胞・前駆細胞の相互作用が深く関与していることが明らかになった。また臨床的にIFN誘発性うつ病発症のハイリスク患者の検出や治療開始早期の予測に関連すると考えられる遺伝学・精神医学・生物学的指標を提示した。これらの成果は、IFN誘発性うつ病の発症メカニズム解明とその対処法の開発、各患者に最適な治療法の選択に有用な情報であり、慢性C型肝炎の医療の発展に貢献するものである。
公開日・更新日
公開日
2012-06-29
更新日
-