文献情報
文献番号
199700974A
報告書区分
総括
研究課題名
急性高度難聴
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
星野 知之(浜松医科大学耳鼻咽喉科)
研究分担者(所属機関)
- 喜多村健(自治医科大学耳鼻咽喉科)
- 東野哲也(宮崎医科大学耳鼻咽喉科)
- 福田諭(北海道大学医学部耳鼻咽喉科)
- 牧島和見(産業医科大学耳鼻咽喉科)
- 中島務(名古屋大学医学部耳鼻咽喉科)
- 宇佐美真一(弘前大学耳鼻咽喉科)
- 神崎仁(慶應義塾大学医学部耳鼻咽喉科)
- 野田哲生(東北大学医学部分子遺伝学分野)
- 福島邦博(岡山大学医学部耳鼻咽喉科)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 聴覚・平衡機能系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
急性に発症する原因不明の高度難聴のなかでも、特に突発性難聴と特発性難聴の原因究明に照準をあて研究を進めている。突発性難聴の原因としては内耳の血流障害とウイルス感染の2つが最も可能性の高いものと言われており、本年度の研究でもこの両者を検討し、さらに音響障害など他の面からも基礎的研究を行って内耳の病態を検索している。突発性難聴は症例数も多く全国疫学調査も過去3回おこなっており、3者を比較した結果が本年度に報告された。発症の危険因子を検討するためpooled controlを利用しての疫学的検討も行われた。前班より引き続き行っている突発性難聴の単剤治験も進行中である。特発性難聴については原因はまったく不明であったが、遺伝子異常との関連が疑われてきている。平成8年度より、班の活動の一環として、家族性難聴の遺伝子検索を全国規模ではじめたが、本年度は実際に順調に検索が実行されつつある。
研究方法
(略)
結果と考察
(略)
結論
1)内耳血流障害の検討
光増感反応を利用してモルモット蝸牛に限局性障害をつくり、その病態を検討しているが、今年度は障害部とその周辺における蝸牛内電位(endocochlear potential: EP)をガラス電極法で検討した。障害部位においては一時的にEPは下がり、3日後に最低値を示すが次第に回復し、2週でほぼ障害前の値にもどった。蝸牛での長さ1mm程度の限局障害が起ってもEPは代償されうること、EPは蝸牛管できわめて限局性に維持されていることがわかった。こうした実験は回復する感音性難聴を検討するモデルとして有望である。蝸牛管側壁のみの障害を光増感反応でつくり、ラセン器変性の有無を検討する実験モデルも作成され、側壁の障害だけでも、感覚細胞の障害が起りうる可能性が示唆された。また一酸化窒素(NO)合成酵素阻害剤の投与が光増感反応による蝸牛管側壁障害にいかに働くか、非接触型レーザー血流計をもちいて検討され、NOが障害の軽減に働くことが示唆された。
モルモットの前下小脳動脈を閉塞し蝸牛全体の血流障害をおこし、神経伝達物質であるグルタミンの動態を検討すると、血流に伴って値が変動することがわかり、これが難聴の進行や回復に関係する可能性が示唆された。またニュ-ロペプチドYの投与で蝸牛血流がどう変るかの検討もおこなわれた。
2)ウイルスの検討
ウイルスの内耳感染が疑われるヒト側頭骨のセロイジン切片を利用しウイルスRNAが検討できるという報告があり、長く保存されていた風疹胎児4例のセロイジン切片につき検討を行ったが今回は検出できなかった。さらに検索を進める予定である。ムンプス難聴と予防接種の関連につき検討がおこなわれ、ワクチン接種の任意化にともない接種を受ける人数が減少しており、将来ムンプス難聴が増加するおそれのあることが報告された。ウイルス感染の診断を確実、簡単に出来ないかということで、咽頭ぬぐい液からのウイルスDNAの検出もおこなわれたが、まだ特異な結果は出ていない。
3)突発性難聴の臨床
突発性難聴(突難)をめまいの有無、難聴の程度から9つのグレードにわけて検討したところ、このグレーディングが聴力予後の予測に使用可能であることが示された。班員全体が協力して実施中の突難の単剤治験の中間報告がなされた。2、3の薬に有意な有効性が示されたが最終の報告は平成10年度にまとめられる予定である。高気圧酸素療法、アミドトリゾアート注射の突難にたいする治療成績も報告された。
研究班による突難の全国疫学調査は1972年、1987年、1993年の3回行われてきたが、今回1972のデータがコンピュータ入力され、発症の年齢、初診時の聴力などにつき疾患の推移が検討できた。また疫学班の協力によるpooled controlを使った突難の検討で、睡眠時間、朝食摂取の有無、都市型食生活が危険因子として出てきたことが報告された。さらに突難と類似の聴力型で発症した聴神経腫瘍、突難の蝸電図、ヘルペスウイルスの再活性化と突難との関係も検討された。
4)難聴の遺伝子検索
遺伝性難聴の家系のデータ収集、登録のため、事務局で作成した症例の個人票、インフオームドコンセント用紙を、全国の耳鼻科医に送付した。自治医大と岡山大学にある事務局宛に末梢血の送付が実際に始まり、DNA検索をおこなっている。
感音性難聴の遺伝子座の同定がすすみ、DFNA11,DFNA16において同定がなされ、DFNA10についても継続した検討が進んでいる。ミトコンドリア遺伝子1555変異は高度難聴例の多数のものに見つかりつつあり、これまで特発性難聴と考えられていた疾患のかなりのものに、実は遺伝子異常による疾患があることが、次第に明らかになってきた。難聴と前庭水管拡大を伴う家族性の異常例についても報告があり、遺伝子変異の検索が進んでいる。
ヒト遺伝子の検索が進む一方で、モデル動物での基礎的検討もすすみ、難聴のみを症状とする新しいマウスの系の分離が行われた。またDFN3の原因遺伝子といわれるBrn4の欠失変異体マウスを作成し、この内耳所見の詳細が報告された。ラセン靱帯線維細胞の変性像がみられ、この細胞が関与するEPの形成機構に異常がおこることが推測された。
5)基礎的研究(その他)
EPの維持に働く血管条の上皮細胞につき、エンドセリンの産生・放出、NO合成酵素の検討がなされた。蝸牛にマイクロダイアリシスを行い、神経伝達物質のアセチルコリンの測定が試みられ、またサリチル酸と内耳機能との関連、原子間力顕微鏡による蓋膜の微細構造の解析、電気刺激で誘発される耳音響放射なども検討された。
光増感反応を利用してモルモット蝸牛に限局性障害をつくり、その病態を検討しているが、今年度は障害部とその周辺における蝸牛内電位(endocochlear potential: EP)をガラス電極法で検討した。障害部位においては一時的にEPは下がり、3日後に最低値を示すが次第に回復し、2週でほぼ障害前の値にもどった。蝸牛での長さ1mm程度の限局障害が起ってもEPは代償されうること、EPは蝸牛管できわめて限局性に維持されていることがわかった。こうした実験は回復する感音性難聴を検討するモデルとして有望である。蝸牛管側壁のみの障害を光増感反応でつくり、ラセン器変性の有無を検討する実験モデルも作成され、側壁の障害だけでも、感覚細胞の障害が起りうる可能性が示唆された。また一酸化窒素(NO)合成酵素阻害剤の投与が光増感反応による蝸牛管側壁障害にいかに働くか、非接触型レーザー血流計をもちいて検討され、NOが障害の軽減に働くことが示唆された。
モルモットの前下小脳動脈を閉塞し蝸牛全体の血流障害をおこし、神経伝達物質であるグルタミンの動態を検討すると、血流に伴って値が変動することがわかり、これが難聴の進行や回復に関係する可能性が示唆された。またニュ-ロペプチドYの投与で蝸牛血流がどう変るかの検討もおこなわれた。
2)ウイルスの検討
ウイルスの内耳感染が疑われるヒト側頭骨のセロイジン切片を利用しウイルスRNAが検討できるという報告があり、長く保存されていた風疹胎児4例のセロイジン切片につき検討を行ったが今回は検出できなかった。さらに検索を進める予定である。ムンプス難聴と予防接種の関連につき検討がおこなわれ、ワクチン接種の任意化にともない接種を受ける人数が減少しており、将来ムンプス難聴が増加するおそれのあることが報告された。ウイルス感染の診断を確実、簡単に出来ないかということで、咽頭ぬぐい液からのウイルスDNAの検出もおこなわれたが、まだ特異な結果は出ていない。
3)突発性難聴の臨床
突発性難聴(突難)をめまいの有無、難聴の程度から9つのグレードにわけて検討したところ、このグレーディングが聴力予後の予測に使用可能であることが示された。班員全体が協力して実施中の突難の単剤治験の中間報告がなされた。2、3の薬に有意な有効性が示されたが最終の報告は平成10年度にまとめられる予定である。高気圧酸素療法、アミドトリゾアート注射の突難にたいする治療成績も報告された。
研究班による突難の全国疫学調査は1972年、1987年、1993年の3回行われてきたが、今回1972のデータがコンピュータ入力され、発症の年齢、初診時の聴力などにつき疾患の推移が検討できた。また疫学班の協力によるpooled controlを使った突難の検討で、睡眠時間、朝食摂取の有無、都市型食生活が危険因子として出てきたことが報告された。さらに突難と類似の聴力型で発症した聴神経腫瘍、突難の蝸電図、ヘルペスウイルスの再活性化と突難との関係も検討された。
4)難聴の遺伝子検索
遺伝性難聴の家系のデータ収集、登録のため、事務局で作成した症例の個人票、インフオームドコンセント用紙を、全国の耳鼻科医に送付した。自治医大と岡山大学にある事務局宛に末梢血の送付が実際に始まり、DNA検索をおこなっている。
感音性難聴の遺伝子座の同定がすすみ、DFNA11,DFNA16において同定がなされ、DFNA10についても継続した検討が進んでいる。ミトコンドリア遺伝子1555変異は高度難聴例の多数のものに見つかりつつあり、これまで特発性難聴と考えられていた疾患のかなりのものに、実は遺伝子異常による疾患があることが、次第に明らかになってきた。難聴と前庭水管拡大を伴う家族性の異常例についても報告があり、遺伝子変異の検索が進んでいる。
ヒト遺伝子の検索が進む一方で、モデル動物での基礎的検討もすすみ、難聴のみを症状とする新しいマウスの系の分離が行われた。またDFN3の原因遺伝子といわれるBrn4の欠失変異体マウスを作成し、この内耳所見の詳細が報告された。ラセン靱帯線維細胞の変性像がみられ、この細胞が関与するEPの形成機構に異常がおこることが推測された。
5)基礎的研究(その他)
EPの維持に働く血管条の上皮細胞につき、エンドセリンの産生・放出、NO合成酵素の検討がなされた。蝸牛にマイクロダイアリシスを行い、神経伝達物質のアセチルコリンの測定が試みられ、またサリチル酸と内耳機能との関連、原子間力顕微鏡による蓋膜の微細構造の解析、電気刺激で誘発される耳音響放射なども検討された。
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