B型肝炎の核酸アナログ薬治療における治療中止基準の作成と治療中止を目指したインターフェロン治療の有用性に関する研究

文献情報

文献番号
201125001A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎の核酸アナログ薬治療における治療中止基準の作成と治療中止を目指したインターフェロン治療の有用性に関する研究
課題番号
H21-肝炎・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
田中 榮司(国立大学法人 信州大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 義之(国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 肝臓センター)
  • 新海 登(名古屋市立大学 大学院医学研究科)
  • 平松 直樹(大阪大学 大学院医学研究科)
  • 狩野 吉康(JA北海道厚生連 札幌厚生病院)
  • 柘植 雅貴(広島大学 自然科学研究支援開発センター)
  • 今関 文夫(千葉大学 医学部)
  • 髭 修平(北海道大学病院)
  • 八橋 弘(国立病院機構 長崎医療センター)
  • 齋藤 正紀(兵庫医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究費
23,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
核酸アナログ薬中止の前向き検討結果と同薬の長期継続投与例の解析結果をまとめ、これらを評価する。さらに、これまでの研究結果を総合し、核酸アナログ薬中止の指針を作成することを目的とした。
研究方法
 核酸アナログ薬の単純中止例を対象に、中止後の経過を後向きおよび前向きに検討した。また、核酸アナログ薬治療を中止しなかった症例を対象に、各種ウイルスマーカーの推移を検討した。最終的に、班員および班友による討議を行い、核酸アナログ薬中止の指針を作成した。
結果と考察
 核酸アナログ薬中止時にHBV DNA量が3.0 log copies/ml未満かつHBe抗原陰性であることは中止の必要条件と考えられた。この必要条件を満たす症例では、中止時のHBs抗原量とHBコア関連抗原量から肝炎再燃のリスクを低、中、高の三段階で予測可能であった。すなわち、中止の予測成功率は低リスク群で80-90%、中リスク群で薬50%、高リスク群で10-20%であった。中止の前向き検討でも後向き検討とほぼ同様の結果が得られ、この予測は信頼のおけるものと考えられた。
 核酸アナログ薬継続投与例の検討では、低リスク群は最初の7年間はほとんど増えず、その後徐々に増加した。中リスク群も年余の経過で軽度の増加に止まった。この結果より、多くの症例でdrug freeを達成するには核酸アナログ薬の長期投与だけでは不十分であり、IFN併用などの積極的な中止方法の開発が必要と考えられた。
 これまでの研究成果を基に「核酸アナログ薬中止に伴うリスク回避のための指針 2012」を作成した。この中止の指針作成では、中止成功の可能性が高い症例を見いだすことや逆に治療を継続すべき症例を明らかにすること、さらに、中止後の経過観察の指標を設定することにより、核酸アナログ薬中止に伴うリスクを極力回避することを目指した。
結論
1. 中止時のHBs抗原量とHBコア関連抗原量を用いて行う肝炎再燃の予測は、前向き試験でその性能が確認された。
2. 多くの症例でdrug freeを達成するには核酸アナログ薬の長期投与だけでは不十分であり、IFN併用などの積極的な中止方法の開発が必要と考えられた。
3. これまでの研究成果を基に「核酸アナログ薬中止に伴うリスク回避のための指針 2012」を作成した。

公開日・更新日

公開日
2012-05-21
更新日
-

文献情報

文献番号
201125001B
報告書区分
総合
研究課題名
B型肝炎の核酸アナログ薬治療における治療中止基準の作成と治療中止を目指したインターフェロン治療の有用性に関する研究
課題番号
H21-肝炎・一般-001
研究年度
平成23(2011)年度
研究代表者(所属機関)
田中 榮司(国立大学法人 信州大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 鈴木 義之(国家公務員共済組合連合 虎の門病院 肝臓センター)
  • 新海 登(名古屋市立大学 大学院医学研究科)
  • 平松 直樹(大阪大学 大学院医学研究科)
  • 狩野 吉康(JA北海道厚生連 札幌厚生病院)
  • 柘植 雅貴(広島大学 自然科学研究支援開発センター)
  • 今関 文夫(千葉大学 医学部)
  • 髭 修平(北海道大学病院)
  • 八橋 弘(国立病院機構 長崎医療センター)
  • 齋藤 正紀(兵庫医科大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 肝炎等克服緊急対策研究
研究開始年度
平成21(2009)年度
研究終了予定年度
平成23(2011)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 核酸アナログ薬中止後の臨床経過の特徴、肝炎再燃の定義、さらに再燃率の予測方法を検討し、同薬中止の指針を作成することを目的とした。
研究方法
 核酸アナログ薬の単純中止例を対象に、中止後の経過を後向きおよび前向きに検討した。また、核酸アナログ薬治療を中止しなかった症例を対象に、各種ウイルスマーカーの推移を検討した。
結果と考察
 核酸アナログ薬中止後のALT値とHBV DNA量はともに、平均値と最高値の間にきわめて強い相関を示した。それぞれの平均値と最高値のROC解析結果から、中止後にALT値が80 IU/L以上、またはHBV DNA量が5.8 log copies/ml以上となる場合を再燃と定義することが可能であった。この定義により、中止後の経過観察の指標がより具体的なものとなった。
 核酸アナログ薬中止時にHBV DNA量が3.0 log copies/ml以上またはHBe抗原陽性の症例は高率に肝炎が再燃したことから、HBV DNA量の十分な低下とHBe抗原の陰性化は中止の必要条件と考えられた。この必要条件を満たす症例では、中止時のHBs抗原量とHBコア関連抗原量から中止後の肝炎再燃のリスクを低、中、高の三段階で予測可能であった。この予測は前向き試験でも確認され、信頼のおけるものと考えられた。
 核酸アナログ薬の継続投与例の検討では、これを長期に投与しても単純中止可能な症例は緩徐にしか増えないことが予測された。このため、多くの症例でdrug freeを達成するには、IFNを併用するなどの積極的な中止方法の開発が必要と考えられた。
 これまでの研究成果を基に「核酸アナログ薬中止に伴うリスク回避のための指針 2012」をまとめた。核酸アナログ薬中止の指針についてはこれまで本格的なものはなく、その意味で本指針は初めてのものとも言える。しかし、残された課題も少なくない。多くの症例でdrug freeを達成するには核酸アナログ薬の長期投与だけでは不十分であり、IFN併用などの積極的な中止方法の開発が必要と考えられた。
結論
1. これまでの研究成果をまとめ「核酸アナログ薬中止に伴うリスク回避のための指針 2012」を作成した。
2. 多くの症例でdrug freeを達成するには核酸アナログ薬の長期投与だけでは不十分であり、IFNを併用するなどの積極的な中止方法の開発が必要と考えられた。

公開日・更新日

公開日
2012-05-21
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2013-01-17
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201125001C

成果

専門的・学術的観点からの成果
今回の検討から、HBV活動性の指標としてHBV関連抗原の定量が役立つことが明らかになった。特に、血中HBV DNA量が肝細胞内のHBV cccDNA量を反映しない核酸アナログ薬使用下での抗原定量は重要で、HBs抗原およびHBコア関連抗原を定量することにより核酸アナログ薬中止後の肝炎再燃率を予測することが可能であった。さらに、核酸アナログ薬中止後の肝炎再燃を、ALT値とHBV DNA量の具体的な値で定義可能であったことは、今後、同様の検討を行う上で参考となる成果と考えられた。
臨床的観点からの成果
核酸アナログ薬の中止はしばしば肝炎の再燃を伴うため、同薬の中止はこれまで容易ではなかった。今回の検討では、中止後、いつ頃どの様な形で肝炎が再燃するかを明らかにするとともに、中止後の肝炎再燃率を3段階で予測する方法を確立した。これにより、中止成功の可能性が高い症例を見いだすことや逆に治療を継続すべき症例を明らかにすることが可能となった。さらに、中止後の経過観察の指標を設定することにより、核酸アナログ薬中止に伴うリスクを極力回避することを可能にした。
ガイドライン等の開発
これまでの研究成果を「核酸アナログ薬中止に伴うリスク回避のための指針 2012」にまとめた。この指針は「Ⅰ. 本指針の目指すもの」「Ⅱ. 肝炎再燃に伴う重症化のリスクを回避するための必要条件」「Ⅲ. HBV増殖能の評価と再燃のリスクを低下させるための条件」「Ⅳ. 中止後の経過観察方法と再治療開始の条件」「Ⅴ. 注意点と今後の課題」の5項目よりなり、様々な理由により核酸アナログ薬中止を検討する必要がある場合の参考になるよう定めた。又、日本肝臓学会「B型肝炎治療ガイドライン」第一版にも掲載された。
その他行政的観点からの成果
核酸アナログ薬が日本で使用可能になって12年目になるが、本格的な中止の指針作成は今回が最初である。本研究班で作成した指針は、核酸アナログ薬中止後の肝炎再燃を完全に予測するものではない。しかし、同薬の中止をこれまでより安全に行うことを可能とした。これにより核酸アナログ薬治療の開始および中止の指針が揃うことから、同治療をより効率的なものにすると考えられる。さらに、この指針は患者の負担軽減や医療費の節約に繋がることが期待される。
その他のインパクト
本指針は日本肝臓学会の機関誌に特別寄稿として発表するとともに、2012年6月に金沢で開催される日本肝臓学会総会の主題で基調講演として発表した。さらに、複数の検査試薬メーカーから、小冊子としてまとめられたものが配布されている。これまで、マスコミでの取り上げはないが、市民公開講座などでの啓発活動を行っている。

発表件数

原著論文(和文)
14件
原著論文(英文等)
42件
その他論文(和文)
7件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
47件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
「出願」「取得」計0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
「核酸アナログ薬中止に伴うリスク回避のための指針 2012」をまとめた。
その他成果(普及・啓発活動)
1件
核酸アナログ薬中止基準を海外に発信するため、これを英文総説にまとめた

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Matsumoto A, Tanaka E, Morita S, et al.
Changes in the serum level of hepatitis B virus (HBV) surface antigen over the natural course of HBV infection.
J Gastoroenterol , 47 (9) , 1006-1013  (2012)
原著論文2
田中榮司、松本晶博、鈴木義之, et al.
核酸アナログ薬中止に伴うリスク回避のための指針 2012 -厚生労働省「B型肝炎の核酸アナログ薬治療における治療中止基準の作成と治療中止を目指したインターフェロン治療の有用性に関する研究」の報告-.
肝臓 , 53 (4) , 237-242  (2012)
原著論文3
Matsumoto A, Tanaka E, Suzuki Y, et al.
Combination of hepatitis B viral antigens and DNA for prediction of relapse after discontinuation of nucleos(t)ide analogs in patients with chronic hepatitis B.
Hepatol Res , 42 (2) , 139-149  (2012)
原著論文4
Tanaka E, Urata Y.
Risk of hepatitis B reactivation in patients treated with tumor necrosis factor-alpha inhibitors.
Hepatol Res , 42 (4) , 333-339  (2012)
原著論文5
Tsuge M, Takahashi S, Hiraga N, at al.
Effects of hepatitis B virus infection on the interferon response in immunodeficient human hepatocyte chimeric mice.
J Infect Dis , 204 (2) , 224-228  (2011)
原著論文6
Matsumoto A, Maki N, Yoshizawa K, at al.
Comparison of hepatitis B virus DNA, RNA, and core related antigen as predictors of lamivudine resistance in patients with chronic hepatitis B.
Shinshu Med J , 58 (4) , 153-162  (2010)
原著論文7
Hosaka T, Suzuki F, Kobayashi M, at al.
HBcrAg is a predictor of post-treatment r ecurrence of hepatocellular carcinoma during antiviral therapy.
Liv Int , 93 (3) , 1461-1470  (2010)
原著論文8
Kumada H, Okanoue T, Onji M, at al.
Guidelines for the treatment of chronic hepatitis and cirrhosis due to hepatitis B virus infection for the fiscal year 2008 in Japan.
Hepatol Res , 40 (1) , 1-7  (2010)
原著論文9
Hosaka T, Suzuki F, Kobayashi M, at al.
Development of HCC in patients receiving adefovir dipiroxil for lamivudine-resistant hepatitis B virus mutants.
Hepatol Res , 40 (2) , 145-152  (2010)
原著論文10
Kobayashi M, Suzuki F, Akuta N, at al.
Correlation of YMDD mutation and breakthrough hepatitis with hepatitis B virus DNA and serum alanine aminotransferase during lamivudine treatment in hepatitis B.
Hepatol Res , 40 (2) , 125-134  (2010)
原著論文11
Suzuki F, Akuta N, Suzuki Y, at al.
The efficacy of switching to entecavir monotherapy in Japanese lamivudine-pretreated patients.
J Gastroenterol Hepatol , 25 (5) , 892-898  (2010)
原著論文12
Matsuura K, Tanaka Y, Hige S, at al.
Distribution of Hepatitis B Virus Genotypes among Patients with Chronic Infection in Japan Shifting toward an Increase of Genotype A.
J Clin Microbiol , 47 (5) , 1476-1483  (2009)
原著論文13
Noguchi C, Imamura M, Tsuge M, at al.
G-to-A hypermutation in hepatitis B virus (HBV) and clinical course of patients with chronic HBV infection.
J Infect Dis , 199 (11) , 1599-1607  (2009)
原著論文14
Abe H, Ochi H, Maekawa T, at al.
Effects of structural variations of APOBEC3A and APOBEC3B genes inchronic hepatitis B virus infection.
Hepatol Res , 39 (12) , 1159-1168  (2009)
原著論文15
Hiraga N, Imamura M, Hatakeyama T, at al.
Absence of viral interference and different susceptibility to interferon between hepatitis B virus and hepatitis C virus in human hepatocyte chimeric mice.
J Hepatol , 51 (6) , 1046-1054  (2009)
原著論文16
Hashimoto Y, Suzuki F, Hirakawa M, at al.
Clinical and virological effects of long-term (over 5 years) lamivudine therapy.
J Med Virol , 81 (2) , 354-361  (2009)
原著論文17
Suzuki Y, Suzuki F, Kawamura Y, at al.
Efficacy of entecavir treatment for lamivudine-resistant hepatitis B over 3 years: Histological improvement or entecavir resistance?
J Gastroenterol Hepatol , 24 (3) , 429-435  (2009)
原著論文18
Ikeda K, Kobayashi M, Someya T, at al.
Occult hepatitis B virus infection inceases hepatocellular carcinogenesis by eight times in patients with non-B, non-C liver cirrhosis: a cohort study.
J Viral Hepat , 16 (6) , 437-443  (2009)
原著論文19
Kusakabe A, Tanaka Y, Mochida S, at al.
Case-control study for the identification of virological factors associated with fulminant hepatitis B.
Hepatol Res , 39 (7) , 648-656  (2009)
原著論文20
Tanaka E and Matsumoto A
Guidelines for avoiding risks resulting from discontinuation of nucleos(t)ide analogues in patients with chronic hepatitis B
Hepatol Res , 44 (1) , 1-8  (2014)

公開日・更新日

公開日
2016-05-23
更新日
2016-05-30

収支報告書

文献番号
201125001Z