前庭機能異常

文献情報

文献番号
199700973A
報告書区分
総括
研究課題名
前庭機能異常
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
八木 聰明(日本医科大学)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤壽一(大津赤十字病院)
  • 久保武(大阪大学)
  • 高橋正紘(山口大学)
  • 高橋光明(旭川医科大学)
  • 古屋信彦(帝京大学)
  • 山下敏夫(関西医科大学)
  • 渡辺行雄(富山医科薬科大学)
  • 工田昌也(広島大学)
  • 室伏利久(東京大学)
  • 富山俊一(日本医科大学)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 聴覚・平衡機能系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、内リンパ水腫をきたすメニエール病および遅発性内リンパ水腫の病態について解明することにある。1996年度は、主として免疫学的および分子生物学的手法を用いたが、1997年度はそれに生理学的手法も加えた。また、これら病態に関する基礎的研究を、機能的および形態的側面から裏付け、さらに、臨床例について社会医学的検討や特定地区での疫学的調査を行い、病態解明の一助とすることを目的にしている。本年度は、研究2年度であり、主として以下の各点についての研究が進められた。
研究方法
1)内リンパ水腫動物の作成とその評価を行う。2)内リンパ水腫形成に関与するポタシウムチャンネルの役割を解明する。3)内耳炎動物モデルを用いてNO 、活性酸素の役割と内耳病態に対する治療への可能性を検討する。4)メニエール病や遅発性内リンパ水腫の原因に自己免疫反応が関与しているとの仮説を、動物実験で明確にする。5)遅発性内リンパ水腫患者血清中の内耳自己抗体を証明する。6)内耳障害動物を用いて各種抗めまい薬を分析し、抗めまい薬評価の基準を作成する。7)前庭代償について動物実験を行い、めまい患者のリハビリの基礎を明らかにする。8)人工内耳手術後の遅発性めまいについて検討し、遅発性内リンパ水腫発症機構を考察する。9)富山県および隣接地域のメニエール病、遅発性内リンパ水腫の疫学調査を行いその特徴を明らかにする。10)前庭性誘発筋反応を指標にしてメニエール病及び遅発性内リンパ水腫患者の新たな評価法を確立する。
結果と考察
結論
1) 内リンパ水腫動物の作成とその評価に関する研究。富山らはマウス(C57BL/6Cr)を牛内耳膜迷路から抽出した抗原で感作し、蝸牛内外リンパ腔にリンパ球の遊走を確認している。また、感作によって蝸牛血管条やらせん神経節細胞の変性を見ている。さらに前庭部にもIgGの存在を証明している。このマウスの自己免疫応答による動物モデルはほぼ完成に近く、機能面を含めた研究の最終段階に入っている。2)内リンパ水腫形成に関与するポタシュウムチャンネルの役割に関する研究。久保らは、蝸牛の静止電位の発生源そして重要なポタシウムチャンネルの場所やその働きを検討した。チャンネルは血管条に多く存在しているが前庭部には存在しないことを示した。このポタシウムチャンネルの機能状態と内リンパ水腫との関係についても言及した。完成度の高い研究で、会員からの評価も高かった。3)NO 、活性酸素の役割と内耳病態に対する治療への可能性に関する研究。工田らは、リポポリサッカライド鼓室内投与によって作成したモルモット内耳炎モデルを用いて、NOと活性酸素の内耳障害を検討した。 次に、NOと活性酸素の発生を抑制する物質、すなわちNOS阻害剤、superoxide dismutase、パーオキシナイトライト消去剤を投与して、形態学的検討と温度眼振反応を調べた。その結果、これらの薬剤が内耳障害に対する有益な治療法になる可能性が示された。今後の発展により、現在のところ決め手のないメニエール病やその関連疾患の効果的な治療法が発見される可能性がある。4)自己免疫反応と内耳障害に関する研究。八木らは牛内耳蛋白で感作したマウスのリンパ球を正常マウスに受身移入して、内耳炎が惹起されるか否かを検討した。その結果、リンパ球を主体にした炎症細胞浸潤が蝸牛外リンパ腔にみられ受身移入の成立を証明した。この結果は、感作マウスの内耳炎が自己免疫現象によって生じたことを示唆しており、メニエール病や遅発性内リンパ水腫を引き起こす原因として内耳免疫反応が関与していることを示すものである。山下らは骨髄系細胞に由来する自己免疫性内耳疾患について動物実験を行い、骨髄機能異常と内耳自己免疫疾患の関係を明らかにしようとしている。この実験が発展すると、病態の解明に留まらず治療にも道が開ける可能性がある。八木らはメニエール病、遅発性内リンパ水腫、突発性難聴患者の末梢血のサイトカインを検討した。まだ症例数が少ないため決定的なことは言えないが、メニエール病では特徴的なサイトカインプロフィールが見られており、今後の発展が望まれる。高橋(光)らは一側内耳に免疫反応による内耳障害を惹起した後に、対側内耳に変化が現れるか否かの検討を行い、2週間後に対側耳に形態的変化が見られたとした。この結果は、遅発性内リンパ水腫を考える上に興味深い。5)遅発性内リンパ水腫患者血清中の内耳自己抗体証明の関する研究。八木らは遅発性内リンパ水腫症例の血清と牛内耳抗原を反応させ、western blottingによって検討した。同側型6例、対側型5例の検討で、14kDaと21kDaに陽性率が高く、これは両側性進行性感音難聴例(68kDa)の結果とは異なっていた。この蛋白の詳細名検討によって、さらに遅発性内リンパ水腫の原因に迫れるものと期待される。6)内耳障害動物を用いた各種抗めまい薬の検討。古屋らは機械的に破壊した一側前庭機能障害動物の眼振経過を観察し、種々の抗めまい薬による眼振の抑制効果を検討した。抗めまい薬としては、現在抗めまい薬として認可されているもの、及び治験中のものを用いた。今後、本方法をめまい抑制の基準として用いるための研究の発展が望まれる。7)前庭代償に関する動物実験によるめまい患者のリハビリの基礎的研究。伊藤は幼若ラットを用いて一側前庭障害を作成し、その代償過程を歩行障害の観点から観察した。幼若マウスではその代償は早く、中枢での神経再生がこれに関与していることを示唆した。高橋(正)らは、卵形嚢斑でのシナップスの可塑性について研究し、その再生の可能性について言及した。これらの研究は今後新しい展開が予想され、次年度の研究結果が待たれる。8)人工内耳
手術後の遅発性めまいに関する研究。
久保らは人工内耳手術後早期に現れるめまいと異なり、遅発性に現れ蝸牛症状を伴う症例が存在することを明らかにした。また、これらの症例では内リンパ水腫があることを証明し、自発眼振の方向から手術と同側性に或いは対側性に遅発性の障害が起きるとした。この結果は、メニエール病や遅発性内リンパ水腫の原因として、物理的障害が直接的或いは自己免疫性病変を引き起こすことにしょって生じる可能性を示しており、極めて重要な所見である。9)メニエール病、遅発性内リンパ水腫の疫学的研究。渡辺らは富山県の遅発性内リンパ水腫の疫学調査のパイロットスタディを行い、同時期のメニエール病症例が146例であったのに対し、遅発性内リンパ水腫は43例であったこと、メニエール病に比して発症年齢が高いこと、同側型では中耳炎の既往が高率であったことを示した。今後、全国的調査も行う予定であることが述べられた。渡辺らは一側高度難聴例404例を検討し、そのうち50例に遅発性内リンパ水腫を見ている。また、聴神経腫瘍手術後5年以上経過した例に対側耳に聴力低下の起こる例のあることを示した。特定地区のメニエール病確実例の有病率に関する渡辺の報告によれば、人口対10万人に全国調査では数%であるの対し、特定地区では20~40%と高いこと、新規発症例は2~3人/10万人であることが示された。10)前庭性誘発筋反応によるメニエール病および遅発性内リンパ水腫患者の検討。室伏らはクリックで誘発される頚筋反応をメニエール病症例で記録し、6耳に異常反応を見ている。今後、メニエール病の診断法としての可能性について一層の症例蓄積が必要である。
以上、1997年度の主とした研究結果について報告した。本年は分科会員も多少増え、それに見合う研究結果が出せたと総括される。次年度すなわち最終年度に向かって、これらの研究が完結されるよう分科会員全員で研究にあたりたい。

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