網膜脈絡膜・視神経萎縮症

文献情報

文献番号
199700972A
報告書区分
総括
研究課題名
網膜脈絡膜・視神経萎縮症
課題番号
-
研究年度
平成9(1997)年度
研究代表者(所属機関)
玉井 信(東北大学医学部眼科)
研究分担者(所属機関)
  • 小口芳久(慶應義塾大学医学部眼科)
  • 石橋達朗(九州大学医学部眼科)
  • 小椋祐一郎(名古屋市立大学医学部眼科)
  • 中沢満(東北大学医学部眼科)
  • 大黒浩(札幌医科大学眼科)
  • 吉村長久(信州大学医学部眼科)
  • 湯沢美都子(日本大学医学部眼科)
  • 若倉雅登(北里大学医学部眼科)
  • 堀田善裕(順天堂大学医学部眼科)
  • 出沢真理(千葉大学医学部眼科)
  • 高橋寛二(関西医科大学眼科)
  • 辻一郎(東北大学医学部公衆衛生)
研究区分
特定疾患調査研究補助金 臨床調査研究グループ 視覚系疾患調査研究班
研究開始年度
平成9(1997)年度
研究終了予定年度
-
研究費
0円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究班の対象疾患である網膜脈絡膜萎縮症,加齢黄斑変性症,視神経萎縮症は昨年度と同様に,基礎的には分子生物学の手技を用いて,それぞれの班員が受け持ちの領域の研究を行ったほか,昨年度の評価委員の方々からご指摘を受けた症例対照研究やClinical Trialについて,特定疾患疫学班の辻一郎助教授(東北大学)のご協力のもとに臨床治験を開始することであった.今年度の目標を次ぎの4点に絞った.
1)網膜色素変性(RP)およびその類縁疾患の原因遺伝子解明
分子生物学的な手法を用いて網膜色素変性の原因遺伝子の解析を行う(中沢、堀田)。すでに知られているものの他に、網膜特異的新規遺伝子と網膜脈絡膜変性との関連を探る(小口)。悪性腫瘍と網膜変性類似の症状を呈する症例の報告が相次いでいるが、その発症機序の分子機構を明らかにする(大黒、吉村)。
2)加齢黄斑変性(ARMD)の病態解明
網膜色素上皮(RPE)の加齢に伴う機能低下が脈絡膜新生血管膜の形成に不可欠であるが、血管内皮細胞と血管新生関連物質の遺伝子発現、RPEにおける細胞増殖因子、増殖抑制因子との関連を明らかにする(玉井、石橋、高橋)。さらにごく最近アメリカで報告された加齢黄斑変性症の原因遺伝子が日本人にもその異常が見つかるか否かについても検索した(吉村)。
3)加齢黄斑変性症の治療法の開発
現在有効な治療法はないが、本疾患に対して薬物療法、レーザー光凝固療法、放射線照射療法の視力予後に対する効果を判定する(小椋、石橋、湯沢)。昨年度の評価委員の方々からご指摘を受けた、この疾患に対する症例対照研究について、特定疾患疫学班の辻一郎助教授(東北大学)のご協力のもとに臨床治験を開始する(全班員)。
4)視神経委縮症(OA)の病態解明と治療法の開発
遺伝性視神経萎縮に対しmitochondria遺伝子を中心に解析を行う(若倉、小口)。さらにこの疾患に対する薬物療法を試みる(小口)。
5)組織移植によるこれら難治疾患の治療法の開発
以上の各疾患は現在のところいずれも有効な治療法が知られていない。しかし世界的に見るとRPやARMDに対して色素上皮移植、視細胞移植術が考えられている。そこで視細胞の再生保持、視神経の再生のためにはどうしたらいいかについて基礎的な実験と臨床応用に向けた準備を行う(玉井、出沢)。
研究方法
研究方法、研究結果および考察
1)網膜色素変性(RP)およびその類縁疾患の原因遺伝子解明
常染色体劣性網膜色素変性症の新しい原因遺伝子としてアレスチン遺伝子が発見された(中沢)。常染色体優性網膜色素変性症ではペリフェリン/Rds遺伝子に注目し、遺伝子異常によって引き起こされる蛋白質の構造異常と臨床像の関係が明らかにされた(中沢)。X染色体連鎖性網脈絡膜変性症の代表であるコロイデレミアについては日本人におけるREP-1遺伝子異常の特徴と臨床所見が報告された(堀田)。新しい網膜特異的遺伝子の検索では今年度は網膜特異的アミンオキシダーゼの機能解析と遺伝子変異の結果が報告された(小口)ほか、Tulp-1遺伝子が新たにクローニングされ、この遺伝子異常と網膜色素変性症との関連が示唆された(吉村)。また神経細胞死の危険因子であるapolipoprotein Eが網膜色素変性症の危険因子であるか否かについても検討され日本人での特徴が報告された(若倉)。さらにサルで発見された家族性若年性黄斑変性症の網膜におけるメタロチオネインIIの発現の特徴が明らかにされ、人での病気への理解が深まった(堀田)。このほか網膜変性のモデル疾患として悪性腫瘍随伴網膜症に注目し、この疾患の原因抗原の生化学的検索が行われた(大黒)。
2)加齢黄斑変性(ARMD)の病態解明
動物実験にて脈絡膜新生血管を作成しその発生メカニズムや制御法が検討された。まず脈絡膜新生血管の発生にVEGFが関与することが確認され(高橋)、実験的新生血管にVEGFアンチセンス(高橋)やVEGF/flt-1 soluble receptor DNA(石橋)を導入した遺伝子治療法の効果が検討された。また実験的新生血管に対する経口トラニラストの有効性が示され(吉村)、新しい治療法への期待が持たれた。さらに日本人ARMD症例におけるABCR遺伝子異常のスクリーニングも行われたが現在のところ疾患との関連性を示唆する結果は得られていない(吉村)。人のARMDでは手術によって得られた脈絡膜新生血管を含む網膜下組織中にbFGFの発現が実際に確認され(玉井)、人における脈絡膜新生血管の発生メカニズムの理解に貢献する結果であった。
3)加齢黄斑変性症の治療法の検討
加齢黄斑変性症に対する治療法として検討されたものに手術治療、レーザー治療および放射線治療があった。手術治療については術後12カ月までの視力経過が示された(湯沢)。レーザー治療については加齢黄斑変性症の前段階病変と考えられる軟性ドルーゼンに対するレーザー治療の有効性を検討するための基礎データとも言うべき軟性ドルーゼンの自然経過についての報告がなされた(湯沢)。また放射線治療については実験的角膜および脈絡膜新生血管に対する放射線照射の効果が検討され、その有効性が示唆された(小椋)ほか、実際の症例に対して放射線を使った治療を行い、治療後の視力予後が検討された(小椋、石橋)。
4)視神経萎縮症(OA)の病態解明と治療法の開発
視神経萎縮の原因疾患となる視神経炎とレーベル遺伝性視神経症について薬物療法の有効性が検討された。視神経炎についてはステロイドパルス療法の効果で回復速度は対照に比べ早めるが長期予後には差がでなかった(若倉)。レーベル遺伝性視神経症にたいする薬物治療については自然経過とは有意差がでなかった(小口)。
5)組織移植によるこれら難治疾患の治療法の開発
人虹彩色素上皮(IPE)の培養、遺伝子技術による色素細胞のvectorを用いたcytokine遺伝子の導入、に関してはほぼ基礎実験を終え、猿での自己IPE移植の安全性は明らかにすることが出来た(玉井)。さらに自己IPE移植のため、ヒトIPEの培養を行って、臨床応用の準備を行った。視神経萎縮後の視神経再建を目的に視神経再生の実験では、かならずしも末梢神経を用いなくても、培養シュワン細胞を利用して、人工チュウブを利用しても、その中を神経節細胞の軸索が延びることが明らかにされ、今後の臨床応用の可能性が出た(出沢)。
今後の課題と次年度への展望
1998年1月16日、第2回の班会議にさいし行われた評価委員の諸先生のご意見で、折角動き出した放射線照射とレ-ザ-照射による加齢黄斑変性症治療の臨床治験の進行具合が遅いことが指摘された。その評価を踏まえて、3年計画の最後の1年の課題は以下のようになると思われる。
1.班員協力による治療研究の進展
a.加齢黄斑変性症の放射線治療(小椋)
b.加齢黄斑変性症のレ-ザ-治療(湯沢)
この治験が真の意味で治験としてスタ-トし、結果を公表出来るためには、評価委員会でも話題となった通り、患者の治療費が研究費から全額負担され、各大学の倫理委員会の承認を得る必要がある。そのために、1998年度の厚生省厚生科学研究費に申請を行った。現在その採否については不明であるが、対照も含めて100例の放射線治療群、100例のレ-ザ-照射による治療群の経費を見積もるとそれだけで6000万円が必要となる。しかしその得る所は大きく、是非採用になることを願うのみである。
さらに進捗状況の把握のために、1998年5月21日、仙台国際センタ-において次年度第1回の班会議を行う予定である。
2.組織移植による治療法の開発
細胞移植により加齢黄斑変性症、網膜色素変性症の治療も漸く基礎実験の段階を終え、本人の虹彩移植については、東北大学医学部倫理委員会の承認を受けた(1998年1月)。研究室をヒト移植細胞を専門に取り扱い、遺伝子操作を行うことのできる装置を備えた培養室に改装中する必要があり、現在準備を進めている(玉井)。
視神経移植についても、かならずしも末梢神経を移植する必要がなく、培養シュワン細胞の利用ですむ可能性もあり、次年度鋭意研究を進める(出沢)。
3.加齢黄斑変性症の治療法の開発
先に述べた通り、辻研究協力者のお蔭で封筒法により放射線照射、レ-ザ-光凝固による治療をスタ-トすることが出来た。1998年1月の班会議では症例数がごく限られていることがわかった。何とか各施設治療群、対照群各10例をスタ-トさせ、決められた2年間の経過観察で、はっきりした治療法として確立できるか否かを目指したい(全員)。
4.網膜色素変性(RP)およびその類縁疾患の原因遺伝子解明(中沢、堀田、小口、大黒)、加齢黄斑変性(ARMD)の病態解明(石橋、高橋、湯沢)、視神経萎縮症(OA)の病態解明(若倉、出沢)
これらの指定されている難病の分子遺伝学的な発症メカニズムの解析は次年度も精力的に続ける予定である。

結果と考察
結論

公開日・更新日

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